短編
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*「boy meets grrrr」と同じ設定です。
「え、俺と?」
「はい。一度辻……くんと戦ってみたかったんです。お願いします」
「いいよ、とりあえず5本先取でいい?」
「ありがとうございます!」
嵐のような名字さんとの遭遇、そして根も葉もない噂のほとぼりも覚め、改めて個人ランク戦に来ていた俺は見慣れない隊員に勝負を頼まれていた。
やや小柄で同年代か、もしくは少し下。隊服からしてC級ではないと思うけど、黒と紫を基調とするそれと、晴れやかな表情にピンとくるものはない。どこかの支部の隊員だろうか。
しかし相手が見つかるのはありがたいし、自分と戦いたかったと言われると正直な話満更でもない。断る理由は特になかった。
彼は礼儀正しく「7501ポイントの弧月で入るので! よろしくお願いします!」と言ってブースへ入っていった。
戦ってすぐにわかったのは、顔を知らないのが不思議なくらい手慣れてるってことだった。弧月一本でやっていくにはもう少し時間と経験が必要かもしれないけど、受け太刀や返しの隙をハウンドで充分補っている。むしろ弾トリガーの扱いの方が上手い。弧月で登録してるからてっきり攻撃手だと思っていたけど、もしかしたら万能手なのかもしれない。ただ一つ、毎回勝負の後半になると弾のキレと威力が増しているのが不思議だった。
現在4対3。追い詰めたとはいえ思ってたより接戦になっている。支部所属でランク戦に参加していなくても、ここまでの使い手が無名なんてことがあるだろうか。彼は本当に誰なんだろう。
*
「辻ちゃんと仲良くなりたい?」
「うん。そんであわよくば一太刀貰いたい」
「うわキモっ。男のトリオン体作ってもらえばいいじゃん」
「そんなことできるの?」
「髪型とか体型をある程度いじれるならできるんじゃない?」
「めちゃくちゃ他人事じゃん。杏ちゃんに相談してくる」
「ああ、加古隊のオペね。……え、マジでやる気?」
「あばよ犬飼」
「あちゃー……。辻ちゃんご愁傷様」
*
勝っても負けても名前は聞いておこう、と考えていると対戦してる彼から通信が入る。
「次から転送場所変えていいですか?」
「ああ、いいよ」
推測通りなら銃手や射手に有利な戦場 を選んでくるかもしれない。身を隠せるような障害物の多い場所かそれとも……。
僅かな浮遊感に身を任せれば、彼が指定したのは広い道路のど真ん中だった。住宅地に挟まれているとはいえ見通しが良い。
狙撃手もいない一対一。こんなに開けた場所ならスパイダーのような搦め手や置き弾みたいな仕掛けも使いにくいだろう。正直俺みたいな弧月使いには願ってもないフィールドに違いない。彼も弧月を使うとはいえ、単純な剣の腕なら今までの七戦で分かっているはずだ。
約30m先に転送された彼は今まで両手持ちだった弧月を片手持ちに切り替え、左手でトリオンキューブを浮かべた。彼の身の回りを守るように浮かぶ。分割は細かい。威力より弾速重視の妨害用だろう。射手の攻撃ならいつも間近で見ている。見切れる。攻撃手の間合いに持ち込めば——
「ええと、旋空弧月の間合いは」
違う! 俺は振り込もうとしたモーションを止め、後ろに退避する。
「約20m」
悪寒は的中し、見たこともないくらい細かく分割されたキューブが彼自身を襲ったと思えば、右手の弧月が破棄された。フェイクか。
その背後に巨大なトリオンキューブが浮かんだ瞬間咄嗟にシールドを張ったが、冗談みたいな火力で割られてしまった。ヒットしたときの爆風で、メテオラを隠し持っていたことだけはわかった。今まで弾はハウンドしか見せていなかったのも、彼の仕掛けのうちだったってことか。これほど有無を言わさずにベイルアウトさせられたのは、太刀川さんや二宮さんと個人戦したとき以来だった。
「次取った方の勝ちですね」
あのステージを選んだ理由もわかった。攻撃手の間合いでまとわりつかない限り、あのメテオラの雨をしのげる方法なんてない。それにしてもあれだけのトリオン量、下手したら二宮さん以上だ。前までの七戦では全然そんな様子はなかったのに——
「対戦ありがとうございました」
「最後の二戦すごかったね、あれどうなってたの?」
