籠の中の鳥
イメージ曲 KingGnu「白日」
新たな仲間、ククールをパーティーに加え
ふと振り返れば早一ヶ月が経とうとしていた
当初は「良い人」の仮面をつけていた彼も
大分このヘンテコパーティーに馴染んだか
今は自らの意思で偽りの仮面外し
何も飾らない「素」の性格を出し始めていた
しかし今度はある程度「素」を出していたエイトが「ククールに好かれる人」を演じ始めてしまっている
そんな風に彼がなったのは、彼の歓迎会終盤に起きた
あのポッキーゲームの後の事故に全てはある
互いに酔っ払っていたから、あの場の流れで自然と口づけ…という不慮の事故になっただけかもしれない
しかしその割にはククールの意識はハッキリとあったかのように、エイトには思えて仕方なかったようだ
酔っ払ってる割に全ての動作に力が入っている感じ、彼の目は「獲物を狩るハンターそのもの」になっていた…らしいのだ
「ははは、でさその時のアイツらの顔が傑作でさ…」
「どうせアンタの事だから更に大事にしたんじゃないの?
何か揉め事とか好きそうに見えるし」
「アッシはゼシカの逆を突いて、ククールが助け舟かなんか出したんじゃねーのかい?」
「ぶっぶー、どっちも不正解
確かに巻き込まれない揉め事は大好物だが、手助けすると面倒臭そうだったから、傍観者一択だったよ」
「うわ、アンタやっぱり見かけ通り最低ー…!」
「でがすな」
「状況によって効率良く動く策士と言ってもらいたいね」
「何キメ顔しながら格好つけてんのよ、馬鹿」
ゼシカ達と和気あいあいと談笑しつつ朝食を済ますククールを、少し離れた場所から拗ねながら見るエイト
「…何だよ
人が大事に取っておいたキスをあんなゲームで奪っておいて、した理由すら適当に誤魔化すなんてズルいよ
あの事故のせいで僕はよく分からないまま君を意識しちゃって、あの日から君にどう接すればいーのか分からなくて困ってるのに」
側にある株の上に重い腰を下ろし、溜息をつくエイト
「…やれやれ
そんなに溜息ばかりついておると幸せが逃げると、昔から口を酸っぱくして、お主に教えんかったかの?」
「……トロデ王」
朝食を持ちやって来たトロデを力なく見つめるエイト
「ほれ…少しでも食わんと力が出んぞ、エイトよ
ワシに言える悩みであったら抱え込まず相談せい
一人で塞ぎ込むよりも、誰かに話した方が少しは胸の中のつかえが取れて楽になるじゃろうて」
「……実は」
モヤモヤである原因をポツポツとトロデに話し始めるエイト、時折トロデは静かに相槌を打ちながら話を聴く
「なるほど…それでククールの本音が分からず
どう接すれば良いか悩んでいると」
「はい、あの日の夜から全然自然体で彼と話せなくて
きっと感の鋭い彼の事だから、僕がさり気なく避けてる事も薄々気づいてると思うんです
頭では相手に失礼な態度だと分かってるのに
どうしても直せなくて…__」
パン切れを頬張りながら遠い空に思いを馳せるエイト
「…少なからずアヤツもお主同様に、自分自身の想いを明確に口にするのが苦手なタイプだと感じるがの」
「…え?」
「アヤツがお主に対し「したくなったから」という答えが、今のククールの精一杯の本音だと解釈してやれば、少しはお主も楽になるのではないか…?
ワシが思うにアヤツはお主に対して人一倍の興味は抱いておるし、嫌悪感も抱いておらぬ」
「そんな考え方は…正直浮かびませんでした」
「うわっはっはっは!
エイトお主は物事を後ろへと取りすぎなんじゃ
完全なる前向き思考も危ないが、少しは前向きにならんと、後向きな性格になってしまうぞ」
エイトの背中を豪快に叩きつつ大口を開け笑うトロデ
ひとしきり笑い終えると今度は穏やかに空を見上げる
「それにもしワシが今のククールの立場じゃったら…
興味がある相手に避けられたり、素の状態を隠して無理に接しられると、胸が苦しくて…悲しくなるのう」
エイトを見ながらニカッと笑うトロデ
「!…王様」
「今すぐにククールに対して態度を戻せとはいわん
徐々にでよいから普通に接してやれ、さすれば元の鞘に自然と収まるじゃろうて……大丈夫じゃ」
二人の会話が上手くまとまりかけた瞬間、音も気配もなく姿を現し、背後からエイトに抱きつく影が一つ
「流石、俺の知らないエイトを知ってるトロデ王
コイツのどこをどう、つっ突けば元気になるのか
ここにいる誰よりもよぉーくご存知のようで…__」
物凄く無邪気な笑顔で、トロデに毒吐くククール
そんなククールの腕をバシバシ叩き藻搔くエイト
「…!ちょ…っとククール…僕の首に回してる腕の力
…強過ぎる、よ、少し加減して…」
「お前は少し黙ってろ、…んだよ
俺はあのゲーム以来避け続けてたくせに、拾ってもらった王様には可愛く尻尾まで振るんだなエイト君は」
「!あれは君がゲームで僕にキスした理由をうやむやにするから、ギクシャクするしかなかっただけだろ…!」
「俺だって、あの時は頭で考えるより体が先に動いたから上手く説明出来なかったんだって前にも言っただろ…!何で俺の気持ちが分かんねーんだよ…っ!」
「そんなの君自身じゃないんだから僕だって
君の気持ちに寄り添うのにも限界があるよ…!
