苦労するね、ボス
>>沢田綱吉
「あ"あ"あ"〜!!終わらないッ!」
突如上がった悲鳴にも似た叫び声とドシャッと崩れ落ちた音に、書きかけの書類から目を離して顔を上げると、この会社の社長…というかマフィアのボスが、立派な黒塗りのデスクに突っ伏している。どうやら律儀に書類を脇に避けてから倒れてくれたらしく、被害はないようで…内心ホッとした。
「ボス、手を止めたら…終わるものも終わりませんよ」
「分かってるよッ!!」
半泣きになりながら叫んだボス――沢田綱吉は勢いよく頭を掻きむしりながら、でも全然終わんないんだよ!!と魂の叫びをあげた。
「問題ない範囲の書類を幹部の方々に手伝っていただいては?」
ボスにしか出来ない内容のものは仕方ないが、それ以外のものであれば、手伝ってもらった方が確実に早く終わる。――えっ、私?…私はいくら秘書とはいえ、マフィアでは無い()ので、残念ながら、触れる書類は微々たるものなのだ。そう、残念ながら。
「できるなら、とっくにしてるよ!!
隼人は気が短いし、
武はそもそも事務仕事に向いてないし、
ヒバリさんは…なんか頼むの怖いし、
骸は見返りが怖いし、言って言うことを聞くようなタイプじゃないだろ、
クロームはお願いしたらしてくれると思うけど、骸が煩そうだし、
ランボはまだ学生だからね……
無理。詰んでる………」
一人一人指折り数えるように幹部の方々の名前を上げていくボスだが、結局最後はさっき以上に沈んだ顔で項垂れて終わった。
「苦労するね、ボス」
ご苦労様です。の気持ちを込めて、部屋に備え付けられてるコーヒーメーカーでコーヒーを入れ、ボスの目の前にそっと供えた。
「君がもっと手伝ってくれたら楽になるんだけどなっ!?」
顔だけあげた状態で私に文句を垂れつつ、今日にコーヒーを引き寄せながらボスは、恨めしげに私を見つめ何か言っているが、鼻で一蹴する。
「ご冗談を。私は一般人ですよ?
マフィア関連の書類は触れません」
「どの口がそんなこと言うのかなっ?!」
はぁ。とため息をついたボスは、ゆっくり起き上がり、コーヒーに口をつけた。
ボスには悪いけど、私はマフィアになるつもりは無い。だって、マフィアばかりで息が詰まると貴方が時々嘆くから―――
2021/10/07