トリップ編
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朝、寒さで目が覚めた。…どうやら暖房が切れたらしい。
あの時ゲルダに拾われなかったら、ロニール雪山で雪に埋もれたまま死んでいたかもしれない。そう思うとさらに体が冷たくなった気がした。
少しでも暖めようと二の腕をさすりつつ、服を着替えて借りている客間を出る。
…どうやらいつもとほとんど変わらない時間に起きたようなので、いつものように台所で二人分の朝食を作りはじめる。
そうやっている間に、家主のゲルダも起き出してきたので…いつものように珈琲を手渡した。
「おはよう、ゲルダさん」
「あぁ…、おはよう、クコ」
フッ。と微笑む美人に私も笑いかえして、丁度出来上がった朝食をテーブルに並べていく。
それを横目にゲルダさんは持っていた新聞を読み始めた。
その新聞の文字…"フォニック文字"はまだ読めず、オシャレな記号の羅列にしか見えない。
…そのうち読み書きできるようになりたい。と思っているので、ゲルダのやっている私塾に私も通わせて貰ってるけど…小さい子供に交ざって勉強するのは苦痛というか、純粋に恥ずかしい。
それに、隙あらば私にちょっかいをかけてくるピオニーも問題だ。
…そりゃ、いい歳した大人が文字も読めないなんて酷く不思議で意味が分からないだろうけども。
思わずつきそうになった溜め息を飲み込んで、塾の準備に必要なものを思い返す。
塾の予定は、午前中は年少の子達が算数とフォニック文字を習いにくる。
午後の前半は年長がメインで、歴史や地理、古代イスパニア語の勉強。…それから、譜業、譜術、戦術についても学ぶ。
譜術、戦術は定期的に実習が行われるという、世界でも珍しい私塾らしい。
…とはいっても、学ぶのは基本のキだけでらしいけど。
今日必要なのは、昨日折れて短くなったチョークと算数を分かりやすく教えるためのリンゴ10個と世界地図。
リンゴは昨日買っておいたので、それを持ってきて…地図は確か資料室にあったはずなので、それを取りに行かなくては。
台所からリンゴを拝借してから、ゲルダさんに声をかける。
「それじゃ、先に部屋の準備してきますので…いつも通り食器はシンクに浸けておいて下さいね」
「あぁ、いつも悪いわね」
食器を持って立ち上がったゲルダさんを横目で見つつ、リンゴの入ったカゴをもって廊下に出た。
ここから右へ2つ行ったところが教室として使っている部屋で、玄関から一番近い部屋である。
その部屋に入ってすぐの机にカゴを置いて、部屋の窓を全部開け放つ。
…朝のすがすがしい風を感じながら、やっと見慣れてきた積もった雪を眺めた。
今日も一日、頑張りますか…。