そーゆ君だって、僕の本心が
僕以上に分かるっていうの!」
犬も食わない口喧嘩を延々と続けるエイトとククール
そんな二人を見つつ、トロデは盛大な溜息を一つつく
「エイトと仲良く話していたワシに
嫉妬していたのじゃろうが、お主は
だったらその怒りを向ける相手はエイトではなく
普通に考えたら、ワシではないのか…?」
余裕満々な顔でトロデが彼に尋ねれば
顔を背け沈黙を決め込むククール
「……悪りぃかよ、嫉妬全開にして」
「青春…__実に若いのぅ」
そんなククールの態度に一番驚いたのは意外にもエイトであった、正に開いた口が塞がらない状態である
「(あの女性にしか興味ない女ったらしのククールが
男である僕に興味を示してくれて嫉妬しているなんて
…夢みたいだけど何だろう、凄く…嬉しい)」
「素直で結構
しかし先程話してた事は全てお主関係の事なんじゃが
…それを聞いてもまだエイトに八つ当たりをし
無益な嫉妬を、ワシに抱き続けるのか?ん?」
「……っ」
「ほれ
いつまでも下らない口喧嘩は止めて、仲良く朝食でも口にしながら仲直りでもせい、人間素直が一番じゃ」
先程持ってきた朝食を、エイトに適当に手渡すと
談笑するゼシカ達の元へ足早に帰っていくトロデ
「…全く世話が焼けるわい」
「食べ物を無駄にする訳にはいかないし
まだ何も食べてないから僕は食べるけど
……良かったら、君もどう?」
「…顔背けながら朝食に誘われてもな
味気ねーつっか、何というか…んー…」
「……別に君を避けたくて避けてる訳じゃないんだ
あのキス事件以来、何でか物凄く君を意識しちゃって、まともに顔も見れなければ面と向かって話す事も今は上手く出来ない…
でも何とか時間をかけて普通に接しられる位までには努力するから、少しだけ僕に時間…くれないかな」
爽やかな風が、ブワッとエイトの髪を心地よく乱す
隠れていた顔が露わになれば赤くなり戸惑う彼の顔
「…!(あの事件以来こんな俺の事を意識してくれてるとか、どんだけ単純…てか、ヤベェ正直嬉しい)
…ん、分かった、なら首を長ーくして気長に待つよ
そんな顔してるお前が嘘ついてるとは思えないし」
「あはは、もともと嘘つくの向いてないからね
でもありがと、おかげで少し肩の荷が下りたよ」
「ほら、まだ朝食ってねーんだろ?
食わなきゃいつもの馬鹿力戦闘中に出ないぜ?」
「何だよ馬鹿力って、とりあえず頂くよ
…うん、野菜が凄く新鮮でハムもチーズも美味しい
今朝の朝食当番って誰だったっけ?」
「朝食当番自体はゼシカだったけど正直あまり美味くなかったから、お前の分だけ俺が作り直したんだ」
「あ、酷いなぁ…ゼシカにバレたらククール
メラミで思い切り焼かれちゃうよ」
「そりゃー全国のレディが悲しむだろうな、何たってこの美貌が焼かれて台無しになるんだから
って事で、作り直した件は俺とお前の秘密な?」
「はは…、実に下らない秘密だけど分かったよ
君の生死に関わる事だもんね」
「ふは、そーゆ事」
風に靡く草の絨毯に隣同士並び座り
互いの顔を見ずに弾む不思議な会話
暫しククールとエイトはこの時間を思う存分楽しんだ
そして、一時間後…__
「それじゃ、今日の予定を話すね
今日はいつものモンスター狩りとは違って、とある街の酒場でアルバイトをしてもらいまーす…!
勿論トロデ王とミーティア姫は論外だけど」
「「「………はぁ?」」」
ここから少し歩いた先にある街なんだけどね?、と
地図を指差しながら説明するエイトに噛みつくゼシカ
「ちょっと待ちなさい、エイト…!
アルバイトは良いとしても何でこんな唐突に言うのよ、それに酒場って…!どうせ私にバニーガールやれって頼む魂胆でしょ!」
エイトの胸元につめ寄り両肩を激しく揺さぶるゼシカ
「う゛…っ、ま、待ってゼシカ…お腹一杯の時に激しく揺さぶられると気持ち悪い……は、吐いちゃう…」
「Σあ、あああ兄貴ぃ!
やいゼシカっ、アッシの兄貴に何すんだ!
きっと兄貴は兄貴なりに何かお考えがあって提案してるんだから、少しは黙って話聞けよ!」
「〜っ
だってあんな露出だらけのバニーガール衣装よ!
私があれ着たせいでお嫁にいけなくなったら
一体全体、誰が責任取ってくれるのよ!!」
「…ふ、もし君がお嫁にいけなくなったら俺が責任を取って君の旦那になってあげても構わないんだぜ?」
プチパニックを起こすゼシカを顎クイしながら口説くククールだが、激しいビンタと共にフラれるククール
「アンタなんか絶対お断りよ…!!アンタと結婚するならそこらのゴキブリと結婚する方がマシ…!」
「うわっ、ひでぇ…」
「わははははっ!!」
トロデ王に限っては馬車の中でゼシカに思い切りフラレたククールを見て、激しく笑い転げる始末、中々にカオスだ
「ゼシカ…
いきなり提案したのは悪いと思ってるよ、ごめん
でも、最近モンスターも強くなってきているし、僕達もより良い防具と武器で戦いに望まないとパーティーが全滅する可能性だって0とは言えないんだ
酒場を選んだのも四人で一晩働けば一番お金が入るからで、決して君への嫌がらせではない事は分かってほしいんだけど…駄目かな?」
「うっ…そんな捨てられた子犬みたいな目で見つめながら私の手を握りしめないでよエイト、は、反論できなくなるじゃない…」
「ゼシカお願い…」
「もーっ、分かったわよ…!!
やればいいんでしょ!やれば!」
「やった!
じゃ、ゼシカはこのバニーガールの服…これね
で、ククールはこのバーテン服を着てくれる?
君達は、物凄く容姿端麗の美男美女だから
仕事中はとにかく客引きしてもらわないと
僕とヤンガスはマスコットを着てビラ配りをメインに担当するから、街についたらすぐに着替えてね
ヤンガス、君は僕と二人で気楽にビラ配りしようね」
「兄貴の為ならアッシ地獄の果てまでもお供致しやすでげすよ…っ!
ちなみに兄貴なら強いライオンとかのマスコットとか似合いそうでがすなー!」
「もー、買いかぶり過ぎだよヤンガス
僕は、そんな強い動物とは程遠いよ」
「またまたご謙遜を〜!!」
ヤンガス達は先陣を切る馬車に並行し、街へ向かう
「やられた…っ!」
やると言った瞬間「待ってました」と言わんばかりに元気になったエイト見て愕然とするゼシカの肩をククールが叩く
「まーま、エイトもナイスバディで美人なハニーを買って大役を任せたんだと思うぜ、だから胸張りなよ
ま…時折容姿端麗な俺達への皮肉をタップリ込めた嫌味を言ってきたのは、なんか釈然としないけどな」
渡された高級生地のバーテン服の手触りを楽しみつつ、これから一夜やる仕事に意外にもククールはノリ気の様子
「エイトも綺麗系ではないけど、結構男の子にしては可愛い顔してるんだから自信持てばいいのにね
何で美男美女をあそこまで静かに憎むのか
たまに私、理解に苦しむ時があるわ
それにしても意外だわ
こーゆ仕事にアンタがノリ気なんて」
「…俺達の知らない昔に何かあったんじゃねーの?
