ジュブナイル
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「あと十五分で完全下校時刻だからな」
「あ、いいですよ高見さん。わたし締めていきます」
ホワイトナイツの部室では、夜の帷に浮かぶようにモニターが煌々と光っていました。クリアグリーンのアイシールドが画面の中で反射しました。
画面にかぶりつきになる二人に、高見は苦笑しました。ほどほどにしておけよ、と言いながらも彼も並んで腰掛けます。高見から部室の鍵を受け取りながら、名前は少し笑いました。
「進が見たがってたので」
「なぜか名字がいればビデオが壊れない」
「やっぱり自覚はないのか……」
機械音痴の進に高見は思わずツッコミを入れました。泥門との決戦を前にして、思うところは人一倍ある二人です。直近の神龍寺戦のビデオで進はアイシールド21の動きを追い、名前は特に試合後半の攻撃の組み立てを再確認しているところでした。神龍寺戦の後半といえば、泥門の初タッチダウンを決めた伏兵・雪光から始まる怒涛の追い上げに尽きます。
「巨大弓同様、雪光学は関東大会を勝ち抜く上での切り札だったはずです。本来ならもう少し温存できるのがベストだった」
「出場記録どころか過去の練習試合でも出番なかったみたいだけど、選手登録自体はずっと前からされてたよ」
「デビュー戦で神龍寺にあてがうあたり蛭魔らしいというか……」
「土壇場の思いつきじゃなくて、初戦の相手が決まった時点で蛭魔は雪光を出すことを決めていたと思いますよ。出し惜しみして勝てる相手じゃなかったっていうのが八割、あと二割は阿含への嫌がらせですね。阿含はすぐ感情がプレーに出るので、それも作戦のうちとでも考えていそう」
関東大会初戦で雪光を出したことで、現にこうやって対戦相手に攻略する時間を与えてしまっています。身体能力やスタミナといった弱点も分かりきっています。しかし能力の120%を活かすのが泥門の司令塔の強みです。一休と阿含擁する神龍寺相手でなかったら対応が遅れ、あと3本はパスが通っていたと名前は確信しています。
進に頼まれてセナと阿含の一騎打ちを巻き戻しながら、名前は手元のノートを指でなぞりました。雪光の登場により、パスカバーの陣形も一から考え直しになりました。現在の王城で作戦や対策を考えるのは、監督のショーグン、司令塔の高見、そしてマネージャーの名前です。特に情報収集と分析は彼女の分野です。
高見は書き込み、書き直しで汚されたノートを見て、今回の彼女の熱意を感じ取りました。今に限ったことではありません。もちろん誰が相手でも妥協することない、理想的なマネージャーだとは思っていましたが、こと泥門となるとその目は一段と鋭さを増します。今の言葉からも、蛭魔に対する理解の深さが滲み出ています。因縁の相手を前に、名前が冷静さを欠かないかという点は、高見の感じていた小さな不安要素でした。しかし高見が知っているのはせいぜい二人が中学時代同じチームにいたことくらいです。なんて言葉をかけようか迷っていたとき、彼女の方から笑いかけられました。
「わたしなら大丈夫ですよ。むしろ、この日をずっと待っていたんです。試合が始まればできることなんてごく僅かですけど、だからこそ今、なんでもやりたい、なんでもできるって気分です」
「名字……」
年下の女の子の言葉に高見がぐっと息を呑みました。時刻を報せる鐘が鳴り響きます。あと五分で生徒は校門の外に出なければならない、という合図です。名前はビデオを切り、立ち上がりました。
「ほらほら明日に備えて休んでください。進、ノート持って帰る?」
「いや、必要ない。すべて頭に入っている」
「じゃあわたし貰っちゃうね。消灯していくので二人は早く帰っちゃってください」
「もう暗いし寮の前まで送るよ」
「大丈夫ですよ、夜道よりも選手がこんな時間まで残ってるって監督に知られる方が怖いです」
なかなか名前が折れないので、高見と進は仕方なく部室を後にしました。彼女の言う通り、これで下校時刻を過ぎてしまえば、自分たちだけでなく彼女もショーグンに叱られるのをよく知っているからです。厳しい中にも厳しさを覗かせる庄司監督は選手相手ほどでないにしろ、マネージャーの名前にも時に容赦なく叱咤します。後輩マネージャーの若菜が叱られているところは見たことがないので、先輩という立場が、そして名前の熱量に庄司監督としても厳しさという形で答えているのでしょう。
名前は一人残った部室でパチ、パチと電気を消していきます。選手がいるときは狭く感じるこの部屋が、延々と広がる夜に溶けて見えました。部室が狭く感じる日々が続いてほしい、高見から受け取った鍵を回しながら彼女はそう願いました。クリスマスのその日まで。
