ピグマリオン
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ボンゴレ10代目の継承式は日本にあるボンゴレ所有地の一つ、古城を丸々貸し切って開催される。広大な庭園に、ヘリポートも複数完備しており、城の中には重要な客人や関係者が宿泊できるゲストルームも充実している。上空からその様を見下ろす名前も学院から直接ヘリで訪れていた。彼女と操縦士の他には誰もいない。学院長は急用が入ったやらで、現地で合流しようとのことだ。わざわざまとまって受付しなければならない決まりでもないし、むしろその方が気楽でよかった。
名前が裾を気にしながらヘリから降りると、一人の青年と目が合った。ちょうど彼も今到着したらしく、髭の生えた部下と何か話をしていた。どちらからともなく歩み寄ると、周囲のマフィア関係者がにわかに騒つく。「あれがキャバッローネのボス……」「隣にいるのはロットバルトの!」
「こんにちは、跳ね馬。初めましてでもないのが奇妙な感じね」
「だな。名前もユニから未来の記録を受け継いでるんだろ?」
気さくに挨拶をしてきたのはキャバッローネファミリーのボス、ディーノだった。艶やかな金の髪に負けず劣らず、太陽のように明るい笑顔に思わず周囲の女性が感嘆を漏らす。名前とディーノは本来なら初対面だが、未来で共闘した記憶を共有している。
「それにしてもよく似合ってるな。大人っぽくて10年前だってのにすぐわかったぜ」
「褒め言葉として受け取っていいの?」
「そう拗ねるなよ、綺麗だって言ってんだ」
彼女のドレスは湖の底のように深い青をたたえている。動くたびドレープの波がロイヤルブルーの光沢を反射した。髪もアップスタイルにセットされていて、足元はコンバットブーツどころか、マーメイドラインを引き立てるピンヒールだった。ディーノの言う通り彼女の魅力をよく引き出していることもあり悪目立ちすることはないが、不必要だったと思わないでもない。名前はあらためて自分の格好を見渡して、パーティーならまだしも、とため息をついた。
動きやすい学院の制服かスーツで参列しようとしたところ、めざとい広報委員長に捕まったのだった。学院内外のあらゆる情報操作・発信・収集を引き受けている彼女にしてみれば、あのボンゴレファミリーに招待されているのに制服では失礼に当たるとのこと。完全な余談ではあるが、広報委員会は諜報部隊兼通信部隊と同義である。バイオテロリストが長を務める美化委員会が任務後の「後始末」に特化した部隊であるように、学院に必要のない組織はないのだ。
しばらく二人で話していれば、覚えのある殺気がうなじに刺さる。嫌そうに名前が振り返った先にあったのは、ディーノを陽の光と例えるのなら、こちらは鋭く光る刃物の切先だ。
「ガキ捕まえて口説くなんざぁ趣味が悪いな、跳ね馬」
「スクアーロ」
「うわ出た」
スクアーロは名前とディーノを数度見比べると、彼女の足元に気付いた。普段はスクアーロの喉元あたりであるはずの名前のつむじが、今日は彼の目線あたりまで伸びている。
「いつもよりデケえなぁ」
「不可抗力。いざとなれば脱いで戦う」
「ハハハ! 名前がこんなに男前じゃあ俺らもかたなしだな!」
バシバシと遠慮なく肩を叩いてくるディーノを、スクアーロは「一緒にすんじゃねえ!」と振り払った。ディーノも臆するどころか親しげに接しているあたり、二人が同級生だったというのは本当らしい。
そういえば学院長をまだ見ていないな、と名前が周囲を見渡すと、代わりに本日の主役が姿を現していた。同時にディーノも気付いたらしい。
「おっ、ツナだ。弟分に挨拶してくるかな」
そのまま自然に名前の肩に手を回して歩き出す。歩きにくい格好の彼女を気遣ってだろう、ディーノの足取りはゆるやかだ。流れるようなエスコートに女子校育ちの名前はおお、と少し感動していた。同時にその気遣いができるなら問答無用で連れていくのもどうかとも思ったが。
スクアーロはヴァリアーの仲間の元へ戻るかと思いきや、黙って名前の隣、ディーノとは反対側に並んだ。ヒールが無かったら捕まった宇宙人並みに不格好だったな、と名前は今日初めて広報委員長に感謝した。
「……なんだぁ」
「いや、マジか。そっかそっか」
未だ姿を見せない学院長を目だけで探していた名前は、自分を挟んでこんな応酬があったことをよく理解していなかった。
今日の主役は一週間ほど前に会ったときとは印象が違った。広大な会場や押し寄せる来賓に怖気付いたのだろうか、取り繕おうとしてはいるが終始緊張した面持ちだった。率いている守護者たちも、未来で見たより元気がないように見える。しかし一番「いつも通り」ではなかったのはスクアーロに喝を入れられた山本の様子だった。
