Love me, love my dog.
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『始まりましたHERO TV! 今日のターゲットは連続放火事件の容疑者ハロルド・アディントン! ヒーローたちが続々と到着、彼を追います!』
「ボンジュール、ヒーロー。居合わせた警備員が全員返り討ちにあってる。犯人は何らかの能力を持ったNEXTである可能性が高いわ」
「放火魔なら炎系かもな」
「炎はアタシの専売特許よ、イケナイ子」
回線を聞きながら、名前は犯人が逃げ込んだ路地裏の周辺マップを表示させた。名前改め、今はウォッチドッグと呼ぶべきだ。
スーツの内蔵コンピュータを操作する指が小さく震える。努めて、深呼吸をした。中退したとはいえ、ヒーローアカデミーの出身だ。志した道が変わっても、銃の扱いや体術は磨いてきた。刑務官になってからも囚人に舐められないように、自分の身を守るためにと鍛錬は欠かさなかった。身につけているのは高性能のヒーロースーツ。昨日のシミュレーションも問題なし。何より、相手はNEXTの犯罪者だ——大丈夫。やれる。
彼女にだけ繋いだ音声回線が指示を飛ばす。
「待機位置についてるわね? 次のポイントに犯人が追い込まれたら……今よ、ゴー!」
ウォッチドッグが地面を蹴る。その勢いでアスファルトが抉れた。逃走中の放火魔を追うのは、近い順にファイヤーエンブレム、ブルーローズ、そしてスカイハイ。放火魔・ハロルドは虚勢の笑みを浮かべながら、追っ手に火の玉を食らわせている。やはり炎を生み出すNEXTのようだった。しかしファイヤーエンブレムのそれとは比べ物にならないほど弱々しく、捕まるのも時間の問題だった。
「待ちなさい!」
「もうッ、逃げ足だけは立派ね!」
「大人しく投降するんだ!」
入り組んだ路地の構造を熟知しているのか、ハロルドはするすると紙一重でヒーローたちの手から逃れる。
次の角を曲がった瞬間、太陽が陰る。ハロルドの頭上に影が落ちた。
「BOW!」
鋼鉄のボディが日光を反射して、ハロルドは視界を奪われる。その一瞬はウォッチドッグにとって永遠だった。背後に着地すると、炎を放とうとする両腕を捩じ上げ、拘束したまま犯人の身体を地面に押し付けた。
「このッ! このッ!」
ハロルドはもがく。興奮で赤らんだ顔が次第に青くなっていく。
「何故出ない!? クソッ、馬鹿な!」
「詳しい話は署で聞くよ」
中継ヘリの飛ぶ音だけが辺りに響いた。犯人を追っていたヒーローたちは呆気に取られた顔で、ニュービーの後ろ姿を見ていた。犯人を先回りして確保しようとしていたワイルドタイガーとバーナビー、現場到着が出遅れたドラゴンキッドとロックバイソン、人命救助に当たっていた折紙サイクロンも追いつく。
バーナビーの目に飛び込んできた、犯人を組み敷くパワードスーツ。重厚なそれとは対照的に柔らかな身体のカーブ。ワイルドタイガー同様に目元をマスクで覆い隠しているが、冷静さの中に押し込めた獲物を追い詰める鋭さが彼の目に焼きついた。
『は、犯人確保〜〜!! 謎のヒーローが連続放火魔を捕獲! ポイント獲得です!』
リポーターのマリオに続いて、テレビの前で観客が沸く。『え、なになに? ここで情報が入ってきました!』白々しい実況が更に観衆を盛り上げる。
『犯人を確保したのは、本日デビューのヒーロー・ウォッチドッグ! どうやら今シーズン限定の活動のようですが、早くもその頭角を現しました!』
中継ヘリのカメラが上空からウォッチドッグをクローズアップする。スーツの背中には「アッバス刑務所」の文字ただひとつを背負っていた。
「番犬 ねえ……」
立ち尽くすバーナビーの隣で、ワイルドタイガーの呟きが溜め息と一緒に漏れた。
*
「はあ〜〜〜〜」
半径三メートル以内の空気を全部吹き飛ばす勢いの大きな溜め息だった。事件解決から既に二時間が経とうとしているのに、彼女は未だヒーロー姿のままだった。
OBCビルのロビーは社員や関係者が忙しなく行き交っている。ここはHERO TV関係のフロアなので、ニューヒーローの登場で忙しくなったスタッフもいるに違いない。
テーブルに突っ伏したウォッチドッグの横で、上機嫌のアニエスが椅子を引いて座る。差し入れのホットコーヒーをウォッチドッグ側に置いた。
「視聴率も話題性も予想以上! 記者会見もノリノリだったじゃない。手配しといてよかった!」
「道理で段取りがいいと……。今回は運良く美味しいところ持っていけたけど、もしそうじゃなかったらどうなってたことやら」
「あんたならやるって信じてたもの。グッボーイ」
「ワンワン……」
遠慮なしに頭を撫で付けてくる敏腕プロデューサーの手を、甘んじて受け入れた。拒否する元気すら残っていなかったのだ。
「さあ、バンバン売り出さなきゃね。既にCMのオファーが来てるって話よ。あ、密着はウチに撮らせてね」
