勝己短編
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まだアイドルB丈夫が3人体制で駆け出しだった頃、私は無銭ライブに通っては毎回カツキと1枚だけチェキを撮っていた。
チェキの1分だけ交わす言葉が楽しかったけれど、チケットが必要になる頃にはもう争奪戦になっていたし、丁度仕事も忙しくなって遠征も出来なくて。
現場に通っていた頃は楽しかったな、と思っていた時、B丈夫解散のニュースが流れてきた。
ラストライブには行きたくて、友人も家族も同僚も使えるものは全て使ってチケット争奪戦に参加。
何とか手に入れたチケットはまさかのアリーナだった。嘘でしょ。
もう覚えてくれてないだろうな、と思いながら美容院でメンカラのオレンジのリボンを編み込んで貰って、ネイルも行って、新しいワンピースを着た。あの頃、カツキがしていたから同じの買っちゃったと伝えたリストバンドはワンピースには合わないけど、折角だからつけていく。あとはぺたんこのパンプスと、古い公式ペンラ。
会場で新しいペンラを買って2本持ちにして、マフラータオルを巻いて、ラストライブに挑む。
新しい曲の振りは分からなくてテンパる箇所もあったけど、ラストライブと言うことで懐かしい曲も何曲かやってくれた。
カツキのソロでペンライトを下ろして手を伸ばす。ここだけ求められるロックの縦ノリを思い出し、あぁやっぱり好きだなぁなんて胸が締め付けられた。
ステージは眩しくて、きらめいていて、これが最後だなんて思いたくなかった。
最前ではないがアリーナと言うことでかなり距離が近い。
まるであの頃みたいだ。一番近くにカツキが来た時、目が会った気がして、どきりとする。
これだけの観客数でそんなことあるはずがないけど、でもそんな気持ちにさせてくれるのがアイドルだ。
大好きだな、と、いつでも心を踊らせてくれる。
帰り道までファンの楽しそうな声と惜しむ声で賑わっていた。これで最後か……と帰路についた。リボンを解いて部屋着に着替える。
いろんな人の感想を見たくて検索したSNS、久しぶりに見たメンバーの投稿も相変わらず楽しそうだった。
そんな中、1つの投稿に目が止まる。あまりSNSを投稿しないカツキの写真は、ライブ終わりに撮ったであろう水のペットボトルを持った左手だった。
たった一言。「久しぶり」と書かれたその投稿に写った左手の手首には、今日自分がつけていたお揃いのリストバンド。
ライブの感想やお礼ではない投稿に様々なコメントがついている。
心臓がドキドキした。あの頃みたいに気軽に話しかけられる現場後じゃない。コメントの数も比較にならない。
胸がドキドキする。まさか、そんな、なんて、馬鹿らしいかもしれない。
けどどうしても気になって、その投稿にコメントした。「久しぶりに会えて嬉しかった、素敵なライブをありがとう!」無難に、他の人の迷惑にならないような言葉を選んだつもりだ。
それにいいねがついた。しかも、カツキ本人から。
カツキは元よりSNSをあまり動かしておらず、たまにリプ返企画をしているイズクやインライをしているショートとは違い、反応をすることもない。それなのに、何故。
胸が痛いくらいに高鳴る。偶然だ、と、思い込みたかった。きっと誤タップしてしまっただけだ。
そう思い込もうとしたのに、今度はDMのマークが光る。
《今日つけてただろ》
挨拶も何もない。たったそれだけで、何の話か分かる。送信元はカツキだった。
あの頃だって流石にDMのやり取りは禁止されていたのに、何故。
お揃いだから大事にしていた物だ、だけど何て返せば良いか分からなくて返信が出来ない。頭がついて行かなかった。
《土日休みなの変わってないなら》
《来週土曜日、初めて会った場所で待っとる》
それ以降DMが届くことも、何かが投稿されることもないSNSに、どうしていいか分からなくなった。
カツキが、私と、会いたい?
そんなの信じられない。初めて会った現場はショートファンだった友達に連れていかれたモールライブ。そんな場所で、待ってるなんて。
返信も出来ないまま一週間が過ぎた。
15時開始だったモールライブを思い出し、15時少し前に到着した。まさかこんな所に来る訳ない。そう思っていたのに。
「一週間振りだな」
深く帽子を被っていても分かる。15時ぴったりに、カツキは来た。
今度はステージ越しじゃない。列にも並んでいない。
「……ここで、合ってたんだ」
「別の場所かと思ったんかよ」
「初めてチェキを撮ったのは次の別イベだからそっちかもって」
「会ったのはここが最初だろうが」
「認知してくれるのはチェキからかなぁって」
「ハッ、俺の記憶力ナメんな」
目の前で笑うカツキは、あの頃より少し大人になった気がする。レッスンが増えたからか、たくましくもなった気がした。
「なんで、私なんか」
「何でもクソもねぇ、いきなり来なくなったら気になるだろうが」
「ごめんね、忙しくしてる間に、チケット取れなくなっちゃって」
久しぶりにカバンに付けたチェキホルダーには、初めて撮ったぎこちないチェキが入っている。
何もかも、懐かしい。
「とりあえず連絡先教えろや」
「えっ」
「DMは事務所チェック入るんだわ、めんどくせぇから番号でもIDでも出せ」
「いや、流石にそれは」
「いいから」
強引に交換されたLlNEに「俺」とだけメッセージが届く。
「アイドル辞めちまうから、現場がなくなったら会えなくなんだろうが」
「……どう言う、こと」
「会うのに必要だって言ってんだ。土日でも他でも、暇が出来たら教えろよ」
ない脳みそをフル回転させても理解出来ない。
なのに目の前では懐かしいいつも通りの笑顔があって。
