短編
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泣いている君を見た
初めて泣いている所を見たのは
大会の終わりだったか
決勝に敗れたお前は
涙ひとつ流さず表彰台に立っていたな
泣いていた後輩を慰めて
表情も見せず立ち去った
男子テニス部も同じ場所で大会があった
試合が終わって見に行ったらこの有り様だ
僅差で負けたんだったか
お前は部員の輪を離れてどこかに行った
その後を追いかけてみた
建物の裏でひとり泣いていた
表彰台の堂々としていた姿とは違って
それは悔しそうに泣いていた
声をかけそうになったが
あまり話した経験もないのに
話しかけては悪いだろう
しばらくすると涙を拭いて
もう前を見据えていた
学校でお前に呼びかけた
大会のことについて話した
めずらしいね、と笑っていたな
もう引退だ、と名残惜しそうだった
頑張ってね、と言ってお前は立ち去った
俺も何か言ってやればよかった
もっと話せたらよかった
お前は少し苦しそうな顔をしていた
傷は癒えていないのかもしれない
余計なことをしたか不安だった
次にお前が泣いているのを見たのは
誰もいない屋上だった
柵の片隅で
前とは違って綺麗な涙
想い人がいるのは噂で聞いていた
視線を追うからに大体予想はついた
そいつにもまた、好きな奴がいる
お前はこういう奴が好みなのか
一人勝手に考える
想いを伝えたとしても断られるぞ
それならば傷つく前に
自分を好きになってはくれないだろうか
俺がいることにも気がつかず
空を眺めて泣いているお前の隣
手を伸ばして頭を撫でた
お前は驚かなかったな
泣きながら微かに笑っていた
この前も見てたでしょ、と前を向いたまま
俺に向かって告げられた
いつまでも泣いてカッコ悪いな、と
彼女は手で涙を拭う
それでもずっと止まらない涙
頬を伝うその雫を
そっと指で拭ってみた
澄んだ空色の涙は
指に絡みついて離れない
綺麗だなんて
泣いているところも好きだなんて言えない
可愛いなんてもっと言えない
そう伝える代わりに
何度も何度も涙を拭った
大丈夫だよ、と俺から離れようとするその手を
優しく掴んで引っ張った
縋ったっていい、と
一人じゃねえ、とそう言うと
それを皮切りにまた大粒の涙が
ぼろぼろと溢れ出してきた
涙が止まるまで側にいてやる
泣き止んでも俺がずっと一緒にいる
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