出逢いは唐突に

イメージ曲『W-inds 四季』













……んとに、不思議な出逢いもあるもんだ…___


……そう思ってるのは、今でも俺だけか?





彼らの出逢いは、ここから二ヶ月前に遡る




「はぁ〜、一体いつまでこんな代わり映えのしない生活が続くんだろうねぇ」

長い髪を風に靡かせ、修道院邸内を歩き回るククール
そんな彼に対し、酒飲み仲間である一人が声をかける

「ククール!ビッグニュース ビッグニュース!」

「…んだよ、俺に触れていーのはレディだけだって前から言ってんだろ

男に触れられると、最大の武器である美貌が薄汚れんだっての、今度やったら金取んぞ」

仲間といえど男に接触されるのはククールでもNGらしい、自分の肩を抱く仲間を鋭く睨む


「そ、そ…そう怒んなって…!!

かなり良い情報持ってきたから機嫌直せよ!な…?」

「………んで良い情報ってのは?」


「実は今夜、ドニの酒場でパーティーがあるんだとよ
しかも集まる子は上王ばっか…!

それでこっからが相談、その女達がお前を紹介してくれるなら相手してくれるって約束してくれたんだ

だから今夜だけ、俺達に協力してくれないか?

お前みたいな男がいると女が釣れて楽なんだよ!な?お前好みの女お裾分けするからさ」

両手を叩いて「この通り」と頼む仲間を見つめた後「しゃーねぇな」と頭を掻きながら承諾するククール


「良いぜ別に、今夜は暇だし付き合ってやるよ……ただし」

片目を閉じ口元に人差し指を立て、意地悪く笑うククールを見た仲間は、直感で「ヤバい」と察知する


「まさかまたお前を雇うのに高い金がいるのか!?
勘弁してくれよ、ただでさえ安月給なのに…!」

「んな理由で安く出来るかよ、こちとら慈善事業じゃねーんだ」

最初は仲間の話を聞き流していたククールであったが、ついには吹き出した


「…〜っ、はははははっ!!」


特に話……というのか、彼の不細工過ぎる泣き顔に…といった方が正しいかも知れない


「ひっく!!……俺……おでぇ…!!」

「あーはいはい、悪かったって」

笑った事により更に泣く仲間
そんな彼の背を擦るククール


「だーから、馬鹿笑いしちまって悪かったって、あまりにもお前のアホ面がツボってさ

お前、聖堂騎士団の仕事より絶対お笑いのが向いてると思うぜ?

一層カジノ街で一発芸人としてやった方が順風満帆な人生送れんじゃねーか?ははははっ」

まだツボに入っているのか、目に涙を浮かべ腹を抱えながら笑うククール、本当相手の傷に塩を塗る事ばかり言う


「Σ!…全然フォローになってねーよ…」

「とりあえず今回は俺のレンタル代チャラにしてやるから機嫌直せって」

「……え?、い……良いのか…!?」

「あぁ、久々に腹抱えて笑わかせてくれた礼だよ、礼
さっきまで悩んでいたもんが馬鹿馬鹿しく思えてきた

でも次からはしっかり金取るから、俺をレンタルしたいなら金貯めとけよ?」


「……は、はは……でもこれで女達と朝までウハウハコース!本当にありがとなククール…!

(俺の泣き顔でレンタル代なくなったのは嬉しいが
そこまで馬鹿笑いされると流石にカチンとくるぜ)」


「国宝級のイケメンに大金がかかるのは常識ってな
それよりも今日は、何時までに顔出せば良いんだ?