ま、あくまで俺の勝手な推測だけどな
あぁ、昔遊ぶ資金貯める為に近場の酒場やカジノ街で夜の仕事をアルバイトしてた時期があったんだよ
だから何か懐かしいなーって感じからか
珍しく、俺自身…ウキウキしてきてさ」
「昔のエイトを知れないのは…少し悲しいわね
…ぷっ、でもアンタってやっぱり神に仕える僧侶より性欲渦巻く夜の仕事のが絶対に向いてるわよね、あはは!」
「ふはっ、…ま、今回は素直になれないハニーの褒め言葉として受け取っておくよ」
「…はぁ、本当能天気な思考回路してるわね、アンタって、一度で良いからこの手でアンタの頭の中覗いてみたいわ」
「ハニーになら大歓迎だね
でも覗いた所であるものは、今まで口説いたレディの情報と女性を口説き落とすマニュアルくらいしか入ってないぜ」
「一気に好奇心失せたわ」
夫婦漫才みたいなボケツッコミする二人を
少し離れた場所から、エイトが大声で呼ぶ
「二人共早く早くー…!
街に着いたから今予約取った宿ですぐ着替えて…!
酒場の仕事開始は、今からもう一時間もないから!」
「それじゃ、ゆっくりシャワーも浴びれないじゃない
せっかくバニーガールやるなら気合い入れてやろうと思ったのに〜…!」
「気合い入れても入れなくても、ゼシカはゼシカなんだからアッシはそのままでも良いと思うんですがね」
「女心が分からないアンタは黙ってて!」
「痛てぇ!!」
ヤンガスの素頭に力一杯ゲンコツをお見舞いした後、ゼシカは豪快な足音と共に二階へ上がっていく
「たく、あんな凶暴なジャジャ馬娘、嫁の貰い手なんざ一生かかっても現れないに決まってらぁ」
馬鹿デカいタンコブを擦りながら、涙目で悪態つくヤンガスを苦笑気味に見つめるエイト
「元山賊のヤンガスなら
ゼシカをお嫁さんに貰っても大丈夫じゃない?」
「Σ!笑えねぇ冗談はよして下せぇ兄貴…!
いくら美人でナイスバディのゼシカでも結婚して
一生尻に惹かれる惨めな生活はごめんでがすよ…!」
「あはは、冗談だよ冗談」
「…全く兄貴もお人が悪いでげす」
「あーあ…
盛り上がってる所に水を差すみたいで悪いんだが、早く支度しねーと、お前ら着替える時間なくなるぜ?」
ヤンガスとエイトの肩を抱きながら
顎先で近くの鳩時計を見るよう促すククール
確かに、彼が指摘した通りに
残り時間は三十分もなかった
楽しい出来事や場面というのは
時間が経つのが嘘みたいに早い
「!ヤベェ!本気で急がねーと時間なくなっちまう!
兄貴マッハで着替えるでがすよ!」
一足先にバタバタと部屋へ駆け上がってくヤンガス
慌ただしい彼に続いてエイトも上がろうとした矢先
エイトの華奢な腕を、すかさず掴むククール
「……ククール?」
「お前のマスコット姿ちょっと期待してる」
照れ臭そうに呟くククールに思わず吹き出すエイト
「ふふ、…うん期待していて
君好みの可愛い動物マスコット選ぶから
僕も普段よりも綺麗にキマってる君を見るの
凄く凄く期待してるよ、…こっそりとね」
「…あぁ
お前が骨抜きになるくらい格好良くバーテン服
着こなしてやるから、首洗って待ってろよ」
彼の鼻に指を突きつけながらウインクするククール
「!いちいち無駄に格好良いんだよ君は
後人を指でささない…!行儀悪いからっ」
「はいはい、分かりましたよリーダー様
…じゃ、また数十分後にな?」
「うん、また後で」
「兄貴、エイトの兄貴…っ!!
仕事先のマスター無茶苦茶気前良いでがすよ!
見て下せぇ、この質の良いマスコットの山!!
アッシ意外と可愛い物には昔から目がねーんすよ!
ささ、まずは兄貴のマスコットを選びやしょう!」
「ちょ、わ、分かったからヤンガス落ち着いて…!」
部屋に入ると同時にヤンガスに腕を引っ張られて
バランスを崩しかけるも、何とか体勢を立て直す
「……うっわぁ…!
確かに物凄く力が入った可愛いマスコットばかりだね
動物以外のモンスターまでもある、スライムまで!」
少年みたく目をキラキラさせマスコットに
笑顔でギュっと抱きつき頬ずりするエイト
「へへ、兄貴が気に入ってくれて良かったでがす
アッシは好きなこの動物でいかしてもらうでがす!」
「………え?それ動物……なの?」
「?違うんでがすか?」
「…多分、生き物ではあると思うけど
…動物ではないんじゃないかな?
