幻滅と困惑

イメージ曲『EXILE careless breath』



『酒は飲んでも 飲まれるな』…小さな島国の言葉だ


俺は間違っても人目ある場では、喉から手が出るほど欲しい奴を見つけても一切手を出さないと決めていた

でも今回は間違いを起こしそうで正直怖くて仕方ない


問題はコイツ………エイトだ 


酒が入ってなくても、無自覚無天然の人たらし

コイツと関わった連中は恋愛感情に似た気持ちを抱く


魔性…ってのは俺みたいのを世の中では指すんだろうが、コイツはアダ名をつけるとすれば「究極の天然人たらし」が しっくりくる


更にタチ悪いのが、酒を飲んだらそこらのレディよりも男を掌で転がすのが上手いときた

レディ達は、打算計算が入った演技で男をたぶらかしたり、誘ったりしながら落とすんだが

……ま、ここまでレディ達のドロドロした部分が分かるのも、ククール様くらいだと思うんだけどな


エイトはそんな小悪魔レディ達とは真逆で、正直百戦錬磨の俺ですら戸惑うレベルで

相手が強く求めてる承認欲求を読むスキルも高いし、心から強く望んでいる言葉をくれたり、相手を嫌味なく素直に褒める


駆け引きも、然りげないボディータッチも上手い

本当にこれだけのスキル持っていて、恋愛経験がないなら、これは「天性の才能」と認めざるおえない


「…れね、君に会う前は別の大陸かりゃ船れ来て」

酒で呂律まで回らなくなったか、舌っ足らずで喋り出す始末、元が童顔でチビだから余計に幼さが増す



あーっ……もう頼むから、コイツの仲間か保護者今すぐ持ち帰ってくれ…!!


