悔しいけど、認めざるを得ないね。君が好きだよ。
>>雲雀 恭弥
並盛町に引っ越してきたその日から、私は雲雀恭弥の隣人で幼なじみだ。
雲雀宅へ引越しのご挨拶をしたのが運の尽き、雲雀ママに「恭ちゃんを助けてあげてね」とお願いされてしまい、それを額面通りに受け取って助け続けること約二十年、今では出会った当初の私もビックリな、マフィアのお手伝いもしている。…いやなんで?
しかも、ボスが学校の後輩だなんて…世も末だし、世間が狭すぎるよ!辛すぎ!!
そんな周囲に怯えながら過ごしていたら、周りの友達は空前の結婚ラッシュとベビーラッシュ。いっぺんに来たよチキショー!私なんて相手すら居ないというのに!!
「何してるの」
ぐぎぎ…。と思わず歯ぎしりしていると、真後ろから声をかけられた。この声は恭ちゃんだなと振り向くと、案の定恭ちゃんがいた。どうやら風呂上がりのようで、濡れた頭をタオルで拭きながらこちらに近づいてくる。のはいいけれど、今回もワイシャツは開けっ放し、ネクタイは首にかけただけのだらしない格好である。
そんな姿に心の中でため息をつきつつ、手に持っていたスマホを机の上に置いて立ち上がり、恭ちゃんに近づいてワイシャツのボタンを閉めて、ネクタイを結ぶ。
「友達から結婚とか、子供が産まれたって連絡が来てたの」
「…ふぅん」
まっったく興味無さそうな恭ちゃんは私にタオルを押し付けた後、いつもの席に座ると私を見上げた。…ハイハイ、私がドライヤーするのね!またまた心の中でため息をつきつつ、渋々ドライヤーを取ってきて乾かしてあげる。…毎度ながら、サラサラで癖のない黒髪が羨ましすぎる。
「――それでね、私もいい歳だし…そろそろ結婚したいとは思うんだけど、残念ながら相手がいないのよね〜」
そう言った瞬間、たまたまタイミングよく恭ちゃんにコーヒーを入れてきた草壁くんが、ガチャンと大きな音を立ててトレーを取り落としそうになっていた。幸いにもコーヒーがトレーの上で零れただけで、草壁くんは火傷してなさそうだったけれど。
「…いっ、入れ直してきます!!」
大丈夫か声をかける前に、たいへん慌てた様子で草壁くんはUターンして部屋を出ていったけれど…最近は草壁くんに対して恭ちゃんは無意味な暴行を加えることも殆ど無くなったから、そんなに慌てなくても大丈夫だと思うんだけどな。そう思って首を傾げていると、何故かゆっくりとした動作で恭ちゃんが首を傾けてこちらを見上げた。
「ねぇ、どういう意味?」
「えっ?彼氏欲しいな〜って話でしょ
沢田くんも最近笹川さんと良い感じらしいし…、私も本格的に探さなきゃ駄目かな〜って」
謎の圧力を感じて、そう言いながら思わずドライヤーのスイッチを切って恭ちゃんを見上げると……キス、された。???
「悔しいけど、認めざるを得ないね。
...君が好きだよ。」
驚きと混乱で震えていると、ドライヤーを持つ手ごと恭ちゃんに握られ―――
「だから、僕と結婚しよう」
――抱きしめられた。
2021/04/25