グレー・コラージュ・ソング
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「……なんで、……」
「…………え?」
永遠にも感じるような沈黙の後、名字が吐息混じりに呟いた。どうしてだろう。こんなに近くにいるのに、遠く感じる。ふるふると肩が震え、立ち上がったかと思うと、今まで聞いたこともないような大きな声で訴えた。
その手にあったコーヒーは、地面に落ちて黒い染みを作った。
「……期待させるようなこと言わないで……!
っ迅くんはいいよね!何も知らずにさあ!わ、わたし、人間じゃないんだよ!?この体だって……ただの抜け殻なんだ……!」
「 名字?落ち着け、」
「魔法少女は!ひとつ願い事を叶えてもらうことで契約する、契約したら、魂を抜き取られちゃうの!この体はゾンビなの、もう生きてないの!っそれだけじゃない、」
名字は泣いていた。恨むように、悲しむように、怒るように、諦めるように、絶望するように。
「魔法少女は、遅かれ早かれ魔女になる……!」
魔女。彼女たちが倒すべき存在。初めて会ったときの彼女の笑顔が頭をよぎる。__魔女からみんなを守る、そういう役目なの。
そんな、そんな運命、あんまりだ。それを防ぐ手段はないのかと問いかけようと前を向くと、 名字は既に背を向けていた。
「あーあ。わたしたち、出会わなければよかったね。違うところで生きて、死んでいればこんなことにはならなかったのに。」
ねえ迅くん。
その声色に、おれは初めて 名字が怖いと感じてしまった。
「ばいばい」
せんぱいから魔女の結界を見つけたと連絡が入った。急いで瞬間移動で指定の場所までやって来た。せんぱいの姿を認める、棒立ちだ。……なんかテンションが低そう?疲れてるのかな。
「行くよイチカ」
「はっハイ!」
いつも通りせんぱいが結界を開いた。結界の中は、足元がぬかるんで歩きづらい。せんぱいの脚力とあたしの瞬間移動の前には、些細なことだけど。
泥団子みたいな使い魔を、せんぱいと倒しながら進む。……せんぱい、やっぱり変。いつもなら短剣で軽く振り払うような敵も、今日は大ぶりのナイフでぐさぐさ刺して捨てている。イライラしてるみたいだ。これが魔女と戦うときに影響しないといいんだけど。
「きっとこの扉だ。この奥に魔女がいる」
「気ィ引き締めていきましょー!」
あたしには、いつも通り振る舞うことしかできないや。
イチカの前に立ち、最後の扉を開けた。
やはり魔女が佇んでいた。大分人型に近い。3mくらいの大きさ、黒い帽子にロングコート。何よりも目に付くのは、顔を覆うペストマスクだ。
魔女はわたしたちを一瞥すると、両の手でロングコートの端と端を持った。
「……?」
左右に開かれるコート。その中身はぐちゃぐちゃ、文字通りの泥濘だった。そこから無数の泥の腕が伸びる。
「っわあ!」
「イチカ!」
イチカを捕らえようとした泥の腕を叩き斬る。手応えがない。斬られた泥の手首はぼとりと落ちた、が。すぐに再生してこちらへ伸びてくる。ここは回避だ。バックステップで腕が届かないくらいの距離を取った。
「ちょっとまずいですね、あれ。イチカの火薬類で全部を吹き飛ばすには範囲が広すぎます。再生も速すぎる」
「刃物での攻撃もほとんど効いてなさそうね」
この野郎、と舌打ちしたくなった。ペストマスク越しに魔女がにたりと微笑んだように見えた。
「とりあえず距離を取って遠距離で仕掛けていこう。瞬間移動で逃れられると思うけど、無理はしないで」
「合点承知です!」
イチカの返事を合図に、ざっと二手に分かれた。ありったけの剣を召喚して、一斉に魔女へと向けた。ずがずがずがとコートや帽子を切り裂いたが、本体の泥濘は裂けてもすぐ復活してしまう。イチカの方をちらと見る。同じように銃や大砲を発射したが、吹き飛んだところからすぐ再生されてしまっていた。……それは想像以上にまずいな。
考えろ。今のわたしたちに何がある、何ができる。持っているものは。自慢の脚力、再生力。瞬間移動、銃、大砲。魔力、ソウルジェム。……ソウルジェム、そっか。
もう5年目だ、潮時だろう?もしわたしが死に切れずに魔女になっても、頼れる後輩がいる。心残りはない。全部捨てて、諦めてきたんだから。……ひとつだけ、あるか。迅くん。迅、迅悠一。ボーダーの強いひと。仲良くなれた。楽しかった。傷付けた。あなたに出会わなければ、こんなに苦しい思いしなくて済んだのに。ほんと、出会わなければ……出会わなければ……。
__こんなに、好きにならずに済んだのに。
「……イチカ、今すぐに瞬間移動でここから離れて」
「?!っな、何言って……!?せんぱい!!!」
「…………素直に聞いてよ、最後のお願いだ」
装着していたソウルジェムを外して、魔力を解放する。それは双剣となってわたしの手に収まった。
未来を生きるあなたのために、泥濘に沈むのも、悪くない。
「__これでッ、お終いだ!!」
限界までの魔力を込めた一撃は、魔女諸共結界を吹き飛ばした。
*end1とend2へ分岐します。それぞれ独立した未来です。