すかさず名前、スクアーロ、ディーノの三人がツナを呼び寄せる。
「ボンゴレ、ちょっと」
「ゔお゛ぉい沢田ツラかせ〜」
「こいツナ」
三人は成長期真っ只中のツナに合わせて屈んで取り囲んだ。周りに漏らさないように声を顰めて、名前たちは同じことを問い詰める。
「山本武はどこにいる。わけありかぁ?」
「い゛っ」
「お前が言ってこない限りつっこまねえが、何でも相談してこいよ。力になる」
「何はともあれ、気引き締めて臨んだ方がよさそうね。周辺の警護は任せて」
それだけ伝えると、すぐに三人はツナを解放した。反応からして本当に幻覚で間違いなさそうだと名前は確信する。また後で、とロマーリオの方へ去っていったディーノを見送りながら彼女は腕を組んだ。音もなく隣に影がかかる。誰かわかりきっているため、見上げて確認することもなかった。
「……どう見る」
「どうって、考えにくい上に考えたくないけどそういうことでしょ」
「あんのクソミソカスがぁ……」
「山本が並大抵の相手に遅れをとるわけない。よほど腕が立つか、もしくは不意打ちか」
名前の隣に立つスクアーロは、彼女の爪先から頭の先まで見回して苦々しく口を開いた。華やかなのは結構だが、とても敵を迎え入れようという格好ではない。
「どいつもこいつも、狙われるかもしれねぇってときに舐めてんのか」
「山本と聞き分けのないうちの生徒に直接言って。そうだ、学院長見なかった?」
「八代目ロットバルトかぁ、見てねえが。一緒じゃねぇのか」
「現地で落ち合うはずなんだけどね。まあいいや、ありがと」
それだけ言うと彼女はひらひら手を振って離れた。
一連の様子を見ていたヴァリアーの面々がスクアーロを突く。特にベルフェゴールとルッスーリアは面白がってボス代理の脇を固めた。
「幹部候補のあの女、スク隊長のお気に入り? なんか仲良くなってね?」
「レディが綺麗に着飾ってるんだからちゃんと褒めなさいよォ。素直じゃないんだから〜」
「うるせえ! そんなんじゃねえ!!」
ルッスーリアがアラ、と意外そうにスクアーロの顔を覗く。その顔に浮ついた色はなく、どこか真剣だ。先程ディーノが勝手に察していたように、「そういう」ことかと思っていたが、どうやら違うらしい。
「あの女は山本武同様、一流の暗殺者になる素質がある。一つだけ欠けているものもあるが」
「……ウワ、オレの手で育てたい的な? むしろそっちの方が理解できねー。王子ドン引き」
「スクアーロったらそういうとこお節介よねぇ。未来でも向こうの雨の守護者に稽古付けに、わざわざ日本まで行ってたでしょう」
「ほざいてろ! とっとと行くぞぉてめーら!!」
どう足掻いても揶揄われるスクアーロは無理矢理話を切り上げて会場の中に向かった。
名前が裾を気にしながらヘリから降りると、一人の青年と目が合った。ちょうど彼も今到着したらしく、髭の生えた部下と何か話をしていた。どちらからともなく歩み寄ると、周囲のマフィア関係者がにわかに騒つく。「あれがキャバッローネのボス……」「隣にいるのはロットバルトの!」
「こんにちは、跳ね馬。初めましてでもないのが奇妙な感じね」
「だな。名前もユニから未来の記録を受け継いでるんだろ?」
気さくに挨拶をしてきたのはキャバッローネファミリーのボス、ディーノだった。艶やかな金の髪に負けず劣らず、太陽のように明るい笑顔に思わず周囲の女性が感嘆を漏らす。名前とディーノは本来なら初対面だが、未来で共闘した記憶を共有している。
「それにしてもよく似合ってるな。大人っぽくて10年前だってのにすぐわかったぜ」
「褒め言葉として受け取っていいの?」
「そう拗ねるなよ、綺麗だって言ってんだ」
彼女のドレスは湖の底のように深い青をたたえている。動くたびドレープの波がロイヤルブルーの光沢を反射した。髪もアップスタイルにセットされていて、足元はコンバットブーツどころか、マーメイドラインを引き立てるピンヒールだった。ディーノの言う通り彼女の魅力をよく引き出していることもあり悪目立ちすることはないが、不必要だったと思わないでもない。名前はあらためて自分の格好を見渡して、パーティーならまだしも、とため息をついた。
動きやすい学院の制服かスーツで参列しようとしたところ、めざとい広報委員長に捕まったのだった。学院内外のあらゆる情報操作・発信・収集を引き受けている彼女にしてみれば、あのボンゴレファミリーに招待されているのに制服では失礼に当たるとのこと。完全な余談ではあるが、広報委員会は諜報部隊兼通信部隊と同義である。バイオテロリストが長を務める美化委員会が任務後の「後始末」に特化した部隊であるように、学院に必要のない組織はないのだ。
しばらく二人で話していれば、覚えのある殺気がうなじに刺さる。嫌そうに名前が振り返った先にあったのは、ディーノを陽の光と例えるのなら、こちらは鋭く光る刃物の切先だ。
