短編
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*地の文の穂刈が倒置法じゃないです。ご容赦ください。
「鋼って面食いなの!?」
「可愛い子が好きなのは別に普通だろ。鋼を何だと思ってんだ」
「かがみん! トリオン体って鼻高くとか顔小さくとかできる!?」
「うーん、ミリ単位の調整は難しいかも」
「先輩ダルすぎ……」
「嫌いじゃないぞ、その思い切りは」
という会話があった、昨日。
同隊の間抜けは「作戦会議!」と叫んでわざわざ隣のクラスからやって来た。進級してからほぼ毎日続くので、3-Cのクラスメイトにとってももはや恒例になっている。
「というわけで緊急任務だよポカリ。鋼の好みを詳しく聞き出してきて」
「自分で行け、それくらい」
「直接今ちゃんみたいな可愛いしっかり者が好きって言われたら立ち直れない……」
「成績悪いからな、名字は」
「頼むよ〜。なんだっけ、この前言ってた高いプロテイン買っちゃるから!」
「二言は無いな」
「倒置法をやめた……マジだ……」
交渉成立。ちょうど村上は窓際の席に一人だったので、空いている前の席を借りて座る。
「語り合おう、女子の好みを」
「急だな」
「筋トレを馬鹿にしない子だ、俺の場合は」
「範囲広くないか?」
どっかの誰かが廊下側の俺の席を陣取り、聞き耳を立てている。それを意に介さず眠たげな眼を細めて笑う村上は名字の想い人だ。
どれほど熱烈かというと、正隊員になってもどこのチームにも入らずぶらぶらしていたが、ランク戦のログを見て村上に一目惚れ。支部への転属は簡単に受理されるものじゃないと知った途端、村上と仲が良い荒船に目をつけて荒船隊に入ってきたほどの豪傑だ。
邪な理由で入隊を希望してきた名字に、俺たちも初めは良い思いはしなかった。特に荒船は何度も名字を突っぱねた。確か三十回はくだらないと思う。しかし奴は諦めが悪すぎた。荒船が諦めさせるためか近々狙撃手だけのチームになると漏らすと、即射手から狙撃手に鞍替えし、実際に口だけじゃない練習量で俺たちを圧倒した。狙撃手の合同訓練で4週連続上位10%以内という条件、そして最後は荒船との一対一の個人戦(荒船は弧月、名字は射手用トリガーを使った)を乗り越えて、今では立派なうちの戦力だ。
そのガッツを村上に直接向ければいいものを、「緊張する。うまく喋れない。絶対むり」などと宣った。よくわからないな、照れるところが。
「俺が席に帰れない、お前が言わないと」
「そうだな。少しくらい手がかかる子が可愛いかな」
俺としては信じられない。
「ポカリ! どうだった!?」
「可愛いと言っていたな、少しくらい手がかかる子が」
「そんな……」
ちなみに荒船と半崎はこの件について我関せずだ。特に荒船は「俺が口出しすることじゃない」らしい。おそらく半分くらい面倒くさがっている。加賀美はよくそわそわしている。
「ライバルは今ちゃんじゃなくて太一だった……!?」
村上の趣味の悪さも、名字の察しの悪さも。
*
最初に痺れを切らしたのは本人たちではなく、加賀美だった。
「やだーー! 無理無理むり!」
「無理じゃない! そんなんじゃいつまでも進展しないよ?」
「うぐっ」
「村上くんがせっかく本部に来てるんだから模擬戦お願いしてきなよ!」
「せめて一週間ちょうだい……。心と新戦術の準備……」
「それ先月も言ってた」
「もし、もしもだよ!? 全然進歩のない奴だとか荒船隊にふさわしくないとか思われたら生きていけない!」
「村上くんはそんなこと思うような人なの?」
「違うけど……」
「じゃあ行ってきなさい!」
「かがみん〜〜……」
母親か?
