Love me, love my dog.
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ハイ、ハイ、ハイッ」
「タアッ!」
トレーニング用に借りたレンタルルームは正方形で、四方を白い壁に囲まれていた。そこで二人は向き合っている。名前は防具を身につけ、相対する宝鈴はそれに合わせて的確に正拳や蹴りを打ち込む。
「サーッ!」
強烈な蹴りがミットにめり込む。その勢いでバク転を決め、バックステップで距離を取ってまた体勢を整えた。受け止めた名前は勢いを殺しきれず、後ずさる。
「あっ、ドッグさん大丈夫?」
「平気平気! ちょっと休憩にしよっか」
構えていたミットを降ろして、名前はタオルで額の汗を拭った。宝鈴がドリンクを手渡すと、「ありがとう」と受け取った。
二人は部屋を出て、他のヒーローも集まるトレーニングルームのロビーに出る。ベンチに並んで腰を降ろし、名前は貰ったドリンクをありがたく頂いた。火照った身体に冷えた水分が喉を通る。
設置されたトレーニング機器の作動音がガッシャガッシャと鳴る。それに合わせて、かき消すほどの「モーウ!」「ッシュー」と気合の入った掛け声も聞こえてくる。近くのランニングマシンで走るカリーナが「うるさ……」と呟く。
「キッドはすごいね。その身のこなし、カンフーはいつからやってるの?」
「物心ついた頃からかなあ。ドッグさんの拘束術も勉強になるよ! もっと教えてほしいな」
「こんなのでよかったらいくらでも」
「お疲れさま、二人とも。随分熱が入ってたわね」
「ファイヤーさん」
長い睫毛をばしばしと瞬かせながら、ネイサンが休む二人に声を掛けた。間近に見る鍛え上げられた肉体に名前は内心おおっと感心する。
ドラゴンキッドもファイヤーエンブレムも、電撃や炎といった優れた個性があるにも関わらず、生身の鍛錬を欠かさない。二人以外も、ヒーローはみんなそうだ。ただでさえ自分の個性はヒーロー向きではないのだから、より一層気を引き締めなくては。たとえ期限付きの、偽物のヒーローだとしても。
「どお? せっかくみんな集まってることだし、今夜ドッグの歓迎会でもしない?」
「そんな、私の?」
「いいねそれ!」
「うむ。改めて歓迎、そしてようこそ!」
「いいんじゃない? 私空いてるよ」
和気藹々とした空間を遠巻きに気にしながら、淡々とマシンでチェストプレスを続ける男がいた。
「どっかの誰かさんのときとは大違いだな」
「誰のことを言ってるんです?」
「まー、感じ良いもんな、ドッグ。あれからちゃんと話できたのか?」
後半は声を潜めて虎徹が言った。
泥酔しても記憶が飛ばないタイプらしく、「あの日のことは忘れてください」と苦々しく返ってくる。その反応に「まだ仲直りしてなかったのかよ!」と虎徹はついつい声を荒げる。
「声が大きい!」
「お前の方がデケえよ!」
「まーたやってるよ、あの二人」
「タイガーとバーナビーは今夜どう? 来れるの?」
「そりゃ俺らはもう暇! 超空いてる! やろうぜドッグの歓迎会! なあバニー」
「ちょっと、勝手に!」
「い、忙しいだろうし無理しなくていいから! ほんとに」
主役の一声で、揉めていたコンビは思わず黙る。遠目からでもこちらを気を遣っているのがわかる彼女に、バーナビーは少し腹がむかついた。
「行きますよ。誰も行かないとは言ってないでしょう」
「じゃあ全員参加ね。お店はアタシが取っておくから。ドッグって飲めるの?」
輪の中心にいる名前がどうも面白くない。飲めるどころかかなり強い方ですよ。お気に入りのバーに入り浸ってるし、親しくしてるアニエスさんともよく飲みに行ってるみたいだし。ここにいる自分だけが知っていることだ。
「の、飲めなくはない……かな?」
バーナビーは目を剥いた。うわばみの言う台詞じゃない。まさかこの人、猫を被っている。
「あらそォ、サウスゴールドにロブスターが美味しいトコ知ってるの。そこにしておくわね」
「ありがとうファイヤーさん、みんなも」
眉を下げて微笑む名前は、虎徹が言っていた通りの、そしてかつてバーナビーが知っていた通りの「人当たりがよく、気取らない女性」そのものだった。その姿に嘘はないはずだった。お酒が好きなのも穏やかな気性も、確かに彼女を構成する一部で。じゃあ犯人を前にしたときの、あの鋭い、灼けつくような視線もその笑顔の下に隠しているというのだろうか?
