後は野となれ山となれ。
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大阪にやって来てから数日経った今日、私は城下町にいる。
毎日のようにやって来る三成と家康から解放された今、頬が緩むのを感じながら足取り軽く大通りを歩いている。
折角だから髪紐や櫛、紅なんかも見たいし、甘味も食したい。
ジロジロと一軒一軒、店を覗きながら歩いていると、ひときわ賑わっているのが見えたので興味本位で近付いてみると…どこかで見たことのある偉丈夫が賑わいの中心に立っていた。
その中心人物は慶次で、うわぁ、関わりたくない。
そっと目を逸らして回れ右で元来た道を戻ろうとした。…したんだけどね?
「あれ、クコちゃん?
こんな所で会うなんて奇遇だね!」
ニコニコと笑う慶次に肩を掴まれて、早々に逃走計画は頓挫した。
「えっと、慶次さん…でしたっけ?」
困ったような表情を作りつつ、首を傾げて慶次の顔を見上げると、覚えててくれて嬉しい!とニカッと笑った。
「折角だからさ、一緒に団子食べていかない?」
慶次に誘われるまま赤い布…緋毛氈が敷かれた椅子に腰掛けた。…どうやら私達は茶屋の前で話していたらしい。
知り合いらしい茶屋の娘を呼んで、団子二人前。と慶次は注文した。
「ところでクコちゃんはどうして大阪に?」
お茶を一口飲んだ慶次はそう疑問を口にした。
私がお世話になっていた桜花亭は近江…滋賀県辺りにあったし、三成の屋敷は近江の佐和山にある。
そんなところに居たはずの私が大阪にいるなんて驚きだろう。
だけど正直に話すわけにはいかないので、適当にぼやかしながら説明するしかない。
「知人がこちらに来る用事があったらしく、それについてきたんです」
「おぉ…もしかして、クコちゃんの良い人かい?」
慶次の言う"良い人"っていうのは、色恋とかそういう良い人の事だろうけど…三成が良い人かって聞かれたら、
「えっと、悪い人ではないと思います。たぶん」
としか答えられない。
「…へぇ。その人ってどんな人?」
何処に興味を持ったのか分からないけど、慶次が話に食いついてきた。
でも、三成は秀吉の部下で、秀吉と慶次は現在犬猿の仲…。
三成だと直接分かるような表現は避けるか、ぼやかして答えなければならないだろう。
「うーん、真っ直ぐな人だと思う。
色んな意味で」
「素直な人なんだね。
身長や人相…外見はどんな人なんだい?」
「えっと、私より身長が高くて…色白でひょろっとしてるかなぁ。
で、目つき悪い」
三成を思い出しながら言ってみたけど、これだと身長が高くて痩せてるせいで目つきが悪い病人みたいに聞こえる気がする。
まぁ実際は痩せてるから目つきが悪いんじゃなくて、純粋に目つきが悪いんだろうけど。…目が悪いっていう可能性もあるか。
そして何故私はこの質問に真面目に返事しているのか一瞬考えたけども。
「そうかい、そうかい。
それで、その良い人は何処の誰なんだい?」
ニコニコと笑みを絶やさず慶次はぐいぐいと踏み込んだ事を聞いてくるが、そんなこと答えられないし、そもそもその"良い人"が女性という可能性もちゃんと考えているんだろうか? …まぁ、三成は男だが。
とりあえず適当に誤魔化すしかないか。
「恥ずかしいので無理です」
「そう言わずに、ね!」
この通り!と両手を合わせてお願いする慶次には悪いが、無理なものは無理なのです。
「すみません、そろそろ帰らないと…。
お代はここに置いておきますね!」
いつの間にか店員さんが持ってきていた団子を勢い良く頬張り、椅子の上に4文を叩きつけるように置いて、ダッシュで逃げた。
ありがたいことに慶次は追ってこず、借りている部屋に戻ることに成功した。
…次に慶次に遭遇した時に何を言われるか怖い気がするけど、先のことは考えないでおこう。