鰐の話

………………………………………………

翌朝……


鰐「…ι何だそれは…」??

ダズ「ボス、おはようございます。
どうやら、段ボール箱を置いていたキッチンが寒過ぎたから風邪をひいた様です。
…だから、もっと暖かい場所にと思って。」


確かにキッチンは、食材を扱う衛生面から暖かい環境ではない。窓も北側に面していて、日の光もあまり入らなかったし…
ιだからといって、子猫を暖炉の真ん前に置くか…?

暖炉には、いつもより多く薪がべられ、部屋の中は暖かいというより、やや暑さを感じる程…
しかも、その段ボール箱も全体を更に毛布で覆い、暖かさもよりレベルアップしている。
子猫はというと、獣医にしっかり診てもらったお陰か、ようやく風邪も治まりつつある様だ。
今は段ボール箱の中で、湯たんぽと共にぐっすりと眠っている。時折足や鼻をピクピクと動かしながら…


鰐「(…ι猫は暑くねぇのか…?)
……ところで、結局そいつはどうする気だ。」

ダズ「……ι!……その…いずれは里親を探そうかと…」


鰐「(……それはいつなんだよι……)」


…ダズにしては歯切れが悪い。

ιまさかこうして釘を刺さなければ、飼う気満々だったのか?
ペットは今のところバナナワニ一頭で十分だ。
流石に捨ててこいとは言わねぇが、せめてそのまま獣医に幾らか握らせ子猫を預けてくれば、里親も見付かり易かったろうに…


鰐「(…ハァ)…まぁ良い。出掛けてくる。」

ダズ「…共は要りますか?」


鰐「いや、要らねぇ。お前はその猫の面倒でも見てろ…
『鷹の目』の所に顔を出してくるだけだ。3日後位には帰る…」ファサ…

ダズ「(…!…鷹の目…)…はい。」


黒く上等に光り輝く毛皮のコートを纏うと、冷たい風の吹く屋外へと赴いて行った。
クロコダイルは、あちこちの知り合い海賊を気紛れに訪ねては、世界中の動向や情報を仕入れたりしているらしい。


ダズ「(……)……共は要らねぇ、か…」


閉まったドアをぼんやりと見詰め、クロコダイルの言葉を反芻するダズ。

クロコダイルの背を守るのは自分の役目。
しかし、その力は鷹の目よりもまだまだ劣っている…それは自分が一番良く知っていた。
さっきは別に『お前はもう要らない』と言われた訳ではないのだが、あの一言で胸の奥は何となく薄ら寒くなる様な…


子猫『……ピャー…』モソモソ

ダズ「…お前となら話が合いそうなんだがな…」ソ…
子猫『∑ピャアー!』

抱っこされて驚いたのか、一声大きく鳴いた子猫。
鳴き声にもようやく力強さが戻ってきた。手の中でも元気に動き回る、温かくも小さな命…


子猫『∑ピャーピャー!…』ジタバタ…
ダズ「(……)…ιああ分かった分かった、ミルクだな?」


仕事でも家事でも、何かひとつに真剣に向き合っていると、出口の無い鬱屈とした考えは強制的に引っ込むから良いものだ。

6/8ページ
スキ