休日の朝、先に起きるのはいつも俺だった。起こさないようにそっと寝室を抜け出して、夜更かしのせいで放置された洗い物を片付ける。
　そうしてキッチンでがさごそ音を立てていると、寝起きでぐずった甘い声を、寝室に置いた剛翼が拾うのが好きだった。
　かすれた声で、俺の名前を呼ぶ。無意識なのか、俺が寝ていたあたりをぽんぽんと叩いて探す音もする。
　一通りこっそり聞き耳を立てて、寂しがらせないタイミングを見計らって、寝室に顔を出すのが定番だった。

「おはようございます」
「ホークスいなかった……」
「すみません、先に目が覚めたので」

　布団から伸ばされた腕を受け入れるためにぐっと身を屈めると、ふふ、と嬉しそうな声を漏らしながら俺の首に腕を回す。
　寝起きのほこほこした体温も相まって、とんでもなく甘えられているような気がするこの瞬間も、休日の楽しみの一つだった。

「目玉焼きとスクランブルエッグならどちらが今日の気分ですか？」
「スクランブルエッグ、ベーコンも」
「じゃあ準備するんで、顔を洗ってきてくださいね」

　抱きついた腕をそのままに体を起こすと、くっついたまま一緒に起きることになってしまう。
　少しだけぐずるような仕草を見せながら強制的に起こされてふわふわしている様は、愛らしい。
　ホテルの朝食のように上等な卵料理を作ることは出来ないし、スクランブルエッグが炒り卵になってしまう確率は高いが、彼女がそれに文句をつけたことは一度もない。
　今日のはスクランブルエッグ寄りに作ることが出来たので個人的には満足度が高かった。
　焼いている間に洗顔を済ませた彼女が、食器を出して手伝ってくれている。

「……あ」
「どうしました？」
「ケチャップない、醤油でいい？」

　醤油、塩、ブラックペッパーに麺つゆとマヨネーズ。思い浮かぶ限りの調味料を机に運んで悩んでいる彼女を見ていると、割りと日々の悩みはどうでもよくなってくるのだから不思議だった。

「醤油チャレンジしてみましょうか」
「私マヨやってみる！」

　何でもない休日の何でもない失敗も、一緒なら笑顔になれる。

　そんな日常が、愛おしくてたまらなかった