ピグマリオン
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鎮座する調度品から、壁に掛けられた絵画から、生けられた花々から、とにかく端から端まで贅を尽くした部屋だった。嫌な部屋だ、と名前は苦々しく思う。部屋の主の趣味というよりは、一種の象徴なのだ。逆らう者は誰一人許さないという権力の象徴。生徒の中で一番この部屋に立ち入るのは首席である自分だろう。首席、というのはこの学院の頂点と同義ではない。要はこの男が所有する兵隊の中で、最も便利という意味だ。
「次期ドン・ボンゴレを見たかい?」
「はい、未来の自分越しにですが。まだ幼く一般人同然に見えますが、いざ戦うとなると無限と思わせる伸び代の少年でした」
圧倒的な強敵に引き上げられるように強くなる不思議な少年。戦闘どころかスポーツすらまともにかじった動きではない。それなのに戦いの中で増していくキレ、スピード、パワー。そして何よりもあの死ぬ気の炎。炎の強さは覚悟の強さ。強い意思――スクアーロに指摘されたことを思い出して、名前は顔に出さずに舌打ちしたい気分になった。名前には無くて、彼やスクアーロにはあるものが、これほどまでに大きな違いになるというのか。非現実的だ。少年には元々格闘センスがあったと考える方がはるかに妥当だった。いや、そういえば彼はボンゴレを継ぐというのだからあれがあるのか――
「ブラッド・オブ・ボンゴレか。君がそこまで評価するほどの才覚があるのなら、何故この歳まで素人同然で生きてこられたのかな」
「正直、次期十代目といえばXANXUS以外あり得ない風潮が長年ボンゴレ本部にはあったと思われます。それに彼の実父は門外顧問です。何を思ったか、息子を後継者争いに巻き込むまいと手を回していてもおかしくない」
「嘆かわしいね。自分の子供が活躍するのは親の悲願だろうに。少なくとも僕はそうさ、名前」
「はい、学院長」
まごうことなき学院の頂点に立つ男。少し白髪が混じりはじめたとはいえ、後ろに撫で付けた烏の濡れ羽色の頭髪は、彼の厳格な眼差しをより強調している。八代目ロットバルト学院長は指先で書類を弾いた。
「継承式に向けて裏はどこもかしこも騒がしくなる一方だ。良くも悪くもね。どうだい、ここらで先んじて挨拶でもしておくかい」
「誰にでしょうか」
「決まっているだろう。ボンゴレ十代目さ」
学院長が黒と言えば白鳥だって黒いのだ。確かに名前はここで一番の兵隊だが、彼女が数日離れたところで回らなくなるほど規模の小さい組織ではない。あれよあれよという間に手配され、名前は日本行きを告げられたその日のうちに指定された飛行機に搭乗していた。
名前は雲海を見下ろしながら、手元の資料をめくった。門外顧問・沢田家光の息子、沢田綱吉。家光といえば、先日九代目の遣いで尋ねてきた男だ。「学院を卒業する来年の夏まではヴァリアー入隊を認めない」。それだけの取り決めにわざわざ死炎印まで使う必要はあるのだろうか。話を聞いたときからずっと考えていたことだ。なんせ契約が保証する期間があまりにも短すぎる。これが「未来永劫」とまではいかなくても、「今後十年」とかならばまだ話は分かりやすいのだろうが。神の采配、ボンゴレ九代目には何が見えているというのだろう。
資料には未来の記憶と同じ――当たり前だ、彼は今の時代からボヴィーノの秘宝を用いて未来へ飛んだという――ひ弱そうな少年の写真があった。まだ中学生だという。ロットバルトの中等部生と比べても脆そうな印象だ。
頭の中で不愉快な口出しをしてくる声が反響した。強い意思、敵を薙ぎ倒す原動力。彼と話してみれば何か分かるものだろうか。名前は雑念を振り払い、逃げるように瞳を閉じた。
「久しぶりだな、日本……」
「次期ドン・ボンゴレを見たかい?」
「はい、未来の自分越しにですが。まだ幼く一般人同然に見えますが、いざ戦うとなると無限と思わせる伸び代の少年でした」
圧倒的な強敵に引き上げられるように強くなる不思議な少年。戦闘どころかスポーツすらまともにかじった動きではない。それなのに戦いの中で増していくキレ、スピード、パワー。そして何よりもあの死ぬ気の炎。炎の強さは覚悟の強さ。強い意思――スクアーロに指摘されたことを思い出して、名前は顔に出さずに舌打ちしたい気分になった。名前には無くて、彼やスクアーロにはあるものが、これほどまでに大きな違いになるというのか。非現実的だ。少年には元々格闘センスがあったと考える方がはるかに妥当だった。いや、そういえば彼はボンゴレを継ぐというのだからあれがあるのか――
「ブラッド・オブ・ボンゴレか。君がそこまで評価するほどの才覚があるのなら、何故この歳まで素人同然で生きてこられたのかな」
「正直、次期十代目といえばXANXUS以外あり得ない風潮が長年ボンゴレ本部にはあったと思われます。それに彼の実父は門外顧問です。何を思ったか、息子を後継者争いに巻き込むまいと手を回していてもおかしくない」
「嘆かわしいね。自分の子供が活躍するのは親の悲願だろうに。少なくとも僕はそうさ、名前」
「はい、学院長」
まごうことなき学院の頂点に立つ男。少し白髪が混じりはじめたとはいえ、後ろに撫で付けた烏の濡れ羽色の頭髪は、彼の厳格な眼差しをより強調している。八代目ロットバルト学院長は指先で書類を弾いた。
「継承式に向けて裏はどこもかしこも騒がしくなる一方だ。良くも悪くもね。どうだい、ここらで先んじて挨拶でもしておくかい」
「誰にでしょうか」
「決まっているだろう。ボンゴレ十代目さ」
学院長が黒と言えば白鳥だって黒いのだ。確かに名前はここで一番の兵隊だが、彼女が数日離れたところで回らなくなるほど規模の小さい組織ではない。あれよあれよという間に手配され、名前は日本行きを告げられたその日のうちに指定された飛行機に搭乗していた。
名前は雲海を見下ろしながら、手元の資料をめくった。門外顧問・沢田家光の息子、沢田綱吉。家光といえば、先日九代目の遣いで尋ねてきた男だ。「学院を卒業する来年の夏まではヴァリアー入隊を認めない」。それだけの取り決めにわざわざ死炎印まで使う必要はあるのだろうか。話を聞いたときからずっと考えていたことだ。なんせ契約が保証する期間があまりにも短すぎる。これが「未来永劫」とまではいかなくても、「今後十年」とかならばまだ話は分かりやすいのだろうが。神の采配、ボンゴレ九代目には何が見えているというのだろう。
資料には未来の記憶と同じ――当たり前だ、彼は今の時代からボヴィーノの秘宝を用いて未来へ飛んだという――ひ弱そうな少年の写真があった。まだ中学生だという。ロットバルトの中等部生と比べても脆そうな印象だ。
頭の中で不愉快な口出しをしてくる声が反響した。強い意思、敵を薙ぎ倒す原動力。彼と話してみれば何か分かるものだろうか。名前は雑念を振り払い、逃げるように瞳を閉じた。
「久しぶりだな、日本……」