ホークス短編
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メイクもおしゃれも大好き。自分をデザイン出来る魔法みたいで、私はオシャレをすることが好きだった。
身長は170センチ台前半と女性にしては大きい方で、綺麗に服を着こなせる目線の高さは両親に感謝しなくてはいけない。それなのに靴のサイズが24センチで大きすぎることもなく、レディースのパンプスはどんなブランドの物も履くことが出来る。
顔は女優さんのように美人ではないけれど、化粧映えする薄めの作りはそれなりに気に入っている。
「こんにちは! 今日はワンピースですか」
「いいでしょ、新しいの買ったんです」
ホークス事務所の近くにあるカフェで働く私は、事務所の面々とも顔なじみだ。元よりホークスは市民と距離が近く、気さくに話しかけてくれる。
店長がホークスのファンなので、基本的にテイクアウトはやっていないけれど、頼まれればコーヒーをポットで事務所に届けることがあった。
「今日はこのまま上がりだから私服ですいません、ポットは明日回収に来るんで置いといてください」
「じゃあパトロールついでに駅まで送りますよ」
「ふふ、役得だぁ」
コーヒーポットと軽食の入った籠をテーブルに置き、送ってくれると言うホークスに甘えて駅までの道のりを歩く。最近どうですか、なんて世間話をしながらのんびり歩くこの時間はとても楽しかった。
けれど、ふと気付く。今日の私は仕事着のエプロン姿ではなく、私服だ。踵がある割に歩きやすくて気に入っているウェッジヒールのサンダルで歩くと、私の視線はホークスより高くなるらしい。
そう言えば身長、大差ないんだっけ、なんてぼんやり考える。
「どうかしました?」
「いえ、大丈夫です!」
大丈夫。そう、ヒーローに心配をかけるような何かがあった訳ではない。けれど私にとっては結構な事件だった。
普段空を飛んだり翼を広げているホークスは大きく見える。でもどうやら男性の平均身長と変わらないらしい。確かにエンデヴァーやベストジーニストと並ぶと小さく見えるけれど、それは彼らが大きすぎるせいだと思っていた。
「じゃあ気を付けて。遊びに行くなら遅くならないようにするんですよー」
「あはは、気を付けます! 送ってくれてありがとう!」
……男の人って、やっぱり小さくてか弱い女の子が好きだよね。駅のホームで電車を待ちながら、ぼんやり考える。自分より大きな女って嫌かな、なんて。
そもそも市民のヒーローであるホークスとどうにかなれる訳でもない。けれど彼の瞳に映る自分を、少しでもマシな物に着飾りたいのも、本音だ。
せめて柔らかく見えるようにメイクはタレ目を意識して、ピンクベージュのリップに変えることを決意する。ピアスも小ぶりな物にして、地面に近付くフラットヒールの履きやすい靴。ボディラインが出ない洋服を意識して、か弱くなれなくても、少しくらいは女の子っぽくなるように。
「最近、あれやね、ゆるふわ系に目覚めたと? かわいらしか」
「ありがとうございます、イメチェンですよ~」
そうして過ごして一ヶ月、変化はホークス事務所の人たちにも気付いてもらえたようで、サイドキックの人にゆるくまとめた髪とメイクを褒められた。何だかちょっと嬉しくてにこにこしてしまう。
丁度パトロールから帰ってきたホークスが、コーヒーの香りに釣られてゆっくりと歩いてきた。
「召し上がります? 小腹がすいてるだろうって、ハムのサンドウィッチも持ってきました」
「有難くイタダキマース。ところで今日はこの時間に上がりじゃないんですね」
「遅番の子が遅刻するそうで。あと一時間もしたら上がれると思うんですけど」
最近は上がりの時間についでにコーヒーを届けることが多く、帰り道をホークスやサイドキックの人に駅まで送ってもらうことも多かった。申し訳ないと思いつつ、時間的にも駅方面にパトロールする必要があるから元々のルートと変わらないとの言葉に甘えてしまっている。
恐らく私服ではなくTシャツにエプロン姿の私を見て、いつもとシフトが違うことに気付いたのだろう。ホークスは私を見て、少しだけ考える仕草を見せた。けれど私はバイト中の身なので、コーヒーを届けたら戻らなくてはならない。
