第1章 どん底の街
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異人町の川沿いに位置するホームレス街。不本意ながらホームレスになってしまった春日一番は、この街で最初に知り合ったナンバと一緒に、今日も自動販売機の下に腕を突っ込んでいた。
「よっしゃー! 500円ゲットォ!!」
「おお、やったな一番」
春日一番もこの街に馴染んできた頃だった。
「ひったくりー!! 返してくれェェ!!」
道の向こうで叫び声が上がった。そちらに目を向けると、アタッシュケースを抱えた黒ずくめの男が走ってきた。
「……ん? 犯人こっちにくるぞ」
春日一番たちの横をひったくりが通っていく。
「待て!!」
「なっ!? おい一番!!」
当然のように走り出した春日一番。犯人を追いかけ始める彼に、数日で春日一番がどういう人間なのか徐々に理解してきたナンバは、ヤレヤレと呆れながらも後を追った。
$
犯人がパーキングエリアに逃げ込んだのを春日一番は見逃さなかった。犯人を追い詰めた春日一番ができるだけ声を優しくして話しかけた。
「もう逃げ場はねえぞ。大人しく、そいつを返してくれねえかな? 手荒な真似したくねえんだ」
「チッ、しつけえやつらだなあ!!」
「げっ」
犯人は懐からナイフを取り出すのを見て、春日一番は顔をしかめた。
「大人しく見逃してたら、痛い目見なかったのによお!!」
$
「スミマセンでしたァァァァ!!!」
痛い目をみたのは彼のほうだった。
「一番、こいつどうするんだ?」
殴る蹴るなどでかわいそうなほどに顔が腫れた犯人は、見事な土下座を披露した。ナンバが春日一番の顔を伺う。
「そんな大事にはしねえよ。ただ、二度と同じことすんなよ……?」
しゃがみこみ、犯人の顔を覗く春日一番。犯人の目にはどんな顔が映っていたのか。
「ひぇっ」
「返事ィ!!」
ダンと春日一番は地面を踏み鳴らした。数cmくらい犯人は飛び上がった。
「はいィィ!!! スミマセンでしたァァァァ!!!!」
犯人は恐怖で青ざめ、パーキングエリアから脱兎の如く逃げ出した。春日一番は側に落ちていたアタッシュケースを拾い上げ、少しついた砂をはらう。
「よしっ、取り返せたな」
「……一番、おめえってすげえよな」
「? なんだよ藪から棒に?」
「なんでもねえ。早く持ち主に返しに行こうぜ」
$
鞄を返して貰った持ち主である男は、まるで長い間会わなかった恋人の再開のように、鞄が返ってきたのを大層喜んだ。
「ほんっっとうにありがとうございます!! この鞄の中身、大事な商売道具が入ってるんです。こいつが無くなったらホームレスになるところでした」
鞄の表面を撫で、安堵の声を漏らす持ち主。ナンバはそんな持ち主をみてなんとも言えない顔を浮かべた。
「遅ければこっちの仲間入りだったか。そりゃ危なかったなぁ」
「そんなに大事なもんなら、もう引ったくられんなよ?」
春日一番は持ち主の嬉しそうな顔に笑顔を浮かべる。
「ええ、もう絶対に離しません。あの、お礼をさせてくれませんか?」
その申し出に春日一番は首を横に振った。
「いいって、別に礼をさせるために取り返したわけじゃねえーー」
「ご飯おごります!!」
「おい一番、飯だってよ!!」
飯といわれてナンバの目が輝いた。
「ナンバ、少しは遠慮しろよ……」
食欲に貪欲なナンバに春日一番は困ったように頭をかいた。
「あんたいいのか? 言っとくが、俺ら食い溜めみたいに平らげるぞ? なんてったって、しばらくまともな飯を食ってねえからな」
「それくらい覚悟してます!」
「んじゃ……ご馳走になりますか」
建前では遠慮してはいたが、久しぶりのまともな食べ物にありつけると思うと春日一番は嬉しそうな顔をした。その返答に鞄の持ち主、多々良ナナシは口角を上げた。
「よっしゃー! 500円ゲットォ!!」
「おお、やったな一番」
