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万また

‟音‟というのはとても興味深いものだ。





 人それぞれ個性がある様に
 人によってその音色も変わる。




 知らないものに興味が湧くのと同じで

 聞いた事もない音を奏でる人を



もっと知りたいと思う。





 それは聞いた事がないからと言って



 不協和音でもなく聞いていて

 心地の悪いものでもない。


心の奥底をくすぐる様な


 そんな気分にさせる不思議な音色…。





ーーーー……






どたどたと慌ただしく廊下を走る音が



 船内中に響き渡る。





 足音の主は誰が聞いても



 検討はつくだろう。






「 万斉先輩!!!! 」






 自分を呼ぶ大きな声と共に



 激しく自室の扉が開け放たれる。




要件は聞かずもがなわかっている。







 「 いつになったら一緒に地上へ
 行ってくれるんスか!!朝に先輩から
 誘われたと思ったらもう日が沈んじゃうッス!!!

 今日って確かに言ってたッスよね?! 」




また大きな足音を立てながら
 しかめっ面を浮かべて抗議してくる、


 このガサツな女は、鬼兵隊で

 紅一点の拳銃使い 来島また子である。



 何故にこうも毎日体力が有り余って
 いるのだろうかと不思議に思う。


 戦場から帰ってきてもこの元気の良さだ。





「 ちょっと!!!聞いてるんスか!? 」





 

 覗き込む彼女の顔。





 これで物静かで落ち着いていれば…



 と何度思った事か。





目線を一度外して大音量の音楽が


 流れるヘッドフォンをずらす。







 「 嗚呼、聞いている。 」







「 じゃあ、いつ行くんスか? 」












 とてもつまらなさそうに呟く





彼女を尻目に立ち上がると徐に



 いつも着ているロングコートを



 片手に取る。






「 行くでござるよ、また子殿 」












 そう告げると彼女の表情が



ぱっと明るくなる。




 何でも顔に出る彼女はわかりやすい。














 「 さ、行きましょう!! 」





すっと彼女が自分の前へと

 歩みを進めると幼い少女の様な

 笑顔を向けてくる。





この笑顔が見たくて焦らす、




 という理由があっても良いかもしれない。






 颯爽と乗り込んだバイクで地上へと


 降り立つと既に月が出ていた。






「 もう!やっぱり暗くなっちゃったじゃ
 ないッスか!だから早く行こうって
 言ったのに!! 」





 昼間の賑わいを感じられない



 静かな江戸の街。




 元々昼間には用はなかったから


 良いと言えば良いのだ。






2人並んで暫く歩く。

 こんなにまったりとした時間は

 久し振りだ。それは彼女も一緒だろう。





 
 「 ねぇ、先輩。 」







 ふと彼女の口が沈黙を破る。


 彼女の方を見るとこちらを見つめる瞳と

 視線がぶつかった。









 「 なんで今日、誘ってくれたんスか? 」







何も知らない彼女はそう尋ねる。




 何故今日なのか、何故この時間帯なのか





 彼女が聞きたい事は大体わかる。







「 それは…―― 」









突然光る空と鳴り響く爆発音。














 鼻をつく火薬の香り。









すぐ其処で歓声が聞こえる。















 「 花火……? 」






空を彩る光の粒を見つめる瞳は




 きらきらと輝いていた。













 「 先輩、これ…願いが叶う、… 」








ずっと前に彼女が読んでいた雑誌に




 書いてあったものをたまたま目にした。








【 願い事が叶う花火 江戸桜 】 









 

 見ていたという事はきっと




 叶えたいものがあるんだと思った。








「 願い事は、良いのか 」













 掻き消されまいと耳元で話しかける。



 彼女はこれまでにない程の笑顔を



 見せると大きな声で言った。







「 もう叶った!!!! 」


















 返答に首を傾げていると



 今度は彼女の方から問いかけてくる。








「 先輩の願い事は? 」









意味がわかると、自然と笑みが零れた。











 なるほど、…それなら拙者の願いも、












『 私の願いはこの花火を
 先輩と一緒に見る事。 』
















 『 拙者の願いはまた子殿の
 笑顔を一番近くで見る事。 』










言葉にしなくても伝わる気持ちは






















 そっと絡めた指先に込めた。


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