広がる輪


「………一体ここ、は……」

サザンビーク西付近で一夜を野宿して過ごしたエイト一行

しかし今朝方、あまりの寒さに身を捩りながら起きてみれば、まず初めに一番驚くは、一面の銀世界、見渡す限りの白、白、白…!

「何時の間に僕達サザンビーク近辺からオークニスまでルーラで移動してたんだ…?」

自分の腰を抱き枕みたくギューと掴み、全く離れない恋人ククールの両腕をエイトは静かに解き、一人深い雪の道を歩き周りを探索する

「オークニスにしては随分と静か過ぎるような…周りは見た事もない錆びれた建物ばかりだし

…それにどれだけ歩いても、一向に魔物達の出て来る気配が無い…」

誰か近くに人でも居れば聞けるんだけど…と一人物思いに更けていると、背後から聞き慣れた声と共に抱擁されるエイト


「エイトくぅーん…?

いきなり見知らぬ地に一人置き去りにされると、ガラスのハートの持ち主である俺は死んじゃうんだけどー…?」

「あ、おはようククール、よく眠れた?

ごめんごめん、あまりに気持ち良さそうに寝てたから起こすの悪いかなと思って一人探索してたんだよ

でも、ククールの周囲に軽くギラを詠唱しておいたから、そんなには寒くなかったでしょ?」

ククールのサラサラな髪の毛が、真上から顔中に降り注ぎ非常に擽ったいのか小さく笑いながら会話を続けるエイト

「そーゆ問題じゃなくて、お前が居ないと、いくら火の呪文を唱えたって、身体は温かくなっても心は何時だって極寒なの

だから俺を死なせたくなかったら、なるべく俺なしでの単独行動は極力避けるよーに」

「……ふふふ、本当に君はウサギみたいな人だね

あ、見た目も雪ウサギっぽいか、サラサラな長い銀髪に人形みたいに綺麗な顔立ちだもん

それに一人で長い事いると、淋しくてあっという間に死んじゃう所も瓜二つだしね」

「一つ訂正

基本ゼシカやヤンガス、王様達と一緒に居てもエイトが俺の側に長い事居なきゃ俺は死にますー…」

エイトの肩に軽く顔を押し付け、鼻先をグリグリ押付けるククールを内心「甘えん坊のトーポみたいだ」と、苦笑混じりにククールの頭をエイトが優しく撫でていた矢先

近くの積雪山の反対側から、何人かの会話がボソボソと聞こえた


「Σ!

嗚呼、丁度良かった…この場所に住む人達かもしれない。すいませーん…!」

「待った」

自分達以外の気配をククールより早く察知したエイトが、その気配を感じた場へ行こうとした瞬間

腕をククールに強く引っ張られ、近くの茂みに引っ張られるエイト

「痛いってばククール、ちょっと手離してって…

何で止めるのさ、ここがどこか聞かなきゃ僕らこれからどうするべきか分からないでしょ…!」

しーっと自分の唇に人差し指を立てながら、エイトに喋らないよう静止を促し小声でコソコソと話し始めるククール


「相手がどこの馬の骨かも分からない以上、見知らぬ土地にマジックポイントも完全回復していない状態で
飛び出ていくのは、いくら俺達パーティーの中で一番強いエイトでも危険過ぎる

とりあえず今はお互い気配を殺して、そいつらがどんな奴らか様子見だ。それから行動したってバチは当たらないだろ…?」

「…確かにククールの言う事も一理あるね、分かった暫く様子見しよう」

「いい子だ」

雪で完全に冷えたエイトの右頬に軽く手を添え、触れるだけの優しいキスを落とすククール

その直後、予想以上に近い距離で年寄りじみた口調で話す男と、それとは正反対のガラの悪そうな中年男性っぽい二人の会話が聞こえてきた


「ほぉ…、昨夜は随分と底冷えすると思うておうたら、ワシの想像以上の雪が積もったみたいじゃの

何とも見事な雪景色じゃ、のう…?水木よ…__」

白髪で片目を隠した藍色の着物の長身の年寄り臭い話し方をしている男が、未だ空から降って来る雪を手で至極嬉しそうに受け止めながら真隣で煙草を吹かす「水木」と言う男に声をかける


「…確かにこんな一面雪景色なるたぁ、俺も全く思ってなかったぜ

雪が止んでいたら、鬼太郎達も連れて来てやりたかったけどな」

「うむ、それは同感じゃな

しかし、いつ止むか分からぬ寒空に幼き倅と病弱な妻を連れてはこれまいて…」


「…何だか不思議な雰囲気を持った人達だと思わない、ククール?」

気配を殺したままククールに背を向ける形でヒソヒソと話すエイトに「野郎はあんま興味ねーんだけど」と気怠そうな態度でエイトの背後から二人を覗くククール


「…何だ、別にあんな格好くらいしてる奴ら旅先で見ていてるだろ?

