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風紀委員長の日常

Target.8 侵入者

 並盛を管理している身としては、犯罪や事件とか、そういうのは見逃せないわけ。なので、裏社会の者が並盛に出入りしたら知らせてくれと風紀委員一同や町の協力者に伝えてある。ソファに寝転がって町の情報屋から渡された紙をめくった。


「イタリアのキャバッローネボス、ねぇ」


 報告書と一緒に挟まれていた盗撮写真には金髪の優男が写っていた。知った顔だ。そのうちこの男が僕の師匠だと名乗るだろう……なんか癪だ。


「この男が来たということは、標的27かそこらか」


 ……まあ、平和なもんだ。そんなに大きい事件もないしね。チチチと外の鳥が鳴く。遠くで野球部の練習してる声が聞こえる。


「こうも平穏だと、眠く……ふぁ……」


 窓から降り注ぐ日向も助長して眠気を誘う。こくりこくりと、まどろむ。深夜のパトロールもあったせいで気づいたら寝ていた。



◇□◇□



 夢だなこれ。夢じゃなきゃあり得ない状況だもんな。

 前世の自室、つまり“私”の部屋に立っていた。ふわりと今の自分とは違う、柔らかな匂いが鼻にきた。

 一軒家を建てるときに家族と決めた、幼稚な花柄の壁紙。小学校入学式のときに買ってもらった大きい勉強机。まだやりかけのゲームソフト。毎晩抱き締めてたウサギのぬいぐるみ。どれもこれも、そのまま。残酷なくらいに、当時の形だった。


「……少しくらいくつろいでもいいかな」


 ウサギを抱き締めてポフッとベッドに寝転がる。ふわりとラベンダーの香りが広がった。あー、このときポプリにはまってたんだっけ。

 ごろんと寝返りをうつ。ふと、立ち鏡に目がいった……姿は、雲雀さんと変わってないんだな。


「姿とかも変えてほしいな。気が利かない夢だなあ。とてもムカつく」


 あー、眠い。夢の中でまた眠くなる。マトリューシカみたいな、なんというか、変な感覚。

 ポプリ。いい匂いだなぁ……。


◇□◇□


「並盛を牛耳っている者の夢とは思えないほど、なかなか可愛らしい夢ですね」


 特徴的な笑い声が響き、静かに木目の扉が開く。ベッドには話に聞いた雲雀恭弥が膝を抱えて寝息を立てていた。

 並盛を牛耳る者と聞いてはいたが、自分と近い年齢の人間だとは本当のようだ。そっと顔を覗き見る。寝てるときは年相応のあどけない顔だが、ここで彼が起きていたら、自分を恐ろしい顔で睨み付けてくるだろう。そんな場面を想像すると、とても滑稽で僕は笑みをこぼした。


「さて、この部屋は雲雀恭弥の何を示しているのでしょう」


 雲雀恭弥の顔を覗き見るのを止め、部屋を見渡す。部屋の内装を見る限り、高校生くらいの女性部屋だと予想できる。夢というのは主に本人が執着しているモノを写し出す。金なら札束という感じに、分かりやすい。

 彼は、とある女性に執着している。

 勉強机の上に散らかされた教科書やノートを手に取る。持ち主の名前を見れば、部屋の主の名前が分かるかもしれない。敵の弱みは握っていて損はない。くるりとノートを裏返した。


「……! おやおや」


 名前欄が乱雑に塗りつぶされていた。他のノートも教科書も、名前が書かれてそうな物を全て見たが、どれも綺麗に塗りつぶされていた。


「ここまでして知られたくないモノ、ですか」


 つまり、雲雀恭弥の知られたくない人物。……桜クラ病で弱らせるのも良いですが、こっちの方も良さそうですね。そろそろ帰るとしましょう。


「クフフ、お邪魔しました。また来ますね。雲雀恭弥」


 妖しい紅の目を細め、謎の男は部屋を去っていった。もぞりと、不愉快そうに雲雀はぼやいた。


「わたしはーー」
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