「ちょっと仕掛けがありまして、」
「辻ちゃーん!」
「犬飼先輩」
「げっ」
結局メテオラ砲撃になす術もなく、4-5で逆転されてしまった。ブースから出てきて律儀に頭を下げた彼に話を聞こうとしたら、空気を読まない犬飼先輩がやってきた。まだ名前も聞けてない彼は俺の後ろに隠れる。先輩はよく色んな人にちょっかいを出すから、まあその気持ちはわからなくもない。
「辻ちゃんもしかして負けた?」
「知ってるんですか?」
「こいつずっと辻ちゃんと戦いたがってたから。どうだった?」
「強かったですよ。でも攻撃手より射手の方が向いてると思います」
「あはは、だよね! 最近まで銃手だったし」
「……わた、僕はこれで」
「お膳立てしてやった俺にお礼の言葉とかないの? 名字ちゃんさあ」
「エッ」
「ちょっと!!」
「声まで低くなってて驚いたよ。加古隊のオペレーターって優秀なんだね」
「犬飼!!!!!」
姿も声も、男のそれだ。そのはずだ。
いつのまにか俺の後ろから飛び出て犬飼先輩と取っ組み合っている彼(?)を今一度よく観察する。
隊服はA級腕章が外されているものの、黒と紫の配色は加古隊のものだったかもしれない(直視したことないから記憶が曖昧だ)。加古隊の “名字” ……。
『二宮隊のログ見てたらやっぱりその太刀筋を味わいたくなって』
『名字さんってその、なんなの?』
『あー、前線で斬られたくて銃手から攻撃手になったドM?』
「だ、騙してすみませんでしたッ!」
「うわー、俺ガチ土下座って初めて見た。当真たちにも送っとこ」
「見せ物じゃねーぞ犬飼!!」
「……俺もタメ口ですみませんでした。てっきり年下だと思って」
「いやそれは全然いいんだけど……。え? 私辻ちゃんと喋れてる?」
「一人称は僕か俺でお願いします」
「ウッス」
「その姿のままで口調も女子っぽくなければなんとか……」
「ッシャ!」
「元がガサツで得したね名字」
「嬉しいけどフクザツ。あと犬飼はブース入れ」
「メテオラの仕掛けが最後までわからなかったので犬飼先輩食らってきてくださいよ。横から見てるんで」
「結託するの早くない?」
「え、俺と?」
「はい。一度辻……くんと戦ってみたかったんです。お願いします」
「いいよ、とりあえず5本先取でいい?」
「ありがとうございます!」
嵐のような名字さんとの遭遇、そして根も葉もない噂のほとぼりも覚め、改めて個人ランク戦に来ていた俺は見慣れない隊員に勝負を頼まれていた。
やや小柄で同年代か、もしくは少し下。隊服からしてC級ではないと思うけど、黒と紫を基調とするそれと、晴れやかな表情にピンとくるものはない。どこかの支部の隊員だろうか。
しかし相手が見つかるのはありがたいし、自分と戦いたかったと言われると正直な話満更でもない。断る理由は特になかった。
彼は礼儀正しく「7501ポイントの弧月で入るので! よろしくお願いします!」と言ってブースへ入っていった。
戦ってすぐにわかったのは、顔を知らないのが不思議なくらい手慣れてるってことだった。弧月一本でやっていくにはもう少し時間と経験が必要かもしれないけど、受け太刀や返しの隙をハウンドで充分補っている。むしろ弾トリガーの扱いの方が上手い。弧月で登録してるからてっきり攻撃手だと思っていたけど、もしかしたら万能手なのかもしれない。ただ一つ、毎回勝負の後半になると弾のキレと威力が増しているのが不思議だった。
現在4対3。追い詰めたとはいえ思ってたより接戦になっている。支部所属でランク戦に参加していなくても、ここまでの使い手が無名なんてことがあるだろうか。彼は本当に誰なんだろう。
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「辻ちゃんと仲良くなりたい?」
「うん。そんであわよくば一太刀貰いたい」
「うわキモっ。男のトリオン体作ってもらえばいいじゃん」
「そんなことできるの?」
「髪型とか体型をある程度いじれるならできるんじゃない?」
「めちゃくちゃ他人事じゃん。杏ちゃんに相談してくる」
「ああ、加古隊のオペね。……え、マジでやる気?」
「あばよ犬飼」
「あちゃー……。辻ちゃんご愁傷様」