「ガキ捕まえて口説くなんざぁ趣味が悪いな、跳ね馬」
「スクアーロ」
「うわ出た」
スクアーロは名前とディーノを数度見比べると、彼女の足元に気付いた。普段はスクアーロの喉元あたりであるはずの名前のつむじが、今日は彼の目線あたりまで伸びている。
「いつもよりデケえなぁ」
「不可抗力。いざとなれば脱いで戦う」
「ハハハ! 名前がこんなに男前じゃあ俺らもかたなしだな!」
バシバシと遠慮なく肩を叩いてくるディーノを、スクアーロは「一緒にすんじゃねえ!」と振り払った。ディーノも臆するどころか親しげに接しているあたり、二人が同級生だったというのは本当らしい。
そういえば学院長をまだ見ていないな、と名前が周囲を見渡すと、代わりに本日の主役が姿を現していた。同時にディーノも気付いたらしい。
「おっ、ツナだ。弟分に挨拶してくるかな」
そのまま自然に名前の肩に手を回して歩き出す。歩きにくい格好の彼女を気遣ってだろう、ディーノの足取りはゆるやかだ。流れるようなエスコートに女子校育ちの名前はおお、と少し感動していた。同時にその気遣いができるなら問答無用で連れていくのもどうかとも思ったが。
スクアーロはヴァリアーの仲間の元へ戻るかと思いきや、黙って名前の隣、ディーノとは反対側に並んだ。ヒールが無かったら捕まった宇宙人並みに不格好だったな、と名前は今日初めて広報委員長に感謝した。
「……なんだぁ」
「いや、マジか。そっかそっか」
未だ姿を見せない学院長を目だけで探していた名前は、自分を挟んでこんな応酬があったことをよく理解していなかった。
今日の主役は一週間ほど前に会ったときとは印象が違った。広大な会場や押し寄せる来賓に怖気付いたのだろうか、取り繕おうとしてはいるが終始緊張した面持ちだった。率いている守護者たちも、未来で見たより元気がないように見える。しかし一番「いつも通り」ではなかったのはスクアーロに喝を入れられた山本の様子だった。
すかさず名前、スクアーロ、ディーノの三人がツナを呼び寄せる。
「ボンゴレ、ちょっと」
「ゔお゛ぉい沢田ツラかせ〜」
「こいツナ」
三人は成長期真っ只中のツナに合わせて屈んで取り囲んだ。周りに漏らさないように声を顰めて、名前たちは同じことを問い詰める。
「山本武はどこにいる。わけありかぁ?」
「い゛っ」
「お前が言ってこない限りつっこまねえが、何でも相談してこいよ。力になる」
「何はともあれ、気引き締めて臨んだ方がよさそうね。周辺の警護は任せて」
それだけ伝えると、すぐに三人はツナを解放した。反応からして本当に幻覚で間違いなさそうだと名前は確信する。また後で、とロマーリオの方へ去っていったディーノを見送りながら彼女は腕を組んだ。音もなく隣に影がかかる。誰かわかりきっているため、見上げて確認することもなかった。
「……どう見る」
「どうって、考えにくい上に考えたくないけどそういうことでしょ」
「あんのクソミソカスがぁ……」
「山本が並大抵の相手に遅れをとるわけない。よほど腕が立つか、もしくは不意打ちか」
名前の隣に立つスクアーロは、彼女の爪先から頭の先まで見回して苦々しく口を開いた。華やかなのは結構だが、とても敵を迎え入れようという格好ではない。
「どいつもこいつも、狙われるかもしれねぇってときに舐めてんのか」
「山本と聞き分けのないうちの生徒に直接言って。そうだ、学院長見なかった?」
「八代目ロットバルトかぁ、見てねえが。一緒じゃねぇのか」
「現地で落ち合うはずなんだけどね。まあいいや、ありがと」
それだけ言うと彼女はひらひら手を振って離れた。
一連の様子を見ていたヴァリアーの面々がスクアーロを突く。特にベルフェゴールとルッスーリアは面白がってボス代理の脇を固めた。
「幹部候補のあの女、スク隊長のお気に入り? なんか仲良くなってね?」
「レディが綺麗に着飾ってるんだからちゃんと褒めなさいよォ。素直じゃないんだから〜」
「うるせえ! そんなんじゃねえ!!」
ルッスーリアがアラ、と意外そうにスクアーロの顔を覗く。その顔に浮ついた色はなく、どこか真剣だ。先程ディーノが勝手に察していたように、「そういう」ことかと思っていたが、どうやら違うらしい。
「あの女は山本武同様、一流の暗殺者になる素質がある。一つだけ欠けているものもあるが」
「……ウワ、オレの手で育てたい的な? むしろそっちの方が理解できねー。王子ドン引き」
「スクアーロったらそういうとこお節介よねぇ。未来でも向こうの雨の守護者に稽古付けに、わざわざ日本まで行ってたでしょう」
「ほざいてろ! とっとと行くぞぉてめーら!!」
どう足掻いても揶揄われるスクアーロは無理矢理話を切り上げて会場の中に向かった。