「じゃあ今日はホークスがポット返しに行けばよか、ついでに駅前のポストに書類ば突っ込んできてくれると助かると」
「どこの世界に所長を顎で使うサイドキックがいるんですか!」
「ここにおるけん。速達の方の穴に入れるんよ、間違えんでね」
いつも楽しそうな事務所の声を背に、私はバイトに戻るために足早にカフェへ向かう。
店長と他愛ない話をして、遅刻してきた子に謝られ、特に用事もなかったし大丈夫だよと伝えて笑う。交代してバックルームで着替え、後は帰るだけだしメイク直しは適当に済ませて帰ろうとすると、店の方から店長が私を呼ぶ声がした。
「ホークス?」
「駅までご一緒しませんか」
仕方なく裏口ではなく店頭に戻ると、ホークスがデリバリーの籠と封筒を持って笑っている。明日店長が取りに行くはずのポットをわざわざ返しに来てくれたらしい。その封筒を速達の投函口がある駅前のポストに出しに行くようで、それならばついでに一緒に歩かないかと言うお誘いだった。
しっかりメイク直しをすれば良かったと言う少しの後悔と、ホークスからの嬉しい誘いを天秤にかければ、誘いに乗る方を取るに決まっている。
「それで、サイドキックに持たされたんですか」
「そう、人使い荒いですよねほんっと!」
赤字で速達と書かれた封筒を見ながら、ホークスが楽しそうに笑う。大半のヒーロー事務所ではサイドキックと言えば所長の部下のような扱いだが、ホークス事務所は所長のホークスが一番年下のためか弟のように扱われてしまうようだった。
頼りしているし頼られてもいるけれど、如何せん現場以外では距離感が狂う、と言うホークスはそれでも決して嫌ではないようで、頼まれたお使いも楽しそうにしている。
「そう言えば」
何でもないことのようにホークスが私の方を見て言う。
「最近雰囲気変わりましたね」
「あ、ホークスも気付いてくれていたんですね。イメチェンしました」
「もうヒールは履かないんです?」
その言葉に、喉の奥が詰まった気がした。
駅前のポストに、音を立てて封筒が滑り込む。その音がやけに響いた気がした。
「ほ、ほら、私、大きいから……」
上手い言い訳が出てこなくて、口ごもってしまう。さっきまでの楽しい空気から一変して、酸素が薄くなったように感じる。きっと実際に薄くなるなんてことはなくて、ただ私が息を上手く吸えていないだけなのだろう。
まともに回転しない頭から何とかして言葉を拾い上げようとしては、焦って余計に言葉が出てこなくなってしまった。
「じゃあ、小さい男が嫌いです? 俺はあなたのこと見上げるの、結構好きですよ」
「ほ、ホークスのことが嫌いな訳じゃなくて、えっと」
「お望みならずっと少し浮きますけど」
「そう言う問題、でもなく、て……」
「俺はあなたを見上げるの、好きでした。いつか引き寄せて、キスをしたいなって眺めるくらいには」
しどろもどろに何とか質問に答えている内に、今、何を言われたのか。咄嗟に理解出来ずに固まってしまった私と同じ位置にある視線が、しっかりと絡み合う。
猛禽類を思わせる捕食者の瞳がすぅっと細められ、逃げられなくなってしまった。
「ツリ目気味のアイラインも好きでしたし、タイトなデニムの日もありましたよね。あなたの好きな恰好をしてくださいよ、かっこいいのもかわいいのも見たいです。俺は日によって変わるあなたを見るのが好きなんです」
くすくすと楽しそうに笑うホークスの口角が上がる。からかいではなく、ほんの少しの期待を含ませた、男の顔だった。
「あ、でもデートの日は前もって洋服の系統を教えてくれると嬉しいですねー。俺も雰囲気を合わせやすくなるんで」
「……デート」
「毎週水曜日はシフト入ってますよね」
「えっと、あの、午後の授業が入ってない日、なので」
「じゃあ来週の水曜日、バイトの後の時間を予約させてください。俺とデート、しません?」
「じゃあ、Aラインのスカート……?」
「あはは、綺麗系? 分かりました。俺もジャケットとか着ようかな」
じゃあ、楽しみにしてますね。なんて。改札前まで送ってくれて、何でもない笑顔で見送られてしまった。デート。あのホークスと私が、デート?