レディを釣り上げる為には、それなりの身支度が必要なんでね」


「今夜七時には始まるみたいだから、せめて開始五分前には頼む

俺はまだ他の奴らに声かけしなくちゃいけないから、また夜にな…!」


「オーケー、じゃ、また後で」

別れを告げ帰路に着くククール、どうやら身嗜みを完璧にする様子だ


「普段行けない場所からもレディ達が来るなら、俺が本気になる相手が少なからず見つかるかも…だよな」

そう呟いた矢先、どこからか名前を呼ばれる

「ククール」

「!……オディロ院長、いつからそこに」

「ふぉっふぉっふぉ

仲間と悪巧み計画をしとる時からじゃ
…本当にお主には困ったもんじゃのぉ」

オディロに脇腹を突かれ、ムっとなるククール


「院長も人が悪い…話を聞いてたなら出てこられれば良いものを、それで俺に何の用事で?

また団長殿に何か言われて俺を止めに来たんですか?」


「そう物事を悲観的に受け取るのもお主の悪い所よ、まぁ聞け。先程ワシの元にお主宛の知らせが届いての

今夜、お主の価値観を変える相手と出逢うであろうと
 
神を信じていないお主の事じゃから、ワシはこのまま伝えずにいようとしとったんじゃが…」


一旦話を切るとオディロは溜息を一つ


「!……えー、えー… 

確かに院長の言う通り、俺はここの連中みたく神様なんて存在信じてませんから」


「ククール…!!」


「ここに来たのだって親が死んで一人生きてくには難しかったからだけで、好き好んで来たんじゃない

そんな話…いくら尊敬する院長といえど信じられませんね」


神を一切信じていない…と言われたのが相当堪えたか、自暴自棄になり逃げるククールの腕を掴み止めるオディロ


「離して下さい」

「話は終わっとらん
最後まで聞けククールよ、本当に大事な話なんじゃ」

「…………」


分かりましたよと折れたククールはその場にあぐらをかき座る、それを会話の合図とし続きを話す


「ワシの夢の中にお告げをくれた神……というのが、これまた不思議なお方でな」

「人間離れでもしていた風貌でもしていたんで?

…ま、この世界は魔物やエルフとか腐る程いますから、人間と魔物のハーフの神がいても今更驚きはしませんよ」


「……その神がドラゴンだと申しても驚かんか」

「はっ、そんなありふれた話…………Σは…!?」



「ふぉっふぉっふぉ!