…本当は、人目さえなかったから

エイトを部屋に持ち帰って一発キメこみたかったが、現実はそう甘くはない



そんなこんなで普段信じていない神様に「誰か助けてくれ」と祈ってたら、神様じゃなく院長がやって来た


……確かに神様みたいな見た目してるが、こんな色気ないジジイじゃないんだよな。俺のイメージしてる神様って


「お楽しみの最中に邪魔してすまんのぉ、若者達よ

ククール、今夜もお主にお祈りを頼みたいと申す者が二人部屋に来ているぞ」


「……院長を使ってわざわざ俺に伝言たぁ、相当な金持ち連中だろーな

でも今は蛇の生殺し状態で困ってたから、丁度くすぶった欲をぶつける相手が見つかって良かったよ、サンキュ院長」


「もう行っちゃうの…?」

「あぁ、ちょっと俺宛のお客様が見えたみたいだから相手しに宿舎へ戻らなきゃならねーの」

「ろーうしても?」

「うん、どーしても……修道院にとっちゃ大切なお客様だから。でもすぐにまた会えるさ」

エイトに掌を開かせ、指輪を一つ持たせるククール

「……指輪?………何で僕に…?」

「……俺の命の次に大事な物。その指輪を渡した意味は………まぁ色々あるけど……一番の理由はまたお前に会いたいから、だから……

その指輪を修道院に持ってきてくれれば俺に会える。……会いに来てくれるよな?」

何ともいえない笑顔と、さり気なくエイトの手を取り触れるだけのキスを落とすククール

「じゃあな、今宵は良い夢を」

ヒラヒラ手を振りながら迎えにきた院長と消えていく
そんな彼の後ろ姿をエイトは見つめていた

「………ククール、どうして君はそんな淋しそうな顔を……僕に向けるの…?」



そしてククールがいなくなると同時に緊張の糸が切れたか、エイトはそのままカウンターで寝落ちした





……______


「……ト、……イトったら!」

彼と別れてから、どのくらい時間が過ぎたのだろう
夢の世界で聞こえる声は、酷く安心する仲間の声

……あぁ、この口うるさい感じは、ヤンガスでもトロデ王でもなく……きっとゼシカかな

「………おはよ」

夢から覚めれば不安一杯のゼシカのドアップ


「Σ!…あぁ、良かった、エイト…っ

どれだけ声かけても起きないから、誰かに毒でも盛られて死んじゃったかと思ったじゃない…!」


エイトの馬鹿馬鹿っ!と叩いてくるゼシカに苦笑しながら「ごめん」と謝れば、最後は許してくれるゼシカ


「そういえば兄貴がお酒を飲むなんて珍しい事もあるもんでげすなー。一人で飲んでらしたんですかい?」

エイトを介抱しながら尋ねる弟分のヤンガス


「介法してくれてありがとうヤンガス、僕はもう大丈夫。うん…何だか不思議な人と出逢ったんだ

見た目は遊び人みたいだけど、話してみると礼儀正しくて誠実で…」


ククールとのやり取りを思い出しているのか、急にモジモジしながら幸せそうにホニャっと笑うエイト


「へぇ…洞察力に人一倍優れている貴方がいうんだもの

きっと見た目はマイナスでも、中身は良い人って事なのかもね

エイトにそこまで良い顔させる人ってなると…私も一目で良いから会ってみたいわ」

「く〜…っ!アッシの兄貴の心を盗むなんて絶対ぇに許さないでげず! 
 
アッシは一目拝みたいとかじゃなく、けっちょんけちょんにしてやりてぇでがすっ!」

自前の武器を振り回し暴れるヤンガスを止めるゼシカ

そんな二やり取りを横目に、トロデはいじけ始める



「ふむ…確かに珍しい事もあるもんだわい

ワシが酒の席に何度誘っても頑なに断り続けたコヤツが、ワシ以上に酒を飲みたいと思う奴が出来たとは…

手塩にかけて育てた雛が、急に旅立ってしまった感じで寂しいのぉ…」



自分の部下であるエイトに構ってほしいのか「ヘノヘノモヘジ」を描き始めるトロデ

そんなトロデをゼシカ達は「また(エイト、兄貴)に構って病が発動した…とウンザリしていた


「!そんな悲しい事言わないで下さい、陛下

それに生まれて初めてバーでお酒を飲んでみて、何故陛下が僕をお酒の席に誘われるのか分かったんです

だから、今度は是非お供させて下さい」

「Σ!、おぉ…っ、おぉ、そうか!そうか…っ!

エイト、お主もようやく外で飲む酒の美味しさに目覚めおったか…!いやぁ、嬉しいのお…

どこぞの誰かは知らんがコヤツに酒の素晴らしさを解いてくれたとなれば、ワシからも礼を言わぬとな!」


「ふふ…、はい、そうですね

僕もその彼に貰った指輪を返しに行かなければならないので、少しだけ立ち寄ってもらえると助かります」

はしゃぐトロデを優しく見守った後、先程貰った指輪を見るエイト


「して、その主の恩人の名は何と申すのだ?」

「あ、はい…

ここに来る前に寄った、マイエラ修道院に住んでいるククールという男性です

…お酒に酔った勢いだと思うんですが、いきなり大事な指輪を僕にくれて」


ククールの名をエイトが告げた直後、三人は叫んだ


「マイエラ修道院のククール(ですって!?、がすか!?、じゃと!?)」

左からゼシカ、ヤンガス、トロデ


「!ちょっと皆静かに…っ!

寝ているお客さん達いるんだから、朝方から騒いだら迷惑だよ…!」

「「「………あ、つい……」」」 

エイトに注意されれば、三人慌てて自分の口にチャックする



確かに今の時刻は深夜三時過ぎ、酒場全体には満月の微弱な光のみ


周りには酒瓶を枕に眠る男性陣、テーブルには女性陣が机に伏せ眠っていた


「でも、驚いた

人なみ外れた容姿だから、有名人なんだろうなぁ…って思ってたんだけど、まさか皆知ってるなんて」


「……そりゃ誰だって知っていると思うわよ、エイト

世界中に名の知れた有名な聖堂騎士団の一人ですし、それに噂が噂だから、私の村でも彼の事知ってる人いたわよ」


「!やっぱりククールって、かなりの有名人なんだ

凄いな。初めて見た時からこの人は何だか他の人とは全然違うって感じてたから、因みにどんな噂…?」


子供が正義のヒーローに憧れるように、エイトもまたキラキラした瞳で、ゼシカの話の続きを待つ


「……うーん。そんな邪気のない瞳で聞かれると、罪悪感しか湧いてこないわ

ヤンガス。アンタならエイトを慕っているから話してあげられるでしょ?奴の所業を」


「う゛ぇ!?、そ、そっ、そりゃないでがすよ!

