第2章 横浜の龍
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「あ~、肩がこるなあ」
首を捻るとポキポキと小気味良く鳴る。調子に乗って今日は五件も鑑定を引き受けてしまった。持ち帰りの仕事もあり、忙しい。最近、紗栄子さんにも働きすぎじゃないかと心配された。
そうでもしないと、思い出してしまう。
嘘だと、その依頼が来たときそう思った。でも、何回メールを読み返してもなにも変わらず。木内妙子さんが死んだ。
自力で歩けないほど身体が弱いのは知ってはいた。最後に会ったとき、彼女の姿はげんきに見えた。なのに、突然体調が悪化してして急死したと息子さんから伝えられた。
彼女は白い箱に横たわり、花に囲まれ目を閉じている。家族や親戚にちゃんと葬式をさせてもらって、あの世に見送られる妙子さんは幸せだろうな。
妙子さんの葬式を終えたあと、俺は妙子さんの息子である、木内惣太郎さんに妙子さんの遺品の処理を頼まれた。価値のない、売れない物は処分してくれてもいいと。
その遺品は、俺んちの部屋の片隅に置いてある。売値が付く物のお金は息子さんのほうに送金してある。なので、手元にあるのは……でも、どうしても、俺には捨てられなかった。まいった。自分でも結構、妙子さんを、彼女を好いていたらしい。気持ちの整理がついたら片付けよう。
切り替えだ。思考を仕事に戻そう。着いた先は乙姫ランド。今時珍しいソープランドだ。店内に入ってカウンター内で帳簿している店長に声かけた。
「野々宮さん、おはようございます」
「おっ、多々良さんおはよう。早速だけどこれ頼むね!」
鑑定してほしい物が入った箱を渡される。時間がかかるなら控え室使ってもいいよと言われたのでありがたく使わせてもらった。
しばらくそこで仕事をしていた。ふうと一息ついたころ、一階が騒がしいのに気づいた。いったいどうしたのだろう。もめ事だろうか。
「どうかしましたか?」
二階から降りるとそこには、春日さん。それと、ナンバさんと知らない青いジャケットの男性がいた。
「あれ、春日さん? どうしてここに?」
「ナナシさん? あんたこそどうして?」
春日さんが首をかしげる。
「あぁ、仕事です」
素直に俺はそう答える。
「し、しし、仕事!?」
春日さんが面食らった顔をした。……俺、なんか変なこと言ったのだろうか?
「まさかあんたがソープに勤めているとはなあ……」
「確かに、最近はそういう需要も多いからなあ。男のソープ嬢が居てもふしぎじゃねえ」
「え”っ」
ナンバさんと名も知らぬおっさんの言葉でとんでもない誤解を受けているのに気づいた。
「大丈夫だナナシさん。俺はあんたがたとえどんな職業をしていても、牛丼の恩は忘れねえよ!」
決意もった顔で言わないで欲しい春日さん。あと手で隠してるけど笑いこらえてるの知ってるからな野々宮さん!!
「誤解です! 私はここで働いてませんよ!!」
「彼は物の買い取りでここに来てたんだよ。うちは男のソープ嬢は雇ってないよ」
「えっ、んじゃ俺たちの勘違いか……?」
どうやら誤解は解けたらしい。勘弁してくれよ……。
「すまねえナナシさん! 俺たちとんでもなく失礼なことを言っちまって!!」
「いや、いいよ。私も言葉が足りてなかったですし」
少し驚いたけど謝ってくれたし許そう。
「それよりも、こちらの方は誰でしょうか? 始めてみる方ですが……」
青いジャケットの人を見る。老け具合から察するに定年間近の人だろうか。
「ああ、ナナシさんは会うの初めてだよな」
「俺は足立宏一だ。あんたがナナシさんか。春日たちから話は聞いてるよ。春日たちの飯の恩人だってな?」
お互いの素性が分かったあと、春日さんたちが何故ここに居るかも話した。どうやらハロワの紹介で乙姫ランドの清掃仕事を任されたらしい。
「いいんじゃないんですか? 実際、野々宮さんも従業員ほしいーって前から言ってたじゃないですか」
そう俺は助け船を出すが、野々宮さんがチラリと春日さんの後ろにいる足立さんとナンバさんを見る。どうやら足立さんとナンバさんは乗り気じゃないらしい。
「まぁそうだけど……」
《違法風俗反対~! 異人町から撤退せよ~!》
突如、外からメガホンで拡張された大きな声が聞こえてきた。相手が誰か予測でき、思わず眉間に皺が寄った。