流石のお主も珍しく開いた口が塞がらないようじゃの

その神にこの内容を伝えてくれと頼まれたんじゃ」


「………っ、訳……分かんね……ぇ……」

頭が追いついてないのか困惑するククール


「無理に信じろ…とは言わん
なぁに、大丈夫じゃよ ククール

お主ならどんな運命が待ち受けていたとしても、必ずや逆境をバネにし、前に進んで行くじゃろう」

ククールの背中を叩くとオディロは先に歩いて行く


「……あー、何かドニのイベント前にどっと疲れたぜ」

自室の扉を開け、ベットに倒れ込むククール
……どれほどの時間が無駄に経ったであろう

ふと時計を見れば夕刻、時はかなり過ぎていた

「やっべ…いつの間にか寝てた。早くシャワー浴びねーと」

急ぎ自室備え付けの手狭なシャワールームへ走る

着てる衣服を脱ぎ捨て、天井付近にあるシャワーから熱い湯を思い切り被る

「………」

普段なら気持ち良いシャワーもオディロの話のせいか全然気持ち良くない

むしろ気持ち悪化させる忌々しい装置でしかなかった


「俺は、昔からレディーにしか興味ないってのに

院長が運命の相手が現れるとかいうから気になって、レディ達のエスコート上手く出来るか自信なくなってきた


大体俺の価値観を変えるくらいのって何だよ…

相手は女じゃなくて男って可能性もあるって事か?」

一人暗い部屋にいるせいか段々と独り言が増える
そんな彼の愚痴の相手はポタポタ落ちる水滴のみ

「あーっ、イライラする…!!」


普段なら数時間かけ自分磨きをする彼も、今は適当

そしてシャワールームを後にしようとした矢先
妙に甘ったるい声がククールの部屋に聞こえた

「ククール…見ぃつけたぁ♡」

声の主はククールと肉体関係を持つバニーであった

「……おいおい、今日は随分と急なご来訪だねハニー
前も言っただろ?ここに来るのは止めてくれって…」

自分を物欲し気に見つめ、距離をつめてくる相手

普段ならその光景に興奮を覚え、欲望のまま性行為をしていたが今の彼には相手の行動全てが萎えて映った



「…だってぇ、今日はパーティーがあるって聞いて…
私以上の女が沢山来たら…ククールが取られちゃう気がして、私……私ぃ…」

嘘泣きだと一瞬で分かる、ド下手な芝居
そして発言の所々に見え隠れする駆引き


普段通り全て適当に流し、甘い言葉を吐くククール
何故ならば、これが一番綺麗に問題なく片付くから


「大丈夫…。俺はいつだって美しい君だけの騎士さ
どんなレディ達が来ても君しか愛さない、約束する」


「…本当に、本当にこれからも生涯私だけを愛してる?」

……面倒臭ぇ、本当何で女ってこんな毎回会う度愛情確認すんだか


重い愛情確認をされる度、こっちの好感度がダダ下がりしてるの分からないのか…?


ま…抱き心地良いから耐えてるんだが、正直心の籠もっていない「愛してるよ」は……言い飽きた


「あぁ、愛してるよ…」

………口先だけだけど


「!!それじゃぁ、今すぐここで私へ愛を証明してみせて…」

ククールを壁ドンし、半強制的に彼の唇を奪うバニー
 

「……ふ、分かったよ、俺だけの可愛いお姫様?」

冷たい笑みを浮かべ、今宵も二人は体の関係を持つ





彼女の腰と後頭に手を添え、軽い口付けから段々と深く変えていく

「……んっ………ふ……んん」

「……立てなくなっても、誘って来たハニーの責任だからな?」

「……ククールになら本当に壊されても、私は本望よ」

「お望みとあれば、いくらでも……___」

"萎える気持ちと共に 壊してやるよ”

抱き合ったままベットにダイブし、日課と変わらない性行為へと二人は落ちる



…やっぱ身体での相性じゃ野郎よりは女を抱いてる方が楽しいし、格別に気持ちが良いに決まってる


野郎なんて……いくらら見た目が女っぽくて、筋肉質でなくても、所詮男は男

女以上に欲しいとか、狂う程に抱きたいって感じる奴なんざ……__



部屋中に、グチュグチュと卑猥な音が鳴り響く

ククールは物思いに更けているせいか、扉の隙間から団員達が、性行為を覗き見てる事など気付かなかった


途中偶然通りかかったマルチェロに「ゲス共が!」と一喝され、団員達が蜘蛛の子を散らすみたく逃げていくのは、後数分後




IN ドニの酒場

「〜っ、ククールの奴
最低でも五分前には来いって忠告したのに…!!」

ククールと約束していた仲間が苛立ちながら文句を言う、かなり高そうなスーツ姿である

その仲間に続き、他の面々もククールに対してのストレスをこの期に及んで吐出し始める

「もう来ないんじゃね、あの馬鹿

どうせアイツが口約束守んのは、女とばかりさ
レンタル代も一銭も出ないから逃げたんだよ」

「普段からモテる奴は俺らみたいな一般のモテない男の気持ちなんざ、何一つ分かんねーんだよ」


「そうだな、もう時間ねーし、俺らだけで行こうぜ」

その直後、どこからかククールがやって来た


「そんな卑屈な考えをしてっから、アンタ等はモテないのさ」

「!お前、い、いつからそこに…っ」


「俺への悪口を連呼してる辺りから……気付かなかったのかい?

