広がる輪

そんな微笑ましいエイト達を見て、ふと疑問に思ったのかゲゲ郎は軽く首を傾げながらエイト達に尋ねる

「先程から思っておったんじゃが、してエイトとククールとやら…一体全体お主らはどーゆ関係なんじゃ?」


「!……あー……えっと友達以上…恋人未満と言うのか、友達仲間以上の関係と言いますか」

いきなり初対面のゲゲ郎さん達に「僕ら最近恋人同士になったんです」…って、ククールとのディープな関係性を大々的に公表するのも、どうかと思うし…と

エイトが頭の中で思考を考えていると自分達の名前を地面に書き終えたククールが

頭に大量の疑問付を浮かべ、エイトの答えを待っているゲゲ郎と水木にツカツカと歩み寄り、真実を包み隠さず喋る

「恋人同士だ…俺とエイトは、数ヶ月前から仲間達の了承も得て堂々と付き合ってる

性行為も付き合う前から何回もあったし、近々エイトと籍を入れるつもり…これで満足か、ゲゲ郎のオッサン?」

「男同士なのにか…?

日本では男は女と結婚して籍入れるのが普通だが……

お、ククール君、外国人なのに字上手いんだな、これ外国語か?」


「それは水木兄さんの……小っさい世界での常識の範疇だろ

俺達のいた世界…と言うか

俺がガキの頃から育ってきた修道院じゃ、野郎同士が抱いたり抱かれたりするような光景は日常茶飯事だった

だから今更価値観が歪んでるとは思わない

…それに俺達は、そんな生易しい理由で人生のパートナーになる誓いを立てた訳じゃない

魂同士が言葉では表現出来ないくらいに強く惹かれて、恋に落ちたんだ

俺達の事を何も分かっていないアンタらに口出しされる義理はないね」

水木の空気の読まない爆弾発言がククールの地雷を容赦無く踏み込んだか、義兄のマルチェロを見る時みたいに彼の碧い瞳は凍える冬の色みたく染まり、水木を鋭く睨む


「…!(男同士で肉体関係を当たり前に持つ場所で育ってきたって、一体どんなに辛い幼少期時代を送ってきたんだ…?)

す、すまない…別に気分を害す為に言った訳じゃない、只々率直な疑問で気になっただけなんだ」

「?…龍賀一族の性的な真実を聞いて、多少は耐性がついたのではなかったのか水木よ」

意気消沈する水木にヒソヒソと嫌な所を突くゲゲ郎

「慣れる訳ねぇだろ、馬鹿野郎!あんな話思い返しただけでも虫唾が走る…っ」

そしてククールと水木の空気を和ませるかのように、ゲゲ郎が上手く仲介に入る


「…して、どうやら触れられたくない部分の話を聞いてしまったようじゃ、これはまた、すまなかった 

水木もわざとじゃないと謝っておるし、ここは一つワシの顔に免じて許してやってくれんか?