翌週の水曜日。初デートの記念にと連れられた靴屋でプレゼントされた剛翼と同じ色のハイヒールは10センチ。君のつむじが見える距離感が愛おしいと気付くのは、少し先の話。
身長は170センチ台前半と女性にしては大きい方で、綺麗に服を着こなせる目線の高さは両親に感謝しなくてはいけない。それなのに靴のサイズが24センチで大きすぎることもなく、レディースのパンプスはどんなブランドの物も履くことが出来る。
顔は女優さんのように美人ではないけれど、化粧映えする薄めの作りはそれなりに気に入っている。
「こんにちは! 今日はワンピースですか」
「いいでしょ、新しいの買ったんです」
ホークス事務所の近くにあるカフェで働く私は、事務所の面々とも顔なじみだ。元よりホークスは市民と距離が近く、気さくに話しかけてくれる。
店長がホークスのファンなので、基本的にテイクアウトはやっていないけれど、頼まれればコーヒーをポットで事務所に届けることがあった。
「今日はこのまま上がりだから私服ですいません、ポットは明日回収に来るんで置いといてください」
「じゃあパトロールついでに駅まで送りますよ」
「ふふ、役得だぁ」
コーヒーポットと軽食の入った籠をテーブルに置き、送ってくれると言うホークスに甘えて駅までの道のりを歩く。最近どうですか、なんて世間話をしながらのんびり歩くこの時間はとても楽しかった。
けれど、ふと気付く。今日の私は仕事着のエプロン姿ではなく、私服だ。踵がある割に歩きやすくて気に入っているウェッジヒールのサンダルで歩くと、私の視線はホークスより高くなるらしい。
そう言えば身長、大差ないんだっけ、なんてぼんやり考える。
「どうかしました?」
「いえ、大丈夫です!」
大丈夫。そう、ヒーローに心配をかけるような何かがあった訳ではない。けれど私にとっては結構な事件だった。
普段空を飛んだり翼を広げているホークスは大きく見える。でもどうやら男性の平均身長と変わらないらしい。確かにエンデヴァーやベストジーニストと並ぶと小さく見えるけれど、それは彼らが大きすぎるせいだと思っていた。
「じゃあ気を付けて。遊びに行くなら遅くならないようにするんですよー」
「あはは、気を付けます! 送ってくれてありがとう!」
……男の人って、やっぱり小さくてか弱い女の子が好きだよね。駅のホームで電車を待ちながら、ぼんやり考える。自分より大きな女って嫌かな、なんて。
そもそも市民のヒーローであるホークスとどうにかなれる訳でもない。けれど彼の瞳に映る自分を、少しでもマシな物に着飾りたいのも、本音だ。
せめて柔らかく見えるようにメイクはタレ目を意識して、ピンクベージュのリップに変えることを決意する。ピアスも小ぶりな物にして、地面に近付くフラットヒールの履きやすい靴。ボディラインが出ない洋服を意識して、か弱くなれなくても、少しくらいは女の子っぽくなるように。
「最近、あれやね、ゆるふわ系に目覚めたと? かわいらしか」
「ありがとうございます、イメチェンですよ~」
そうして過ごして一ヶ月、変化はホークス事務所の人たちにも気付いてもらえたようで、サイドキックの人にゆるくまとめた髪とメイクを褒められた。何だかちょっと嬉しくてにこにこしてしまう。
丁度パトロールから帰ってきたホークスが、コーヒーの香りに釣られてゆっくりと歩いてきた。
「召し上がります? 小腹がすいてるだろうって、ハムのサンドウィッチも持ってきました」
「有難くイタダキマース。ところで今日はこの時間に上がりじゃないんですね」
「遅番の子が遅刻するそうで。あと一時間もしたら上がれると思うんですけど」
最近は上がりの時間についでにコーヒーを届けることが多く、帰り道をホークスやサイドキックの人に駅まで送ってもらうことも多かった。申し訳ないと思いつつ、時間的にも駅方面にパトロールする必要があるから元々のルートと変わらないとの言葉に甘えてしまっている。
恐らく私服ではなくTシャツにエプロン姿の私を見て、いつもとシフトが違うことに気付いたのだろう。ホークスは私を見て、少しだけ考える仕草を見せた。けれど私はバイト中の身なので、コーヒーを届けたら戻らなくてはならない。
「じゃあ今日はホークスがポット返しに行けばよか、ついでに駅前のポストに書類ば突っ込んできてくれると助かると」