首を捻るとポキポキと小気味良く鳴る。調子に乗って今日は五件も鑑定を引き受けてしまった。持ち帰りの仕事もあり、忙しい。最近、紗栄子さんにも働きすぎじゃないかと心配された。
そうでもしないと、思い出してしまう。
嘘だと、その依頼が来たときそう思った。でも、何回メールを読み返してもなにも変わらず。木内妙子さんが死んだ。
自力で歩けないほど身体が弱いのは知ってはいた。最後に会ったとき、彼女の姿はげんきに見えた。なのに、突然体調が悪化してして急死したと息子さんから伝えられた。
彼女は白い箱に横たわり、花に囲まれ目を閉じている。家族や親戚にちゃんと葬式をさせてもらって、あの世に見送られる妙子さんは幸せだろうな。
妙子さんの葬式を終えたあと、俺は妙子さんの息子である、木内惣太郎さんに妙子さんの遺品の処理を頼まれた。価値のない、売れない物は処分してくれてもいいと。
その遺品は、俺んちの部屋の片隅に置いてある。売値が付く物のお金は息子さんのほうに送金してある。なので、手元にあるのは……でも、どうしても、俺には捨てられなかった。まいった。自分でも結構、妙子さんを、彼女を好いていたらしい。気持ちの整理がついたら片付けよう。
切り替えだ。思考を仕事に戻そう。着いた先は乙姫ランド。今時珍しいソープランドだ。店内に入ってカウンター内で帳簿している店長に声かけた。
「野々宮さん、おはようございます」
「おっ、多々良さんおはよう。早速だけどこれ頼むね!」
鑑定してほしい物が入った箱を渡される。時間がかかるなら控え室使ってもいいよと言われたのでありがたく使わせてもらった。
しばらくそこで仕事をしていた。ふうと一息ついたころ、一階が騒がしいのに気づいた。いったいどうしたのだろう。もめ事だろうか。
「どうかしましたか?」
二階から降りるとそこには、春日さん。それと、ナンバさんと知らない青いジャケットの男性がいた。
「あれ、春日さん? どうしてここに?」
「ナナシさん? あんたこそどうして?」
春日さんが首をかしげる。
「あぁ、仕事です」
素直に俺はそう答える。
「し、しし、仕事!?」
春日さんが面食らった顔をした。……俺、なんか変なこと言ったのだろうか?
「まさかあんたがソープに勤めているとはなあ……」
「確かに、最近はそういう需要も多いからなあ。男のソープ嬢が居てもふしぎじゃねえ」
「え”っ」
ナンバさんと名も知らぬおっさんの言葉でとんでもない誤解を受けているのに気づいた。
「大丈夫だナナシさん。俺はあんたがたとえどんな職業をしていても、牛丼の恩は忘れねえよ!」
決意もった顔で言わないで欲しい春日さん。あと手で隠してるけど笑いこらえてるの知ってるからな野々宮さん!!
「誤解です! 私はここで働いてませんよ!!」
「彼は物の買い取りでここに来てたんだよ。うちは男のソープ嬢は雇ってないよ」
「えっ、んじゃ俺たちの勘違いか……?」
どうやら誤解は解けたらしい。勘弁してくれよ……。
「すまねえナナシさん! 俺たちとんでもなく失礼なことを言っちまって!!」
「いや、いいよ。私も言葉が足りてなかったですし」
少し驚いたけど謝ってくれたし許そう。
「それよりも、こちらの方は誰でしょうか? 始めてみる方ですが……」
青いジャケットの人を見る。老け具合から察するに定年間近の人だろうか。
「ああ、ナナシさんは会うの初めてだよな」
「俺は足立宏一だ。あんたがナナシさんか。春日たちから話は聞いてるよ。春日たちの飯の恩人だってな?」
お互いの素性が分かったあと、春日さんたちが何故ここに居るかも話した。どうやらハロワの紹介で乙姫ランドの清掃仕事を任されたらしい。
「いいんじゃないんですか? 実際、野々宮さんも従業員ほしいーって前から言ってたじゃないですか」
そう俺は助け船を出すが、野々宮さんがチラリと春日さんの後ろにいる足立さんとナンバさんを見る。どうやら足立さんとナンバさんは乗り気じゃないらしい。
「まぁそうだけど……」
《違法風俗反対~! 異人町から撤退せよ~!》
突如、外からメガホンで拡張された大きな声が聞こえてきた。相手が誰か予測でき、思わず眉間に皺が寄った。
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