それに何だよ、そのいかにもこのパーティーに命賭けてますみたいな格好は

気合入れ過ぎると逆に空回りして最高にダサく見えんぜ、…一緒にいると俺までダサく見られるから先に行くぜ?」


「おっ先にー」と仲間達にヒラヒラてを振りながら颯爽とパーティー会場に歩いて行くククール、早速美女やらに絡まれている


「いやぁん…、この人超イケメンっ、格好良い〜!!」

「私、彼氏と別れるから付き合ってぇ!!」 

「ねぇねぇ、貴方今フリー?もしフリーなら…アタシと遊ばない?」

「キャーっ、あ、あの人、聖堂騎士団のククール様よ…!!素敵ぃ」

「結婚してーっ!!」

アイドルさながらのモテモテっぷりのククール、だが彼には日課にしか感じない

何故なら自分は誰よりもモテる色男だと自覚しているから

「ありがとう」「君も痺れる程に最高に綺麗だよ、ハニー」と歯が浮く台詞ばかり言い適当に相手する




そんなククールに対し仲間達は、少ないプライドを傷つけられ、もう虫の息寸前であった


「…ち、ちくしょう…やっぱり奴にはどう足掻いても叶わないのか……っ」

「馬鹿野郎!!奴の口車になんか騙されんな…っ

最終的に女がなびくのは、男の外見よりも内面に強く惹かれて惚れんだって!!」

「……でもよ、ククールって顔も良いけど、それなりに中身も出来てんじゃん?

化けの皮は被って偽善者ぶってるけど、不器用な俺らよりは内面レベルもかなり上なんじゃ……」

「剣の腕でも………何一つ…叶わねぇな、俺ら……」

「「「「ちっきしょぉおおお!!!!!!!」」」」

さあ、朝まで終わらない楽しいパーティーの始まりだ





ドニの酒場 ククールSide


「「「ワッハッハー!!」」」「でさぁ〜…」「えーっ、やだぁ、何それ」「キャハハハ!!」


ほんの少しでも院長の話を期待したのが馬鹿だった


運命の相手が今夜見つかる………ねぇ?

こんだけ色んな場所から人が集まるから、俺好みの子を探せばいいだけの話なんだが


……神様に嫌われてる俺が言うのもなんだけど運命の出逢いってやつは、目をギラつかせて自ら狩りに探しに行くもんじゃねーよな……

沈む気持ちとは裏腹に、俺は懸命に誰かを探している




「……楽しいんだけど、何だか……ねぇ

いつもの光景が派手に着飾られただけに見えんだよな…__」


確かに普段触れない上玉の女は沢山転がってはいるし
、手が出せない酒や果物も今は浴びるように飲み放題

男にとっちゃ理想郷みたいな場所

なのに満たされない、むしろいつも以上に悲しくなる


ククールSide終了



「ククール!!」

「……?」

いきなり一緒に来ていた仲間一人がククールの目の前に近付いてきた

「何だよ、不細工モンスターみてーな面して」

眉間に皺を寄せながら、シッシッとククールがやるも「すっげぇ女見つけたんだよ!!」と彼の腕を無理矢理掴み立たせる仲間



「……へぇ、ここのレディに一切靡かなかったお前がそうまで興奮すんなら、かなりの上玉なのか?」

「もー…凄ぇってもんじゃねーよ!

胸はスライムが二匹プルンプルン跳ねてるみてーにボインで、あれがボンキュッボーンってやつだよ!

多分ありゃぁ、ポルトリンク辺りまでを仕切っているアルバート家のお嬢様じゃねーかって噂があんだけど

お前なら風の噂で、そのお嬢様の事聞いた事あんじゃねーのか?」


「………分かったから脂ぎった顔面を鼻先まで近付けんの止めてくれ、食欲失せるからよ」

「とと、悪い悪い。少し興奮し過ぎた」


アルバート家……ねぇ?