「どこの世界に所長を顎で使うサイドキックがいるんですか!」
「ここにおるけん。速達の方の穴に入れるんよ、間違えんでね」
いつも楽しそうな事務所の声を背に、私はバイトに戻るために足早にカフェへ向かう。
店長と他愛ない話をして、遅刻してきた子に謝られ、特に用事もなかったし大丈夫だよと伝えて笑う。交代してバックルームで着替え、後は帰るだけだしメイク直しは適当に済ませて帰ろうとすると、店の方から店長が私を呼ぶ声がした。
「ホークス?」
「駅までご一緒しませんか」
仕方なく裏口ではなく店頭に戻ると、ホークスがデリバリーの籠と封筒を持って笑っている。明日店長が取りに行くはずのポットをわざわざ返しに来てくれたらしい。その封筒を速達の投函口がある駅前のポストに出しに行くようで、それならばついでに一緒に歩かないかと言うお誘いだった。
しっかりメイク直しをすれば良かったと言う少しの後悔と、ホークスからの嬉しい誘いを天秤にかければ、誘いに乗る方を取るに決まっている。
「それで、サイドキックに持たされたんですか」
「そう、人使い荒いですよねほんっと!」
赤字で速達と書かれた封筒を見ながら、ホークスが楽しそうに笑う。大半のヒーロー事務所ではサイドキックと言えば所長の部下のような扱いだが、ホークス事務所は所長のホークスが一番年下のためか弟のように扱われてしまうようだった。
頼りしているし頼られてもいるけれど、如何せん現場以外では距離感が狂う、と言うホークスはそれでも決して嫌ではないようで、頼まれたお使いも楽しそうにしている。
「そう言えば」
何でもないことのようにホークスが私の方を見て言う。
「最近雰囲気変わりましたね」
「あ、ホークスも気付いてくれていたんですね。イメチェンしました」
「もうヒールは履かないんです?」
その言葉に、喉の奥が詰まった気がした。
駅前のポストに、音を立てて封筒が滑り込む。その音がやけに響いた気がした。
「ほ、ほら、私、大きいから……」
上手い言い訳が出てこなくて、口ごもってしまう。さっきまでの楽しい空気から一変して、酸素が薄くなったように感じる。きっと実際に薄くなるなんてことはなくて、ただ私が息を上手く吸えていないだけなのだろう。
まともに回転しない頭から何とかして言葉を拾い上げようとしては、焦って余計に言葉が出てこなくなってしまった。
「じゃあ、小さい男が嫌いです? 俺はあなたのこと見上げるの、結構好きですよ」
「ほ、ホークスのことが嫌いな訳じゃなくて、えっと」
「お望みならずっと少し浮きますけど」
「そう言う問題、でもなく、て……」
「俺はあなたを見上げるの、好きでした。いつか引き寄せて、キスをしたいなって眺めるくらいには」
しどろもどろに何とか質問に答えている内に、今、何を言われたのか。咄嗟に理解出来ずに固まってしまった私と同じ位置にある視線が、しっかりと絡み合う。
猛禽類を思わせる捕食者の瞳がすぅっと細められ、逃げられなくなってしまった。
「ツリ目気味のアイラインも好きでしたし、タイトなデニムの日もありましたよね。あなたの好きな恰好をしてくださいよ、かっこいいのもかわいいのも見たいです。俺は日によって変わるあなたを見るのが好きなんです」
くすくすと楽しそうに笑うホークスの口角が上がる。からかいではなく、ほんの少しの期待を含ませた、男の顔だった。
「あ、でもデートの日は前もって洋服の系統を教えてくれると嬉しいですねー。俺も雰囲気を合わせやすくなるんで」
「……デート」
「毎週水曜日はシフト入ってますよね」
「えっと、あの、午後の授業が入ってない日、なので」
「じゃあ来週の水曜日、バイトの後の時間を予約させてください。俺とデート、しません?」
「じゃあ、Aラインのスカート……?」
「あはは、綺麗系? 分かりました。俺もジャケットとか着ようかな」
じゃあ、楽しみにしてますね。なんて。改札前まで送ってくれて、何でもない笑顔で見送られてしまった。デート。あのホークスと私が、デート?
翌週の水曜日。初デートの記念にと連れられた靴屋でプレゼントされた剛翼と同じ色のハイヒールは10センチ。君のつむじが見える距離感が愛おしいと気付くのは、少し先の話。