「これから口説いていくから、そのつもりでいろ」
眩しすぎて、これからどうなるのか、私には何も考えられなかった。
チェキの1分だけ交わす言葉が楽しかったけれど、チケットが必要になる頃にはもう争奪戦になっていたし、丁度仕事も忙しくなって遠征も出来なくて。
現場に通っていた頃は楽しかったな、と思っていた時、B丈夫解散のニュースが流れてきた。
ラストライブには行きたくて、友人も家族も同僚も使えるものは全て使ってチケット争奪戦に参加。
何とか手に入れたチケットはまさかのアリーナだった。嘘でしょ。
もう覚えてくれてないだろうな、と思いながら美容院でメンカラのオレンジのリボンを編み込んで貰って、ネイルも行って、新しいワンピースを着た。あの頃、カツキがしていたから同じの買っちゃったと伝えたリストバンドはワンピースには合わないけど、折角だからつけていく。あとはぺたんこのパンプスと、古い公式ペンラ。
会場で新しいペンラを買って2本持ちにして、マフラータオルを巻いて、ラストライブに挑む。
新しい曲の振りは分からなくてテンパる箇所もあったけど、ラストライブと言うことで懐かしい曲も何曲かやってくれた。
カツキのソロでペンライトを下ろして手を伸ばす。ここだけ求められるロックの縦ノリを思い出し、あぁやっぱり好きだなぁなんて胸が締め付けられた。
ステージは眩しくて、きらめいていて、これが最後だなんて思いたくなかった。
最前ではないがアリーナと言うことでかなり距離が近い。
まるであの頃みたいだ。一番近くにカツキが来た時、目が会った気がして、どきりとする。
これだけの観客数でそんなことあるはずがないけど、でもそんな気持ちにさせてくれるのがアイドルだ。
大好きだな、と、いつでも心を踊らせてくれる。
帰り道までファンの楽しそうな声と惜しむ声で賑わっていた。これで最後か……と帰路についた。リボンを解いて部屋着に着替える。
いろんな人の感想を見たくて検索したSNS、久しぶりに見たメンバーの投稿も相変わらず楽しそうだった。
そんな中、1つの投稿に目が止まる。あまりSNSを投稿しないカツキの写真は、ライブ終わりに撮ったであろう水のペットボトルを持った左手だった。
たった一言。「久しぶり」と書かれたその投稿に写った左手の手首には、今日自分がつけていたお揃いのリストバンド。
ライブの感想やお礼ではない投稿に様々なコメントがついている。
心臓がドキドキした。あの頃みたいに気軽に話しかけられる現場後じゃない。コメントの数も比較にならない。
胸がドキドキする。まさか、そんな、なんて、馬鹿らしいかもしれない。
けどどうしても気になって、その投稿にコメントした。「久しぶりに会えて嬉しかった、素敵なライブをありがとう!」無難に、他の人の迷惑にならないような言葉を選んだつもりだ。
それにいいねがついた。しかも、カツキ本人から。
カツキは元よりSNSをあまり動かしておらず、たまにリプ返企画をしているイズクやインライをしているショートとは違い、反応をすることもない。それなのに、何故。
胸が痛いくらいに高鳴る。偶然だ、と、思い込みたかった。きっと誤タップしてしまっただけだ。
そう思い込もうとしたのに、今度はDMのマークが光る。
《今日つけてただろ》
挨拶も何もない。たったそれだけで、何の話か分かる。送信元はカツキだった。
あの頃だって流石にDMのやり取りは禁止されていたのに、何故。
お揃いだから大事にしていた物だ、だけど何て返せば良いか分からなくて返信が出来ない。頭がついて行かなかった。
《土日休みなの変わってないなら》
《来週土曜日、初めて会った場所で待っとる》
それ以降DMが届くことも、何かが投稿されることもないSNSに、どうしていいか分からなくなった。
カツキが、私と、会いたい?
そんなの信じられない。初めて会った現場はショートファンだった友達に連れていかれたモールライブ。そんな場所で、待ってるなんて。
返信も出来ないまま一週間が過ぎた。
15時開始だったモールライブを思い出し、15時少し前に到着した。まさかこんな所に来る訳ない。そう思っていたのに。
「一週間振りだな」
深く帽子を被っていても分かる。15時ぴったりに、カツキは来た。
今度はステージ越しじゃない。列にも並んでいない。
「……ここで、合ってたんだ」
「別の場所かと思ったんかよ」
「初めてチェキを撮ったのは次の別イベだからそっちかもって」
「会ったのはここが最初だろうが」
「認知してくれるのはチェキからかなぁって」
「ハッ、俺の記憶力ナメんな」
目の前で笑うカツキは、あの頃より少し大人になった気がする。レッスンが増えたからか、たくましくもなった気がした。
「なんで、私なんか」
「何でもクソもねぇ、いきなり来なくなったら気になるだろうが」
「ごめんね、忙しくしてる間に、チケット取れなくなっちゃって」
久しぶりにカバンに付けたチェキホルダーには、初めて撮ったぎこちないチェキが入っている。
何もかも、懐かしい。
「とりあえず連絡先教えろや」
「えっ」
「DMは事務所チェック入るんだわ、めんどくせぇから番号でもIDでも出せ」
「いや、流石にそれは」
「いいから」
強引に交換されたLlNEに「俺」とだけメッセージが届く。
「アイドル辞めちまうから、現場がなくなったら会えなくなんだろうが」
「……どう言う、こと」
「会うのに必要だって言ってんだ。土日でも他でも、暇が出来たら教えろよ」
ない脳みそをフル回転させても理解出来ない。
なのに目の前では懐かしいいつも通りの笑顔があって。
「これから口説いていくから、そのつもりでいろ」
眩しすぎて、これからどうなるのか、私には何も考えられなかった。