「じゃ、乾杯の前に主役から一言どうぞ」
「私ですか? えっと、本日はお集まりいただきありがとうございます?」
なんで疑問系なんだよ、とアントニオから野次が飛ぶ。アハハ……とはにかむ名前の手にはオレンジジュース。僕とのデートでも最初の一杯は必ず飲むのに、とバーナビーはやはり違和感を抱えたままでいた。
「今シーズン終了までの間ではありますが、これからよろしくお願いします。それでは、チアーズ!」
「チアーズ!」
挨拶を務めた名前は一人ずつ先輩ヒーローのところへ向かい、律儀に乾杯をして回る。もちろんそれはバーナビーのところにも。彼の元へ行くのが一番最後になったのも、無理のない話だった。デビューしたその日から十日ほど、あの電話以来二人はまともに言葉を交わしていない。
「……や。お疲れさま、です」
「どうも」
行き場をなくした視線が宙を彷徨った。名前は右手のグラスを掲げたそうにして、しかしとてもじゃないがそんな雰囲気ではないと立ち尽くしていた。健気そのものみたいな態度を見せられて、まるで僕が悪者みたいじゃないか、とバーナビーは息をつく。
まごまごしたまま動かない彼女のグラスに、自分のグラスを重ねる。チン、と軽い音が響く。
「わっ」
「チアーズ。良い夜を」
「……バーナビー、」
「別に許したわけじゃありませんから」
「ううん。ありがとうバーナビー。目が合って嬉しい、話してくれて嬉しい。来てくれてとっても嬉しい」
うっ、と言葉に詰まる。言葉以上の熱量が視線に乗ってバーナビーに降り注いだ。自分が知らないものだとある意味で恐れていたその目は、今だけはバーナビーのことが大好きだと雄弁に語る。誤魔化すような咳払いで、なんとか気持ちを切り替えた。
「大体、貴方はあれこれ他人に気を回しすぎなんですよ。酒が飲めないだなんて」
「え?」
「未成年もいるからでしょう? それに、乾杯するときもわざわざ自分のグラスを下にして。お堅いパーティーじゃないんですから、みんな気にしませんよ」
「……ハンドレッドパワー使ってる? 視力上がってる?」
「そんなわけないでしょう。能力を使わなくてもそれくらい、」
ずっと貴方を見ていましたと白状しているようなものだ。実際それを聞いた名前のグラスを持つ手は小刻みに震え、もう片方の手は口を押さえている。
「あの、今のは」
「お酒、そんなに得意じゃないみたいに言ったの、半分当たり。キッドたちがいるからお酒なしでも楽しめる会にしたくて、もう半分はね」
「もう半分は?」
「この後貴方と飲みたくて。空いてるかな」
「名前……」
許すのならその手を取って、このパーティーから連れ出してしまいたかった。場の主役は普段より濃いローズのリップでグラスに口付ける。
「忙しくても、無理してでも来て」
二度目の出会いと同じ、余計な言葉は要らない挑発だった。バーナビーは観念した。テーブルに自分のグラスを置き、軽く両手を掲げた。
「……驚いたな、どこでこんな悪い手口を覚えてきたんです。これじゃあ許さざるを得ない」
「貴方の知らないところで。もっと知ってよ、貴方の知らない私のこと」
「わかった、わかった。せめて二人のときにしてくれないか」
「そうよ。お熱いのはわかったから、そういうのは歓迎会の後にして頂戴」
「うわっ!!」
「あっ!」
完全に二人だけの世界に意識が飛んでいたバーナビーと名前は、ネイサンの横入りと周りの冷やかす視線で我に返った。
「ね、ね、やっぱりドッグが『ブルネットの警官』だったんだね!」
「ホント、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃった」
「ブルネッ……? な、なにそれ……」
「ドラゴンキッドが街中でデートするお前らを見たんだと」
「バニーは素面が知られてるんだからほどほどにしとけよー? パパラッチされても知らねえぞ」
「余計なお世話ですよ! 場所は選んでるに決まってるでしょう!」
「この調子だとどうだかなあ」
「二人はどこで出会ったんだ? いつから?」