で、でも、ヤンガスが好きなら
それはそれで素敵だと僕は思うよ」
約十分後、皆満足いく仕上がりになったのか
ほぼ同時に部屋の扉がゆっくりと開閉された
「…や、やっぱりこの服は私にはピチピチじゃない」
大事な部分が見えそうで見えない…そんな男のロマン
チラリズムを突いた、バニーガール姿のゼシカが登場
たわわに実った大きな胸と形良い弾力あるお尻、そして美しく引き締まったクビレというワガママボディーを、今にもはち切れん衣装に無理矢理押し込んでいる
激しい羞恥心に狩られながら目線を泳がせ続けている
「こんな格好で数時間酒場で仕事なんて、恥ずかしいったらないわ…!お母さんが見たら何て言うか…」
プルンと揺れるお尻の先端にあるフワフワのウサギの尻尾とピコピコと揺れるウサ耳がこれまた似合う事
そして肉付きよい太ももに飾られた網タイツも申し分無い
「〜♪、流石ナイスバディの持ち主、ゼシカちゃん
世界各国の美女と遊んできた俺でも落ちそうなくらい
最高にエッロい姿だねぇ、…でも最高に似合ってる」
ゼシカの手を流れるように握り、手の甲に甘くキス
まるで美女と野獣のワンシーンの様に二人絵になる
次に登場したのはシルク製生地の艷めく黒地バーテン服に身を包んだミステリアスな雰囲気を出すククール
髪結う所を普段と変え、毛先で緩く一つに纏めてる、香水も夜の仕事に合うイランイランをチョイス
その甲斐あってか本来の美しさに更に磨きがかかり、冗談抜きにこの様子では来る客全てを虜にしそうだ
「…ありがと、そーゆアンタもその格好似合ってる」
「んふふ、サンキュハニー、…もしかして惚れた?」
「馬鹿、自惚れるのも大概にしなさい」
「ふふ、…素直じゃないねぇ」
今にもゼシカとククールの二人だけのダンス舞踏会が始まりそうな矢先、ククール達のか細い腰にモコモコの何かが巻き付く
「「…な゛!?」」
同時に声が重なり互いに腰付近を見れば、モコモコフワフワの大きな羊のマスコットを着た可愛いエイトと
沢山のカサカサした脚が生えた甲殻類ダイオウグソクムシのマニアックなマスコットを着たドヤ顔のヤンガスが
「「ばぁ〜!!」
「えへへ、二人共動物だとビックリした?」
口元を押さえ「悪戯大成功」と無邪気に笑うエイトの頭を、酷く愛おしいそうに見つめ撫でまくるククール
「…あぁ、無茶苦茶可愛い過ぎてそっちで驚いた
真っ白な羊選ぶ所が何となく無垢なお前らしいな」
「そう?…君にそう言われると嬉しいなぁ
それに君も普段以上に…その大人っぽい色気出ていて凄く…素敵だよ、……ちょっとくっついてもいい?
後この香り…フワフワして気持ちいい…」
「ふは、…羊になったら、酷く甘えたさんだな
イランイラン、周囲を欲情させる香りなんだよ
いいぜ、お気に召すまで俺を堪能しなよ羊様?」
「そんな香り君がつけたら向かう所敵なしだね
…今だけは、わがままな甘えた羊でいさせてよ」
「…Σわ…っ、ててエイト君ちょっと積極的過ぎ」
「ごめん、力入れすぎたかも…」
「発情期か?」
「違うよ、変態」
「ははは、酷っでぇ言い方」
モコモコの羊マスコットの状態で強くククールに抱き着けば、勢い余って床にククールを押し倒す始末
はたから見れば大きな羊が彼を襲っているような実にカオスな光景であるが、少しだけ可愛い
そんな中、真横のゼシカとヤンガスチームでは
こんな激しい攻防が繰り広げられていた
「い゛っやぁあああああああ!!!!」
振動でカサカサ動く脚と甲殻類独特のあの甲羅、そして大の虫嫌いのゼシカは
未だ腰に抱きついているダイオウグソクムシのヤンガスを、力一杯叫びながら壁に背負い投げする
「Σぐほはぁ…っ!!」
ヤンガスの野太い声が音の爆弾になり部屋に木霊する
そしてそのままヤンガスは、暫し三途の川へ逝く始末
その光景を間近で見た二人は「あちゃー」と落胆の声を漏らす
「ちょっとちょっとエイト…っ!
何で貴方がついてたにも関わらず、あんな気持ち悪いマスコット選ぶヤンガスを止めなかったのよ!
どこをどう見たってあんなの動物マスコットな訳ないじゃない!」
バカバカバカ!とエイトの胸叩くゼシカに苦笑しつつ
自分の頬をポリポリと引っ掻き誤魔化すエイト
「だってヤンガスにとっては一応あのマスコットは動物のカテゴリーに入ってたみたいだから、そこに水を差すのはどうも悪い気がしてさ
それよりもやっぱり僕が思ってた以上にバニーガール似合うよね、凄く凄く可愛い」
温かな陽射しみたくホニャっと笑いながらエイトが褒めれば、茹でタコみたく赤くなるゼシカ
「…あ、ありがとう、貴方も羊姿凄く似合ってる」
「…と、そろそろ仕事場に向かおうぜ御三方
冗談抜きに時間がヤベェ…!」
「あー!た、大変だ
早く行かなきゃクビになっちゃう…!」
「ほらアンタもいつまでも伸びてないで早く行くわよ!全く誰がこんな酷い事したのかしら…っ」
「「………」」
酒場にて…__
「えー…
今夜だけ急遽入ってもらう事になったホール担当のゼシカ君、ククール君にビラ配り担当のヤンガス君とエイト君だ、皆仲良くしてあげるよーに」
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
「「「「「はーい…!!」」」」」
歓迎と言わんばかりの拍手が鳴り響く
「では皆、今夜もよろしくお願いします
それで君達の仕事なんだけど、主にホールの仕事は、お客様のオーダーを取ったり料理を運ぶのが基本業務
もし余裕があれば退屈そうなお客様の話し相手をしてあげたり、困っているお客様の場合は私に知らせてくれれば良いから」
「なるほど…中々やり甲斐ありそうじゃない
それに私が思ってたより破廉恥な仕事じゃなくて良かったわ、分かったわマスター頑張ります」
「了解
昔酒場でアルバイトした経験あるから俺にとっては朝飯前だね、ま、パパッと華麗にキメてやるよ」
自信満々余裕タップリに言うゼシカ達に店長もご満悦
「いやぁ、頼もしいねぇ…!
今夜は君達のおかげで売り上げも凄いことになりそうだよ、売り上げ金良かったら報酬も勿論弾むからね
それでビラ配りの君達には、この2割引クーポンがついたチラシを酒場近辺でバー好きそうな人達に配り歩いてほしいんだ
寒いとは思うけど休憩時間には温かい賄いと暖房の部屋をプレゼントするから、頑張ってくれるかい?」
「勿論です、それが今回の僕らに任せられた仕事なら責任を持ってありがたくお受け致しますマスター
今から四時間どうぞよろしくお願いします」
エイトがメンバー代表し深々と頭下げ、握手をマスター求めれば丁寧に返してくれる
「誠実な青年だよ君は、将来は有望になりそうだ」
「いやいや、そんな僕なんてまだまだですよ
それじゃ皆、新しい武器と防具の為頑張ってくよ!」
「「「おーっ!!」」」
「〇〇酒場でーす、本日全てのお酒から飲み物まで2割引クーポンをつけたチラシを提供していまーす!」
「小さなお子さんも大好きな食べ物も沢山ありますから良かったら寄ってってくだせぇーでがす!」
「なんだなんだ…?」
「何かのイベントかしら?こんな何もない時期に…」
街の中央広場…
一番目立つ場所で、エイト達は大声を張り上げながらビラ配りに専念していた
新たな仲間、ククールをパーティーに加え
ふと振り返れば早一ヶ月が経とうとしていた
当初は「良い人」の仮面をつけていた彼も
大分このヘンテコパーティーに馴染んだか
今は自らの意思で偽りの仮面外し
何も飾らない「素」の性格を出し始めていた
しかし今度はある程度「素」を出していたエイトが「ククールに好かれる人」を演じ始めてしまっている
そんな風に彼がなったのは、彼の歓迎会終盤に起きた
あのポッキーゲームの後の事故に全てはある
互いに酔っ払っていたから、あの場の流れで自然と口づけ…という不慮の事故になっただけかもしれない
しかしその割にはククールの意識はハッキリとあったかのように、エイトには思えて仕方なかったようだ
酔っ払ってる割に全ての動作に力が入っている感じ、彼の目は「獲物を狩るハンターそのもの」になっていた…らしいのだ
「ははは、でさその時のアイツらの顔が傑作でさ…」
「どうせアンタの事だから更に大事にしたんじゃないの?