名字は半ベソになりながら加賀美が調整してくれた射手用トリガーを持って隊室を出て行った。ダンベル片手に一部始終を見ていた俺と目が合うと「骨は拾ってね……」と縁起でもないことを言ってきた。名字のあんなか細い声を聞いたのは後にも先にもこの時だけだった。
なお、ここから先はのちにパニック状態の名字から聞いた話である。
「鋼、くん!」
「ああ、名字。おつかれ」
「お、お疲れさまデス! あの、暇だったら、全然空いてたらでいいんだけど、よかったら個人戦の相手してほしいな〜なんて……。いや嫌だったら全然ね! 断ってくれて、」
「ちょうど二宮さん対策で射手と戦いたかったんだ。こちらからもお願いできるか?」
「っ! 是非! 是非に!」
「はは、何だそれ」
「やるたびに勝てなくなる……」
「名字も前戦ったときより良い動きしてるよ。アステロイドとハウンドを混ぜてきたのは対応が遅れた」
「ほんと!? って、涼しい顔で防がれたんだけどな……」
「っそうだ! 二宮さん対策なら私のトリオンじゃ足りないよね!? 訓練室の使用許可取ってくる!」
「あ、……速いな」
「二宮隊対策っていうのは、半分口実だったんだけどな」
「お待たせ! あれ、どうかした?」
「いや、なんでもない。ありがとう、もう少し付き合ってくれ」
「! もちろん!」
あんなに嫌嫌言っていたのに、結局50戦以上したらしい。トリオン体は体力こそ使わないとはいえ、気力は消耗する。とんだバトルジャンキーだ。
「何してるんだ、名字」
「録音した音声聴いてる〜」
「?」
《名字も前戦ったときより良い動きしてるよ》
《もう少し付き合ってくれ》
《付き合ってくれ》
「ぐふふ〜……」
「もしもし? すぐ来てくれ、荒船。」
隠し録りは荒船が没収し、代わりに本気のゲンコツをくれてやっていた。お互いトリオン体とはいえ、荒船が本気で女を殴るのもこれが最初で最後だったと思う。俺の心の平穏のためにも早くくっついてくれ、切実に。
「鋼って面食いなの!?」
「可愛い子が好きなのは別に普通だろ。鋼を何だと思ってんだ」
「かがみん! トリオン体って鼻高くとか顔小さくとかできる!?」
「うーん、ミリ単位の調整は難しいかも」
「先輩ダルすぎ……」
「嫌いじゃないぞ、その思い切りは」
という会話があった、昨日。
同隊の間抜けは「作戦会議!」と叫んでわざわざ隣のクラスからやって来た。進級してからほぼ毎日続くので、3-Cのクラスメイトにとってももはや恒例になっている。
「というわけで緊急任務だよポカリ。鋼の好みを詳しく聞き出してきて」
「自分で行け、それくらい」
「直接今ちゃんみたいな可愛いしっかり者が好きって言われたら立ち直れない……」
「成績悪いからな、名字は」
「頼むよ〜。なんだっけ、この前言ってた高いプロテイン買っちゃるから!」
「二言は無いな」
「倒置法をやめた……マジだ……」
交渉成立。ちょうど村上は窓際の席に一人だったので、空いている前の席を借りて座る。
「語り合おう、女子の好みを」
「急だな」
「筋トレを馬鹿にしない子だ、俺の場合は」
「範囲広くないか?」
どっかの誰かが廊下側の俺の席を陣取り、聞き耳を立てている。それを意に介さず眠たげな眼を細めて笑う村上は名字の想い人だ。
どれほど熱烈かというと、正隊員になってもどこのチームにも入らずぶらぶらしていたが、ランク戦のログを見て村上に一目惚れ。支部への転属は簡単に受理されるものじゃないと知った途端、村上と仲が良い荒船に目をつけて荒船隊に入ってきたほどの豪傑だ。
