Love me, love my dog.
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
——好きな食べ物は?
「これといった好き嫌いはありませんが、強いて言うならアクアパッツァですかね」
——最近のマイブームは?
「友人の勧めでハーブティーに凝っています」
——ズバリ、どんな人がタイプ?
「アハハ、自分に無いものを持っている人に憧れます」
——苦手なことは?
「……みんなをがっかりさせること」
「ちょっと、ドッグ! そういうマジのやつじゃなくていいの」
「あっ、ごめんごめん」
「この質問から撮り直すわよ、いいわね」
「はーい、プロデューサー様」
——苦手なことは?
「……けん玉?」
「お疲れ様です、折紙先輩」
「あ、ドッグさん」
インタビューを終えた名前は、見覚えのある後ろ姿に声を掛けた。和柄の刺繍が入ったスカジャンが、やや猫背気味の背中に自然と馴染んでいた。
駅のホームに人はまばらで、イワンは名前を認識した後、電光掲示板に目をやった。次の電車が来るまであと三分。
「電車移動なんですね」
「出動以外は。お上が経費削減にうるさいんです」
「ああ、そういう……」
東風が二人の間を通り抜けた。イワンはとてもお喋りとは言い難い質だったし、名前も同じようなものだったので、互いに共通の話題をあまり持ち合わせていないことに気を揉んでいた。
「折紙先輩はこの後どちらに?」
「用事は済んだので、ジャスティスタワーに向かおうかと。ドッグさんは?」
「ちょっと定期報告で刑務所 に顔を出さないといけなくて」
大変ですね。いえいえ企業所属のみなさんの方がよっぽど。
乾いた風のような当たり障りのない会話を続ける中で、イワンはなんとはなしに受け入れていた呼称に気付く。
「そういえば、その『先輩』って——」
金鎚を穿つようなPDAの通知音が言葉の続きを遮った。続いてアニエスの矢のような指示が飛んでくる。
「みんな、ダウンタウン地区で銀行が窃盗団に襲撃されたわ。一足早く逃げ出した一味の一人が、ちょうど折紙とドッグの近くにいるから二人はそいつを追って。それ以外は現場を包囲!」
「了解!」
二人は改札を駆け抜けながら、トランスポーターを呼びつける。
「逃げ出した窃盗犯はダウンタウン地方を西に突っ切ってるみたいです。きっとオーシャンズブリッジを抜けるつもりだ」
「オーシャンズ地方に何が……。まさか!」
「イーストリバーに船でも用意してるんでしょう。海に向かった方が容易に逃げ切れそうなものですが、作戦なのかそのまで頭が回らなかったのか……」
ダウンタウン地区を西に向かって走る二人に、ヘリペリデスファイナンスとアポロンメディアのトラックが追い付く。
「じゃ、折紙先輩。早いもの勝ちで!」
名前がトランスポーターに飛び乗ると、イワンも頷いて御殿のようなそれに吸い込まれていった。
『おおーっと! 逃げた窃盗団の一人を、折紙サイクロンとウォッチドッグが追う!』
「これじゃあいたちごっこでござる」
「オーシャンズブリッジまであと2キロ……。折紙先輩! 前言撤回です!」
路上で強奪されたタクシーが荒い運転で路上をかっ飛ばす。それを追うウォッチドッグは、先を行く折紙サイクロンに声をかける。ヒーローモードの折紙は「ござる?」と顔だけ振り返った。
「ヒーロー様も大したことねえな。ま、見切れだけのニンジャとデビューしたての新入りじゃあ仕方ねえか」
「ごめんなさいね、新入りで」
「ウ、ウォッチドッグ! いつの間に」
タクシーの行く先、前方約10メートルにウォッチドッグが立ち塞がる。ニット帽を被った窃盗グループの男は、咄嗟にハンドルを大きく切った。
ウォッチドッグが車のボンネットに飛び乗り、フロントガラスを叩き割る。
「させない」
「ヒイッ」
伸びてくる手から逃れようと窃盗犯は車を捨て、転げ落ちるように地面を這う。ナイフを手に「どけ! どけえ!」と通行人をかき分ける。
逃げ惑う若い女性の腕を引っ掴み、刃物を突きつけた。「誰かぁ!」と甲高い悲鳴がストリートに響き渡る。
「こいつがどうなってもいいのかア!?」
「まあ大変」
「どいつもこいつも舐めやがって……!」
すっかり逆上した犯人が腕を大きく振り上げた。捕らわれた女性の涙がぴたりと止む。
鋭い手刀が男の手からナイフを叩き落とす。その手はか弱い女性のものではなく、鎧に包まれたそれに変わっていた。打ち肘が犯人の顎にクリーンヒットし、男は痛みに顔をひしゃげる。
「お、おまえは……!」
「犯人確保、でござる」
『折紙サイクロン、犯人確保ー!! 若いヒーロー二人が見事なコンビプレーを見せました!』