そんなの話したら、アッシがエイトの兄貴に嫌われちまうでがすよ!」


無茶振りする彼女に「酷ぇや、ゼシカ姉ちゃん!」と責めるヤンガス、それに「うっるさいわねー」と逃げるゼシカ


「私パス」とヤンガスに丸投げし、椅子に座るゼシカ
分かりやすく例えれば、妻に尻を引かれた亭主の図


「えぇいっ、焦れったいの…!

お主らに任せておったら時間が足りんわ!もうワシがエイトに話すから、主らは隅っこに引っ込んどれ!」

「「…………はぁーい……」」



「……のう、エイトよ?

ワシはお主の人を見る眼 とやらを、誰よりも買っておったつもりじゃ

…しかし、まさか世界的にも悪名高いククールという男に好感を強く持ってしまったお主には……少々ガッカリしたぞ」


「……え?」

ガッカリと予想外の言葉をトロデから言われれば、エイトの中で何かがガラガラと崩れていく音がした


「心して聞くがよい

何故この男が悪名高いと言われるか…分かるか?」

「…………いえ」


「聖堂騎士団という、神に一番近い肩書きを悪用しておる最悪な男よ


それにお祈りと生じて世界的に権力のある人間や金持ち連中と体の関係を無数に持ち、大量の金をせしめている」


「!そ、そんな……誰かが彼を妬んで作り上げた嘘とかでは……ないんですか?」

「……残念ながら全て真実じゃよ」



「それにねエイトの兄貴。追い討ちをかけるようで悪いんでがすが

ちまたの噂じゃガキを孕ませた女はゴミみたいに捨てて、女を取っ替え引っ替え変えて夜な夜なヤりまくってるって話まであるでがすよ」

これだから顔だけの腹黒男はいかんでがす…と、呆れポーズを取るヤンガスの頭をムチでパシィン!と叩くゼシカ


「そこまでの変な噂は立ってないわよ…!

