ピグマリオン
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結論だけ言えば、ボンゴレの継承式は中断となった。来賓として招待されていたシモンファミリーによる "罪" の強奪、次期十代目ファミリーへの強襲、ボンゴレリングの破壊と、考え得る限り最悪に近い形での。
現在は九代目と十代目、それぞれの守護者たち、ヴァリアー幹部のみでの会議中だった。痛め付けられたのはツナたちだけに集中していたため、名前やディーノはほとんど無傷だ。大半の来客は帰されたが、襲撃を受けてはいそうですかと帰る気にもならず、城の中にある広間で二人は待機していた。
ロマーリオが淹れてくれたコーヒーを飲み、ディーノは手を組んで親指を擦り合わせた。
「……あると思うか、勝機」
「タルボって老人が言ってたボンゴレリングのバージョンアップが成功すれば、あるいは」
弟分や弟子が一方的に痛め付けられて流石のディーノも気が気ではない様子だった。そんな心優しい彼には申し訳ないが、名前は名前で考えるべきことが増えてしまっていた。
一つは学院長が今に至るまで会場に姿を見せていないこと。急用とやらが何かは知らないが、「すっぽかすわけにはいかない」なんてほざいていたのと同一人物とは思えない。ボンゴレ側にも名前にも何の連絡もないのだ。襲撃犯であるシモンが会場に揃っていた以上、学院長ですら何者かの襲撃に遭ったとは考えにくいが――
もう一つの謎は、ロットバルトを騙った不審な女についてだ。名前を狙ってくるかと思いきや、結局彼女の周りでは何も起こらなかった。シモンファミリーに一人だけ女がいたが、彼女はボンゴレしか眼中にないようだった。ロットバルトには何の因縁もない。継承式さえ始まってしまえばカタがつくと思っていたが、とんだ見込み違いだったようだ。
黙り込む名前とディーノの背中を見て、ロマーリオも掛ける言葉を失う。ふと広間の扉が開いた。三人が扉の方に顔を向けると、静かに入ってきたのは九代目とその守護者たちだった。
「九代目!」
「シモンファミリーの討伐はデーチモとその守護者に一任した」
「!」
「君たちも帰りなさい。今はよく休むんじゃ」
名前はついさっき、ボンゴレリングのバージョンアップに賭ける他ないと返答したものの、まさか彼らだけで対処するとは想定外だった。九代目の後ろに控えている守護者たちの顔を見るに、いくらボスの決定といえど彼らも同じことを考えているらしい。
シモンファミリーとツナたちは同級生として接していた。思うところもあるのだろう。いくら同盟ファミリーといえど口を挟む権利などディーノたちにはそもそも存在していない。悔しいがここにいても何にもならないのなら、九代目の言う通り帰るほかないだろう。
名前が返事をしようとしたとき、荒々しい足音が広間に飛び込んでくる。受付時に見かけたボンゴレ所属の男だった。額に汗を浮かべて、肩で息をしている。控えていた九代目の守護者が「どうしたんだ!」と震える彼の両肩を掴んだ。
「ロットバルトの名前様はいらっしゃいますか!?」
「名前は私ですが」
「学院から、ボンゴレに救難信号が……!」
男が持ってきた紙を名前がひったくる。
確かに学院の通信室、つまりは広報委員会からのSOS信号だった。数時間前まで名前相手にドレスコードがどうだの学院が恥をかくだのと管を巻いていた彼女からの。名前はぞっと全身の血の気が引く音を聞いた。信号を読み解けば、内容はとても現実とは思えない、凄惨なものだった。
「学院が壊滅状態……?」
「名前!」とディーノがよろけそうになる彼女を支える。しかしすぐに姿勢を持ち直し、「大丈夫」と振り払った。名前は端末を取り出すと、鬼気迫る操作で学院への連絡を試みる。しかし結果はエラー、エラー、エラー。意図的に通信が遮断されているようだった。かろうじてボンゴレに信号を送れたのが不幸中の幸いか。学院長とも連絡が取れない。冷たい汗が彼女のこめかみを伝った。
中等部、高等部、職員あわせて一千人以上の選ばれし人材が集う私立ロットバルト女学院。表向きには超名門女子高、その実態は暗殺者育成機関。中高一貫の全寮制。ボンゴレとの付き合いも長く、持ちつ持たれつの関係により、一定の地位と信頼を築いていた。そのロットバルトが、難攻不落の要塞が今まさに、落とされようとしている。
一体誰の襲撃だと送られてきた信号を最後まで読めば、名前の中で色々な意図が、糸が繋がった。
《学院は壊滅状態にまで追い込まれた。襲撃者は皆、ロットバルトの校章によく似た紋章を付けている。》
知らず知らずのうちに考えないようにしていたのだ。そんなはずがないと、そんなことが起こってはいけないと。スクアーロからロットバルトを装う不審な女の話を聞いたとき、名前が密かに思い当たったもう一つの可能性。そんな馬鹿げた話あるまいと火種を消した可能性。
単に「ロットバルト」と呼べるものは二つある。一つは彼女の属する暗殺者養成機関たる学院。もう一つは、その学院を統べる一族。卒業生のほとんどを私兵として擁する現学院長、八代目ロットバルト。彼は今、どこにいる?