確か数ヶ月前に、何だか噂になってたっけ

何でもそのアルバート家が所有するリーザス像の塔とやらで、大事な跡取り息子が何者かに殺されたとか

その兄の敵討ちにその妹であるお嬢様が敵討ちに出たとか、出なかったとか……


確かに俺は可愛い子ちゃんには興味はあるが、いくらまれにみるタイプのレディーだとしても……あまりにじゃじゃ馬だと口説く気にもならねぇな

女の尻に引かれるなんてら絶対嫌だし



でも、多分コイツはそのアルバート家のお嬢様を口説き落とす自信がないから、代わりに俺に口説かせて、そのおこぼれを狙ってんだろーが

面倒臭ぇけどここでやらなきゃプレイボーイ ククール様の評判に傷が付くってもんだよな



とか、考えていたら背中を叩かれた、だから痛ぇって


「ほらっ、ククールあそこだよ、あそこ!」

「……〜♪」

想像以上の大物に、口笛が無意識に飛び出た


「な!な!?やべぇだろ!」

「…………あぁ、確かに………やべぇかも」

その姉ちゃんじゃなくて、真隣の奴が


色鮮やかな橙、黄、青のコントラストが目立つ、ちびで童顔の頼りなさそうな少年

理由は分からないが、理屈ではなく強く惹かれた


不釣り合いな小汚いオッサンと、もう一匹?緑色の魔物っぽいオッサン二人の中で笑ってる

欲望だらけのこの世界から浮世離れしている少年に、かつてない感覚を覚えた


「………なん……なんだ、この感覚……?」


ドクン……ドクン……___


今までどんな美女に会っても本気になる事はなかった俺、でも今は心臓が飛び出すんじゃないかって思うくらい色々とヤバい


余裕は少しもないが、このままきっかけを作らないままじゃ、もう二度と会えない気もする


アイツと自然に目が合うのを待つか、さり気なく話しかけて接点を作るか

らしくない考えばかりをしてスマートに動けずにいた矢先、ソイツの服の一部が動いた…そこに何か飼ってるのか?

ますます変な奴だなと思っていたら何かそれなりにデカいネズミが顔を出した……で、俺めがけて猛スピードで走ってきた


……は? 

いや、ちょっと待て……ていうかこのネズミ、何で俺めがけて来るんだ…?

寝惚けてて、飼い主と俺を間違えてんのか?



別にネズミが喜ぶ食べ物はないし、昔から動物には結構嫌われるタイプだったから、俺にもし興味を持って寄ってきてんなら相当な物好きだ

とか何やら考えてたら、つま先が痒い…

もしや…と思い目線を下に向けて行くと、茶色のネズミが俺のブーツを登山中だった



「…いっ!おいってばククール!」

「!……あぁ、悪りぃ 何かネズミに好かれちまって」

ククールがブーツ登山中のデカいネズミを指差せば、仲間はその愉快な光景に「ぶはーはははっ!!」と笑い転げる始末

「女だけじゃなくて小汚ない動物にもモテるたぁ…!さ、流石ククールっ!!ぶはぁーっははははっ!は、腹がねじ切れる!!

Σ!?ん゛、ぁ、ヤベ落ち……!!ぎゃぁああああ!!」

あまりに笑い転げてたからか急な階段から派手に落ちた仲間、そしてそれを嘲笑うククール

「ふは…!床で んな馬鹿笑いしてるからだ。ざまーみろ」


気絶した仲間をククールが見捨てた直後、いつの間にか腕に登ってきた先程のネズミと目が合う

「お前、いつの間に」

今度はそのネズミは大人しくなんて無かった、甲高い鳴き声を上げながらククールに何かを言いたげにしていた

「(……案の定レディの気持ちは手に取るように分かるが、動物の気持ちは魔法を使ってでも分からないんだよな)

