「これ、いる？」

そう言って目の前に差し出されたチョコ。
見上げるとそこには丸井くんがいた。

「……私に？」
「お前以外居ねえだろぃ」

確かに、と思いそれを受け取った。包み紙を開けて口に放り込むと、優しい甘みが口の中に広がっていく。その美味しさについ頬が緩む。

「やっぱり腹減ってたんだな」
「えっ…！なぜそれを…」

授業中ずっと退屈そうにしてたじゃねえか、と言って彼は笑う。丸井くんは私の隣の席だ。男女問わず誰からも人気があり、まさにクラスのアイドル的存在である。かなりモテる方なので、今話している時も周りからの視線が気になって仕方がない。誰も私のことなんて見てないのに。
すると、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。丸井くんはもう席についている。私は話しかけられたことを少しだけ嬉しく思いながら、教科書のページをめくった。

その日以降から、丸井くんはよく私に話しかけてくれるようになった。それも、甘いお菓子を片手に。
今日の私は、ポケットから出てくるお菓子が次々と丸井くんの口へ運ばれては無くなる様子を見守っていた。

「そんなに食べて大丈夫？お昼食べられなくない？」
「今食わねえと死ぬ」

大真面目な顔してそう言った丸井くん。思わず吹き出してしまった。それでさー、と彼がまた話し始めようとした時、遠くから『ブン太ー』と呼ぶ声が聞こえた。

「悪りぃ、行ってくる」

いってらっしゃーい、と言ってその背中を見送った。何やら元気で可愛い女子達に囲まれている。彼はその真ん中でいつものような笑顔を浮かべていた。
やっぱり、モテるんだなあ。
私はちょっと話しかけられただけで浮かれていたらしい。彼は、みんなに等しく優しい。期待なんてしていないつもりだったけど、何だか胸が苦しくなってしまった。