何か揉め事とか好きそうに見えるし」
「アッシはゼシカの逆を突いて、ククールが助け舟かなんか出したんじゃねーのかい?」
「ぶっぶー、どっちも不正解
確かに巻き込まれない揉め事は大好物だが、手助けすると面倒臭そうだったから、傍観者一択だったよ」
「うわ、アンタやっぱり見かけ通り最低ー…!」
「でがすな」
「状況によって効率良く動く策士と言ってもらいたいね」
「何キメ顔しながら格好つけてんのよ、馬鹿」
ゼシカ達と和気あいあいと談笑しつつ朝食を済ますククールを、少し離れた場所から拗ねながら見るエイト
「…何だよ
人が大事に取っておいたキスをあんなゲームで奪っておいて、した理由すら適当に誤魔化すなんてズルいよ
あの事故のせいで僕はよく分からないまま君を意識しちゃって、あの日から君にどう接すればいーのか分からなくて困ってるのに」
側にある株の上に重い腰を下ろし、溜息をつくエイト
「…やれやれ
そんなに溜息ばかりついておると幸せが逃げると、昔から口を酸っぱくして、お主に教えんかったかの?」
「……トロデ王」
朝食を持ちやって来たトロデを力なく見つめるエイト
「ほれ…少しでも食わんと力が出んぞ、エイトよ
ワシに言える悩みであったら抱え込まず相談せい
一人で塞ぎ込むよりも、誰かに話した方が少しは胸の中のつかえが取れて楽になるじゃろうて」
「……実は」
モヤモヤである原因をポツポツとトロデに話し始めるエイト、時折トロデは静かに相槌を打ちながら話を聴く
「なるほど…それでククールの本音が分からず
どう接すれば良いか悩んでいると」
「はい、あの日の夜から全然自然体で彼と話せなくて
きっと感の鋭い彼の事だから、僕がさり気なく避けてる事も薄々気づいてると思うんです
頭では相手に失礼な態度だと分かってるのに
どうしても直せなくて…__」
パン切れを頬張りながら遠い空に思いを馳せるエイト
「…少なからずアヤツもお主同様に、自分自身の想いを明確に口にするのが苦手なタイプだと感じるがの」
「…え?」
「アヤツがお主に対し「したくなったから」という答えが、今のククールの精一杯の本音だと解釈してやれば、少しはお主も楽になるのではないか…?
ワシが思うにアヤツはお主に対して人一倍の興味は抱いておるし、嫌悪感も抱いておらぬ」
「そんな考え方は…正直浮かびませんでした」
「うわっはっはっは!
エイトお主は物事を後ろへと取りすぎなんじゃ
完全なる前向き思考も危ないが、少しは前向きにならんと、後向きな性格になってしまうぞ」
エイトの背中を豪快に叩きつつ大口を開け笑うトロデ
ひとしきり笑い終えると今度は穏やかに空を見上げる
「それにもしワシが今のククールの立場じゃったら…
興味がある相手に避けられたり、素の状態を隠して無理に接しられると、胸が苦しくて…悲しくなるのう」
エイトを見ながらニカッと笑うトロデ
「!…王様」
「今すぐにククールに対して態度を戻せとはいわん
徐々にでよいから普通に接してやれ、さすれば元の鞘に自然と収まるじゃろうて……大丈夫じゃ」
二人の会話が上手くまとまりかけた瞬間、音も気配もなく姿を現し、背後からエイトに抱きつく影が一つ
「流石、俺の知らないエイトを知ってるトロデ王
コイツのどこをどう、つっ突けば元気になるのか
ここにいる誰よりもよぉーくご存知のようで…__」
物凄く無邪気な笑顔で、トロデに毒吐くククール
そんなククールの腕をバシバシ叩き藻搔くエイト
「…!ちょ…っとククール…僕の首に回してる腕の力
…強過ぎる、よ、少し加減して…」
「お前は少し黙ってろ、…んだよ
俺はあのゲーム以来避け続けてたくせに、拾ってもらった王様には可愛く尻尾まで振るんだなエイト君は」
「!あれは君がゲームで僕にキスした理由をうやむやにするから、ギクシャクするしかなかっただけだろ…!」
「俺だって、あの時は頭で考えるより体が先に動いたから上手く説明出来なかったんだって前にも言っただろ…!何で俺の気持ちが分かんねーんだよ…っ!」
「そんなの君自身じゃないんだから僕だって
君の気持ちに寄り添うのにも限界があるよ…!
