白煙と黄金


テゾーロ「……っ……ぐιⅢ…」モソ…


就寝前には、安眠効果のある入浴剤を入れぬるめの湯にゆっくりと浸かり、ベッドに入る前にはホットミルクを飲み、寝室内は程よく薄暗くし、穏やかな音楽を流し、心が安らぐとされるアロマを仄かに燻らせて…

…しかし、1人ベッドに横たわるテゾーロは何かに魘され、もがき苦しんでいる。顔色も悪く辛そうな表情を浮かべ、額には汗の粒も見える…

……………………………

『Σうるさい…テゾーロ!その歌をやめて!』
『金が無ぇだと!?ふざけやがって…!』
『金さえあれば何でも買えるんだえ~?♪…』


『……私は…心から幸せだった……』


過去の凶事が、闇の中でぐるぐるとメリーゴーランドの様にエンドレスで回り続ける。果てる事の無い悲しみと屈辱、そして奪われてゆく希望…

…ああ、ステラ………


テゾ「…ιギリ…ιⅢ………Σはッ…!……ビクッ…
??Ⅲ…ιはぁっ…はぁ……ιぁ…うぅ…」ガタガタ…ιⅢ


高い所から墜落する様な感覚で目が覚めた。
…目は覚めたのだが、まだ夢と現実の境が分からず、頭の中はしばらく混乱していた。
汗のせいか身体は冷たく、震えている。なのに、心臓は早鐘を打つように激しく…とにかく気分が悪い…吐き気もする……

…重く冷たい泥の中を必死にもがいている様な悪夢だった。何とか起き上がったが、目眩がする…

時計の針は、まだ深夜の時刻を指していた。
床に就いてから30分も経っていないではないか。

何とか眠れる出来る様に、安眠に良いとされる入浴剤やアロマ等ありとあらゆる手を使ってみたが、やはりダメだったか…

もう過ぎ去った過去なのに、あの『地獄』を思い出さない日は1日たりとも無い。
それは、どんな愉快な事があっても、どんな賑やかな中に身を置いていても…
1日が終わり、1人になった瞬間、その恐怖はどこからともなく襲いかかってくる。
…一度は専門医に診てもらい、カウンセリングや投薬治療も受けてみようかと思った事もあった。
だが、それを紐解く為の『過去を医師に話す』という事が…『弱みを他人に話す』という行為がどうしても出来なかった。
それは、もし世間に漏れでもしたら、今のテゾーロの肩書き等簡単に消し飛ぶ程の『弱み』なのだから…

アロマを焚いたり、リラックスするというマッサージを試してみてもやはり付焼刃つけやきば…あまり改善の効果は無かった。

…そんな時ふと思い付き、モフモフのエゾホルを抱っこして寝てみると…

…………………………

…モフゥ…♪
テゾ『(…ほう…これは中々…☆♪)』ウトウト。。。

エゾホル『…ι暑ぃモキャ~……ιウウ…☆
…てか、テゾーロさまが寝たら離れて良いモキャ?☆』ギュム…

テゾ『……うん……いいぞ…☆。。。』ムニャ…
エゾホル『…ιも~…勘弁して欲しいモキャ…人間と俺の生活温度は違い過ぎなんだから……☆』アツイ…ι

…………………………

思いの外悪夢を見ることなくしっかりと眠れるという事を発見した。みっしりとした毛の感触と温もりが、悪夢の不安を遠避ける効果があるのだろうか?

…それ以来、テゾーロが寝入る前はエゾホルがお供を務めていたのだが、今夜はナイター競馬をするとやらで帰りが遅い……


…ゾワ…ιⅢ
テゾ「……ιⅢっ……ιダメだ………」モソ……


…怖い……怖い……!…

布団にくるまり呻くテゾーロ。
何が怖いのか、何を恐れているのか…それすらもうよく分からなくなってきていた。パニック寸前だ。
目覚めているのに、身体中に得体の知れないどろどろとしたものが付きまとってくる様な異常な不安が…


酒でも呑んで気を紛らわせれば…いや、後できっと余計酷くなる。
…急いで安定剤か何か処方して貰ってこの場をしのぐか…?
だが、今度はぼんやりしてしまって業務に支障をきたしそうだし…

とにかく、早くエゾホルに戻ってきて貰わないと…


そうしてテゾーロは、枕元の電伝虫に震える手を必死に伸ばしたのだった。

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