ジュブナイル
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「みんな早く雨拭いて! 体冷やさない!」
ショーグンや名前、若菜がタオルを手渡しながら選手たちをバスに誘導します。
約束の地、関東大会準決勝。王城対泥門。前半終了の今は七点差で王城が押しているものの、その点差は一回のタッチダウンとキックで追いつかれてしまう、まさに激戦の様相を模してしました。追い立てるように唸る雨音が、自分の心拍数と連動しているかのようです。降り止むどころかますます強くなる雨に肌が冷やされても、身体の芯はずっと燃えるようでした。選手全員がバスに入ったのを確認して、名前は一度フィールドに振り返ります。赤いユニフォームの背番号一番、その後ろ姿だけを見て、すぐにまた王城のバスに駆け込みました。最前列にいた高見は乗り込んできた彼女に声をかけました。
「名字、」
「最後のプレーのモン太ですよね。ひとまず三視点分撮ってあります」
前半ラストプレーで高見が感じた悪寒を、名前も察していたようです。細かく指示されずとも、彼女は車内に設置されている小型テレビに接続する準備を始めました。未だ破られていない、圧倒的高さを誇るエベレストパス。いくらキャッチの達人といえど、指先がかすりもしなければ意味がない。意味がないはずなのに——
「どんな些細な勝機でも蛭魔は突いてくる」
「ああ。俺たちの杞憂ならそれでいい。不安要素は徹底的に潰しておく必要がある」
桜庭をマークするモン太の映像を、高見、桜庭、名前の三人で覗き込みます。高さはもちろん、単純なスピードでも桜庭が優っているですから、あのまま投げていてもモン太には追いつけないはずだったのです。理屈や数字ではそのはずでした。
「雷門太郎。身長155cm、40ヤード5秒ジャスト、ベンチプレス50kg。アメフト経験こそ一年足らずですが、野球の本庄選手に憧れ幼少期から捕球練習を欠かさなかった」
名前の言葉に桜庭は黙ったままビデオを見ていました。
「高さもスピードも物理的に敵わないというのなら、向こうの狙いは限られてきます。大抵の相手はまず着地点を潰そうとしてくるでしょう」
二人に語りかけるというよりは、自分の思考の整理のために名前は淡々と口を開きます。モン太を映しているテレビとは別に、私物のビデオで前半の泥門のフォーメーションを映しながら、手元のノートにがりがりとパスカバーの陣形を書き殴りました。
「ボールの確保力、的確なハンドポジション……。ああ見えてどれを取っても理に適ったキャッチングをしてるんですよね。本能的な読みも強いのは神龍寺戦で証明してみせた通り。実践経験の少ない泥門は、試合中にどこまでも進化してみせる。でも、」
名前はちらとバスの後方に視線をやりました。ショーグンの横で、進がちょうどテーピングを巻き直しているところでした。集中力を高めている彼に、余計な口出しをする必要はありません。好敵手との戦いで成長し続けるのは、何も泥門だけの専売特許ではないのです。現にモン太への警戒を高める名前と高見を見ても、ひるむどころか瞳に闘志を燃やす彼だって。
「桜庭。後半、壮絶なレシーバー戦になる可能性が高い。腹だけは括っておけ……!」
「今の桜庭がモン太に負けるなんて一ミリも思ってないよ。進がアイシールドを押さえている以上、蛭魔はパス中心で組み立てるしかない。頼んだよ」
桜庭は力強く頷きました。
名前は知っています。現状だけで判断するのなら、点数差以上に王城に利があります。それは進がアイシールドを完璧に捉えているという一点。その一点が試合の隅々にまで影響を及ぼすのです。泥門が逆転の狼煙を上げるとすれば、ランとパスの両方に少しでも勝算を見出してから。泥門としてはどこかのタイミングでロングパスでも決めなければ点差を詰める時間が足りませんが、パスで来ると守備最強の王城ディフェンスに悟られている状態で、桜庭対モン太の勝算がどちらにも大きく傾くことがないのなら結果は見えています。手元のカードがすべて揃わない状況で勝負を仕掛ける指揮官はいないでしょう。だから今頃蛭魔はランの、つまりはアイシールド対進の勝算を血眼で探っているところでしょう。
今までの試合もそうでした。巨深の筧に盤戸の赤羽、そして神龍寺の阿含。無謀と言われようとも、蛭魔は必ずアイシールド21に相手エースとマッチアップで戦わせ続け、そして実際に何度も破ってきました。しかし今回の相手はパーフェクトプレイヤー・進清十郎。二年弱の付き合いになりますが、対戦相手に回してこれだけ肝が冷える選手はいないでしょう。光速4秒2のスピードさえものにした進を誰が止められるというのでしょうか。奇策も捨て身も一か八かも、進が揺らがないのであれば何の意味もありません。進も桜庭も、王城は揺らがない。だから名前も揺らぐことはありません。高見の言う通り、わずかな懸念も不安要素も見抜いて暴いて消し去ること。それがフィールドに立たない彼女なりの戦い方なのです。