「あ、いいですよ高見さん。わたし締めていきます」
ホワイトナイツの部室では、夜の帷に浮かぶようにモニターが煌々と光っていました。クリアグリーンのアイシールドが画面の中で反射しました。
画面にかぶりつきになる二人に、高見は苦笑しました。ほどほどにしておけよ、と言いながらも彼も並んで腰掛けます。高見から部室の鍵を受け取りながら、名前は少し笑いました。
「進が見たがってたので」
「なぜか名字がいればビデオが壊れない」
「やっぱり自覚はないのか……」
機械音痴の進に高見は思わずツッコミを入れました。泥門との決戦を前にして、思うところは人一倍ある二人です。直近の神龍寺戦のビデオで進はアイシールド21の動きを追い、名前は特に試合後半の攻撃の組み立てを再確認しているところでした。神龍寺戦の後半といえば、泥門の初タッチダウンを決めた伏兵・雪光から始まる怒涛の追い上げに尽きます。
「巨大弓同様、雪光学は関東大会を勝ち抜く上での切り札だったはずです。本来ならもう少し温存できるのがベストだった」
「出場記録どころか過去の練習試合でも出番なかったみたいだけど、選手登録自体はずっと前からされてたよ」
「デビュー戦で神龍寺にあてがうあたり蛭魔らしいというか……」
「土壇場の思いつきじゃなくて、初戦の相手が決まった時点で蛭魔は雪光を出すことを決めていたと思いますよ。出し惜しみして勝てる相手じゃなかったっていうのが八割、あと二割は阿含への嫌がらせですね。阿含はすぐ感情がプレーに出るので、それも作戦のうちとでも考えていそう」
関東大会初戦で雪光を出したことで、現にこうやって対戦相手に攻略する時間を与えてしまっています。身体能力やスタミナといった弱点も分かりきっています。しかし能力の120%を活かすのが泥門の司令塔の強みです。一休と阿含擁する神龍寺相手でなかったら対応が遅れ、あと3本はパスが通っていたと名前は確信しています。
進に頼まれてセナと阿含の一騎打ちを巻き戻しながら、名前は手元のノートを指でなぞりました。雪光の登場により、パスカバーの陣形も一から考え直しになりました。現在の王城で作戦や対策を考えるのは、監督のショーグン、司令塔の高見、そしてマネージャーの名前です。特に情報収集と分析は彼女の分野です。
高見は書き込み、書き直しで汚されたノートを見て、今回の彼女の熱意を感じ取りました。今に限ったことではありません。もちろん誰が相手でも妥協することない、理想的なマネージャーだとは思っていましたが、こと泥門となるとその目は一段と鋭さを増します。今の言葉からも、蛭魔に対する理解の深さが滲み出ています。因縁の相手を前に、名前が冷静さを欠かないかという点は、高見の感じていた小さな不安要素でした。しかし高見が知っているのはせいぜい二人が中学時代同じチームにいたことくらいです。なんて言葉をかけようか迷っていたとき、彼女の方から笑いかけられました。
「わたしなら大丈夫ですよ。むしろ、この日をずっと待っていたんです。試合が始まればできることなんてごく僅かですけど、だからこそ今、なんでもやりたい、なんでもできるって気分です」
「名字……」
年下の女の子の言葉に高見がぐっと息を呑みました。時刻を報せる鐘が鳴り響きます。あと五分で生徒は校門の外に出なければならない、という合図です。名前はビデオを切り、立ち上がりました。
「ほらほら明日に備えて休んでください。進、ノート持って帰る?」
「いや、必要ない。すべて頭に入っている」
「じゃあわたし貰っちゃうね。消灯していくので二人は早く帰っちゃってください」
「もう暗いし寮の前まで送るよ」
「大丈夫ですよ、夜道よりも選手がこんな時間まで残ってるって監督に知られる方が怖いです」
なかなか名前が折れないので、高見と進は仕方なく部室を後にしました。彼女の言う通り、これで下校時刻を過ぎてしまえば、自分たちだけでなく彼女もショーグンに叱られるのをよく知っているからです。厳しい中にも厳しさを覗かせる庄司監督は選手相手ほどでないにしろ、マネージャーの名前にも時に容赦なく叱咤します。後輩マネージャーの若菜が叱られているところは見たことがないので、先輩という立場が、そして名前の熱量に庄司監督としても厳しさという形で答えているのでしょう。
名前は一人残った部室でパチ、パチと電気を消していきます。選手がいるときは狭く感じるこの部屋が、延々と広がる夜に溶けて見えました。部室が狭く感じる日々が続いてほしい、高見から受け取った鍵を回しながら彼女はそう願いました。クリスマスのその日まで。