ラス・エラルドの背骨
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「雑賀先生は前世の存在を信じますか?」
「生まれ変わりは文化圏によって信じられてきた地域とそうじゃない地域がある。前者で生後2歳から5歳、つまりおおよそ喋れるようになってから前世を語り出す子どもが観測された。しかし皆10歳にも満たないうちにその傾向はぱったりと無くなる。そういう古い研究があるが……、お前さん今いくつだ?」
「あはは! 17です。シュビラ的回答は当然ノーでしょうね。やっぱり私の妄想なんでしょうか」
名前はカップを包み込むように両手を添えた。冷えた指先が熱を奪う。
「なんだ、ミルクが必要なら早く言ってくれ」
「すみません。お願いします」
「狡噛をもっと信用してやれ」
返事を待たずに、雑賀は立ち上がってキッチンに向かった。この人の前では何も隠せないのだと、少し愉快な気分になった。
厚生省ノナタワー。公表されていない地下の秘密区画にはこの世の監獄があった。
《シュビラシステムの構成員は現在269名。種類は違えどあなたと同じ、何らかの形でシステムを逸脱した者たちです。》
「元の肉体を捨てて……」
《我々はシステムの一部に組み込まれても、それぞれの元の人格としての意識を保っています。むしろ脳の働きを統合することで思考の幅も限らない広がりを実現しています。システムをより完璧なものとするために、前世の記憶を持つというあなたの特異性と、それに由来する演算能力は極めて有意的です。》
「シュビラが前世なんて非科学的なものを認めるなんて思いもしなかった」
《現にあなたは今世では獲得し得ない記憶を所有、認識しています。サイマティックスキャンによる思考の解析が導き出した結果はこれを支持します。そのための6年間でした。》
6年。心当たりは一つだった。矯正施設で過ごした6年間。小学生だった名前の色相が急激に濁ったのは、前世の記憶を取り戻したのとほぼ同時だった。
《そして約2年間、分析官としてのあなたの働きを監視していました。本来、犯罪係数が規定値を超えた者を迎え入れることはありませんが、シミュレートの結果、それによるリスクよりもあなたをシステムに取り入れることから生じる将来的な利益の方が勝ると判断しました。》
「取らぬ狸のなんとやら。シュビラの一員になる気はないよ」
《その返答も想定内です。名字元分析官、あなたに残された選択肢は二つ。我々と共にこの社会の支配者になるか、外部装置として我々に仕えるかです。》
「その為に公安局から引き剥がしたわけ」
《先程も申し上げた通り、あなたは非常に稀有なケースであり、期待値の高い人材です。一個体としての肉体に未練があるのなら、外部構成員としての協力を求めます。》
「私が応じると思ってるの」
《かつてあなたはシュビラシステムに反感を持っていたにも関わらず、今やこの社会で生きることを受け入れている。矯正施設での6年間でそれを認めたはずです。だからこそ我々はあなたに公安局分析官としての適性を下したのです。現に、配属されてからのあなたの犯罪係数は緩やかな減少傾向にあります。》
「シュビラは完全無欠の神様なんかじゃないって、今やっと断言できる。あなたが269人のうちの誰かは知らないけど、本の趣味は合いそうにないね」
《我々は今ここであなたを執行することも可能です。》
「それより先に舌を噛み切って死んでやることも可能です」
畑のように広がる無数のグリッドに背を向けたとき、控えていた数台の警備ドローンが名前の周りを取り囲んだ。
《名字元分析官。公安局にあなたの居場所はありません。ただ我々に脳を貸し出せばいいのです。》
なるほど、自分を引きつけるのに的確な言葉だと思った。感心にも似たこの感覚は雑賀と対面するときと近かったが、込み上げるのはどこまでも嫌悪感だった。
《色相の変化から、その無言は了承と取ります。シュビラシステムの外側の、補助装置としての働きに期待します。》
「生まれ変わりは文化圏によって信じられてきた地域とそうじゃない地域がある。前者で生後2歳から5歳、つまりおおよそ喋れるようになってから前世を語り出す子どもが観測された。しかし皆10歳にも満たないうちにその傾向はぱったりと無くなる。そういう古い研究があるが……、お前さん今いくつだ?」
「あはは! 17です。シュビラ的回答は当然ノーでしょうね。やっぱり私の妄想なんでしょうか」
名前はカップを包み込むように両手を添えた。冷えた指先が熱を奪う。
「なんだ、ミルクが必要なら早く言ってくれ」
「すみません。お願いします」
「狡噛をもっと信用してやれ」
返事を待たずに、雑賀は立ち上がってキッチンに向かった。この人の前では何も隠せないのだと、少し愉快な気分になった。
厚生省ノナタワー。公表されていない地下の秘密区画にはこの世の監獄があった。
《シュビラシステムの構成員は現在269名。種類は違えどあなたと同じ、何らかの形でシステムを逸脱した者たちです。》
「元の肉体を捨てて……」
《我々はシステムの一部に組み込まれても、それぞれの元の人格としての意識を保っています。むしろ脳の働きを統合することで思考の幅も限らない広がりを実現しています。システムをより完璧なものとするために、前世の記憶を持つというあなたの特異性と、それに由来する演算能力は極めて有意的です。》
「シュビラが前世なんて非科学的なものを認めるなんて思いもしなかった」
《現にあなたは今世では獲得し得ない記憶を所有、認識しています。サイマティックスキャンによる思考の解析が導き出した結果はこれを支持します。そのための6年間でした。》
6年。心当たりは一つだった。矯正施設で過ごした6年間。小学生だった名前の色相が急激に濁ったのは、前世の記憶を取り戻したのとほぼ同時だった。
《そして約2年間、分析官としてのあなたの働きを監視していました。本来、犯罪係数が規定値を超えた者を迎え入れることはありませんが、シミュレートの結果、それによるリスクよりもあなたをシステムに取り入れることから生じる将来的な利益の方が勝ると判断しました。》
「取らぬ狸のなんとやら。シュビラの一員になる気はないよ」
《その返答も想定内です。名字元分析官、あなたに残された選択肢は二つ。我々と共にこの社会の支配者になるか、外部装置として我々に仕えるかです。》
「その為に公安局から引き剥がしたわけ」
《先程も申し上げた通り、あなたは非常に稀有なケースであり、期待値の高い人材です。一個体としての肉体に未練があるのなら、外部構成員としての協力を求めます。》
「私が応じると思ってるの」
《かつてあなたはシュビラシステムに反感を持っていたにも関わらず、今やこの社会で生きることを受け入れている。矯正施設での6年間でそれを認めたはずです。だからこそ我々はあなたに公安局分析官としての適性を下したのです。現に、配属されてからのあなたの犯罪係数は緩やかな減少傾向にあります。》
「シュビラは完全無欠の神様なんかじゃないって、今やっと断言できる。あなたが269人のうちの誰かは知らないけど、本の趣味は合いそうにないね」
《我々は今ここであなたを執行することも可能です。》
「それより先に舌を噛み切って死んでやることも可能です」
畑のように広がる無数のグリッドに背を向けたとき、控えていた数台の警備ドローンが名前の周りを取り囲んだ。
《名字元分析官。公安局にあなたの居場所はありません。ただ我々に脳を貸し出せばいいのです。》
なるほど、自分を引きつけるのに的確な言葉だと思った。感心にも似たこの感覚は雑賀と対面するときと近かったが、込み上げるのはどこまでも嫌悪感だった。
《色相の変化から、その無言は了承と取ります。シュビラシステムの外側の、補助装置としての働きに期待します。》