現在は九代目と十代目、それぞれの守護者たち、ヴァリアー幹部のみでの会議中だった。痛め付けられたのはツナたちだけに集中していたため、名前やディーノはほとんど無傷だ。大半の来客は帰されたが、襲撃を受けてはいそうですかと帰る気にもならず、城の中にある広間で二人は待機していた。
ロマーリオが淹れてくれたコーヒーを飲み、ディーノは手を組んで親指を擦り合わせた。
「……あると思うか、勝機」
「タルボって老人が言ってたボンゴレリングのバージョンアップが成功すれば、あるいは」
弟分や弟子が一方的に痛め付けられて流石のディーノも気が気ではない様子だった。そんな心優しい彼には申し訳ないが、名前は名前で考えるべきことが増えてしまっていた。
一つは学院長が今に至るまで会場に姿を見せていないこと。急用とやらが何かは知らないが、「すっぽかすわけにはいかない」なんてほざいていたのと同一人物とは思えない。ボンゴレ側にも名前にも何の連絡もないのだ。襲撃犯であるシモンが会場に揃っていた以上、学院長ですら何者かの襲撃に遭ったとは考えにくいが――
もう一つの謎は、ロットバルトを騙った不審な女についてだ。名前を狙ってくるかと思いきや、結局彼女の周りでは何も起こらなかった。シモンファミリーに一人だけ女がいたが、彼女はボンゴレしか眼中にないようだった。ロットバルトには何の因縁もない。継承式さえ始まってしまえばカタがつくと思っていたが、とんだ見込み違いだったようだ。
黙り込む名前とディーノの背中を見て、ロマーリオも掛ける言葉を失う。ふと広間の扉が開いた。三人が扉の方に顔を向けると、静かに入ってきたのは九代目とその守護者たちだった。
「九代目!」
「シモンファミリーの討伐はデーチモとその守護者に一任した」
「!」
「君たちも帰りなさい。今はよく休むんじゃ」
名前はついさっき、ボンゴレリングのバージョンアップに賭ける他ないと返答したものの、まさか彼らだけで対処するとは想定外だった。九代目の後ろに控えている守護者たちの顔を見るに、いくらボスの決定といえど彼らも同じことを考えているらしい。
シモンファミリーとツナたちは同級生として接していた。思うところもあるのだろう。いくら同盟ファミリーといえど口を挟む権利などディーノたちにはそもそも存在していない。悔しいがここにいても何にもならないのなら、九代目の言う通り帰るほかないだろう。
名前が返事をしようとしたとき、荒々しい足音が広間に飛び込んでくる。受付時に見かけたボンゴレ所属の男だった。額に汗を浮かべて、肩で息をしている。控えていた九代目の守護者が「どうしたんだ!」と震える彼の両肩を掴んだ。
「ロットバルトの名前様はいらっしゃいますか!?」
「名前は私ですが」
「学院から、ボンゴレに救難信号が……!」
男が持ってきた紙を名前がひったくる。
確かに学院の通信室、つまりは広報委員会からのSOS信号だった。数時間前まで名前相手にドレスコードがどうだの学院が恥をかくだのと管を巻いていた彼女からの。名前はぞっと全身の血の気が引く音を聞いた。信号を読み解けば、内容はとても現実とは思えない、凄惨なものだった。
「学院が壊滅状態……?」
「名前!」とディーノがよろけそうになる彼女を支える。しかしすぐに姿勢を持ち直し、「大丈夫」と振り払った。名前は端末を取り出すと、鬼気迫る操作で学院への連絡を試みる。しかし結果はエラー、エラー、エラー。意図的に通信が遮断されているようだった。かろうじてボンゴレに信号を送れたのが不幸中の幸いか。学院長とも連絡が取れない。冷たい汗が彼女のこめかみを伝った。
中等部、高等部、職員あわせて一千人以上の選ばれし人材が集う私立ロットバルト女学院。表向きには超名門女子高、その実態は暗殺者育成機関。中高一貫の全寮制。ボンゴレとの付き合いも長く、持ちつ持たれつの関係により、一定の地位と信頼を築いていた。そのロットバルトが、難攻不落の要塞が今まさに、落とされようとしている。
一体誰の襲撃だと送られてきた信号を最後まで読めば、名前の中で色々な意図が、糸が繋がった。
《学院は壊滅状態にまで追い込まれた。襲撃者は皆、ロットバルトの校章によく似た紋章を付けている。》
知らず知らずのうちに考えないようにしていたのだ。そんなはずがないと、そんなことが起こってはいけないと。スクアーロからロットバルトを装う不審な女の話を聞いたとき、名前が密かに思い当たったもう一つの可能性。そんな馬鹿げた話あるまいと火種を消した可能性。
単に「ロットバルト」と呼べるものは二つある。一つは彼女の属する暗殺者養成機関たる学院。もう一つは、その学院を統べる一族。卒業生のほとんどを私兵として擁する現学院長、八代目ロットバルト。彼は今、どこにいる?