そーゆ君だって、僕の本心が
僕以上に分かるっていうの!」
犬も食わない口喧嘩を延々と続けるエイトとククール
そんな二人を見つつ、トロデは盛大な溜息を一つつく
「エイトと仲良く話していたワシに
嫉妬していたのじゃろうが、お主は
だったらその怒りを向ける相手はエイトではなく
普通に考えたら、ワシではないのか…?」
余裕満々な顔でトロデが彼に尋ねれば
顔を背け沈黙を決め込むククール
「……悪りぃかよ、嫉妬全開にして」
「青春…__実に若いのぅ」
そんなククールの態度に一番驚いたのは意外にもエイトであった、正に開いた口が塞がらない状態である
「(あの女性にしか興味ない女ったらしのククールが
男である僕に興味を示してくれて嫉妬しているなんて
…夢みたいだけど何だろう、凄く…嬉しい)」
「素直で結構
しかし先程話してた事は全てお主関係の事なんじゃが
…それを聞いてもまだエイトに八つ当たりをし
無益な嫉妬を、ワシに抱き続けるのか?ん?」
「……っ」
「ほれ
いつまでも下らない口喧嘩は止めて、仲良く朝食でも口にしながら仲直りでもせい、人間素直が一番じゃ」
先程持ってきた朝食を、エイトに適当に手渡すと
談笑するゼシカ達の元へ足早に帰っていくトロデ
「…全く世話が焼けるわい」
「食べ物を無駄にする訳にはいかないし
まだ何も食べてないから僕は食べるけど
……良かったら、君もどう?」
「…顔背けながら朝食に誘われてもな
味気ねーつっか、何というか…んー…」
「……別に君を避けたくて避けてる訳じゃないんだ
あのキス事件以来、何でか物凄く君を意識しちゃって、まともに顔も見れなければ面と向かって話す事も今は上手く出来ない…
でも何とか時間をかけて普通に接しられる位までには努力するから、少しだけ僕に時間…くれないかな」
爽やかな風が、ブワッとエイトの髪を心地よく乱す
隠れていた顔が露わになれば赤くなり戸惑う彼の顔
「…!(あの事件以来こんな俺の事を意識してくれてるとか、どんだけ単純…てか、ヤベェ正直嬉しい)
…ん、分かった、なら首を長ーくして気長に待つよ
そんな顔してるお前が嘘ついてるとは思えないし」
「あはは、もともと嘘つくの向いてないからね
でもありがと、おかげで少し肩の荷が下りたよ」
「ほら、まだ朝食ってねーんだろ?
食わなきゃいつもの馬鹿力戦闘中に出ないぜ?」
「何だよ馬鹿力って、とりあえず頂くよ
…うん、野菜が凄く新鮮でハムもチーズも美味しい
今朝の朝食当番って誰だったっけ?」
「朝食当番自体はゼシカだったけど正直あまり美味くなかったから、お前の分だけ俺が作り直したんだ」
「あ、酷いなぁ…ゼシカにバレたらククール
メラミで思い切り焼かれちゃうよ」
「そりゃー全国のレディが悲しむだろうな、何たってこの美貌が焼かれて台無しになるんだから
って事で、作り直した件は俺とお前の秘密な?」
「はは…、実に下らない秘密だけど分かったよ
君の生死に関わる事だもんね」
「ふは、そーゆ事」
風に靡く草の絨毯に隣同士並び座り
互いの顔を見ずに弾む不思議な会話
暫しククールとエイトはこの時間を思う存分楽しんだ
そして、一時間後…__
「それじゃ、今日の予定を話すね
今日はいつものモンスター狩りとは違って、とある街の酒場でアルバイトをしてもらいまーす…!
勿論トロデ王とミーティア姫は論外だけど」
「「「………はぁ?」」」
ここから少し歩いた先にある街なんだけどね?、と
地図を指差しながら説明するエイトに噛みつくゼシカ
「ちょっと待ちなさい、エイト…!
アルバイトは良いとしても何でこんな唐突に言うのよ、それに酒場って…!どうせ私にバニーガールやれって頼む魂胆でしょ!」
エイトの胸元につめ寄り両肩を激しく揺さぶるゼシカ
「う゛…っ、ま、待ってゼシカ…お腹一杯の時に激しく揺さぶられると気持ち悪い……は、吐いちゃう…」
「Σあ、あああ兄貴ぃ!
やいゼシカっ、アッシの兄貴に何すんだ!
きっと兄貴は兄貴なりに何かお考えがあって提案してるんだから、少しは黙って話聞けよ!」
「〜っ
だってあんな露出だらけのバニーガール衣装よ!
私があれ着たせいでお嫁にいけなくなったら
一体全体、誰が責任取ってくれるのよ!!」
「…ふ、もし君がお嫁にいけなくなったら俺が責任を取って君の旦那になってあげても構わないんだぜ?」
プチパニックを起こすゼシカを顎クイしながら口説くククールだが、激しいビンタと共にフラれるククール
「アンタなんか絶対お断りよ…!!アンタと結婚するならそこらのゴキブリと結婚する方がマシ…!」
「うわっ、ひでぇ…」
「わははははっ!!」
トロデ王に限っては馬車の中でゼシカに思い切りフラレたククールを見て、激しく笑い転げる始末、中々にカオスだ
「ゼシカ…
いきなり提案したのは悪いと思ってるよ、ごめん
でも、最近モンスターも強くなってきているし、僕達もより良い防具と武器で戦いに望まないとパーティーが全滅する可能性だって0とは言えないんだ
酒場を選んだのも四人で一晩働けば一番お金が入るからで、決して君への嫌がらせではない事は分かってほしいんだけど…駄目かな?」
「うっ…そんな捨てられた子犬みたいな目で見つめながら私の手を握りしめないでよエイト、は、反論できなくなるじゃない…」
「ゼシカお願い…」
「もーっ、分かったわよ…!!
やればいいんでしょ!やれば!」
「やった!
じゃ、ゼシカはこのバニーガールの服…これね
で、ククールはこのバーテン服を着てくれる?
君達は、物凄く容姿端麗の美男美女だから
仕事中はとにかく客引きしてもらわないと
僕とヤンガスはマスコットを着てビラ配りをメインに担当するから、街についたらすぐに着替えてね
ヤンガス、君は僕と二人で気楽にビラ配りしようね」
「兄貴の為ならアッシ地獄の果てまでもお供致しやすでげすよ…っ!
ちなみに兄貴なら強いライオンとかのマスコットとか似合いそうでがすなー!」
「もー、買いかぶり過ぎだよヤンガス
僕は、そんな強い動物とは程遠いよ」
「またまたご謙遜を〜!!」
ヤンガス達は先陣を切る馬車に並行し、街へ向かう
「やられた…っ!」
やると言った瞬間「待ってました」と言わんばかりに元気になったエイト見て愕然とするゼシカの肩をククールが叩く
「まーま、エイトもナイスバディで美人なハニーを買って大役を任せたんだと思うぜ、だから胸張りなよ
ま…時折容姿端麗な俺達への皮肉をタップリ込めた嫌味を言ってきたのは、なんか釈然としないけどな」
渡された高級生地のバーテン服の手触りを楽しみつつ、これから一夜やる仕事に意外にもククールはノリ気の様子
「エイトも綺麗系ではないけど、結構男の子にしては可愛い顔してるんだから自信持てばいいのにね
何で美男美女をあそこまで静かに憎むのか
たまに私、理解に苦しむ時があるわ
それにしても意外だわ
こーゆ仕事にアンタがノリ気なんて」
「…俺達の知らない昔に何かあったんじゃねーの?