いくらアンタが顔の良い男が気に食わないからって、音も葉もないくっだらない噂話を一人歩きさせるんじゃないの!」

予想通りヤンガスの無茶苦茶な作り話で、更に顔の影が濃くなるエイト

「……これだから山賊崩れの阿呆は」


「なっ!?おいオッサン!言っていい事と、悪い事があんだろうが!」


「ワシはただ目に見えた真実を伝えただけじゃ!
何一つ咎められるような事はしとらんわっ!!」

オシリペンペンしながらヤンガスを挑発するトロデ
そして意図も簡単に引っかかり乗る単細胞ヤンガス  

うん、実によいコンビだ



「むっきゃぁーっ!!もう王様だろうが関係ねぇ!コテンパンに、やっつけてやるでがず!」

「やってみるがよいわ!高貴なる王族の力を今こそ見せてやるわ!覚悟せい!」 

そして子供の顔負けのチャンバラを始める二人…いや一人と一匹



「……ねぇエイト…私も悪い事はいわないわ、貴方にはククールは似合わない

きっと旅をしていけば、ククール以上に素敵な人が現れるから、朝になったら指輪を返して次の街へ行きましょう……ね?」


目の前のエイトは例えるなら、親に怒られ泣いた子供

そんなエイトの両肩にゼシカは両手を添えて寄り添う


「うん……ありがとうゼシカ

そうだね、僕が間違っていたのかもしれない

女性ならまだしも初対面のククールを気にしてしまうなんて、きっとどうかしてた

夜が明けたらマイエラ修道院に行こう…………ククールに……指輪返してくるよ」

「……えぇ」

エイト自身も気づかず流れ落ちるは、無色の涙

その涙の意味は、神のみぞ知る





……_____


時は、数時間前のククールと院長の会話に遡る


酒場を出て夜道を歩く途中、最初に口火を切ったのはオディロだった



「本命を見つけた後に好きでもない男達に抱かれるというのは、想像以上に地獄じゃぞ」


運命の相手と出逢った後、誰かに抱かれる事が何よりも辛いのは、昔ククールと同じ目に合ったオディロだから言える事

短い言葉ではあるが、胸に込み入るものが彼にはあった


「それは、俺なりに分かってるつもりですよ

男を抱いた事はなくても数え切れない程の男には抱かれてきた、地獄なんて今更…」


黄色く光る蛍が、ククールの手の甲へ羽休めに止まる


「……先程見た少年が、ワシの夢で告げられたお主の運命の相手じゃろうて

独特な波長ゆえ一目で分かったよ    

自分でもどうしたらいいか分からぬ程、彼の事が好きになってしまったんじゃな」

ごくわずかだが、ククールの両肩がピクリと動く



「……………本当はもう彼以外に、己を犠牲にし身も心も捧げるのが、嫌で嫌で仕方ないんじゃろうが…!!

こうゆう一大決心の場くらい素直になってみんか!業突くばりの大馬鹿者めがっ!!