完全に面白がる気満々の先輩に囲まれて、この中でワンツーで新入りの二人は押され気味になる。特にまだこの輪に加わって一週間ちょっとの名前は、先程とは違う感情で身体をぷるぷると震わせる。
「バ、バーナビー! バレてるなんて聞いてないんだけど!」
「僕に言わないでください!」
「あーーもう! 久しぶりに話せてすごいテンション上がってたさっき。もうだめ恥ずかしい、穴があったら入りたい」
「乾杯したばっかりなんだからまだ愛の巣には返さねえぞ、ルーキー殿」
「お酒好きならちゃんと言ってよ。ボクたち別に気にしないよ」
「もっと言ってやってください。この人何かと隠したがるんです」
「いやそれお前人のこと言えねえからな?」
「なんです、おじさんもこの前足の怪我隠してましたよね? バレないとでも思ってたんですか?」
「だーーっ! それはさ、別の話だろ」
「っふふふ、あはははは!」
揉みくちゃにされたルーキーは大きな口を開けて笑った。口喧嘩をしていたコンビヒーローも、恋愛事情に興味津々な先輩ヒーローも目を丸くする。台風の目は「あーもうやだ、おかしい」と笑いすぎて泣けてきたらしく、目元を指で掬っている。
虎徹はああ、と妙に腑に落ちた感覚がした。
「なんか、そっちの方があんたらしいよ」
「え?」
「前にアニエスとなんか言い合ってただろ、そっちの方がどうも印象にあったんだよな」
ぽかんとする本人を見て、咄嗟に虎徹は「あ、いや今までのドッグがらしくないとかじゃなくてさ!」と言い訳じみたことを付け足し始める。
「私らしい……。ね、バーナビーは私らしい私が好き?」
「僕が知っても知らなくても、貴方ならなんだって。隠し事はもう御免ですがね」
「うん……、うん」
名前は口元をくしゃくしゃにして少女のように笑う。それもまた、初めて見る顔だった。
ニューフェイスの歓迎会は、結局名前&バーナビーを根掘り葉掘りした後、「飲み直す」予定の二人は早々に解放された。さっさと追いやられた二人は、顔を見合わせてどちらからともなく笑った。
「タアッ!」
トレーニング用に借りたレンタルルームは正方形で、四方を白い壁に囲まれていた。そこで二人は向き合っている。名前は防具を身につけ、相対する宝鈴はそれに合わせて的確に正拳や蹴りを打ち込む。
「サーッ!」
強烈な蹴りがミットにめり込む。その勢いでバク転を決め、バックステップで距離を取ってまた体勢を整えた。受け止めた名前は勢いを殺しきれず、後ずさる。
「あっ、ドッグさん大丈夫?」
「平気平気! ちょっと休憩にしよっか」
構えていたミットを降ろして、名前はタオルで額の汗を拭った。宝鈴がドリンクを手渡すと、「ありがとう」と受け取った。
二人は部屋を出て、他のヒーローも集まるトレーニングルームのロビーに出る。ベンチに並んで腰を降ろし、名前は貰ったドリンクをありがたく頂いた。火照った身体に冷えた水分が喉を通る。
設置されたトレーニング機器の作動音がガッシャガッシャと鳴る。それに合わせて、かき消すほどの「モーウ!」「ッシュー」と気合の入った掛け声も聞こえてくる。近くのランニングマシンで走るカリーナが「うるさ……」と呟く。
「キッドはすごいね。その身のこなし、カンフーはいつからやってるの?」
「物心ついた頃からかなあ。ドッグさんの拘束術も勉強になるよ! もっと教えてほしいな」
「こんなのでよかったらいくらでも」
「お疲れさま、二人とも。随分熱が入ってたわね」
「ファイヤーさん」
長い睫毛をばしばしと瞬かせながら、ネイサンが休む二人に声を掛けた。間近に見る鍛え上げられた肉体に名前は内心おおっと感心する。
ドラゴンキッドもファイヤーエンブレムも、電撃や炎といった優れた個性があるにも関わらず、生身の鍛錬を欠かさない。二人以外も、ヒーローはみんなそうだ。ただでさえ自分の個性はヒーロー向きではないのだから、より一層気を引き締めなくては。たとえ期限付きの、偽物のヒーローだとしても。
「どお? せっかくみんな集まってることだし、今夜ドッグの歓迎会でもしない?」
「そんな、私の?」
「いいねそれ!」
「うむ。改めて歓迎、そしてようこそ!」
