ラス・エラルドの背骨
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一係の新人監視官・常守朱は朝から憂鬱だった。初出勤の昨日、立場上は部下である先輩をパラライザーで撃ったという事実は既に刑事課に広まっているらしい。廊下を通るだけで好奇の目に晒されるのは、彼女の神経に追い討ちをかけた。しかし事実に目を背けるわけにはいかない。撃った執行官の容体を聞きに、総合分析室No.1を訪ねた。
「あのっ! 分析官の唐之杜志恩さんはこちらにいらっしゃいますか?」
「志恩さんは隣です。2番のラボ」
ゲーミングチェアがくるりと回転し、部屋の主と目が合う。執行官の六合塚とはまた違った風に落ち着いた女性だった。白衣を着ていることから、彼女も分析官なのだと推測した。昨日配属されたばかり、それも当日から現場に出動していた朱は挨拶しなければと自らを奮い立たせる。
「し、失礼しました! 昨日付けで一係に配属された、監視官の常守朱です。よろしくお願いします!」
「ああ、噂の……。分析官の名字名前です。」
どんな評判が伝わっているのかは想像に難くないので胃がきりきりと痛んだ。それほど険しい顔をしていたのか、見かねた名前が声をかけた。
「少なくとも狡噛執行官は撃たれたこと、気にしてませんよ。むしろ喜んでるかも」
「そんな、わたしはとんでもないことを……」
「志恩さんなら面会許可出してくれるから、直接会って話した方がいいと思います。こういうのは早ければ早いほどいい。手を焼くだろうけど、頑張って」
思いがけず降ってきた励ましの言葉に、朱はこみ上げそうな涙をぐっと堪えた。
「ありがとうございます、そうします!」
朱は足早に駆けていった。少女の名残りを感じさせる一挙一動に、自分も昔はこんな風に見られていたのかと思い返す。……いや、そんなことはないか。分析官として配属された当初の名前は、慇懃無礼が少女の皮を被った面倒くさい奴だった。宜野座はさぞ手を焼いていたことだろう。16、17歳という年齢を加味しても過去の自分には苦笑いしかない。狡噛にも、迷惑をかけた。
容体は志恩から聞いている。後遺症は残らないそうだ。狡噛は脊髄にパラライザーを食らっても許すだろうが、裏切ったように消えた自分を許すことなど、きっとないのだと思った。裏切った「ように」じゃない。裏切り以外の何者でもない。あの優しい監視官を裏切った罰が今この現状なのだ。
「結局私は、自分がかわいいんだなあ……」
愚かだと思う。今でも昨日のように思い出せる。
厚生省ノナタワー。地下10階。シュビラの胎内。あそこで迷わず舌を噛み切っていたらこんな惨めなこともなかった。しかしそれも逃げたことに変わりはないのだと自分に言い聞かせる。要は、逃げ道とその手段が変わるだけ。
本人の気分とは裏腹に、幼い頃から前世と今世の記憶でグチャグチャに振り回された脳は仕事を疎かにしなかった。
「璃彩 さん、周辺マップ解析完了です。一般市民はB-3区画に2人だけ。そっちはドローン回したのでいつでも突入できます」
名字名前。24歳分析官。失ったものを自覚しながらも、皮肉なことに肩書きだけは元通りだった。
「名前ちゃん、慎也くんのお見舞い行ってないでしょ。寂しがってたわよ」
「からかわないでよ。それにちゃんと暇つぶしの本は差し入れしたよ」
「看護ドローンに運ばせることないじゃない」
「志恩さんは狡噛の味方するの?」
「そりゃわたしはいつだって可愛い女の子の味方よお」
「それはちょっと分かるかも。もうすぐ可愛い弥生ちゃんが来るんでしょ? お邪魔しちゃうから宿舎帰ります」
「ねーえ、わたしは?」