一体いつまで己の気持ちに蓋をし生きるつもりじゃ!!」

周囲にいた魔物達が、静まり返る程の声をククールに浴びせるオディロ


「……っ!!…うるせぇ……よ

俺は修道院に入った時点で売りになった身なんだ…!
もうこの身体はすでに汚い野郎共に穢れてちまってる

今更お祈り止めてアイツと一緒になれるかよ…っ!」


「全く……こうゆう時は人一倍素直ではないくせに、素の表情は誠に人一倍素直じゃのぉ

…少年に指輪を渡した時点で、本当は会いたかったくせして」

「………うっ……ふっ……」

地面に崩れ、泣くククールを優しく見つめるオディロ

気づけば大量の涙が、ククールの両頬を伝っていた


「泣きたい時は、周りを気にせず思い切り泣けと言ったじゃろうが…全くマルチェロ以上に強情な奴じゃよ」

ククールの頭を撫で回しながらオディロは言う


「こんな流れになる気がして、秘密兵器を用意しておいて良かった」

「……秘密兵器?どこぞのタヌキのパクりとかではなくて?」

「そのタヌキよりも役立つ秘密兵器じゃ
ほれ、遠慮は無用。出てまいれ」

オディロがパンパンと叩けば、何者かの気配が強まる


「……お、俺…!?」



「……うむ、お主そっくりの替え玉よ

昨夜の夢のお告げを聞いて、必要になるかもしれぬと踏んで念のため用意しておいて正解じゃったな」

「……院長……俺の為にそこまで」



「今夜のお祈り稼業はそちらの替え玉に任せ、お主はあの少年と話をつける事

このままだと、確実お主の人生は死んでしまう」

「…分かった

上手く話せるか自信ねぇけど俺なりに頑張ってみる」

「うむ、善は急げじゃ。ならば作戦…始めるぞ!」

「「了解」」

今すぐ替え玉に客人達の元へ行くよう指示し、ククールには修道院入口で隠れエイトを待てと言うオディロ


「ワシはこの計画がマルチェロにバレぬよう、奴を出来る限り足止めする

幼きお主を、売りという仕事から守ってやれなかったせめてもの償いをさせてくれ

…………お主の幸せを心から祈っておる」

胸の前で十字を切り「神のご加護があらん事を」と祈った後、マルチェロの元へ向かうオディロ


「……ありがとう

アンタが俺の親代わりで、本当に良かった…___」

去るオディロに深々と頭を下げ、ククールは指示された入口付近に身を隠し、エイト達を待つ事にした

自室から漏れる、卑猥な声を聞きながら



場所は変わりドニの街、エイト一行方面

軽い朝食を手早く済ませ、ククールが待つマイエラ修道院に徒歩で向かっていた


「エイト…顔色悪いけれど大丈夫なの?
ククールの事やっぱり気がかり…?」   

遠くを見つめ無言で歩くエイトに、怖ず怖ずと話しかけるゼシカ  



「……強いていえば、物凄く葛藤してる、彼の事 

君にこんな事をいったら引かれるかもしれないけど……ククールが欲しくて我慢出来ないんだ、彼の全てが欲しくてたまらない」


「引かないわよ、引くわけないじゃない!

だから泣きそうな顔しない!恋愛は個人の自由だもの

男と女だけの恋愛だけが、世の中で唯一許されてるだなんて不公平じゃない

男と男、女と女、男と女…年齢差も下らない身分差も地位も種族も一切関係ない

個性だらけの恋愛があっても、本人達が心から幸せだと思うのなら私は良いと思う

…でもククールが……トロデ王がいっていた噂が全て真実なら、貴方から全力で引き離す

…例え貴方に嫌われる羽目になっても、大好きな貴方には誰よりも幸せになって欲しいから…__」

「……ゼシカ、………でも」

「でも……じゃないのっ!

私はやると決めたら有言実行する性格なのはエイトも知ってるでしょ!」

エイトの両頬を外側へ引っ張りながら笑うゼシカ

「ふ……ふぁ〜い」

「あはははっ、もし邪魔したら針千本飲ましちゃうんだから…!