あの地味な色合いの着流しは東の国の服の一つだろうし、もう一人の顔に縦傷がある強面な奴のスーツはよく見るじゃねーか 

別にどこも不思議な雰囲気なんて俺は感じないけど?」


「誰も服装の事なんて言ってないよ、あの人達…特にあの藍色の着流し…?っていうのを着てる人の方

何だか魔物…みたいな雰囲気はないけど、人間とは言えない独特な空気を静かに一人放ってるような……って、ククール、君何してるの…?」

いつの間にか視界が見知らぬ二人から曇天と降り続く粉雪に変わっており、年中発情期のククールに冷たい地面に押し倒されて組敷かれたなと一発で察するエイト

「〜♪…何って大体この後、俺が何しようとしているか一番良く知ってるくせによく言うぜ 
  
あんまりにも真っ白な雪景色に色白なエイトが映えるからさ、ついヤリたくなっちゃってさ

な、アイツらに絶対バレない様に細心の注意払うから一回だけ良い?……エイトが欲しいんだよ、今直ぐに」

いそいそと自分の長い髪を一つに結っている黒いリボンをシュルリと外し

素早くエイトの上に跨り聖堂騎士団の真っ赤なマントと上着を鼻歌混じりに脱ぎ始めるククールの口元を力一杯動く片手で塞ぎ、組敷かれた状態でも両足を必死にバタバタさせ、真っ赤になりながら全力で抵抗するエイト


「Σ!、な、何馬鹿な事言ってるんだよ…!

二人っきりの宿の寝室や完全に人目のない辺鄙な場所なら未だしも、物凄く近くに人が居るのに白昼堂々君と、そんな恥ずかしい事出来る訳ないだろ///!?」

激しい羞恥心からか手汗が滲み出す自分の口元を固く塞ぐエイトの手を、ねっとりとした舌使いでククールが舐めれば少しだけエイトの肩がピクリと跳ねる

「…っ!、だか、ら……待っ……」

「(エイトの身体はどこをどう触って舐めると反応するかは、開発済みの俺がエイト自身より知ってるからな

あーあ涙一杯目に溜めちゃって、可愛い奴…)

