Love me, love my dog.
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「……パトロール、ご一緒してもいいですか?」
「もちろんだとも!」
ジャスティスタワーの屋上。日が沈んでも、無数の人工的な明かりが星の海となって広がっていた。夜の日課を始めようとしていたスカイハイは、珍しい申し出を即座に歓迎した。
ご一緒、といってもウォッチドッグは空を飛べない。しかしヒーロースーツの力を借りて、建物の屋根から屋根を飛び移るくらいなら可能だ。
「背中に乗っていくかい? あ、バーナビーくんに怒られてしまうかな」
「いえ、私が触れていたらスカイハイさんが墜落しちゃう」
「そうだった」
こちらはこちらで見回りますので、落ち合えたら落ち合いましょう。承知した!
ここで引き留めず、物分かりがいいところがスカイハイのいいところだと名前は思った。よく天然だなんだと言われているが、彼が馬鹿だということは断じてない。むしろその逆だ。
いつも通りジェットパックが問題なく装着されていることを確認すると、キングオブヒーローは夜のシュテルンビルトへ飛び立った。
純白のコートの裾が羽根のように広がって見えた。その後ろ姿が、先日の二人目の襲撃者と重なる。浮かびかけた影をウォッチドッグはすぐさま頭の隅へ追いやって、自分も跳び立つために脚に力を込めた。
ビルからビルへ足をかけるたび、色々なものが視界に入ってくる。苛立った様子でクラクションを鳴らすトラック。客待ちで並ぶ何台ものタクシー。足早に会社を出るビジネスマン、幼い弟の手を引いて歩く少女。腕を組んで歩くカップル。
後にも先にも、あんな風にバーナビーと腕を組んで街を歩くことはないだろうと思った。
もし彼が素顔を公開していなかったら。もし人気ヒーローではなかったら。もし私の能力がこれじゃなかったら。そもそもNEXTじゃなかったら。……そのどれかを失うということは、彼の、あるいは私の人生の大半を否定することだ。
いつのまにかドッグは足を止め、眼下に広がる他人の人生の切り抜きを、ただ茫然と眺めていた。
「カイロ!」
少女のかん高い声に、霧のような思考を切り裂かれた。声のした方を見れば、先程見かけた幼い姉弟が、気付けば姉ひとりになっている。それだけの状況がドッグの動く理由になった。
生身だったら骨折では済まなかっただろう。ビルの屋上から躊躇なく飛び降り、悲鳴を上げた少女に「どうしたの」と駆け寄る。
突如現れたヒーローに目を白黒させながらも、少女は交通量の多い道路を指差す。丸い頬は涙でぐしょぐしょになっていた。
「カイロが、弟、黒い車に、」
「あなたはこのお店の前で待ってて」
少女は頷く。つくづく治安の悪いこの街に、ウォッチドッグは何が残せるだろう。スーツの解析機能を起動しながら、ドッグは少女の弟を攫った黒い車を追いかけた。
「やあ! お手柄だったな!」
「怖い思いをさせないのが一番でした。こんな時間に子どもだけで出歩いている時点で、早く帰るよう促すべきだった」
「次からはそうすればいい」
「落ち合えたら」と告げたのは社交辞令というか、ドッグにしてみればあまり本気ではなかったが、誘拐犯を警察に引き渡した頃には騒ぎを聞きつけたスカイハイが合流していた。
街を大きく一周して、どうやら今夜のパトロールは終わりらしい。再びジャスティスタワーの屋上に戻った二人は柵に寄りかかり、まだ眠りそうにない街を眺めていた。
スカイハイが頭部のマスクを外し、キース・グッドマンとしての素顔を晒す。夜風が彼の髪を優しく撫でていった。
「スカイハイさんって背中のジェットパックがないと、空を飛べないって本当ですか?」
「本当さ! 生身だと浮くだけだ」
「……私、最初は勘違いしていたんです」
「何をだい?」
「キングオブヒーローはさぞかし強くて、優れた能力を持っているんだろうって。スカイハイさん以外も、ヒーローたちはみんな選ばれたNEXTなんだろうって、思ってました……」
「たしかにこの能力には何度も助けられてきた。もちろん、私だけの力でここまでやってこれたわけではないがね。しかし……」
キースの言葉が途切れた。いつも歯切れの良い、明朗な彼には珍しいことだった。言い淀んでいるというよりは、より適当な表現を探しているようだった。本当に真面目な人だな、と名前も変に急かすことも怪しむこともなく続きを待った。
「もし、万が一NEXTの能力がなくても、私は私、君は君、ヒーローはヒーローだ。ドッグくん」
「ヒーローは、ヒーロー……」
「すまない、お喋りはあまり得意じゃなくってね。みんなにもよく笑われてしまうんだ。何か変なことを言っていないといいんだが」
「いいえ、そんなことないです。あなたと話せてよかった」
ならよかった、とキースが白い歯を見せて笑う。
いつかこの人のように笑える日を、バーナビーと堂々と腕を組んで歩ける日を、シュテルンビルトがウォッチドッグを誇れる日を諦めたくないと思った。
「もちろんだとも!」
ジャスティスタワーの屋上。日が沈んでも、無数の人工的な明かりが星の海となって広がっていた。夜の日課を始めようとしていたスカイハイは、珍しい申し出を即座に歓迎した。
ご一緒、といってもウォッチドッグは空を飛べない。しかしヒーロースーツの力を借りて、建物の屋根から屋根を飛び移るくらいなら可能だ。
「背中に乗っていくかい? あ、バーナビーくんに怒られてしまうかな」
「いえ、私が触れていたらスカイハイさんが墜落しちゃう」
「そうだった」
こちらはこちらで見回りますので、落ち合えたら落ち合いましょう。承知した!