ま、あくまで俺の勝手な推測だけどな
あぁ、昔遊ぶ資金貯める為に近場の酒場やカジノ街で夜の仕事をアルバイトしてた時期があったんだよ
だから何か懐かしいなーって感じからか
珍しく、俺自身…ウキウキしてきてさ」
「昔のエイトを知れないのは…少し悲しいわね
…ぷっ、でもアンタってやっぱり神に仕える僧侶より性欲渦巻く夜の仕事のが絶対に向いてるわよね、あはは!」
「ふはっ、…ま、今回は素直になれないハニーの褒め言葉として受け取っておくよ」
「…はぁ、本当能天気な思考回路してるわね、アンタって、一度で良いからこの手でアンタの頭の中覗いてみたいわ」
「ハニーになら大歓迎だね
でも覗いた所であるものは、今まで口説いたレディの情報と女性を口説き落とすマニュアルくらいしか入ってないぜ」
「一気に好奇心失せたわ」
夫婦漫才みたいなボケツッコミする二人を
少し離れた場所から、エイトが大声で呼ぶ
「二人共早く早くー…!
街に着いたから今予約取った宿ですぐ着替えて…!
酒場の仕事開始は、今からもう一時間もないから!」
「それじゃ、ゆっくりシャワーも浴びれないじゃない
せっかくバニーガールやるなら気合い入れてやろうと思ったのに〜…!」
「気合い入れても入れなくても、ゼシカはゼシカなんだからアッシはそのままでも良いと思うんですがね」
「女心が分からないアンタは黙ってて!」
「痛てぇ!!」
ヤンガスの素頭に力一杯ゲンコツをお見舞いした後、ゼシカは豪快な足音と共に二階へ上がっていく
「たく、あんな凶暴なジャジャ馬娘、嫁の貰い手なんざ一生かかっても現れないに決まってらぁ」
馬鹿デカいタンコブを擦りながら、涙目で悪態つくヤンガスを苦笑気味に見つめるエイト
「元山賊のヤンガスなら
ゼシカをお嫁さんに貰っても大丈夫じゃない?」
「Σ!笑えねぇ冗談はよして下せぇ兄貴…!
いくら美人でナイスバディのゼシカでも結婚して
一生尻に惹かれる惨めな生活はごめんでがすよ…!」
「あはは、冗談だよ冗談」
「…全く兄貴もお人が悪いでげす」
「あーあ…
盛り上がってる所に水を差すみたいで悪いんだが、早く支度しねーと、お前ら着替える時間なくなるぜ?」
ヤンガスとエイトの肩を抱きながら
顎先で近くの鳩時計を見るよう促すククール
確かに、彼が指摘した通りに
残り時間は三十分もなかった
楽しい出来事や場面というのは
時間が経つのが嘘みたいに早い
「!ヤベェ!本気で急がねーと時間なくなっちまう!
兄貴マッハで着替えるでがすよ!」
一足先にバタバタと部屋へ駆け上がってくヤンガス
慌ただしい彼に続いてエイトも上がろうとした矢先
エイトの華奢な腕を、すかさず掴むククール
「……ククール?」
「お前のマスコット姿ちょっと期待してる」
照れ臭そうに呟くククールに思わず吹き出すエイト
「ふふ、…うん期待していて
君好みの可愛い動物マスコット選ぶから
僕も普段よりも綺麗にキマってる君を見るの
凄く凄く期待してるよ、…こっそりとね」
「…あぁ
お前が骨抜きになるくらい格好良くバーテン服
着こなしてやるから、首洗って待ってろよ」
彼の鼻に指を突きつけながらウインクするククール
「!いちいち無駄に格好良いんだよ君は
後人を指でささない…!行儀悪いからっ」
「はいはい、分かりましたよリーダー様
…じゃ、また数十分後にな?」
「うん、また後で」
「兄貴、エイトの兄貴…っ!!
仕事先のマスター無茶苦茶気前良いでがすよ!
見て下せぇ、この質の良いマスコットの山!!
アッシ意外と可愛い物には昔から目がねーんすよ!
ささ、まずは兄貴のマスコットを選びやしょう!」
「ちょ、わ、分かったからヤンガス落ち着いて…!」
部屋に入ると同時にヤンガスに腕を引っ張られて
バランスを崩しかけるも、何とか体勢を立て直す
「……うっわぁ…!
確かに物凄く力が入った可愛いマスコットばかりだね
動物以外のモンスターまでもある、スライムまで!」
少年みたく目をキラキラさせマスコットに
笑顔でギュっと抱きつき頬ずりするエイト
「へへ、兄貴が気に入ってくれて良かったでがす
アッシは好きなこの動物でいかしてもらうでがす!」
「………え?それ動物……なの?」
「?違うんでがすか?」
「…多分、生き物ではあると思うけど
…動物ではないんじゃないかな?