「いいんじゃない? 私空いてるよ」
和気藹々とした空間を遠巻きに気にしながら、淡々とマシンでチェストプレスを続ける男がいた。
「どっかの誰かさんのときとは大違いだな」
「誰のことを言ってるんです?」
「まー、感じ良いもんな、ドッグ。あれからちゃんと話できたのか?」
後半は声を潜めて虎徹が言った。
泥酔しても記憶が飛ばないタイプらしく、「あの日のことは忘れてください」と苦々しく返ってくる。その反応に「まだ仲直りしてなかったのかよ!」と虎徹はついつい声を荒げる。
「声が大きい!」
「お前の方がデケえよ!」
「まーたやってるよ、あの二人」
「タイガーとバーナビーは今夜どう? 来れるの?」
「そりゃ俺らはもう暇! 超空いてる! やろうぜドッグの歓迎会! なあバニー」
「ちょっと、勝手に!」
「い、忙しいだろうし無理しなくていいから! ほんとに」
主役の一声で、揉めていたコンビは思わず黙る。遠目からでもこちらを気を遣っているのがわかる彼女に、バーナビーは少し腹がむかついた。
「行きますよ。誰も行かないとは言ってないでしょう」
「じゃあ全員参加ね。お店はアタシが取っておくから。ドッグって飲めるの?」
輪の中心にいる名前がどうも面白くない。飲めるどころかかなり強い方ですよ。お気に入りのバーに入り浸ってるし、親しくしてるアニエスさんともよく飲みに行ってるみたいだし。ここにいる自分だけが知っていることだ。
「の、飲めなくはない……かな?」
バーナビーは目を剥いた。うわばみの言う台詞じゃない。まさかこの人、猫を被っている。
「あらそォ、サウスゴールドにロブスターが美味しいトコ知ってるの。そこにしておくわね」
「ありがとうファイヤーさん、みんなも」
眉を下げて微笑む名前は、虎徹が言っていた通りの、そしてかつてバーナビーが知っていた通りの「人当たりがよく、気取らない女性」そのものだった。その姿に嘘はないはずだった。お酒が好きなのも穏やかな気性も、確かに彼女を構成する一部で。じゃあ犯人を前にしたときの、あの鋭い、灼けつくような視線もその笑顔の下に隠しているというのだろうか?
「じゃ、乾杯の前に主役から一言どうぞ」
「私ですか? えっと、本日はお集まりいただきありがとうございます?」
なんで疑問系なんだよ、とアントニオから野次が飛ぶ。アハハ……とはにかむ名前の手にはオレンジジュース。僕とのデートでも最初の一杯は必ず飲むのに、とバーナビーはやはり違和感を抱えたままでいた。
「今シーズン終了までの間ではありますが、これからよろしくお願いします。それでは、チアーズ!」
「チアーズ!」
挨拶を務めた名前は一人ずつ先輩ヒーローのところへ向かい、律儀に乾杯をして回る。もちろんそれはバーナビーのところにも。彼の元へ行くのが一番最後になったのも、無理のない話だった。デビューしたその日から十日ほど、あの電話以来二人はまともに言葉を交わしていない。
「……や。お疲れさま、です」
「どうも」
行き場をなくした視線が宙を彷徨った。名前は右手のグラスを掲げたそうにして、しかしとてもじゃないがそんな雰囲気ではないと立ち尽くしていた。健気そのものみたいな態度を見せられて、まるで僕が悪者みたいじゃないか、とバーナビーは息をつく。
まごまごしたまま動かない彼女のグラスに、自分のグラスを重ねる。チン、と軽い音が響く。
「わっ」
「チアーズ。良い夜を」
「……バーナビー、」
「別に許したわけじゃありませんから」
「ううん。ありがとうバーナビー。目が合って嬉しい、話してくれて嬉しい。来てくれてとっても嬉しい」
うっ、と言葉に詰まる。言葉以上の熱量が視線に乗ってバーナビーに降り注いだ。自分が知らないものだとある意味で恐れていたその目は、今だけはバーナビーのことが大好きだと雄弁に語る。誤魔化すような咳払いで、なんとか気持ちを切り替えた。
「大体、貴方はあれこれ他人に気を回しすぎなんですよ。酒が飲めないだなんて」
「え?」
「未成年もいるからでしょう? それに、乾杯するときもわざわざ自分のグラスを下にして。お堅いパーティーじゃないんですから、みんな気にしませんよ」