……ちなみに今まで本気になった子はいないの?」

やっとゼシカから両頬を解放され、赤くなった箇所を擦りながら話し始めるエイト


「トロデーン城に仕えていた時はいたよ、一人だけ
本気になった子」

エイトに好意を抱いていたゼシカは、一瞬息苦しさを覚えた

「付き合うまでは、いかなかったの?」

「ほら…見ての通り僕は恋愛奥手な性格だし、もし仮に彼女が出来たとしても長続きしないよ」


「じゃあ……あの軽薄おとk……Σおほん…!ククールの事は?」

「特別中の特別」

「ふふ、そっか…!……私も負けてられないわね」

「……?負けられないって何に対して?」

首を傾げるエイトにアッカンベーをしながら逃げるゼシカ

「教えてあーげない♬」

「何だよそれ…!じゃ、僕が君を掴まえたら理由教えてもらうから」

「嫌〜よ!」「ズルいなぁ、よーし摑まえてやる…!!」

「きゃーっ、エイトに襲われる〜!」

「言わなきゃ本当に君を襲っちゃうぞ、がおーっ!」

「きゃはは…!!」

まるで小さな子供みたいに遊ぶ二人、本当に仲が良い
そんなやり取りをしていたら、あっという間に目的地



あまりの重苦しさに一同後退る


「…やはり、こーゆ場所はどうも好かん

長く居座るとワシの高貴なる身体に蕁麻疹が発症じゃ
……エイトよ、さっさとククールに指輪を返し立ち去るぞ」

「けっ、どこが高貴なる身体なんだが

今の姿をちゃんと鏡で見れば、そんな寝言絶対ぇに言えなくなるでがすよ」 

「なんじゃと!?」「何だよ…っ!」

「……アンタ達いい加減にしないと、美味しくないチキンにして魔物の餌にするわよ?」

「「Σぴっ!!……す、すいませんしたっー!!」」

ヤンガス達の間で喧嘩になりそうなムードが漂うも、ゼシカに脅されればガタガタ震え土下座する二人

「ははは、それじゃククールに会いに行こうか」

そんな様子を苦笑いしながら見守っていたエイトだが
いつまでも入口にいたら邪魔だと感じ、急ぎ中へ入る



勿論トロデは魔物と勘違いされると厄介なので、フードを被らせ連れていく


「………zzz」

ちなみに今、ククールは爆睡していた
このすれ違いが、後々悲惨な事になる



「…おや?見かけない顔触れでいらっしゃいますね

別の大陸からわざわざこのマイエラ修道院へ参拝に来られたのか?」

気怠そうに聖書を音読していたハゲた修道僧が一人、
目立つエイト達に興味津々な様子で話しかけてきた

「…あぁ、いえ……僕達は参拝ではなく人を探しているんです」

「…人探しよりもお祈りしていかれたらどうでしょう? 今ならお安くしていますから」

修道僧の気持ち悪い視線に皆警戒心を剥き出しにする

「……(何なんだろう、この何ともいえない嫌悪感

信じたくはないけど……この修道院に住んでいる聖職者の殆どはやっぱり噂通り、性的対象も女性だけじゃないんじゃ)」

「だからククールっていう最低男を私達は探しているのよ…っ!!

その男から指輪を無理矢理渡されたから直々に返しに来たの!」


「……ほぅ、聖堂騎士団にとって自分の命以上に大切な指輪をまさか……貴方に対して?

………あっはははははっ!!

いやはや笑えない冗談はよして下さい

…確かに貴方は女性の中でもまれに見る素晴らしい肉体の持ち主ではありますが、従順で清楚な女性を好むククールのタイプとは真逆ですよ…っ」

腹を両手で押さえ、笑い転げる修道僧

そんな修道僧に対しゼシカは思い切りビンタをかます

そして「聖職者のくせに女性差別をするなんて本っ当に最低!!」と一言

ゼシカのビンタが凄かったか教会には乾いた音が一つ


「Σ…!!か、神に仕える私に平手打ちとは…何たる下品な小娘よ…!!」

ゼシカに対して、つらつらと辛辣な言葉を吐く修道僧
そんな僧の高いプライドを遠慮なく潰して行くゼシカ


「何よ、アンタが変な事 言うから悪いんじゃない…!

それに女以上に女の事を理解してるみたいな雰囲気止めてくれないしら、潰したくなるから

今度言ったらアンタの舌メラミで焼き切るから、分かったわね!?」

「す、す、すいませんでした…」

あまりのゼシカの気迫から土下座をする修道僧
それを見たヤンガス達は恐怖から抱き合う始末

エイトは「ゼシカの婿さんは彼女以上に強い魔物のが良いんじゃ」と考えていた





ちなみにドロデは「ワシの妻はゼシカのようではなく良かった、神よ心から感謝致します」と泣いていた



「ちなみに指輪をもらったのは私じゃなくて、エイト」


「……なるほど、ククールが本気で狩りたくなる理由も頷けようて」と、不気味に笑いながら呟いた

そして貼りつけたような笑顔でゼシカ達を見る


「分かりました。では、私がご案内致しましょう」



修道僧Side

実は先程ご帰還された院長が、頼み事をしてきた

今日ククールを訪ね、旅人達がやって来るだろうが、ククールがお祈りしている部屋にだけは通さぬようにとの事だった

もしもの場合は客人用の部屋に案内しろと言われたが
…こんな面白過ぎる展開、悪用しない手はないだろ?


私自身貢ぎまくって落とした女を奴に奪われた恨みがあるんだ。奴だけが良い思いばかりなど許せる筈ない

お前が本気で惚れたコイツをとことん幻滅させ、仲をぶっ壊してやる……

修道僧Side 終了


静まり返った薄暗い空間に五人の足音だけが鳴り響く
重い沈黙が流れるも、足取りだけは目的地へ突き進む

目的地に着けば護衛二名がエイト達に剣先を向け睨む

「止まれぇーいっ!!………何用だ?

この先は聖堂騎士団団長マルチェロ様と、オディロ院長がいらっしゃる神聖な場!!

許可を取った者以外は入れるなと言われている!!剣の錆になりたくなければ早々に帰るのだ…っ!」


あまりに無礼な態度にトロデは堪忍袋の尾が切れる
激しく上下に飛び、拳を振り上げながら怒り始める

「何じゃと!!

聖堂騎士団の下っ端分際で、王族に命令口調とは!!
こちらの言い分も聞かずに門前払いをすると申すか!

