風紀委員長の日常
Target.06 出前をとった件について
どうも、成り代わった方の雲雀恭弥です。久しぶりに家に帰ってこれた。長い間学校に泊まっていたからね。あぁ、愛しき我が家。
「ただいまー」
無音。返事は帰ってこないと分かってはいるのにな。まあ、癖みたいな物だ。廊下を通ってリビングに入る。
「父さん、母さん。ただいま帰りました」
穏やかに笑う二人の写真に声をかけた。遺影の前で正座して両手を合わせる。母さんと父さんは僕が小さいときに飛行機の墜落事故で亡くなった。僕はその日以降、今日の出来事を母さんと父さんに話すのが日課になっていた。
「今日も笹川が僕に絡んできたよ。あんなに冷たくあたってるのに毎日懲りない奴だよ」
ひとしきり話終えたあと、自分の腹が小さく音をたてた。そういや、お昼からなにも食べてないな。
「(ご飯作る気分じゃない)」
んー、出前でも取るか? その前に、僕はいま何腹なのだろうか。ピザ、ラーメン、お寿司……寿司! よし、寿司にしよう!! えーっと、たしかメモに寿司屋の電話番号あったよな。
ウキウキで受話器を手に取り近場の寿司屋に電話した。ふふ、ちょっとお高めのもの買ってやったぜ。にしても、電話越しに聞いた板前の声どっかで聞いたことあるような……。
流石にずっと学ランはキツいので私服に着替える。至ってシンプルな黒いYシャツとジーンズである。リビングで本を読みながら寝転がっていたら外からゴロゴロと雷の音が鳴った。
「……これ、出前大丈夫?」
□◇□◇
「おーい武ぃ!」
部屋で野球のゲームしてたら店に立ってる親父に呼び出された。ちぇ、盛り上がってきていいところだったのになー。コントローラーを床において一階まで降りる。
「ちっと出前頼めねえか? こっちいま手が離せねえんだよ」
すまんなと申し訳なさそうに言う親父。今は店の客で手一杯らしい。カウンターには寿司桶と住所の書かれた紙が置かれていた。
「たけえ奴だから子供のときみたいに落とすなよー」
「分かってるよ親父。んなヘマもうしねえって」
いつの話してんだよ親父。できれば忘れててほしい。寿司桶を持ってクツを履く。表から出ようと戸を開けたとき、カウンターに座ってた常連さんに話しかけられた。
「たけちゃん。これから雨降るらしいから傘持ってったほうがいいぞー」
「そうなんすか?」
見上げると雲が空を覆っていた。でも、メモの住所は徒歩数分くらいだ。
「近いから大丈夫っすよ! 行ってきます!」
◇□◇□
「大丈夫じゃなかったなー……」
ポツポツと降り始めたと思った瞬間、雨粒が大きくなった。めんどくさらずに傘持ってくればよかったと後悔した。
頼まれた家に着く頃には服も髪もびしょ濡れ。玄関先の軒下で寿司桶の入った袋を覗いて無事か確認する。めちゃくちゃになってたら親父に怒られちまうからなー。
「にしても、大きい家だなぁ。どんな人が住んでるんだ?」
住所に書かれてた家は純和風の豪邸だった。一番高い寿司が頼まれたのも分かるなぁ。
「っブシュ! うぅ、早く帰ってシャワー浴びよ」
くしゃみを抑えて引き戸の横にあるインターホンを押す。数秒後、足音が近づいてきてガラガラと引き戸が開いた。
「こんばんわ! 寿司屋竹寿司、で、す……?」
戸を開けた人物を見て硬直した。
「ひ、雲雀……?」
そこには無表情の雲雀が立っていた。マジか。
「はは、驚いたぜ!ここって雲雀の家だったのな」
ご近所だったのに今まで気づかなかったの不思議だった。少し眉をしかめた雲雀が手のひらを差し出す。そこにはお金が乗ってた。
「そんなことよりはやく渡してくれない?」
「あ、おう!」
そう託され寿司桶を雲雀に渡して代金を受けとる。雲雀も出前とか取るんだなぁ。あっでもコンビニで見かけたって獄寺が言ってたし普通か? 雲雀は受け取った寿司桶の中を確認したあと、ジッとこっちを見てきた。
「……?」
あれ俺、なんかしたっけ? 学校で気にさわるようなことした覚えねえのになあ。