…何を俺に言いたいのか分かんねぇけど、お前の飼い主ならあのオレンジのバンダナつけた………いや、待てよ……?」

何も無理してきっかけを作らなくても、アイツのペットらしきコイツを返せば自然と顔も覚えて貰えるし、上手く行けば接点出来んじゃねーか


「グッドジョブ、ネズミ君」

「……チュ?」

傷付けないようネズミを持ち上げ、標的である少年の元へとゆっくり歩き始めるククール


生まれて始めて素手でネズミを触ったが、見た目よりもゴワゴワしてんだな

洗い場にあるタワシみてー……何か、クセになる手触り、とかククールは思ったそうな



一方噂の一行は、とある情報を収集する為ここへ来たというのに、少年以外が皆酒好き故にバーから動けずにいる

そんな時、ペットのネズミがいない事に気づいた少年は慌て始める

「Σ!、あ、あれ…?トーポ……?トーポーっ!」


どうりでポケットに重みを感じない訳だよ…!と内心一人突っ込みながら周りを探し始める

すると「よっ!」と、言わんばかりに手を上げるネズミを発見し安心する少年


「トーポ…っ!!……あぁ、良かった」

ペットを見つけるとすかさず抱っこし安堵する少年



しかし、数秒後に気付く

ネズミのトーポが尻尾で後ろを指しているのを…、そして尻尾の先を見れば高身長のククールが立っていた


「!、ご、ごめんなさい…

僕ってば親友のトーポが見つかって嬉しくなり過ぎたみたいで」

「………あ、あぁ  ……いや、こちらこそ

もっと早くアンタにこのネズミ返しに行こうと思ってたんだけど、何か俺から離れなくてさ…」

いざ惹かれた少年を前にすれば、緊張からか上手く話せず、ぎこちないククール


「………あの変な事を聞くかもしれませんが…」

「…え?あ、あぁ……」

「僕と貴方って………どこかで会った事ありましたか…?」

「……!?」

少年の意外な質問に、ククールは緊張解しに頼んだワイン入りのグラスを床に落とす

「!…ごめんなさい、多分僕の勘違いですね」

「…何それってもしかしなくても俺口説れてる…?」

からかい半分でそう言えば、急に真っ赤になり慌て始める少年

「え…!?」

「(……なんか無茶苦茶可愛いんだけど、何この生き物)」


「く、口説……!?

い、いや、あの…僕は……恥ずかしながら生まれてこの方、誰ともお付き合いした事ないんで誰かを口説くなんて…!

