短編
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登校してきてすぐに耳に入った。
「チョコ渡せた〜?」とか「昨日はありが
と〜」みたいな会話。はしゃぐ女子達。いつものように騒がしい男子達。
……もしかして昨日って…。
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> バレンタインだった <
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「そうやけど、もしやなまえ、忘れてた?」
「…はい」
「まあ忙しいししゃあないよな〜。あげたい人でもおった?」
いない、と言えば嘘になる。ずっとずっと思い続けている人が、同じクラスにいるのだから。
そんなことを考えて黙っていると、友人はにやあっと笑った。
「いるんだ〜〜〜〜〜」
「……っ、別におらんし」
「大丈夫よ言わんでええから」
「言うつもりないんですけど」
友人が席に戻った隙に彼の席を見てみたが、今日は来ていないみたいだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
—— チョコ…、今更渡したら遅いだろうか。
でも、もうすぐ卒業式が来てしまう。それまでに思いを伝えなければ、ずっと胸の内でこの感情が燻ったままだ。
でも、もしフラれたら。
それが怖くてやっぱり踏み出せない。けれど言わなかったらずっと後悔しそう。だったら、言うべきだよね。付き合える訳なんてないもの。
ボウルで溶かしたチョコを型に入れて、上から粉砂糖を塗した。もう一つにはクラッカーを塗して、冷蔵庫に突っ込んだ。モヤモヤした気持ちも一緒に。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「授業始めるぞー、……って、千歳はまたおらんのか」
「先生ー、朝は居ましたよー」
「はぁ…また逃げたか……」
また彼は授業をサボっている。
何故サボるのかは分からないけれど、彼らしい。マイペースでのんびりしていてどこか不思議な感じがする人。彼のことを考えているだけで、温かい気持ちになる。気がつけば授業は終わっていた。
「またあいつ居なくなってるねー」
「あいつ…って、千歳?」
「そうそう。問題児すぎじゃない?」
「まあまあ…。千歳、どこにおるんやろ?」
「屋上か中庭じゃない?」
「そっか、ありがと」
行く所に目星がつけられたのは大きい。昼休みに入ると、私はすぐに教室を飛び出した。
—— まずは屋上へ。
階段を上って、ギシギシと鳴る扉を開けた。
そこには、いつものように下駄を履いた長身が立っていた。
一発目で当たった……。
「…ん、どげんしたと?呼び出しか?」
「ち、違うよ…!私が用事あって…」
「用事ってなんね」
緊張するが、もう当たって砕けろ!という勢いで紙袋を差し出した。
「これ、チョコ…、作ってきたから、どうぞ。あっ、いらんかったら捨てていいから…」
彼は紙袋を手に取ると、中身を取り出して眺めた。恥ずかしい。今すぐにでも逃げ出したい気分だ。
「…これ、あんたが作ったんか?」
「……うん」
「へぇ…。すごかね。貰っとく」
「ありがとう…!じゃあね…!」
もういたたまれなくなって逃げてしまった。渡すだけでこんなに恥ずかしいのに、告白なんて十年早い。もしかしたら百年経っても出来ないかもしれない。
「名字!」
カラカラと下駄の音が近づいてくる。
「もう卒業やし、返せんかもしれんけん、連絡先ば貰てもよか?」
「勿論!はい、どうぞ」
「ありがとうな」
またギシギシと扉が鳴って、軽快な下駄の音は遠ざかっていった。私はその背中をただ見つめることしか出来なかったのだった。
そして一ヶ月後にちゃんと連絡が来たなんて、当時の私は知る由もなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「バレンタインって…昨日…」
彼女の真剣そうな瞳を思い出す。昨日だなんて別にいいか、可愛らしい形のチョコを食べながら、千歳は一人そう思った。
「甘くて美味かねえ」
お返しは何が良いか聞こう。名字の気持ちに応えるのもいいかもしれない………。
夕日が溶けていく。紙袋の中のチョコレートはまだハートの形をして、固まったままだった。
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