「あ、朗報です先輩。向こうも片付いたって」
『襲撃された銀行に残された窃盗犯たちを併せて、犯行グループは全員ヒーローたちによって逮捕されました!』
アニエスに繋いでもらった回線から、この場にいない先輩ヒーローの声が届いてくる。
「ウォッチドッグくん! こちらも無事片付いた!」
「まったく、ヒーロー遣いの荒い新人ね」
「ワガママ聞いてくれてありがとうございます。スカイハイさん、ファイヤーさん」
『更に更に! 今回の窃盗団と協力関係にあった組織の船を、オーシャンズ地区・イーストリバー沿いの倉庫で発見! スカイハイとファイヤーエンブレムによって無事押収されました!』
ウォッチドッグは大きく両腕を伸ばした。
「いやー、うまくいってよかった! プロデューサー様にお小言もらうところだった」
犯人の身柄を警察に明け渡した折紙サイクロンが、ウォッチドッグに駆け寄る。
「いいんですか、僕にポイントを譲って」
「私は今期だけのお試しヒーローですし」
「でも……」
「私じゃ確保できなかったかもしれません。先輩の力あってこその事件解決ですよ。お気持ちはありがたいですが、どうせならもっと嬉しがってください」
「あ……」
子どものように、わざと歯を見せて悪戯っぽく笑う。アイシールド越しの線になった目が、折紙サイクロンの記憶の中である男とリンクする。
「アカデミーにいた、ビートウルフの娘さんの……」
「よくご存知ですね、父は全然有名なヒーローじゃなかったのに」
ウォッチドッグは思いついたように、「あんまり言いふらさないでくださいね、今日のポイントに免じて」とまた笑う。折紙サイクロンもつられて戯けて、指で印を結ぶポーズを作りながら頷いた。
「承知した」
「今週も先週同様特に問題なし。報告は以上です」
「いいね」
アッバス刑務所の所長、ラインマー・ゾルゲはいつも通りの鉄仮面で頷いた。
鷲鼻の上にちょこんと乗った小さなレンズの丸眼鏡が、この人の性格に似合うような似合わないような、と名前は上司を前に失礼なことを考えた。
「正直こんなに活躍するとは思わなかった。人気が出なければ脱いでもらうところだった」
「それはヒーロースーツを、ってことですよね? 変な意味じゃないですよね?」
「一般人が寄り付かなかった刑務所が、今じゃ見学ツアーの人気スポットだ。あと数ヶ月、ほどほどに期待してるよ」
「アハハ……それは助かります」
「これといった好き嫌いはありませんが、強いて言うならアクアパッツァですかね」
——最近のマイブームは?
「友人の勧めでハーブティーに凝っています」
——ズバリ、どんな人がタイプ?
「アハハ、自分に無いものを持っている人に憧れます」
——苦手なことは?
「……みんなをがっかりさせること」
「ちょっと、ドッグ! そういうマジのやつじゃなくていいの」
「あっ、ごめんごめん」
「この質問から撮り直すわよ、いいわね」
「はーい、プロデューサー様」
——苦手なことは?
「……けん玉?」
「お疲れ様です、折紙先輩」
「あ、ドッグさん」
インタビューを終えた名前は、見覚えのある後ろ姿に声を掛けた。和柄の刺繍が入ったスカジャンが、やや猫背気味の背中に自然と馴染んでいた。
駅のホームに人はまばらで、イワンは名前を認識した後、電光掲示板に目をやった。次の電車が来るまであと三分。
「電車移動なんですね」
「出動以外は。お上が経費削減にうるさいんです」
「ああ、そういう……」
東風が二人の間を通り抜けた。イワンはとてもお喋りとは言い難い質だったし、名前も同じようなものだったので、互いに共通の話題をあまり持ち合わせていないことに気を揉んでいた。
「折紙先輩はこの後どちらに?」
「用事は済んだので、ジャスティスタワーに向かおうかと。ドッグさんは?」
「ちょっと定期報告で
大変ですね。いえいえ企業所属のみなさんの方がよっぽど。
乾いた風のような当たり障りのない会話を続ける中で、イワンはなんとはなしに受け入れていた呼称に気付く。
「そういえば、その『先輩』って——」
金鎚を穿つようなPDAの通知音が言葉の続きを遮った。続いてアニエスの矢のような指示が飛んでくる。
「みんな、ダウンタウン地区で銀行が窃盗団に襲撃されたわ。一足早く逃げ出した一味の一人が、ちょうど折紙とドッグの近くにいるから二人はそいつを追って。それ以外は現場を包囲!」
「了解!」
二人は改札を駆け抜けながら、トランスポーターを呼びつける。
「逃げ出した窃盗犯はダウンタウン地方を西に突っ切ってるみたいです。きっとオーシャンズブリッジを抜けるつもりだ」
「オーシャンズ地方に何が……。まさか!」