「さいですか……。ちなみに何のCM?」
「ドッグフード」
名前は勢いよく立ち上がった。それを見たアニエスはただの友人の顔で、声を上げて笑った。
「ボンジュール、ヒーロー。居合わせた警備員が全員返り討ちにあってる。犯人は何らかの能力を持ったNEXTである可能性が高いわ」
「放火魔なら炎系かもな」
「炎はアタシの専売特許よ、イケナイ子」
回線を聞きながら、名前は犯人が逃げ込んだ路地裏の周辺マップを表示させた。名前改め、今はウォッチドッグと呼ぶべきだ。
スーツの内蔵コンピュータを操作する指が小さく震える。努めて、深呼吸をした。中退したとはいえ、ヒーローアカデミーの出身だ。志した道が変わっても、銃の扱いや体術は磨いてきた。刑務官になってからも囚人に舐められないように、自分の身を守るためにと鍛錬は欠かさなかった。身につけているのは高性能のヒーロースーツ。昨日のシミュレーションも問題なし。何より、相手はNEXTの犯罪者だ——大丈夫。やれる。
彼女にだけ繋いだ音声回線が指示を飛ばす。
「待機位置についてるわね? 次のポイントに犯人が追い込まれたら……今よ、ゴー!」
ウォッチドッグが地面を蹴る。その勢いでアスファルトが抉れた。逃走中の放火魔を追うのは、近い順にファイヤーエンブレム、ブルーローズ、そしてスカイハイ。放火魔・ハロルドは虚勢の笑みを浮かべながら、追っ手に火の玉を食らわせている。やはり炎を生み出すNEXTのようだった。しかしファイヤーエンブレムのそれとは比べ物にならないほど弱々しく、捕まるのも時間の問題だった。
「待ちなさい!」
「もうッ、逃げ足だけは立派ね!」
「大人しく投降するんだ!」
入り組んだ路地の構造を熟知しているのか、ハロルドはするすると紙一重でヒーローたちの手から逃れる。
次の角を曲がった瞬間、太陽が陰る。ハロルドの頭上に影が落ちた。
「BOW!」
鋼鉄のボディが日光を反射して、ハロルドは視界を奪われる。その一瞬はウォッチドッグにとって永遠だった。背後に着地すると、炎を放とうとする両腕を捩じ上げ、拘束したまま犯人の身体を地面に押し付けた。
「このッ! このッ!」
ハロルドはもがく。興奮で赤らんだ顔が次第に青くなっていく。
「何故出ない!? クソッ、馬鹿な!」
「詳しい話は署で聞くよ」
中継ヘリの飛ぶ音だけが辺りに響いた。犯人を追っていたヒーローたちは呆気に取られた顔で、ニュービーの後ろ姿を見ていた。犯人を先回りして確保しようとしていたワイルドタイガーとバーナビー、現場到着が出遅れたドラゴンキッドとロックバイソン、人命救助に当たっていた折紙サイクロンも追いつく。
バーナビーの目に飛び込んできた、犯人を組み敷くパワードスーツ。重厚なそれとは対照的に柔らかな身体のカーブ。ワイルドタイガー同様に目元をマスクで覆い隠しているが、冷静さの中に押し込めた獲物を追い詰める鋭さが彼の目に焼きついた。
『は、犯人確保〜〜!! 謎のヒーローが連続放火魔を捕獲! ポイント獲得です!』
リポーターのマリオに続いて、テレビの前で観客が沸く。『え、なになに? ここで情報が入ってきました!』白々しい実況が更に観衆を盛り上げる。
『犯人を確保したのは、本日デビューのヒーロー・ウォッチドッグ! どうやら今シーズン限定の活動のようですが、早くもその頭角を現しました!』
中継ヘリのカメラが上空からウォッチドッグをクローズアップする。スーツの背中には「アッバス刑務所」の文字ただひとつを背負っていた。
「
立ち尽くすバーナビーの隣で、ワイルドタイガーの呟きが溜め息と一緒に漏れた。
*
「はあ〜〜〜〜」
半径三メートル以内の空気を全部吹き飛ばす勢いの大きな溜め息だった。事件解決から既に二時間が経とうとしているのに、彼女は未だヒーロー姿のままだった。
OBCビルのロビーは社員や関係者が忙しなく行き交っている。ここはHERO TV関係のフロアなので、ニューヒーローの登場で忙しくなったスタッフもいるに違いない。
テーブルに突っ伏したウォッチドッグの横で、上機嫌のアニエスが椅子を引いて座る。差し入れのホットコーヒーをウォッチドッグ側に置いた。
「視聴率も話題性も予想以上! 記者会見もノリノリだったじゃない。手配しといてよかった!」
「道理で段取りがいいと……。今回は運良く美味しいところ持っていけたけど、もしそうじゃなかったらどうなってたことやら」
「あんたならやるって信じてたもの。グッボーイ」
「ワンワン……」
遠慮なしに頭を撫で付けてくる敏腕プロデューサーの手を、甘んじて受け入れた。拒否する元気すら残っていなかったのだ。
「さあ、バンバン売り出さなきゃね。既にCMのオファーが来てるって話よ。あ、密着はウチに撮らせてね」
「さいですか……。ちなみに何のCM?」
「ドッグフード」
名前は勢いよく立ち上がった。それを見たアニエスはただの友人の顔で、声を上げて笑った。