「ちょっとそこで待ってて」
「お、おう」
雲雀が家のなかに引っ込む。内心トンファーとりに戻ったんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど、雲雀が持ってきたのはトンファーでもなくタオルだった。
「はい」
そういって雲雀はタオルを差し出す。まさかの行動に雲雀とタオルを交互に見た。雲雀は顔をしかめる。
「えっ、いいのか?」
「君以外居ないでしょ。それともなに? いらない?」
「いやいやいや、いるから!」
そういって戻ろうとする雲雀を俺は引き留める。引っ付いたシャツが気持ち悪かったからありがたい。雲雀からタオルを受け取って濡れた髪や体を拭いたら少しはましになった。
「……あと、これも持っていきなよ」
雲雀は近くのクツ箱の引き出しから折り畳み傘を取り出す。
「タオルで拭いたのに、またびしょ濡れで帰られたら意味ないからね」
……こいつ、本当に雲雀か? もしかして双子の弟とか「早く受け取らないと咬み殺すよ」いや、雲雀だったわ。
雲雀のことは野球部の先輩とか同じクラスの奴から聞いてて、群れただけで咬み殺すとか言うやべえやつだって教えられてた。ボコられた奴の話も聞いたことあったし、実際に校内で生徒に暴力を振るう所も見ていた。俺も前にボコられたしな。けど……。
「サンキューな雲雀!」
素直に礼をいうと雲雀は用が終わったのなら早く帰りなと返された。
「今度、店で礼させてくれよ。うめえ寿司握ってやるからさ!」
「……気が向いたら行くよ」
雲雀はぶっきらぼうにそう返答する。雲雀の家から帰るとき、借りた黒い傘をさしながら、俺は道中に考えた。
応接室の件も、雲雀からしたら自分の居場所を他人の俺らが荒らしちまってたわけで、怒るのも当然だよなぁ。そう考えると、雲雀はただ理不尽に暴力を振るってる訳じゃないのかと俺は思った。
案外、雲雀は人と話すのが苦手なだけで、本当は良いやつなのかもしれないのかも?
どうも、成り代わった方の雲雀恭弥です。久しぶりに家に帰ってこれた。長い間学校に泊まっていたからね。あぁ、愛しき我が家。
「ただいまー」
無音。返事は帰ってこないと分かってはいるのにな。まあ、癖みたいな物だ。廊下を通ってリビングに入る。
「父さん、母さん。ただいま帰りました」
穏やかに笑う二人の写真に声をかけた。遺影の前で正座して両手を合わせる。母さんと父さんは僕が小さいときに飛行機の墜落事故で亡くなった。僕はその日以降、今日の出来事を母さんと父さんに話すのが日課になっていた。
「今日も笹川が僕に絡んできたよ。あんなに冷たくあたってるのに毎日懲りない奴だよ」
ひとしきり話終えたあと、自分の腹が小さく音をたてた。そういや、お昼からなにも食べてないな。
「(ご飯作る気分じゃない)」
んー、出前でも取るか? その前に、僕はいま何腹なのだろうか。ピザ、ラーメン、お寿司……寿司! よし、寿司にしよう!! えーっと、たしかメモに寿司屋の電話番号あったよな。
ウキウキで受話器を手に取り近場の寿司屋に電話した。ふふ、ちょっとお高めのもの買ってやったぜ。にしても、電話越しに聞いた板前の声どっかで聞いたことあるような……。
流石にずっと学ランはキツいので私服に着替える。至ってシンプルな黒いYシャツとジーンズである。リビングで本を読みながら寝転がっていたら外からゴロゴロと雷の音が鳴った。
「……これ、出前大丈夫?」
□◇□◇
「おーい武ぃ!」
部屋で野球のゲームしてたら店に立ってる親父に呼び出された。ちぇ、盛り上がってきていいところだったのになー。コントローラーを床において一階まで降りる。
「ちっと出前頼めねえか? こっちいま手が離せねえんだよ」
すまんなと申し訳なさそうに言う親父。今は店の客で手一杯らしい。カウンターには寿司桶と住所の書かれた紙が置かれていた。
「たけえ奴だから子供のときみたいに落とすなよー」