そ、それよりもお礼をしたいので…一杯だけ付き合ってくれませんか?」


エイト自身もこの時はまだ気付いてはいなかったが

後もう少しだけ…、目の前の青年と別れたくない、離れたくない……と言う気持ちが最後のお誘いに現れていた


そんなエイトを笑いながら見つめるククールも

数秒毎にコロコロ変わる小動物で、何だか飽きねぇな、と思っていた


「…そんな感謝されるような事したか分からないけど

丁度酒落としちまったし、お言葉に甘えて一杯だけ頂こうかね」


「ははは…貴方がさっき飲んでいたような高いお酒は無理ですけど

僕がさっき飲んでいた安いお酒も中々いけますから、それを一杯奢らせて下さい」

初対面とは思えない速さで二人は仲良くなっていく


偶然か必然の出会いかは分からないが、俺の横で酒を飲むコイツの事は大方知れた


名前はエイト、年齢は一八、俺より二個下

幼少期の記憶はなく、物心付いた頃にはトロデーン城に引き取られ、最初は城の小間使いから始まり

今では城の姫様の一番の側近で、近衛兵の一人


だが最近そのトロデーン城は強大な呪いで滅び

その城の者達はイバラに覆われて一夜にて滅んだと聞いてたが…まさか無事帰還したのがこんな奴だったとは


で、今はその呪いを解く為に仲間達と旅をしているらしい

…旅の内容には興味ないけど、コイツには興味がある

だから何としても仲間に加えてもらえるよう頑張らなきゃな


「…すいません、初対面だっていうのに僕の話ばかりして

不思議と貴方といると、何でも話せて……何でだろう?」

頭上に?を沢山浮かべながら、首を捻るエイト

「初対面とか、そんなの関係ないと俺は思うけど」

「……え?」

「要はフィーリングだよ、フィーリングつまりは相性

長い時間一緒にいても仲良くなれない奴もいれば、俺みたいに初対面で仲良くなれる奴もいるだろ…?」

ジェスチャーを加えながら簡単に説明してやれば
「凄く分かりやすいよ」と、無邪気に喜ぶエイト

酔ってんのか両手が上手く重なり合ってない、悪酔い…というのか、変な酒癖とかなきゃいいが



「だから俺達の場合は、後者パターンって訳で……ん?」

不意に手をエイトに握られ、胸高鳴るククール

軽く出来上がっているエイトにバレないよう平静を装うククール

「あのー……エイト君?」

「僕の事……

仲間達以上に教えたんだから、君の事も詳詳しく知りたいんだけど…駄目……かな?」

重ねられた手が今度は恋人繋ぎにスルリと変わる
指を無意識か、いやらしく絡めて来る始末

「……ごく (ゆっくり生唾を飲む音)」

しかも酒で濡れて、艶めく熟れた唇

ククールが後数cm、顔を動かせば唇が奪える距離




一体何なんだ…?

超奥手に見せかけて、エイトは完全に誘ってるのか…?

正直…これ以上あの手この手で来られたら、必死に押し殺してる理性が………飛ぶ



「……教えてくれないの……?」

「!……あー……、分かった……分かった!

エイト君にだけ特別に俺様の事を一から教えてあげますよ、だからその顔は止めましょーね?」

「………その顔って?」

お、意外にも興味持った


「恋愛経験なしのお子様は、大人の事情に首を突っ込まなくて良いの

で、自己紹介だったよな…。俺の名は、ククール

この窓から見えるだろうが、あの教会みたいな建物…ほら目を凝らすと見えるだろ?

あのマイエラ修道院にガキの頃から住んでるんだ

趣味はイカサマにギャンブル、女遊び…でもそれも今夜限りになるけどな」



「……ていう事は、聖職者様だったんだ…どうり品があし、綺麗な人と思った」

「そりゃ、どーも」

「…顔否定しないのがムカつくなぁ」

「だって事実だもーん」

「可愛く言っても、ムカつく事はムカつくよ」

「ふは、そりゃそーだ」

「ははは……でも神に仕える聖職者っていう神聖な立場なのに、ギャンブルや女遊び大好きって祈りに来てる人達に示しつかないじゃないか、もう…

……うん、改めてよろしく、ククールさん」

繋いでた手を離され、改めて「はい、握手」と手を出されれば、何だか一線引かれたような否めなさ


時間の許す限りコイツの手を堪能していたかったんだが、……仕方ねぇか



「あー…さんづけはなしな、敬語とか堅苦しいのもパス。それに俺はエイトよりも二個上だし」


「ふふ、どこまでも聖職者からかけ離れた人だ
…うん、分かったよククール

二十歳!?、嘘……もっと年上かと思ってたよ」

歳が近いのが分かったからか、呼び捨て、タメ口になったエイト

やっぱ敬語よりは、タメのがお互いに楽だしな



「一体何歳だと思ってたんだよ」

「二八歳くらい……かな?

でも物凄く綺麗な人だなって初対面から思ってたよ」

「そりゃどーも

……て、そこまで老け込んでねーよ、まだまだピチピチの美少年だ」

無防備なエイトの額にデコピンしてやれば、何するんだよ!とキャンキャン怒る

本当飽きねぇというか、何というか

……無茶苦茶コイツを俺色で染めて、ぶっ壊したくなる




「それじゃ…気を取り直して、この出逢いに乾杯

改めてよろしくな、エイト…__」


「!、こちらこそよろしく……ククール

今夜、君とこの場所で出逢えて本当に良かった…神様に感謝してる」

「俺もだ、今夜ばかりは心の底からエイトと縁を結んでくれた神様に感謝してる

全財産誰かに出したって後悔しない位に」

「!…ははは、何だよそれ。笑えないよ」

「うっせ」







END








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