ピグマリオン
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「雲の女の正体がわかった」
イタリア某所、ヴァリアー本部。食堂に幹部を集めた張本人であるスクアーロが口を開いた。他の幹部たちがにわかに騒つく。最上座で優雅にフィレ肉を口に運んでいたXANXUSも一瞬、片眉を上げた。
「未来で沢田綱吉が白蘭という脅威を退けた」という事実は、記憶と経験、そして匣という全く新しい兵器をXANXUSたちにも授けた。摩訶不思議な体験を共有する中、彼らが目を見張ったのはまだ見ぬ未来のヴァリアー幹部だった。アルコバレーノが全員死亡していた未来で、マーモンの後継として幻術使いのフランが就いていたことはさしたる問題ではない。もう一人――ヴァリアー幹部だけでなく、この「未来」の知識を得たボンゴレ関係者を驚かせたのは、雲のヴァリアーリングを持つ女の存在だった。
ヴァリアーの雲属性の幹部は欠番である。もちろん代々そうというわけではない。かつては存在したのだ。ゴーラ・モスカという兵器が。
XANXUSによる二度目のクーデターは誰の記憶にも新しい。ボンゴレ本部やCEDEFを欺き、九代目をモスカの動力源とし、対立した十代目候補・沢田綱吉にモスカごと九代目を葬らせんと目論んだ。十代目の座を確実に手にするために。結局、この陰謀渦巻く後継者争いの勝者こそ、今回未来を救った沢田綱吉というわけだった。つまらない話だ、とスクアーロは回顧する。
閑話休題。ゴーラ・モスカこそ二度目のクーデターの象徴だった。与えられた処罰、代償といっていいのかもしれない。少なくともXANXUSがボスであるうちは、ヴァリアーが雲の幹部を置くことは許されない取り決めになった。一連の事情を知っていれば妥当な決定だった。むしろその条件を飲めば、謹慎期間こそあれど誰も粛清されずに組織を継続できるというのだから九代目は甘い。神の采配も老いには勝てなかったか。
――だというのに。十年後の未来には、XANXUSが率いる幹部は六人。当然のようにすべての属性の席が埋まっていた。
情報は少なかった。名前と呼ばれる女。炎の属性は雲。日本人か、少なくとも東洋人に見える。歳は推定二十代中頃から後半。その十年前ということだから、今は高校生あたりか。
十年という月日がボンゴレを、ヴァリアーを変えたのかもしれない。それでも突如彗星のごとく現れた存在に誰も問わずにはいられなかった。お前は何者だ、と。
「それで、名前とかいう奴はどこにいるわけ?」
「ああ、ロットバルトの傭兵だった」
イタリアンマフィアにも日本にもめぼしい奴がいねえわけだぁ、とスクアーロが零す。ほーと気の抜けた返事をして、ベルフェゴールが隣のマーモンを突く。
「ロットバルトて何?」
「私立ロットバルト女学院。表向きには超名門女子高、その実態は暗殺者育成機関さ。僕の粘写を防ぐ小細工はできる程度のね」
「女の園というわけか……」
「んもうっ、レヴィったら興奮しないのっ」
「ごちゃごちゃうるせえぞぉ!」
「隊長が一番うるせーよ」
ベルの突っ込みより僅かに先んじて奥から水の入ったグラスが飛んできた。誰が投げたかは言うまでもない。冷てえ!と側頭部で受け止めたスクアーロに誰も同情しなかった。むしろ水だっただけマシな部類だろう。
「とにかく!場所はドイツだぁ。奴の足取りも掴めてる。これから発つぞぉ」
スクアーロは手元の資料を握り潰しながら立ち上がった。諜報部隊が必死で調べ上げたなけなしの情報が記されている。まとまりのない他の幹部を怒鳴り散らした後、スクアーロは皺になったそれを広げた。彼女と思われる写真が数枚載っていたが、どれもかろうじて女と分かる程度で、不鮮明だ。監視カメラの視界ぎりぎりに写り込んでいたのを無理やり引き伸ばしたのだろう。本人かどうかも怪しい。子どもといえど「暗殺者育成機関」の人間がやすやすと監視カメラに映り込むものかね、とスクアーロは諜報部隊に毒づいた。現に彼女と同年代であろうベルは生意気ではあるが才覚ある一丁前の暗殺者だ。奴もそうだといい。スクアーロはまだ見ぬ――正確には未来で見た――幹部候補に少しだけ期待した。