「分かってるよ親父。んなヘマもうしねえって」
いつの話してんだよ親父。できれば忘れててほしい。寿司桶を持ってクツを履く。表から出ようと戸を開けたとき、カウンターに座ってた常連さんに話しかけられた。
「たけちゃん。これから雨降るらしいから傘持ってったほうがいいぞー」
「そうなんすか?」
見上げると雲が空を覆っていた。でも、メモの住所は徒歩数分くらいだ。
「近いから大丈夫っすよ! 行ってきます!」
◇□◇□
「大丈夫じゃなかったなー……」
ポツポツと降り始めたと思った瞬間、雨粒が大きくなった。めんどくさらずに傘持ってくればよかったと後悔した。
頼まれた家に着く頃には服も髪もびしょ濡れ。玄関先の軒下で寿司桶の入った袋を覗いて無事か確認する。めちゃくちゃになってたら親父に怒られちまうからなー。
「にしても、大きい家だなぁ。どんな人が住んでるんだ?」
住所に書かれてた家は純和風の豪邸だった。一番高い寿司が頼まれたのも分かるなぁ。
「っブシュ! うぅ、早く帰ってシャワー浴びよ」
くしゃみを抑えて引き戸の横にあるインターホンを押す。数秒後、足音が近づいてきてガラガラと引き戸が開いた。
「こんばんわ! 寿司屋竹寿司、で、す……?」
戸を開けた人物を見て硬直した。
「ひ、雲雀……?」
そこには無表情の雲雀が立っていた。マジか。
「はは、驚いたぜ!ここって雲雀の家だったのな」
ご近所だったのに今まで気づかなかったの不思議だった。少し眉をしかめた雲雀が手のひらを差し出す。そこにはお金が乗ってた。
「そんなことよりはやく渡してくれない?」
「あ、おう!」
そう託され寿司桶を雲雀に渡して代金を受けとる。雲雀も出前とか取るんだなぁ。あっでもコンビニで見かけたって獄寺が言ってたし普通か? 雲雀は受け取った寿司桶の中を確認したあと、ジッとこっちを見てきた。
「……?」
あれ俺、なんかしたっけ? 学校で気にさわるようなことした覚えねえのになあ。
「ちょっとそこで待ってて」
「お、おう」
雲雀が家のなかに引っ込む。内心トンファーとりに戻ったんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど、雲雀が持ってきたのはトンファーでもなくタオルだった。
「はい」
そういって雲雀はタオルを差し出す。まさかの行動に雲雀とタオルを交互に見た。雲雀は顔をしかめる。
「えっ、いいのか?」
「君以外居ないでしょ。それともなに? いらない?」
「いやいやいや、いるから!」
そういって戻ろうとする雲雀を俺は引き留める。引っ付いたシャツが気持ち悪かったからありがたい。雲雀からタオルを受け取って濡れた髪や体を拭いたら少しはましになった。
「……あと、これも持っていきなよ」
雲雀は近くのクツ箱の引き出しから折り畳み傘を取り出す。
「タオルで拭いたのに、またびしょ濡れで帰られたら意味ないからね」
……こいつ、本当に雲雀か? もしかして双子の弟とか「早く受け取らないと咬み殺すよ」いや、雲雀だったわ。
雲雀のことは野球部の先輩とか同じクラスの奴から聞いてて、群れただけで咬み殺すとか言うやべえやつだって教えられてた。ボコられた奴の話も聞いたことあったし、実際に校内で生徒に暴力を振るう所も見ていた。俺も前にボコられたしな。けど……。
「サンキューな雲雀!」
素直に礼をいうと雲雀は用が終わったのなら早く帰りなと返された。
「今度、店で礼させてくれよ。うめえ寿司握ってやるからさ!」
「……気が向いたら行くよ」
雲雀はぶっきらぼうにそう返答する。雲雀の家から帰るとき、借りた黒い傘をさしながら、俺は道中に考えた。
応接室の件も、雲雀からしたら自分の居場所を他人の俺らが荒らしちまってたわけで、怒るのも当然だよなぁ。そう考えると、雲雀はただ理不尽に暴力を振るってる訳じゃないのかと俺は思った。
案外、雲雀は人と話すのが苦手なだけで、本当は良いやつなのかもしれないのかも?