邪な理由で入隊を希望してきた名字に、俺たちも初めは良い思いはしなかった。特に荒船は何度も名字を突っぱねた。確か三十回はくだらないと思う。しかし奴は諦めが悪すぎた。荒船が諦めさせるためか近々狙撃手だけのチームになると漏らすと、即射手から狙撃手に鞍替えし、実際に口だけじゃない練習量で俺たちを圧倒した。狙撃手の合同訓練で4週連続上位10%以内という条件、そして最後は荒船との一対一の個人戦(荒船は弧月、名字は射手用トリガーを使った)を乗り越えて、今では立派なうちの戦力だ。
そのガッツを村上に直接向ければいいものを、「緊張する。うまく喋れない。絶対むり」などと宣った。よくわからないな、照れるところが。
「俺が席に帰れない、お前が言わないと」
「そうだな。少しくらい手がかかる子が可愛いかな」
俺としては信じられない。
「ポカリ! どうだった!?」
「可愛いと言っていたな、少しくらい手がかかる子が」
「そんな……」
ちなみに荒船と半崎はこの件について我関せずだ。特に荒船は「俺が口出しすることじゃない」らしい。おそらく半分くらい面倒くさがっている。加賀美はよくそわそわしている。
「ライバルは今ちゃんじゃなくて太一だった……!?」
村上の趣味の悪さも、名字の察しの悪さも。
*
最初に痺れを切らしたのは本人たちではなく、加賀美だった。
「やだーー! 無理無理むり!」
「無理じゃない! そんなんじゃいつまでも進展しないよ?」
「うぐっ」
「村上くんがせっかく本部に来てるんだから模擬戦お願いしてきなよ!」
「せめて一週間ちょうだい……。心と新戦術の準備……」
「それ先月も言ってた」
「もし、もしもだよ!? 全然進歩のない奴だとか荒船隊にふさわしくないとか思われたら生きていけない!」
「村上くんはそんなこと思うような人なの?」
「違うけど……」
「じゃあ行ってきなさい!」
「かがみん〜〜……」
母親か?
名字は半ベソになりながら加賀美が調整してくれた射手用トリガーを持って隊室を出て行った。ダンベル片手に一部始終を見ていた俺と目が合うと「骨は拾ってね……」と縁起でもないことを言ってきた。名字のあんなか細い声を聞いたのは後にも先にもこの時だけだった。
なお、ここから先はのちにパニック状態の名字から聞いた話である。
「鋼、くん!」
「ああ、名字。おつかれ」
「お、お疲れさまデス! あの、暇だったら、全然空いてたらでいいんだけど、よかったら個人戦の相手してほしいな〜なんて……。いや嫌だったら全然ね! 断ってくれて、」
「ちょうど二宮さん対策で射手と戦いたかったんだ。こちらからもお願いできるか?」
「っ! 是非! 是非に!」
「はは、何だそれ」
「やるたびに勝てなくなる……」
「名字も前戦ったときより良い動きしてるよ。アステロイドとハウンドを混ぜてきたのは対応が遅れた」
「ほんと!? って、涼しい顔で防がれたんだけどな……」
「っそうだ! 二宮さん対策なら私のトリオンじゃ足りないよね!? 訓練室の使用許可取ってくる!」
「あ、……速いな」
「二宮隊対策っていうのは、半分口実だったんだけどな」
「お待たせ! あれ、どうかした?」
「いや、なんでもない。ありがとう、もう少し付き合ってくれ」
「! もちろん!」
あんなに嫌嫌言っていたのに、結局50戦以上したらしい。トリオン体は体力こそ使わないとはいえ、気力は消耗する。とんだバトルジャンキーだ。
「何してるんだ、名字」
「録音した音声聴いてる〜」
「?」
《名字も前戦ったときより良い動きしてるよ》
《もう少し付き合ってくれ》
《付き合ってくれ》
「ぐふふ〜……」
「もしもし? すぐ来てくれ、荒船。」
隠し録りは荒船が没収し、代わりに本気のゲンコツをくれてやっていた。お互いトリオン体とはいえ、荒船が本気で女を殴るのもこれが最初で最後だったと思う。俺の心の平穏のためにも早くくっついてくれ、切実に。