イタリア某所、ヴァリアー本部。食堂に幹部を集めた張本人であるスクアーロが口を開いた。他の幹部たちがにわかに騒つく。最上座で優雅にフィレ肉を口に運んでいたXANXUSも一瞬、片眉を上げた。
「未来で沢田綱吉が白蘭という脅威を退けた」という事実は、記憶と経験、そして匣という全く新しい兵器をXANXUSたちにも授けた。摩訶不思議な体験を共有する中、彼らが目を見張ったのはまだ見ぬ未来のヴァリアー幹部だった。アルコバレーノが全員死亡していた未来で、マーモンの後継として幻術使いのフランが就いていたことはさしたる問題ではない。もう一人――ヴァリアー幹部だけでなく、この「未来」の知識を得たボンゴレ関係者を驚かせたのは、雲のヴァリアーリングを持つ女の存在だった。
ヴァリアーの雲属性の幹部は欠番である。もちろん代々そうというわけではない。かつては存在したのだ。ゴーラ・モスカという兵器が。
XANXUSによる二度目のクーデターは誰の記憶にも新しい。ボンゴレ本部やCEDEFを欺き、九代目をモスカの動力源とし、対立した十代目候補・沢田綱吉にモスカごと九代目を葬らせんと目論んだ。十代目の座を確実に手にするために。結局、この陰謀渦巻く後継者争いの勝者こそ、今回未来を救った沢田綱吉というわけだった。つまらない話だ、とスクアーロは回顧する。
閑話休題。ゴーラ・モスカこそ二度目のクーデターの象徴だった。与えられた処罰、代償といっていいのかもしれない。少なくともXANXUSがボスであるうちは、ヴァリアーが雲の幹部を置くことは許されない取り決めになった。一連の事情を知っていれば妥当な決定だった。むしろその条件を飲めば、謹慎期間こそあれど誰も粛清されずに組織を継続できるというのだから九代目は甘い。神の采配も老いには勝てなかったか。
――だというのに。十年後の未来には、XANXUSが率いる幹部は六人。当然のようにすべての属性の席が埋まっていた。
情報は少なかった。名前と呼ばれる女。炎の属性は雲。日本人か、少なくとも東洋人に見える。歳は推定二十代中頃から後半。その十年前ということだから、今は高校生あたりか。
十年という月日がボンゴレを、ヴァリアーを変えたのかもしれない。それでも突如彗星のごとく現れた存在に誰も問わずにはいられなかった。お前は何者だ、と。
「それで、名前とかいう奴はどこにいるわけ?」
「ああ、ロットバルトの傭兵だった」
イタリアンマフィアにも日本にもめぼしい奴がいねえわけだぁ、とスクアーロが零す。ほーと気の抜けた返事をして、ベルフェゴールが隣のマーモンを突く。
「ロットバルトて何?」
「私立ロットバルト女学院。表向きには超名門女子高、その実態は暗殺者育成機関さ。僕の粘写を防ぐ小細工はできる程度のね」
「女の園というわけか……」
「んもうっ、レヴィったら興奮しないのっ」
「ごちゃごちゃうるせえぞぉ!」
「隊長が一番うるせーよ」
ベルの突っ込みより僅かに先んじて奥から水の入ったグラスが飛んできた。誰が投げたかは言うまでもない。冷てえ!と側頭部で受け止めたスクアーロに誰も同情しなかった。むしろ水だっただけマシな部類だろう。
「とにかく!場所はドイツだぁ。奴の足取りも掴めてる。これから発つぞぉ」
スクアーロは手元の資料を握り潰しながら立ち上がった。諜報部隊が必死で調べ上げたなけなしの情報が記されている。まとまりのない他の幹部を怒鳴り散らした後、スクアーロは皺になったそれを広げた。彼女と思われる写真が数枚載っていたが、どれもかろうじて女と分かる程度で、不鮮明だ。監視カメラの視界ぎりぎりに写り込んでいたのを無理やり引き伸ばしたのだろう。本人かどうかも怪しい。子どもといえど「暗殺者育成機関」の人間がやすやすと監視カメラに映り込むものかね、とスクアーロは諜報部隊に毒づいた。現に彼女と同年代であろうベルは生意気ではあるが才覚ある一丁前の暗殺者だ。奴もそうだといい。スクアーロはまだ見ぬ――正確には未来で見た――幹部候補に少しだけ期待した。