……それにしても確かに水木の言う通り、ククールや…綺麗な文字を書けるの」

「別にいいさ、これ以上追求してこないんなら

…ま、伊達に聖職者を名乗ってないもんでこのくらいの文字を書くのは朝飯前ってな?」

急に態度をコロリと変え、ドヤ顔で笑う彼を見てホッと胸を撫で下ろす二人


「英語でも他の国の文字でもない、まるで遥か昔に滅んだとされる古代文明の象形文字の一つにも出てきそうな…」

顎下に手を添え眉間に深くシワを寄せながら唸る水木を苦笑しながら見ているエイト

「そんなに珍しいですか?」

「あぁ、中々興味深いよ

俺は記者の仕事もしているから珍しい物には目がないんだ」

「良かったじゃないククール、こっちの世界では君のキザな文字も高い値がつく可能性も期待出来るかもよ?」

そう茶化すようにエイトが隣に屈むククールに言えば「一言余計だってーの」と拗ねるククール


「それよりもこんな所で油を売っておると、皆仲良く風邪を引いてしまうぞ

少し歩くがここから先にワシらの住んでいる宿がある、良かったらそこでエイト達がいた世界などの話を聞かせてはくれぬか?」

「…勿論それは構わないが、俺達も情報を渡すんだからゲゲ郎のオッサン達の世界の事も教えてくれなきゃ、等価交換ってやつさ」

ゲゲ郎の案を人差し指をクイクイしながら挑発するククール

そんなククールの威勢を気に入ったか楽しそうに笑うゲゲ郎

「…ふ、中々威勢の良い青年よ 
良かろう交渉成立じゃな、のう水木」

「ふっ…あぁ、そうだな

以前ここに来たドモン達に生意気な所はよく似てる
…、それじゃ本格的に雪が降り出す前にさっさと行こうか

俺達の家はここから真っ直ぐ数キロ進んだ先だ」

水木が我が家のある方角を指差し歩みを進めようとした矢先、エイトから「ちょっと待って下さい」とコールが入る

「…?一体どうしたんだよエイト…

水木兄さんの言う通り、早く屋根のある場所に行かないと本当に風邪引いちまうぞ」

ニヤニヤと何かを企んでいるエイトの額を「こら」と言いながらデコピンするククール

デコピンされながらもエイトが道具袋の中から取り出したのは、見慣れた鈴であった
 
「じゃーん、これ…なーんだ?」

ウインクしながらチリンチリンと左右に鈴を鳴らすエイト、その鈴を見るなり「あー!」と言いながら指をさすククール

「それバウムレンの鈴じゃねーか…

目覚めてから訳の分からない出来事ばかりに遭遇していたせいで、普段の旅便利アイテムの存在ごと頭からスッポリ抜け落ちてたぜ」

頭を乱暴に搔き回しながら両肩をガックリと落とすククールに「まーま」と慰めるエイト

「…もし本当にゲゲ郎さん達の言う通り僕達が【神隠し】という現象で、こちらの世界に来たなら

…この鈴でキラーパンサーをこっちに呼ぶ事が可能なら、元の世界への帰り方のヒントが掴めるかもしれないよ?」

「…なるほど、流石は頼りになる我らがリーダーで勇者様だ…!そうと決まれば一か八か呼んでみるかエイト」

「了解…!」

「…話が盛り上がってる所悪いんじゃが、行かぬのか?」

急に歩を止めたククール達を少し離れた場所から声をかけるゲゲ郎


「ちょっと試したい事があるので少し時間下さーい!」

軽く声を上げゲゲ郎にそう言うと「あい、分かった」と一言

「それじゃー…行っくよー」

小刻みに手早く鈴を鳴らすと、静かな空間に澄み切った音が数秒響き渡る

その音にククールは懐かし気に目を細め、聴き慣れない音にゲゲ郎と水木は目を閉じ酔いしれる


するとエイトの眼前に異空間の穴が開かれたと同時に雪国の真っ白なキラーパンサーが一匹唸り声を上げて現れた

その光景にエイトは一瞬目を見開き硬直するもククールに「エイト!」と大きな声で呼ばれハッと我に返るエイト

直ぐさま空いた異空間の入口に飛び込もうとするも、物凄い勢いで伸しかかられ顔中舐め回されれば流石のエイトも太刀打ち出来ない

「よしよし…!後で沢山相手してあげるから今はちょっと離れて…!」

ゴロゴロと猫撫で声を上げながら甘えてくるキラーパンサーを退け、消えかかっている異空間の穴に勢い良く飛び込むエイトだが

全く視えない謎のバリアーに強く弾かれ、少しだけエイトが反対側へ飛ばされる

「!…大丈夫か?」

地面に倒れそうになる直後、素早く現れたゲゲ郎にクッションになってもらったお陰でエイトは怪我なく済む


「ありがとうございますゲゲ郎さん、……でも」

シュウウウ…と虚しい音を立てて異空間の裂け目を閉じていく様子をもどかしそうに見ているエイト

「そう急かぬとも、いつかはエイト達の住む世界にきっと帰れるじゃろうて…

今は置かれた現実を素直に受け入れ、地道に解決するのが一番の解決方法だとワシは思うぞ」

「……はい」

しょげるエイトの頭を苦笑しながら大きな手で撫でるゲゲ郎、その眼差しはどこか我が子、鬼太郎に向ける眼差しとよく似ていた


「おーい、エイト…!」

真っ白いキラーパンサーの背中に少々状況が読み込めていない水木を乗せたククールが近付いて来る

「ガウゥ…」

「…ごめんね、さっきは中々構ってあげられなくて」

淋しそうに鳴くキラーパンサーの顔を両手で抱き締め、自らの顔をキラーパンサーの毛に埋めるエイト

「異次元の穴は一時的に開いたみたいだが…どうやらこっちからこの世界へ呼ぶ事は出来ても、こっちから俺達の世界に干渉するのは中々難しいみたいだな」

少しだけ帰れる事をククールも期待していたのか、実に声が残念そうだ


「…あれ? 