で、でも、ヤンガスが好きなら
それはそれで素敵だと僕は思うよ」
約十分後、皆満足いく仕上がりになったのか
ほぼ同時に部屋の扉がゆっくりと開閉された
「…や、やっぱりこの服は私にはピチピチじゃない」
大事な部分が見えそうで見えない…そんな男のロマン
チラリズムを突いた、バニーガール姿のゼシカが登場
たわわに実った大きな胸と形良い弾力あるお尻、そして美しく引き締まったクビレというワガママボディーを、今にもはち切れん衣装に無理矢理押し込んでいる
激しい羞恥心に狩られながら目線を泳がせ続けている
「こんな格好で数時間酒場で仕事なんて、恥ずかしいったらないわ…!お母さんが見たら何て言うか…」
プルンと揺れるお尻の先端にあるフワフワのウサギの尻尾とピコピコと揺れるウサ耳がこれまた似合う事
そして肉付きよい太ももに飾られた網タイツも申し分無い
「〜♪、流石ナイスバディの持ち主、ゼシカちゃん
世界各国の美女と遊んできた俺でも落ちそうなくらい
最高にエッロい姿だねぇ、…でも最高に似合ってる」
ゼシカの手を流れるように握り、手の甲に甘くキス
まるで美女と野獣のワンシーンの様に二人絵になる
次に登場したのはシルク製生地の艷めく黒地バーテン服に身を包んだミステリアスな雰囲気を出すククール
髪結う所を普段と変え、毛先で緩く一つに纏めてる、香水も夜の仕事に合うイランイランをチョイス
その甲斐あってか本来の美しさに更に磨きがかかり、冗談抜きにこの様子では来る客全てを虜にしそうだ
「…ありがと、そーゆアンタもその格好似合ってる」
「んふふ、サンキュハニー、…もしかして惚れた?」
「馬鹿、自惚れるのも大概にしなさい」
「ふふ、…素直じゃないねぇ」
今にもゼシカとククールの二人だけのダンス舞踏会が始まりそうな矢先、ククール達のか細い腰にモコモコの何かが巻き付く
「「…な゛!?」」
同時に声が重なり互いに腰付近を見れば、モコモコフワフワの大きな羊のマスコットを着た可愛いエイトと
沢山のカサカサした脚が生えた甲殻類ダイオウグソクムシのマニアックなマスコットを着たドヤ顔のヤンガスが
「「ばぁ〜!!」
「えへへ、二人共動物だとビックリした?」
口元を押さえ「悪戯大成功」と無邪気に笑うエイトの頭を、酷く愛おしいそうに見つめ撫でまくるククール
「…あぁ、無茶苦茶可愛い過ぎてそっちで驚いた
真っ白な羊選ぶ所が何となく無垢なお前らしいな」
「そう?…君にそう言われると嬉しいなぁ
それに君も普段以上に…その大人っぽい色気出ていて凄く…素敵だよ、……ちょっとくっついてもいい?
後この香り…フワフワして気持ちいい…」
「ふは、…羊になったら、酷く甘えたさんだな
イランイラン、周囲を欲情させる香りなんだよ
いいぜ、お気に召すまで俺を堪能しなよ羊様?」
「そんな香り君がつけたら向かう所敵なしだね
…今だけは、わがままな甘えた羊でいさせてよ」
「…Σわ…っ、ててエイト君ちょっと積極的過ぎ」
「ごめん、力入れすぎたかも…」
「発情期か?」
「違うよ、変態」
「ははは、酷っでぇ言い方」
モコモコの羊マスコットの状態で強くククールに抱き着けば、勢い余って床にククールを押し倒す始末
はたから見れば大きな羊が彼を襲っているような実にカオスな光景であるが、少しだけ可愛い
そんな中、真横のゼシカとヤンガスチームでは
こんな激しい攻防が繰り広げられていた
「い゛っやぁあああああああ!!!!」
振動でカサカサ動く脚と甲殻類独特のあの甲羅、そして大の虫嫌いのゼシカは
未だ腰に抱きついているダイオウグソクムシのヤンガスを、力一杯叫びながら壁に背負い投げする
「Σぐほはぁ…っ!!」
ヤンガスの野太い声が音の爆弾になり部屋に木霊する
そしてそのままヤンガスは、暫し三途の川へ逝く始末
その光景を間近で見た二人は「あちゃー」と落胆の声を漏らす
「ちょっとちょっとエイト…っ!
何で貴方がついてたにも関わらず、あんな気持ち悪いマスコット選ぶヤンガスを止めなかったのよ!
どこをどう見たってあんなの動物マスコットな訳ないじゃない!」
バカバカバカ!とエイトの胸叩くゼシカに苦笑しつつ
自分の頬をポリポリと引っ掻き誤魔化すエイト
「だってヤンガスにとっては一応あのマスコットは動物のカテゴリーに入ってたみたいだから、そこに水を差すのはどうも悪い気がしてさ
それよりもやっぱり僕が思ってた以上にバニーガール似合うよね、凄く凄く可愛い」
温かな陽射しみたくホニャっと笑いながらエイトが褒めれば、茹でタコみたく赤くなるゼシカ
「…あ、ありがとう、貴方も羊姿凄く似合ってる」
「…と、そろそろ仕事場に向かおうぜ御三方
冗談抜きに時間がヤベェ…!」
「あー!た、大変だ
早く行かなきゃクビになっちゃう…!」
「ほらアンタもいつまでも伸びてないで早く行くわよ!全く誰がこんな酷い事したのかしら…っ」
「「………」」
酒場にて…__
「えー…
今夜だけ急遽入ってもらう事になったホール担当のゼシカ君、ククール君にビラ配り担当のヤンガス君とエイト君だ、皆仲良くしてあげるよーに」
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
「「「「「はーい…!!」」」」」
歓迎と言わんばかりの拍手が鳴り響く
「では皆、今夜もよろしくお願いします
それで君達の仕事なんだけど、主にホールの仕事は、お客様のオーダーを取ったり料理を運ぶのが基本業務
もし余裕があれば退屈そうなお客様の話し相手をしてあげたり、困っているお客様の場合は私に知らせてくれれば良いから」
「なるほど…中々やり甲斐ありそうじゃない
それに私が思ってたより破廉恥な仕事じゃなくて良かったわ、分かったわマスター頑張ります」
「了解
昔酒場でアルバイトした経験あるから俺にとっては朝飯前だね、ま、パパッと華麗にキメてやるよ」
自信満々余裕タップリに言うゼシカ達に店長もご満悦
「いやぁ、頼もしいねぇ…!
今夜は君達のおかげで売り上げも凄いことになりそうだよ、売り上げ金良かったら報酬も勿論弾むからね
それでビラ配りの君達には、この2割引クーポンがついたチラシを酒場近辺でバー好きそうな人達に配り歩いてほしいんだ
寒いとは思うけど休憩時間には温かい賄いと暖房の部屋をプレゼントするから、頑張ってくれるかい?」
「勿論です、それが今回の僕らに任せられた仕事なら責任を持ってありがたくお受け致しますマスター
今から四時間どうぞよろしくお願いします」
エイトがメンバー代表し深々と頭下げ、握手をマスター求めれば丁寧に返してくれる
「誠実な青年だよ君は、将来は有望になりそうだ」
「いやいや、そんな僕なんてまだまだですよ
それじゃ皆、新しい武器と防具の為頑張ってくよ!」
「「「おーっ!!」」」
「〇〇酒場でーす、本日全てのお酒から飲み物まで2割引クーポンをつけたチラシを提供していまーす!」
「小さなお子さんも大好きな食べ物も沢山ありますから良かったら寄ってってくだせぇーでがす!」
「なんだなんだ…?」
「何かのイベントかしら?こんな何もない時期に…」
街の中央広場…
一番目立つ場所で、エイト達は大声を張り上げながらビラ配りに専念していた