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勝っても負けても名前は聞いておこう、と考えていると対戦してる彼から通信が入る。
「次から転送場所変えていいですか?」
「ああ、いいよ」
推測通りなら銃手や射手に有利な
僅かな浮遊感に身を任せれば、彼が指定したのは広い道路のど真ん中だった。住宅地に挟まれているとはいえ見通しが良い。
狙撃手もいない一対一。こんなに開けた場所ならスパイダーのような搦め手や置き弾みたいな仕掛けも使いにくいだろう。正直俺みたいな弧月使いには願ってもないフィールドに違いない。彼も弧月を使うとはいえ、単純な剣の腕なら今までの七戦で分かっているはずだ。
約30m先に転送された彼は今まで両手持ちだった弧月を片手持ちに切り替え、左手でトリオンキューブを浮かべた。彼の身の回りを守るように浮かぶ。分割は細かい。威力より弾速重視の妨害用だろう。射手の攻撃ならいつも間近で見ている。見切れる。攻撃手の間合いに持ち込めば——
「ええと、旋空弧月の間合いは」
違う! 俺は振り込もうとしたモーションを止め、後ろに退避する。
「約20m」
悪寒は的中し、見たこともないくらい細かく分割されたキューブが彼自身を襲ったと思えば、右手の弧月が破棄された。フェイクか。
その背後に巨大なトリオンキューブが浮かんだ瞬間咄嗟にシールドを張ったが、冗談みたいな火力で割られてしまった。ヒットしたときの爆風で、メテオラを隠し持っていたことだけはわかった。今まで弾はハウンドしか見せていなかったのも、彼の仕掛けのうちだったってことか。これほど有無を言わさずにベイルアウトさせられたのは、太刀川さんや二宮さんと個人戦したとき以来だった。
「次取った方の勝ちですね」
あのステージを選んだ理由もわかった。攻撃手の間合いでまとわりつかない限り、あのメテオラの雨をしのげる方法なんてない。それにしてもあれだけのトリオン量、下手したら二宮さん以上だ。前までの七戦では全然そんな様子はなかったのに——
「対戦ありがとうございました」
「最後の二戦すごかったね、あれどうなってたの?」
「ちょっと仕掛けがありまして、」
「辻ちゃーん!」
「犬飼先輩」
「げっ」
結局メテオラ砲撃になす術もなく、4-5で逆転されてしまった。ブースから出てきて律儀に頭を下げた彼に話を聞こうとしたら、空気を読まない犬飼先輩がやってきた。まだ名前も聞けてない彼は俺の後ろに隠れる。先輩はよく色んな人にちょっかいを出すから、まあその気持ちはわからなくもない。
「辻ちゃんもしかして負けた?」
「知ってるんですか?」
「こいつずっと辻ちゃんと戦いたがってたから。どうだった?」
「強かったですよ。でも攻撃手より射手の方が向いてると思います」
「あはは、だよね! 最近まで銃手だったし」
「……わた、僕はこれで」
「お膳立てしてやった俺にお礼の言葉とかないの? 名字ちゃんさあ」
「エッ」
「ちょっと!!」
「声まで低くなってて驚いたよ。加古隊のオペレーターって優秀なんだね」
「犬飼!!!!!」
姿も声も、男のそれだ。そのはずだ。
いつのまにか俺の後ろから飛び出て犬飼先輩と取っ組み合っている彼(?)を今一度よく観察する。
隊服はA級腕章が外されているものの、黒と紫の配色は加古隊のものだったかもしれない(直視したことないから記憶が曖昧だ)。加古隊の “名字” ……。
『二宮隊のログ見てたらやっぱりその太刀筋を味わいたくなって』
『名字さんってその、なんなの?』
『あー、前線で斬られたくて銃手から攻撃手になったドM?』
「だ、騙してすみませんでしたッ!」
「うわー、俺ガチ土下座って初めて見た。当真たちにも送っとこ」
「見せ物じゃねーぞ犬飼!!」
「……俺もタメ口ですみませんでした。てっきり年下だと思って」
「いやそれは全然いいんだけど……。え? 私辻ちゃんと喋れてる?」
「一人称は僕か俺でお願いします」
「ウッス」
「その姿のままで口調も女子っぽくなければなんとか……」
「ッシャ!」
「元がガサツで得したね名字」
「嬉しいけどフクザツ。あと犬飼はブース入れ」
「メテオラの仕掛けが最後までわからなかったので犬飼先輩食らってきてくださいよ。横から見てるんで」
「結託するの早くない?」