ふんっ…、有名な聖堂騎士団も所詮肩書きだけよの」

「「何ぃ!?」」

聞き捨てるならん!とばかりにエイト達に二人が斬りかかろうとした矢先、僧が怪我覚悟で間に割って入る



「まぁまぁ…落ち着いて下さいよ!聖堂騎士団殿

私めが貴方達に代わり、この者達に罰を与えますので、ここは穏便にいこうではありませんか」

常に人前で猫を被り続け胡麻すり慣れてるだけあり、懐に入り込むのが上手い修道僧



「……そこまで言うのならば、今回ばかりはお主に免じ、コイツらを斬り捨てずにいてやる」

膝まづき頭を垂れる僧、しかし見えない面は悪魔顔

「!ありがうございます

…実はこの者達、ククールから聖堂騎士団の指輪を譲り受けたらしくそれを本人に返しに来たようなので

面会の許可を頂けたと思い、不本意ながらもこの場に参上致しました次第でして…__」

「ククールから……!?……本当に奴の指輪なのか?」

エイト達を意外な顔で見る聖堂騎士団の二人


「はい

ククール…さんから頂いた指輪なら、確かに僕が今はお預かりしています…これでよろしいですか?」

「貸せ!!………全く、本当なら下民如きが触れて良い代物ではないのだぞ!」

エイトの手から一人が無理矢理指輪を奪うと、本物か偽物かをくまなく調べ始める

「薄汚い下民で悪うございやしたねーだ、……べーだ!」

「「くっ!!」」

かんに障る二人に嫌味を言いながら挑発するヤンガス


……_____

「確かにこれは紛れもなくククール本人の指輪だな

イニシャルと本人の手書きサイン、そして悪趣味な薔薇が彫ってある

嘘ではないみたいだな。ククールとの面会を許可する、ただし用事が済んだら速やかに出てけ」

渋々折れた二人は通路を五人に譲り渡す
修道僧は安い頭を下げ、足早に中へ入る

対しエイト達は礼も言わずズカズカ進む

だが五人が二階へ消えた瞬間、一人が何かを思い出したらしく「いけねっ!」と自分の口元を押さえる



「…あん?。急にどこぞの乙女みたいな仕草して、どーしたよ?」

「……いや

アイツ等をククールの部屋に行かせちまったけど、冷静に考えたら今お祈りの最中じゃなかったか…!?」

「………Σあ゛あぁああ!!!」 

そしてもう一人も、顔を真っ青にし頭を押さえ叫ぶ

「確かに俺らからすれば、ククールが野郎に抱かれてるのは見慣れてるから平気だが

修道院の裏事情を知らない連中が、もしククールのお祈り場面を見ちまったら……」

その会話の後を二人は想像し、数秒後に震え上がる



「見張りを投げ出したらマルチェロ様に怒られるやかもしれんが、それ以上に奴らが部屋に入るのだけは断固阻止だ!急ぐぞっ!!」

「おうっ!!」

ククールの部屋の前で全く動かない五人に「扉を開けるなあぁぁーっ!!」と二人は叫ぶも、時すでに遅し


部屋の中で行われている、強姦に限りなく近い性行為
その光景を見て、ゼシカは思い切り吐瀉物を床に撒く

「Σう゛え゛ぇ……っ!!」

ヤンガスは見慣れた光景だったか吐きはしなかったが
やはり汚いジジイ共に美青年が頂かれてるのは精神的にきたか、瞳孔がかっ開いている


ちなみに修道僧は全てが思い通りに事が運び、両肩を震わせながら一人笑っていた

「(ざまぁみろっ!!これでお前もおしまいだククール!!ひゃーっはっはっは!!)


トロデは扉前で立ち尽くすエイトを引っ張りながら

「早く…早くここから離れるんじゃ!命令じゃエイト!!」と言うも、彼の目には変わり果てたククールしか見えなかった




幕引きの音がする


エイトの手からククールにもらった指輪が落ちた





END













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