春日一番もこの街に馴染んできた頃だった。
「ひったくりー!! 返してくれェェ!!」
道の向こうで叫び声が上がった。そちらに目を向けると、アタッシュケースを抱えた黒ずくめの男が走ってきた。
「……ん? 犯人こっちにくるぞ」
春日一番たちの横をひったくりが通っていく。
「待て!!」
「なっ!? おい一番!!」
当然のように走り出した春日一番。犯人を追いかけ始める彼に、数日で春日一番がどういう人間なのか徐々に理解してきたナンバは、ヤレヤレと呆れながらも後を追った。
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犯人がパーキングエリアに逃げ込んだのを春日一番は見逃さなかった。犯人を追い詰めた春日一番ができるだけ声を優しくして話しかけた。
「もう逃げ場はねえぞ。大人しく、そいつを返してくれねえかな? 手荒な真似したくねえんだ」
「チッ、しつけえやつらだなあ!!」
「げっ」
犯人は懐からナイフを取り出すのを見て、春日一番は顔をしかめた。
「大人しく見逃してたら、痛い目見なかったのによお!!」
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「スミマセンでしたァァァァ!!!」
痛い目をみたのは彼のほうだった。
「一番、こいつどうするんだ?」
殴る蹴るなどでかわいそうなほどに顔が腫れた犯人は、見事な土下座を披露した。ナンバが春日一番の顔を伺う。
「そんな大事にはしねえよ。ただ、二度と同じことすんなよ……?」
しゃがみこみ、犯人の顔を覗く春日一番。犯人の目にはどんな顔が映っていたのか。
「ひぇっ」
「返事ィ!!」
ダンと春日一番は地面を踏み鳴らした。数cmくらい犯人は飛び上がった。
「はいィィ!!! スミマセンでしたァァァァ!!!!」
犯人は恐怖で青ざめ、パーキングエリアから脱兎の如く逃げ出した。春日一番は側に落ちていたアタッシュケースを拾い上げ、少しついた砂をはらう。
「よしっ、取り返せたな」
「……一番、おめえってすげえよな」
「? なんだよ藪から棒に?」
「なんでもねえ。早く持ち主に返しに行こうぜ」
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鞄を返して貰った持ち主である男は、まるで長い間会わなかった恋人の再開のように、鞄が返ってきたのを大層喜んだ。
「ほんっっとうにありがとうございます!! この鞄の中身、大事な商売道具が入ってるんです。こいつが無くなったらホームレスになるところでした」
鞄の表面を撫で、安堵の声を漏らす持ち主。ナンバはそんな持ち主をみてなんとも言えない顔を浮かべた。
「遅ければこっちの仲間入りだったか。そりゃ危なかったなぁ」
「そんなに大事なもんなら、もう引ったくられんなよ?」
春日一番は持ち主の嬉しそうな顔に笑顔を浮かべる。
「ええ、もう絶対に離しません。あの、お礼をさせてくれませんか?」
その申し出に春日一番は首を横に振った。
「いいって、別に礼をさせるために取り返したわけじゃねえーー」
「ご飯おごります!!」
「おい一番、飯だってよ!!」
飯といわれてナンバの目が輝いた。
「ナンバ、少しは遠慮しろよ……」
食欲に貪欲なナンバに春日一番は困ったように頭をかいた。
「あんたいいのか? 言っとくが、俺ら食い溜めみたいに平らげるぞ? なんてったって、しばらくまともな飯を食ってねえからな」
「それくらい覚悟してます!」
「んじゃ……ご馳走になりますか」
建前では遠慮してはいたが、久しぶりのまともな食べ物にありつけると思うと春日一番は嬉しそうな顔をした。その返答に鞄の持ち主、多々良ナナシは口角を上げた。
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