おやおや…俺の口を押さえていた手離しちゃっていーのかエイトくん?抵抗しないんなら、お兄さんが好き勝手食べちゃいますよー?」

熱い吐息が何度も上がるエイトの口元から人差し指をツツツ…と滑らせ、顎下に指が届けば軽くエイトの顎を持ち上げ自分と向き合わせる

「…返答がないって事は、美味しく頂いちゃって良いって取るぜ?では、頂きまーす」

エイトの唇にククールの唇が後数ミリで触れる距離に差し掛かった瞬間、エイトから堪忍袋の尾が切れたブチっと言う音が聞こえる

そのブチっという不可解なの音に、一瞬ククールの動きが止まった隙を見計らい、エイトはククールのもう一人の息子を思い切り足蹴りし無茶苦茶大きな声で怒鳴った

「いい加減にしろって、さっきから言ってるでしょーが!!!この万年発情期ーっ!!!」

「Σ〜っ!!!………ぇ、エイト……ぉ…前、そんなに俺の事が嫌、い……かよ」

言葉にならない尋常ではない激痛にプルプルと身悶えつつ、地面に情けなく平伏した体勢で、反対側を向き激怒するエイトに話しかけるククール

「もうククールなんて知らないよ…!少しその雪で頭と元気過ぎる下腹部冷やして反省してたら」

腕組みしながらフン!とそっぽ向き、普段以上に冷ややかな目で見下ろしドきつい発言を落としてくる恋人エイトにトホホ…となりながら意気消沈するククール


「………お主ら一体何者じゃ、ここいらでは見掛けん風貌じゃが…」

いつの間にか側にいた白髪の長身男に怪訝そうな表情で話し掛けられれば、エイト達は声を揃えて「「…あ」」と間抜けな声を一つ

…数分前に計画していた作戦は、この場で綺麗に泡とかした


見知らぬ男達と、暫し無言で見つめ合う時間が続く

重過ぎる空気に耐えかねて先に口を割ったのは、エイトであった

「…すいません、決して僕達は怪しい者ではないんです

只々ここが何処だか分からなくて

…今さっきここへやって来た貴方達に話し掛けるタイミングを気配を殺し測っていたら、こんな居心地の悪い出逢い方になってしまっただけで」


腰下辺りをトントン叩きながら静かに起き上がるククールを後ろに残し、エイトは自分達に話しかけて来た
人物の元に歩み寄りペコペコと頭を下げる

すると長身の男よりも先に、煙草を口に加えた強面風の男が慌てた口調でエイトに話しかけて来た


「いやいや、別にアンタらは俺達に謝るような事は何一つしていないじゃないか、…とりあえず顔を上げてくれ」

「は、はい…」

「それにしても奇妙な話だな

ここが何処だか一切分からないなんて…失礼な事を言うかもしれないが単に寝ぼけているだけとか、そんな風ではないのか?」

エイトの旅人服が非常ーに物珍しいのか、その男はエイトを足元から頭のてっぺんまでマヂマヂと観察する

それを静止するかのように、着流しの男が出ずっぱる

「水木…お主は下らない人間の価値観で全ての物事を考え過ぎじゃ

以前も申したように心の目を使って全ての物事を視るのじゃ、コヤツらの場合もどちらかと言うと不思議な怪奇に巻き込まれた側の存在だろうて…」


「て事は、数ヶ月前に俺達の知らない世界から来たとか言っていたアイツらと同じ類いなのか、コイツらも…!

……はぁーっ!一体全体この場所は、どうなってんだよ…」

煙草を加えていた男は急に自らの頭を引っ掻き回しながら溜息をつき、その場に屈む

「恐らくワシら幽霊族の力が、霊が集まりやすいこの土地と共鳴し、異世界と繋がれる【霊道】或いは【鬼門】を開いたり閉じたりと繰り返しておるのじゃろう

…コヤツらから微量ながらワシが感じるのは、正しく神隠しにあった者達という事だのぅ…」


「神隠しって僕、王様から少し聞いた事があります 

慣れ親しんでいた世界から急に自分自身の存在が消えてしまって、あたかも神という存在に連れ去られたか隠されたかみたいな意味だったような

それに僕達が該当すると、貴方達は言いたいんですか?」

神妙な顔つきで話している二人の間を無遠慮に縫い、話しの間に割って入るエイト


「これまた話が早い、…お主愛苦しい顔をしておるのに中々頭のキレが凄い

うむ、人間ではない存在のワシが言うのじゃ間違いない

それに先程お主が述べたように、夜眠りに落ちた場所と今朝方起きて見た景色は全く別物だったのであろう…?

それが神隠しを証明する何よりの証拠じゃ、以前ワシらの知らぬ世界からここへ来た奴らも同じように過程を踏んでおるしの」


「エイトです、良かったらお見知り置きを

それであそこで無残に転がっているのが仲間のククールです

…はい、確かに目を覚ましたら僕達の知っている雪国のオークニスではなかったし、普段は邪魔な程に見るモンスター達も一匹もいないし

周りには見慣れない建物ばかり、…確実とは言えないけれど、僕も直感で何らかの理由で知らない世界に迷い込んでしまった気がします

前例があるのなら尚のこと真実味がありますし…」


自己紹介と握手を求めてくるエイトに、着流しの男も手を握り返し、握手に応える


「(仲間に対しての扱いが多少は気になるが、コヤツの愛情表現か何かじゃろうか…?)

ワシの名はゲゲ郎、ワシの真横におる男に付けて貰うた名じゃ、好きなように呼んでくれ…」 


「そして、そこのゲゲ郎から軽く紹介があった水木だ

長い付き合いになるか短い付き合いになるかは分からんがよろしく頼む、エイト君に…ククール君だったかな?

あまり日本では聞かない名前だな、どうやって書くんだ?」

ゲゲ郎と握手をした後、流れるように水木とも挨拶し、名前を紙にどう書くのかを聞かれればエイトが髪を一つに結い終えたククールを呼ぶ
 
「ねぇククール、君の方が僕より文字書くの上手いだろ?水木さん達に書いてあげてくれない?」

「…はぁ、野郎の頼み事なんざの為に動きたくねーけど他ならない可愛いエイトの頼みだ、聞いてやるよ」

「へへ、ありがとうククール…」

渋々エイトの横にやって来て地面に向かって屈み、綺麗な手付きで筆記体をスラスラ書いていくククール

そんな真剣な眼差しのククールの腕に自分の腕を絡ませ、ニコニコしながら幸せそうにくっついているエイト 

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