そういえば水木さん、顔何だか真っ青ですけど、もしかして動物嫌いでしたか?」

「Σ!い…いや基本的には動物は大好きなんだが犬猫には嫌な思い出しかなくて、少し幼少期のトラウマが蘇ってきて気分が悪くなっただけなんだ

大丈夫…もうすぐ元に戻るから心配しないでくれ」 

「…そうですか?なら良いんですけど」

額に軽く手を当てながら苦笑する水木をエイトは自分事のように心配するも、ククールとゲゲ郎はまるで他人事、その証拠にゲゲ郎は


「余程過去に犬猫で嫌な思いをしたみたいだのう水木
しかしコヤツは見掛けによらず中々人懐っこいぞ?」

ゲゲ郎がキラーパンサーの眼前にそっと手を差し出せば、長い舌でベロベロと舐めるキラーパンサー

「はははっ、初い奴よ…!エイト、ククール…コヤツはお主らの使い魔か何かか?」

キラーパンサーの舌で手を舐められれば、擽ったそうに身をよじり、実に楽しげに笑うゲゲ郎


「使い魔というよりは俺達の旅仲間って言った方が近いな、俺達自身の足で行くのが困難な場所にも簡単に連れて行ってくれるし、野宿生活が基本の根無し草な俺達を陰ながら支えてくれる心強い存在って所だな

ほらゲゲ郎のオッサンも何時までも遊んでないで早くコイツの背中に跨がれよ」

「……あまり動物の背に跨る習慣がないからのぅ、不思議な感覚じゃ」 

「よし、それじゃ飛ばすからキラーパンサーの背中から振り落とされないように、しっかり掴まってな…!」 

エイトを小脇に抱え先陣を切るククールの合図と共に、キラーパンサーは吠える、それと同時に地面を思い切り蹴り上げ、風を追い越し爽やかに疾走する  


慣れたエイト達は久々の爽快感に懐かしさを覚え、慣れない水木は「あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!死ぬ!落ちるから止めてくれぇええ!!」とキラーパンサーの体に全力でしがみつきながら断末魔の叫びを上げる

対してゲゲ郎は初めての感覚と体験に歓喜の声を上げ、キラーパンサーの背中で絶妙なバランスを取りながら楽しそうに跨り乗っていた


「これは中々出来ぬ貴重な体験よ、何と面白い…!揺れる度に伝わる振動がクセになりそうじゃ…!」



そして数分間走って行くと、キラーパンサーの背中で青ざめていた水木がプルプルと真正面の家を指差す

それを合図としてエイトがキラーパンサーにストップをかける



「ぜぇ……ぜぇ、……あー……本当死ぬかと思った

見知らぬバアさんが三途の川の先で、俺を手招きしている光景すら鮮明に見えたぜ…」

ズルリ…とキラーパンサーの背中から地面に滑り落ち、地面に潰れたカエルみたくへばる水木

「吐きたかったら吐いても良いですよ、水木さん
その方がきっと楽になれますから」

水木の背中を優しく上下に擦りながら介抱するエイトを横目にククールはというと、初めて見る日本の古き良き作りの家に盛大な口笛を吹く



「〜♪、これはまた不思議な作りの建物だな」

「ここがワシと水木が暮らす家じゃ
中々立派な建物であろう?」

「何だか全く見た事ない作りで出来てるから、どう反応していいか分からねーけど……凄いな」

「はっはっは、素直な奴はワシは好きじゃぞ?」

「Σて…っ!

急に物凄い力で背中叩くなっつーの、ビックリすんだろ、ゲゲ郎のオッサン…っ

……あ〜……、野郎に好きって言われても別に嬉しくねぇけど、…どーも」

「良いではないか、良いではないか」

上機嫌のゲゲ郎に強く肩を抱かれ、鬱陶しそうに反対側に顔を背ければエイトと目が合う


「(しめた…!)エイト、助けてくれ…!」

目でSOSサインを出すも、ニコリと可愛い笑顔で「頑張って」と返される

それにククールは「裏切り者!」と声を張り上げ内心「今夜覚えてろよ」と思ったそうな



「あー、ありがとうなエイト君

優しく介抱してくれたお陰で大分体調が良くなったよ、今夜お礼でもさせてくれ」

「君慣れしてないので、エイトで良いですよ水木さん
、貴方のが僕より年上ですし

!そ、そんなお礼なんて…大した事なんて何一つしてないのに」


「!…そうか、なら遠慮なくエイトと呼ばせてもらうよ、改めて短い期間になるがよろしくな

いや色々と助けて貰ってこれでも感謝しているんだ、是非お礼させてほしいんだが駄目かな…?」


バンダナ越しから頭を水木にポンポンされながらエイトは暫し考える

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