荼毘(燈矢)短編
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「ちょっと、ひと箱いくらか知ってんの?!」
煙草を吸おうと一本取り出してライターを掴んだら、置いた箱を手に取った荼毘がそれをそのまま手のひらで燃やした。それはもう、呆気なく。
まだ開けたばかりのソフトパックは、荼毘の蒼い炎でゴミになってしまった。
もくもくと立ち上がる煙に眉根を顰めながら、灰になった煙草を床に放る。あーあ、汚して怒られても知らないんだ。
「そんなモンに金使ってんじゃねぇよ」
「勿体ない……毎年値上げしてるって言うのに……」
結果的に最後の一本になってしまった煙草を咥える。何となく吸いにくいなと思ったけど、ここまで来たら意地でもニコチンを摂取してやろうと思った。
なのに安っぽいライターに手をかけても、ガス切れなのか石が削れる音しかしない。全く、何もかもが上手くいかない!
「イライラしてんなよヤニカス」
「お、火に免じてヤニカス発言は聞かなかったことにしてあげよう」
すると気まぐれなのか指先に小さな火を灯した荼毘が、加えていた煙草に火を点けてくれた。先だけを火に当て軽く息を吸い込んで、一拍置いてゆっくり口内から肺に煙を落とす。
荼毘と反対方向に煙を吐き出して、やっと頭が正常に回り出した気がした。
「珍しいじゃん、こっちに顔出すの。暇だった?」
荼毘は基本的に一か所に留まらないしみんなと一緒に過ごすこともない。自分の用がなければ、単独行動で何かをやらかしていることが殆どだ。
「あ、ちょっと」
目が合った途端、唇が弧を描く。何か思いついた時の顔だ。
そう思った時にはもう遅く、吸いかけの煙草を取り上げられてしまった。
そうして荼毘のかさついた唇が煙草を咥え、紫煙を吸い込む。普段から吸う訳でもないのにその仕草がやけに艶っぽく見えた。
しっかり肺に落として薄くなった煙が、開いた唇から私に向かって吐き出される。
「もー!マナーって知ってる?傷害罪!」
煙を少しでもマシにするために手で払うと、その手首を握った荼毘が、ぐっと顔を近付けてきた。
「お前こそ、意味は分かってンのか」
「……古臭い手段、知ってるんだね」
私が"知っている"ことが分かったのが楽しいのか、くつくつと喉を鳴らす。捕食者の鋭い双眸が細められ、私に嚙みつこうとしている。その様を見つめながら、身を捩ろうともしない自分が嫌になるけれど。
それでもまぁ、求められると言う感覚は、心を満たしてくれるから。
「それ、消してからにしてよね」
コンクリートの床に放り投げた煙草を、荼毘の靴底が踏みつけてゴミに変える。
「同意がありゃ、罪じゃねえな」
「まぁ、そうなるかな」
薄汚れたソファーに沈む背中を、期待が駆け抜ける。
煙を纏ったまま、この男に飲み込まれる準備なら、とっくの昔に出来ていた。
煙草を吸おうと一本取り出してライターを掴んだら、置いた箱を手に取った荼毘がそれをそのまま手のひらで燃やした。それはもう、呆気なく。
まだ開けたばかりのソフトパックは、荼毘の蒼い炎でゴミになってしまった。
もくもくと立ち上がる煙に眉根を顰めながら、灰になった煙草を床に放る。あーあ、汚して怒られても知らないんだ。
「そんなモンに金使ってんじゃねぇよ」
「勿体ない……毎年値上げしてるって言うのに……」
結果的に最後の一本になってしまった煙草を咥える。何となく吸いにくいなと思ったけど、ここまで来たら意地でもニコチンを摂取してやろうと思った。
なのに安っぽいライターに手をかけても、ガス切れなのか石が削れる音しかしない。全く、何もかもが上手くいかない!
「イライラしてんなよヤニカス」
「お、火に免じてヤニカス発言は聞かなかったことにしてあげよう」
すると気まぐれなのか指先に小さな火を灯した荼毘が、加えていた煙草に火を点けてくれた。先だけを火に当て軽く息を吸い込んで、一拍置いてゆっくり口内から肺に煙を落とす。
荼毘と反対方向に煙を吐き出して、やっと頭が正常に回り出した気がした。
「珍しいじゃん、こっちに顔出すの。暇だった?」
荼毘は基本的に一か所に留まらないしみんなと一緒に過ごすこともない。自分の用がなければ、単独行動で何かをやらかしていることが殆どだ。
「あ、ちょっと」
目が合った途端、唇が弧を描く。何か思いついた時の顔だ。
そう思った時にはもう遅く、吸いかけの煙草を取り上げられてしまった。
そうして荼毘のかさついた唇が煙草を咥え、紫煙を吸い込む。普段から吸う訳でもないのにその仕草がやけに艶っぽく見えた。
しっかり肺に落として薄くなった煙が、開いた唇から私に向かって吐き出される。
「もー!マナーって知ってる?傷害罪!」
煙を少しでもマシにするために手で払うと、その手首を握った荼毘が、ぐっと顔を近付けてきた。
「お前こそ、意味は分かってンのか」
「……古臭い手段、知ってるんだね」
私が"知っている"ことが分かったのが楽しいのか、くつくつと喉を鳴らす。捕食者の鋭い双眸が細められ、私に嚙みつこうとしている。その様を見つめながら、身を捩ろうともしない自分が嫌になるけれど。
それでもまぁ、求められると言う感覚は、心を満たしてくれるから。
「それ、消してからにしてよね」
コンクリートの床に放り投げた煙草を、荼毘の靴底が踏みつけてゴミに変える。
「同意がありゃ、罪じゃねえな」
「まぁ、そうなるかな」
薄汚れたソファーに沈む背中を、期待が駆け抜ける。
煙を纏ったまま、この男に飲み込まれる準備なら、とっくの昔に出来ていた。
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