ショーグンや名前、若菜がタオルを手渡しながら選手たちをバスに誘導します。
約束の地、関東大会準決勝。王城対泥門。前半終了の今は七点差で王城が押しているものの、その点差は一回のタッチダウンとキックで追いつかれてしまう、まさに激戦の様相を模してしました。追い立てるように唸る雨音が、自分の心拍数と連動しているかのようです。降り止むどころかますます強くなる雨に肌が冷やされても、身体の芯はずっと燃えるようでした。選手全員がバスに入ったのを確認して、名前は一度フィールドに振り返ります。赤いユニフォームの背番号一番、その後ろ姿だけを見て、すぐにまた王城のバスに駆け込みました。最前列にいた高見は乗り込んできた彼女に声をかけました。
「名字、」
「最後のプレーのモン太ですよね。ひとまず三視点分撮ってあります」
前半ラストプレーで高見が感じた悪寒を、名前も察していたようです。細かく指示されずとも、彼女は車内に設置されている小型テレビに接続する準備を始めました。未だ破られていない、圧倒的高さを誇るエベレストパス。いくらキャッチの達人といえど、指先がかすりもしなければ意味がない。意味がないはずなのに——
「どんな些細な勝機でも蛭魔は突いてくる」
「ああ。俺たちの杞憂ならそれでいい。不安要素は徹底的に潰しておく必要がある」
桜庭をマークするモン太の映像を、高見、桜庭、名前の三人で覗き込みます。高さはもちろん、単純なスピードでも桜庭が優っているですから、あのまま投げていてもモン太には追いつけないはずだったのです。理屈や数字ではそのはずでした。
「雷門太郎。身長155cm、40ヤード5秒ジャスト、ベンチプレス50kg。アメフト経験こそ一年足らずですが、野球の本庄選手に憧れ幼少期から捕球練習を欠かさなかった」
名前の言葉に桜庭は黙ったままビデオを見ていました。
「高さもスピードも物理的に敵わないというのなら、向こうの狙いは限られてきます。大抵の相手はまず着地点を潰そうとしてくるでしょう」
二人に語りかけるというよりは、自分の思考の整理のために名前は淡々と口を開きます。モン太を映しているテレビとは別に、私物のビデオで前半の泥門のフォーメーションを映しながら、手元のノートにがりがりとパスカバーの陣形を書き殴りました。
「ボールの確保力、的確なハンドポジション……。ああ見えてどれを取っても理に適ったキャッチングをしてるんですよね。本能的な読みも強いのは神龍寺戦で証明してみせた通り。実践経験の少ない泥門は、試合中にどこまでも進化してみせる。でも、」
名前はちらとバスの後方に視線をやりました。ショーグンの横で、進がちょうどテーピングを巻き直しているところでした。集中力を高めている彼に、余計な口出しをする必要はありません。好敵手との戦いで成長し続けるのは、何も泥門だけの専売特許ではないのです。現にモン太への警戒を高める名前と高見を見ても、ひるむどころか瞳に闘志を燃やす彼だって。
「桜庭。後半、壮絶なレシーバー戦になる可能性が高い。腹だけは括っておけ……!」
「今の桜庭がモン太に負けるなんて一ミリも思ってないよ。進がアイシールドを押さえている以上、蛭魔はパス中心で組み立てるしかない。頼んだよ」
桜庭は力強く頷きました。
名前は知っています。現状だけで判断するのなら、点数差以上に王城に利があります。それは進がアイシールドを完璧に捉えているという一点。その一点が試合の隅々にまで影響を及ぼすのです。泥門が逆転の狼煙を上げるとすれば、ランとパスの両方に少しでも勝算を見出してから。泥門としてはどこかのタイミングでロングパスでも決めなければ点差を詰める時間が足りませんが、パスで来ると守備最強の王城ディフェンスに悟られている状態で、桜庭対モン太の勝算がどちらにも大きく傾くことがないのなら結果は見えています。手元のカードがすべて揃わない状況で勝負を仕掛ける指揮官はいないでしょう。だから今頃蛭魔はランの、つまりはアイシールド対進の勝算を血眼で探っているところでしょう。
今までの試合もそうでした。巨深の筧に盤戸の赤羽、そして神龍寺の阿含。無謀と言われようとも、蛭魔は必ずアイシールド21に相手エースとマッチアップで戦わせ続け、そして実際に何度も破ってきました。しかし今回の相手はパーフェクトプレイヤー・進清十郎。二年弱の付き合いになりますが、対戦相手に回してこれだけ肝が冷える選手はいないでしょう。光速4秒2のスピードさえものにした進を誰が止められるというのでしょうか。奇策も捨て身も一か八かも、進が揺らがないのであれば何の意味もありません。進も桜庭も、王城は揺らがない。だから名前も揺らぐことはありません。高見の言う通り、わずかな懸念も不安要素も見抜いて暴いて消し去ること。それがフィールドに立たない彼女なりの戦い方なのです。