「イーストリバーに船でも用意してるんでしょう。海に向かった方が容易に逃げ切れそうなものですが、作戦なのかそのまで頭が回らなかったのか……」
ダウンタウン地区を西に向かって走る二人に、ヘリペリデスファイナンスとアポロンメディアのトラックが追い付く。
「じゃ、折紙先輩。早いもの勝ちで!」
名前がトランスポーターに飛び乗ると、イワンも頷いて御殿のようなそれに吸い込まれていった。
『おおーっと! 逃げた窃盗団の一人を、折紙サイクロンとウォッチドッグが追う!』
「これじゃあいたちごっこでござる」
「オーシャンズブリッジまであと2キロ……。折紙先輩! 前言撤回です!」
路上で強奪されたタクシーが荒い運転で路上をかっ飛ばす。それを追うウォッチドッグは、先を行く折紙サイクロンに声をかける。ヒーローモードの折紙は「ござる?」と顔だけ振り返った。
「ヒーロー様も大したことねえな。ま、見切れだけのニンジャとデビューしたての新入りじゃあ仕方ねえか」
「ごめんなさいね、新入りで」
「ウ、ウォッチドッグ! いつの間に」
タクシーの行く先、前方約10メートルにウォッチドッグが立ち塞がる。ニット帽を被った窃盗グループの男は、咄嗟にハンドルを大きく切った。
ウォッチドッグが車のボンネットに飛び乗り、フロントガラスを叩き割る。
「させない」
「ヒイッ」
伸びてくる手から逃れようと窃盗犯は車を捨て、転げ落ちるように地面を這う。ナイフを手に「どけ! どけえ!」と通行人をかき分ける。
逃げ惑う若い女性の腕を引っ掴み、刃物を突きつけた。「誰かぁ!」と甲高い悲鳴がストリートに響き渡る。
「こいつがどうなってもいいのかア!?」
「まあ大変」
「どいつもこいつも舐めやがって……!」
すっかり逆上した犯人が腕を大きく振り上げた。捕らわれた女性の涙がぴたりと止む。
鋭い手刀が男の手からナイフを叩き落とす。その手はか弱い女性のものではなく、鎧に包まれたそれに変わっていた。打ち肘が犯人の顎にクリーンヒットし、男は痛みに顔をひしゃげる。
「お、おまえは……!」
「犯人確保、でござる」
『折紙サイクロン、犯人確保ー!! 若いヒーロー二人が見事なコンビプレーを見せました!』
「あ、朗報です先輩。向こうも片付いたって」
『襲撃された銀行に残された窃盗犯たちを併せて、犯行グループは全員ヒーローたちによって逮捕されました!』
アニエスに繋いでもらった回線から、この場にいない先輩ヒーローの声が届いてくる。
「ウォッチドッグくん! こちらも無事片付いた!」
「まったく、ヒーロー遣いの荒い新人ね」
「ワガママ聞いてくれてありがとうございます。スカイハイさん、ファイヤーさん」
『更に更に! 今回の窃盗団と協力関係にあった組織の船を、オーシャンズ地区・イーストリバー沿いの倉庫で発見! スカイハイとファイヤーエンブレムによって無事押収されました!』
ウォッチドッグは大きく両腕を伸ばした。
「いやー、うまくいってよかった! プロデューサー様にお小言もらうところだった」
犯人の身柄を警察に明け渡した折紙サイクロンが、ウォッチドッグに駆け寄る。
「いいんですか、僕にポイントを譲って」
「私は今期だけのお試しヒーローですし」
「でも……」
「私じゃ確保できなかったかもしれません。先輩の力あってこその事件解決ですよ。お気持ちはありがたいですが、どうせならもっと嬉しがってください」
「あ……」
子どものように、わざと歯を見せて悪戯っぽく笑う。アイシールド越しの線になった目が、折紙サイクロンの記憶の中である男とリンクする。
「アカデミーにいた、ビートウルフの娘さんの……」
「よくご存知ですね、父は全然有名なヒーローじゃなかったのに」
ウォッチドッグは思いついたように、「あんまり言いふらさないでくださいね、今日のポイントに免じて」とまた笑う。折紙サイクロンもつられて戯けて、指で印を結ぶポーズを作りながら頷いた。
「承知した」
「今週も先週同様特に問題なし。報告は以上です」
「いいね」
アッバス刑務所の所長、ラインマー・ゾルゲはいつも通りの鉄仮面で頷いた。
鷲鼻の上にちょこんと乗った小さなレンズの丸眼鏡が、この人の性格に似合うような似合わないような、と名前は上司を前に失礼なことを考えた。
「正直こんなに活躍するとは思わなかった。人気が出なければ脱いでもらうところだった」
「それはヒーロースーツを、ってことですよね? 変な意味じゃないですよね?」
「一般人が寄り付かなかった刑務所が、今じゃ見学ツアーの人気スポットだ。あと数ヶ月、ほどほどに期待してるよ」
「アハハ……それは助かります」