エンデヴァー短編
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今日は我らが所長の誕生日。
とは言え事務所は勿論通常運転で、何なら誕生日である本人も特に気にすることもないのか普通に出勤している。
幸いなのは大がかりな事件はなく、小さな物であればサイドキック達で処理が可能な人員配置であるため、所長は涼しい室内で溜まっていた事務仕事をこなしているようだった。
所長でなければ決済印が押せない書類は多く、現場に出ることの多い所長は書類を積み上げがちである。
勿論所長の机の上に積まれる前に、幾人ものチェックが入りデスクワーク組で回せるものは処理しているが、それでもヒーロー免許がなくては許可が出来ない物や、所長印が必要な物は溜まっていく。
「失礼いたします」
昼食を取ったきり所長室から一歩も出ていない所長に、休憩を促すためにノックをする。入れ、と短い返事のあと足を踏み入れた所長室は少し低めの温度に設定された空調の音だけが微かに室内を揺らしていた。
デスクに向かうのは気が引けたので、応接テーブルへ盆に乗せてきた物を並べて行く。
「少し休憩なさってください、お茶請けをいただきました」
声をかけると、無言でこちらを一瞥する。テーブルの上に置かれたのがお茶だけでないと分かったのか、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
その姿がどうにも大きなクマがはちみつを見つけたようで、微笑ましく感じてしまう程度には、私もこの事務所に馴染んでいる。
「葛餅はホークスさんからこれなら間違いないと、茶葉はベストジーニストさんがお口に合えばとのことでした。好みはしっかり把握されているようですね」
「……いただこう」
大きな手で菓子切りをつまみ、器用に葛餅を口に運ぶ。その仕草は大きな体には似つかわしくないほど丁寧で、つい見つめてしまっていた。それに気付かれてしまい、不躾にすみませんと頭を下げる。
「そんなに食べたいなら、自分の分も持ってくるといい」
「ご一緒して、良いのですか?」
「構わん」
物欲しそうな目で見ていたのだと勘違いされているのは些か不満ではあるが、ただの秘書である私が所長とゆっくり時間を過ごす機会は少ない。急いでご相伴に預かろうと盆を手にする。
「……あ、お伝えし忘れていたことが」
「何だ」
「お誕生日おめでとうございます、所長。どうか穏やかな日でありますよう」
「祝われるような歳でもないがな」
「こう言うのは祝う側の気持ちの問題ですから、どうぞ受け取ってくださいな」
む、と下唇を突き出して不機嫌そうな顔をしているが、これは照れている時の表情であることは何となく理解している。
誕生日を共に過ごせる嬉しさと、それを許される距離にいられることに感謝して、自分用のお茶を準備するために給湯室に急ぐことにした。
とは言え事務所は勿論通常運転で、何なら誕生日である本人も特に気にすることもないのか普通に出勤している。
幸いなのは大がかりな事件はなく、小さな物であればサイドキック達で処理が可能な人員配置であるため、所長は涼しい室内で溜まっていた事務仕事をこなしているようだった。
所長でなければ決済印が押せない書類は多く、現場に出ることの多い所長は書類を積み上げがちである。
勿論所長の机の上に積まれる前に、幾人ものチェックが入りデスクワーク組で回せるものは処理しているが、それでもヒーロー免許がなくては許可が出来ない物や、所長印が必要な物は溜まっていく。
「失礼いたします」
昼食を取ったきり所長室から一歩も出ていない所長に、休憩を促すためにノックをする。入れ、と短い返事のあと足を踏み入れた所長室は少し低めの温度に設定された空調の音だけが微かに室内を揺らしていた。
デスクに向かうのは気が引けたので、応接テーブルへ盆に乗せてきた物を並べて行く。
「少し休憩なさってください、お茶請けをいただきました」
声をかけると、無言でこちらを一瞥する。テーブルの上に置かれたのがお茶だけでないと分かったのか、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
その姿がどうにも大きなクマがはちみつを見つけたようで、微笑ましく感じてしまう程度には、私もこの事務所に馴染んでいる。
「葛餅はホークスさんからこれなら間違いないと、茶葉はベストジーニストさんがお口に合えばとのことでした。好みはしっかり把握されているようですね」
「……いただこう」
大きな手で菓子切りをつまみ、器用に葛餅を口に運ぶ。その仕草は大きな体には似つかわしくないほど丁寧で、つい見つめてしまっていた。それに気付かれてしまい、不躾にすみませんと頭を下げる。
「そんなに食べたいなら、自分の分も持ってくるといい」
「ご一緒して、良いのですか?」
「構わん」
物欲しそうな目で見ていたのだと勘違いされているのは些か不満ではあるが、ただの秘書である私が所長とゆっくり時間を過ごす機会は少ない。急いでご相伴に預かろうと盆を手にする。
「……あ、お伝えし忘れていたことが」
「何だ」
「お誕生日おめでとうございます、所長。どうか穏やかな日でありますよう」
「祝われるような歳でもないがな」
「こう言うのは祝う側の気持ちの問題ですから、どうぞ受け取ってくださいな」
む、と下唇を突き出して不機嫌そうな顔をしているが、これは照れている時の表情であることは何となく理解している。
誕生日を共に過ごせる嬉しさと、それを許される距離にいられることに感謝して、自分用のお茶を準備するために給湯室に急ぐことにした。