「はいはい、志恩さんも可愛いよ。おやすみ」
唐之杜のラボを出ると、入れ違いになるように六合塚がこちらへ歩いてくるのを見つけた。所属の関係であまり顔を合わせないが、軽く手を振るといつも微笑んでくれるので、再配属されてからの4年間は無駄じゃなかったのかもしれないと思い直した。
「あのっ! 分析官の唐之杜志恩さんはこちらにいらっしゃいますか?」
「志恩さんは隣です。2番のラボ」
ゲーミングチェアがくるりと回転し、部屋の主と目が合う。執行官の六合塚とはまた違った風に落ち着いた女性だった。白衣を着ていることから、彼女も分析官なのだと推測した。昨日配属されたばかり、それも当日から現場に出動していた朱は挨拶しなければと自らを奮い立たせる。
「し、失礼しました! 昨日付けで一係に配属された、監視官の常守朱です。よろしくお願いします!」
「ああ、噂の……。分析官の名字名前です。」
どんな評判が伝わっているのかは想像に難くないので胃がきりきりと痛んだ。それほど険しい顔をしていたのか、見かねた名前が声をかけた。
「少なくとも狡噛執行官は撃たれたこと、気にしてませんよ。むしろ喜んでるかも」
「そんな、わたしはとんでもないことを……」
「志恩さんなら面会許可出してくれるから、直接会って話した方がいいと思います。こういうのは早ければ早いほどいい。手を焼くだろうけど、頑張って」
思いがけず降ってきた励ましの言葉に、朱はこみ上げそうな涙をぐっと堪えた。
「ありがとうございます、そうします!」
朱は足早に駆けていった。少女の名残りを感じさせる一挙一動に、自分も昔はこんな風に見られていたのかと思い返す。……いや、そんなことはないか。分析官として配属された当初の名前は、慇懃無礼が少女の皮を被った面倒くさい奴だった。宜野座はさぞ手を焼いていたことだろう。16、17歳という年齢を加味しても過去の自分には苦笑いしかない。狡噛にも、迷惑をかけた。
容体は志恩から聞いている。後遺症は残らないそうだ。狡噛は脊髄にパラライザーを食らっても許すだろうが、裏切ったように消えた自分を許すことなど、きっとないのだと思った。裏切った「ように」じゃない。裏切り以外の何者でもない。あの優しい監視官を裏切った罰が今この現状なのだ。
「結局私は、自分がかわいいんだなあ……」
愚かだと思う。今でも昨日のように思い出せる。
厚生省ノナタワー。地下10階。シュビラの胎内。あそこで迷わず舌を噛み切っていたらこんな惨めなこともなかった。しかしそれも逃げたことに変わりはないのだと自分に言い聞かせる。要は、逃げ道とその手段が変わるだけ。
本人の気分とは裏腹に、幼い頃から前世と今世の記憶でグチャグチャに振り回された脳は仕事を疎かにしなかった。
「
名字名前。24歳分析官。失ったものを自覚しながらも、皮肉なことに肩書きだけは元通りだった。
「名前ちゃん、慎也くんのお見舞い行ってないでしょ。寂しがってたわよ」
「からかわないでよ。それにちゃんと暇つぶしの本は差し入れしたよ」
「看護ドローンに運ばせることないじゃない」
「志恩さんは狡噛の味方するの?」
「そりゃわたしはいつだって可愛い女の子の味方よお」
「それはちょっと分かるかも。もうすぐ可愛い弥生ちゃんが来るんでしょ? お邪魔しちゃうから宿舎帰ります」
「ねーえ、わたしは?」
「はいはい、志恩さんも可愛いよ。おやすみ」
唐之杜のラボを出ると、入れ違いになるように六合塚がこちらへ歩いてくるのを見つけた。所属の関係であまり顔を合わせないが、軽く手を振るといつも微笑んでくれるので、再配属されてからの4年間は無駄じゃなかったのかもしれないと思い直した。