ここで引き留めず、物分かりがいいところがスカイハイのいいところだと名前は思った。よく天然だなんだと言われているが、彼が馬鹿だということは断じてない。むしろその逆だ。
いつも通りジェットパックが問題なく装着されていることを確認すると、キングオブヒーローは夜のシュテルンビルトへ飛び立った。
純白のコートの裾が羽根のように広がって見えた。その後ろ姿が、先日の二人目の襲撃者と重なる。浮かびかけた影をウォッチドッグはすぐさま頭の隅へ追いやって、自分も跳び立つために脚に力を込めた。
ビルからビルへ足をかけるたび、色々なものが視界に入ってくる。苛立った様子でクラクションを鳴らすトラック。客待ちで並ぶ何台ものタクシー。足早に会社を出るビジネスマン、幼い弟の手を引いて歩く少女。腕を組んで歩くカップル。
後にも先にも、あんな風にバーナビーと腕を組んで街を歩くことはないだろうと思った。
もし彼が素顔を公開していなかったら。もし人気ヒーローではなかったら。もし私の能力がこれじゃなかったら。そもそもNEXTじゃなかったら。……そのどれかを失うということは、彼の、あるいは私の人生の大半を否定することだ。
いつのまにかドッグは足を止め、眼下に広がる他人の人生の切り抜きを、ただ茫然と眺めていた。
「カイロ!」
少女のかん高い声に、霧のような思考を切り裂かれた。声のした方を見れば、先程見かけた幼い姉弟が、気付けば姉ひとりになっている。それだけの状況がドッグの動く理由になった。
生身だったら骨折では済まなかっただろう。ビルの屋上から躊躇なく飛び降り、悲鳴を上げた少女に「どうしたの」と駆け寄る。
突如現れたヒーローに目を白黒させながらも、少女は交通量の多い道路を指差す。丸い頬は涙でぐしょぐしょになっていた。
「カイロが、弟、黒い車に、」
「あなたはこのお店の前で待ってて」
少女は頷く。つくづく治安の悪いこの街に、ウォッチドッグは何が残せるだろう。スーツの解析機能を起動しながら、ドッグは少女の弟を攫った黒い車を追いかけた。
「やあ! お手柄だったな!」
「怖い思いをさせないのが一番でした。こんな時間に子どもだけで出歩いている時点で、早く帰るよう促すべきだった」
「次からはそうすればいい」
「落ち合えたら」と告げたのは社交辞令というか、ドッグにしてみればあまり本気ではなかったが、誘拐犯を警察に引き渡した頃には騒ぎを聞きつけたスカイハイが合流していた。
街を大きく一周して、どうやら今夜のパトロールは終わりらしい。再びジャスティスタワーの屋上に戻った二人は柵に寄りかかり、まだ眠りそうにない街を眺めていた。
スカイハイが頭部のマスクを外し、キース・グッドマンとしての素顔を晒す。夜風が彼の髪を優しく撫でていった。
「スカイハイさんって背中のジェットパックがないと、空を飛べないって本当ですか?」
「本当さ! 生身だと浮くだけだ」
「……私、最初は勘違いしていたんです」
「何をだい?」
「キングオブヒーローはさぞかし強くて、優れた能力を持っているんだろうって。スカイハイさん以外も、ヒーローたちはみんな選ばれたNEXTなんだろうって、思ってました……」
「たしかにこの能力には何度も助けられてきた。もちろん、私だけの力でここまでやってこれたわけではないがね。しかし……」
キースの言葉が途切れた。いつも歯切れの良い、明朗な彼には珍しいことだった。言い淀んでいるというよりは、より適当な表現を探しているようだった。本当に真面目な人だな、と名前も変に急かすことも怪しむこともなく続きを待った。
「もし、万が一NEXTの能力がなくても、私は私、君は君、ヒーローはヒーローだ。ドッグくん」
「ヒーローは、ヒーロー……」
「すまない、お喋りはあまり得意じゃなくってね。みんなにもよく笑われてしまうんだ。何か変なことを言っていないといいんだが」
「いいえ、そんなことないです。あなたと話せてよかった」
ならよかった、とキースが白い歯を見せて笑う。
いつかこの人のように笑える日を、バーナビーと堂々と腕を組んで歩ける日を、シュテルンビルトがウォッチドッグを誇れる日を諦めたくないと思った。