焦凍短編
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大学が夏休みの間、一人暮らしをしている焦凍くんの家に入り浸ってしまった。
申し訳ないと思いつつも、一度泊まりに来たら帰りたくなくなってしまったし、焦凍くんももっと居てもいいと言ってくれたのが嬉しくてつい長居してしまったのだった。
けれど大学が始まればいつものように朝ご飯を準備したり、お弁当を作ったりすることは出来ない。夕飯だって、帰りが遅くなった日の焦凍くんを待つことは出来なくなるかもしれない。
同棲気分を味わえて楽しかったな、と思いながら荷物をまとめる。今日の授業が終わったら取りに来て、自分の家に帰ろうと思っていた。
「焦凍くん?」
「やっと出てくれた」
授業中サイレントモードにしている携帯には大量の着信履歴。
確認している最中にも焦凍くんから電話がかかってきて、思わず出てしまった。
「部屋の荷物なくなってて、鞄だけあったから」
「うん、夏休みも終わったし帰らなきゃ」
構内を歩いて人気のない場所を探す。電話の向こうで少し黙った焦凍くんが、えっと、とかあー、とか、言葉を探しているようだった。
「どうしたの?」
「あのさ、なまえちゃんの大学、俺の家からの方が早く着くよな」
「そうだね、焦凍くんちの最寄り駅は急行が停まるし」
「あと、俺の家の方がスーパーも近い」
「うん、そうかも。あ、冷蔵庫にある豚肉は早目に消費してね」
「だから、いや、そうじゃなくて」
「……どうしたの?」
「帰らないで欲しいって言うのは、俺の我儘か?」
しょんぼりした子犬の姿が浮かぶような、焦凍くんの拗ねた声。
何だか心臓がぎゅうっと掴まれるような、さみしさが詰まっていた。
「だって私、焦凍くんが帰ってくるまで起きていられないかもだし」
「寝顔眺めんのも好きだ」
「夏休み中みたいに、毎日ご飯作れないかもしれないし」
「蕎麦なら俺が茹でる。ネギはほら、切ったのが売ってるって教えてくれただろ」
私の駄目になってしまうかもしれないことを、一つずつ否定して認めてくれる。
「……焦凍くんのために出来ること、何にもないかもしれないんだよ?」
「そんなの、何もなくていい。なまえちゃんがいてくれたら、それでいいんだ。俺も料理とか頑張って覚える。だから、今日も帰ってきて欲しい。……駄目か?」
「そんなの、駄目な訳ないじゃん……!!」
思わず叫ぶように返事をしてしまって、ここが大学の敷地内だと思い出して慌てて声を抑える。
出来ないことがあっても、私を必要としてくれるのだと言う。
あの家に、ただいまを言ってもいいと、願ってくれている。
「授業が終わったら、真っすぐ帰るね」
「ん、待ってる」
お泊り居候から同棲に切り替わるのは、きっと今夜から。
申し訳ないと思いつつも、一度泊まりに来たら帰りたくなくなってしまったし、焦凍くんももっと居てもいいと言ってくれたのが嬉しくてつい長居してしまったのだった。
けれど大学が始まればいつものように朝ご飯を準備したり、お弁当を作ったりすることは出来ない。夕飯だって、帰りが遅くなった日の焦凍くんを待つことは出来なくなるかもしれない。
同棲気分を味わえて楽しかったな、と思いながら荷物をまとめる。今日の授業が終わったら取りに来て、自分の家に帰ろうと思っていた。
「焦凍くん?」
「やっと出てくれた」
授業中サイレントモードにしている携帯には大量の着信履歴。
確認している最中にも焦凍くんから電話がかかってきて、思わず出てしまった。
「部屋の荷物なくなってて、鞄だけあったから」
「うん、夏休みも終わったし帰らなきゃ」
構内を歩いて人気のない場所を探す。電話の向こうで少し黙った焦凍くんが、えっと、とかあー、とか、言葉を探しているようだった。
「どうしたの?」
「あのさ、なまえちゃんの大学、俺の家からの方が早く着くよな」
「そうだね、焦凍くんちの最寄り駅は急行が停まるし」
「あと、俺の家の方がスーパーも近い」
「うん、そうかも。あ、冷蔵庫にある豚肉は早目に消費してね」
「だから、いや、そうじゃなくて」
「……どうしたの?」
「帰らないで欲しいって言うのは、俺の我儘か?」
しょんぼりした子犬の姿が浮かぶような、焦凍くんの拗ねた声。
何だか心臓がぎゅうっと掴まれるような、さみしさが詰まっていた。
「だって私、焦凍くんが帰ってくるまで起きていられないかもだし」
「寝顔眺めんのも好きだ」
「夏休み中みたいに、毎日ご飯作れないかもしれないし」
「蕎麦なら俺が茹でる。ネギはほら、切ったのが売ってるって教えてくれただろ」
私の駄目になってしまうかもしれないことを、一つずつ否定して認めてくれる。
「……焦凍くんのために出来ること、何にもないかもしれないんだよ?」
「そんなの、何もなくていい。なまえちゃんがいてくれたら、それでいいんだ。俺も料理とか頑張って覚える。だから、今日も帰ってきて欲しい。……駄目か?」
「そんなの、駄目な訳ないじゃん……!!」
思わず叫ぶように返事をしてしまって、ここが大学の敷地内だと思い出して慌てて声を抑える。
出来ないことがあっても、私を必要としてくれるのだと言う。
あの家に、ただいまを言ってもいいと、願ってくれている。
「授業が終わったら、真っすぐ帰るね」
「ん、待ってる」
お泊り居候から同棲に切り替わるのは、きっと今夜から。
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