「……ハンドレッドパワー使ってる? 視力上がってる?」
「そんなわけないでしょう。能力を使わなくてもそれくらい、」
ずっと貴方を見ていましたと白状しているようなものだ。実際それを聞いた名前のグラスを持つ手は小刻みに震え、もう片方の手は口を押さえている。
「あの、今のは」
「お酒、そんなに得意じゃないみたいに言ったの、半分当たり。キッドたちがいるからお酒なしでも楽しめる会にしたくて、もう半分はね」
「もう半分は?」
「この後貴方と飲みたくて。空いてるかな」
「名前……」
許すのならその手を取って、このパーティーから連れ出してしまいたかった。場の主役は普段より濃いローズのリップでグラスに口付ける。
「忙しくても、無理してでも来て」
二度目の出会いと同じ、余計な言葉は要らない挑発だった。バーナビーは観念した。テーブルに自分のグラスを置き、軽く両手を掲げた。
「……驚いたな、どこでこんな悪い手口を覚えてきたんです。これじゃあ許さざるを得ない」
「貴方の知らないところで。もっと知ってよ、貴方の知らない私のこと」
「わかった、わかった。せめて二人のときにしてくれないか」
「そうよ。お熱いのはわかったから、そういうのは歓迎会の後にして頂戴」
「うわっ!!」
「あっ!」
完全に二人だけの世界に意識が飛んでいたバーナビーと名前は、ネイサンの横入りと周りの冷やかす視線で我に返った。
「ね、ね、やっぱりドッグが『ブルネットの警官』だったんだね!」
「ホント、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃった」
「ブルネッ……? な、なにそれ……」
「ドラゴンキッドが街中でデートするお前らを見たんだと」
「バニーは素面が知られてるんだからほどほどにしとけよー? パパラッチされても知らねえぞ」
「余計なお世話ですよ! 場所は選んでるに決まってるでしょう!」
「この調子だとどうだかなあ」
「二人はどこで出会ったんだ? いつから?」
完全に面白がる気満々の先輩に囲まれて、この中でワンツーで新入りの二人は押され気味になる。特にまだこの輪に加わって一週間ちょっとの名前は、先程とは違う感情で身体をぷるぷると震わせる。
「バ、バーナビー! バレてるなんて聞いてないんだけど!」
「僕に言わないでください!」
「あーーもう! 久しぶりに話せてすごいテンション上がってたさっき。もうだめ恥ずかしい、穴があったら入りたい」
「乾杯したばっかりなんだからまだ愛の巣には返さねえぞ、ルーキー殿」
「お酒好きならちゃんと言ってよ。ボクたち別に気にしないよ」
「もっと言ってやってください。この人何かと隠したがるんです」
「いやそれお前人のこと言えねえからな?」
「なんです、おじさんもこの前足の怪我隠してましたよね? バレないとでも思ってたんですか?」
「だーーっ! それはさ、別の話だろ」
「っふふふ、あはははは!」
揉みくちゃにされたルーキーは大きな口を開けて笑った。口喧嘩をしていたコンビヒーローも、恋愛事情に興味津々な先輩ヒーローも目を丸くする。台風の目は「あーもうやだ、おかしい」と笑いすぎて泣けてきたらしく、目元を指で掬っている。
虎徹はああ、と妙に腑に落ちた感覚がした。
「なんか、そっちの方があんたらしいよ」
「え?」
「前にアニエスとなんか言い合ってただろ、そっちの方がどうも印象にあったんだよな」
ぽかんとする本人を見て、咄嗟に虎徹は「あ、いや今までのドッグがらしくないとかじゃなくてさ!」と言い訳じみたことを付け足し始める。
「私らしい……。ね、バーナビーは私らしい私が好き?」
「僕が知っても知らなくても、貴方ならなんだって。隠し事はもう御免ですがね」
「うん……、うん」
名前は口元をくしゃくしゃにして少女のように笑う。それもまた、初めて見る顔だった。
ニューフェイスの歓迎会は、結局名前&バーナビーを根掘り葉掘りした後、「飲み直す」予定の二人は早々に解放された。さっさと追いやられた二人は、顔を見合わせてどちらからともなく笑った。