明稜帝 梧桐勢十郎
名前変換が必要な場合はどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼は、恋多き男である。
常に女性が側にいて、その全員が愛らしい。例えば同じような女性ばかりと付き合うのなら、その好みに沿って生きることも容易いのだろう。
けれど彼は、容姿によって気持ちが動くことはなく、日本人形のような大和撫子と付き合ったかと思うと、ハリウッド女優のようなブロンドのグラマラスレディと付き合ったりもする。
「それでさ、春香ちゃんに似合うだろうってプレゼントしたピアスなんだけど」
「待って、さっきまで話してたのって愛美ちゃんじゃなかった?」
「愛美ちゃんは先週デートした子だね!」
話す度に変わる女性の名前を覚えるのに苦労するのは、今に始まったことではない。彼曰くお付き合いとは心との対話であり、全てが真剣で、期間の長さは不問なのだと言う。
例えばたった二日しかお付き合いをしなかった女性であっても、真剣に向き合った結果が別れであっただけで、無駄な時間を過ごしたとは思わないと笑うのだから、救いようがなかった。
「で、ピアスが何だっけ」
「彼女の好みじゃなかったみたいなんだ。だから買い物に付き合って欲しくて」
学校の帰り道、帰宅するためだけに歩いていた時にすっと停車した高級車の後部座席で、彼が手を振っていた。それに手を振り返してしまったのが運の尽き。招かれた車内で適当に話を流していると外の景色が私の家に向かっていないことには何となく気付いていた。なるほど、最初から買い物に付き合わせるつもりだったらしい。
にっこりと笑う彼の顔はモデルなだけあって整っていて、甘いその微笑みと柔らかい声を浴びたい女性は世の中には山のようにいるはずなのに。
何故私を、とは言わないし言いたくない。
「まぁブランドには詳しくないけど、かわいいかかわいくないかの判断は出来るからね」
「それを求めてるんだからいいんだよ、お礼はパフェでいいかな」
「あ、だったらデパートより駅前のカフェがいい! クリフが出てた雑誌で小さく載っていたでしょう」
他の女性へのプレゼント選びに付き合わされるのは癪だけれど。それによって毎回発生するデートのような時間を嫌いになれないから、困っているだけ。
だってこんなにも彼の声を聴くことが出来て、彼の時間を共有することが出来る。御幸ちゃんにはそれでいいの、なんて言われたこともあったけれど。それも悪くないなと思ってしまうのだから、色々と末期なのだ。
「あのカフェはまだ行ったことがないから、下見にいいかも。あ、よかったら週末のデートまでに、もう一軒付き合って欲しい店があって」
「はいはーい、仕方ないから行ってあげる」
私が知らない女性をそつなくエスコートするために、一度行っておきたいと言うお店へ、今まで何度一緒に足を運んだだろう。おすすめのメニュー、お手洗いの位置、その間に会計を済ませられる店かどうか。そう言う細やかな気遣いのために、新しい店や物との出会いを私と過ごす。初回の驚きや感動を私と刻んで、余所行きの顔で笑う。
それに優越感を抱いてしまう自分が嫌になることがあっても、上回る嬉しさに「良き理解者」の仮面を外せずにいた。
「……ねぇ」
「なぁに、クリフ」
「我儘になってくれるのを待ってるって言ったら、どうする?」
じぃ、と透き通った両目が私を覗き込む。何かを言いたそうに、それでいて飲み込むような、複雑な色が混じった色素の薄い瞳は、水深が分からない海のようだった。傾げた首のおかげで、長めの前髪が揺れる。太陽の光を受けると透き通る金色の髪も、車内では作り物のように見えた。
「充分わがままだと思うけど? パフェだって、ドリンクセットにするつもりだし」
「そうじゃないんだけど、まぁ、いいか」
困ったように笑う彼が、伸ばした手で私の頭を撫でる。ぐりぐりと子供にするように撫でてくるくせに、何となく離れがたそうに見えてしまうのは、気のせいだろうか。
「新しい出会いは、一緒がいいって思うんだ。楽しそうに笑う顔が子供っぽくてかわいいしね」
「……何それ」
気恥ずかしくてわざとらしくぷくっと頬を膨らますと、楽しそうに笑う。
友人からステップアップするつもりもないくせに。恋人の肩書きをくれないくせに。いつだって私を妹みたいに扱って、お互いに仕方ないなぁって笑うのが当たり前なのに。
そんなのまるで、私が特別みたいじゃない!
常に女性が側にいて、その全員が愛らしい。例えば同じような女性ばかりと付き合うのなら、その好みに沿って生きることも容易いのだろう。
けれど彼は、容姿によって気持ちが動くことはなく、日本人形のような大和撫子と付き合ったかと思うと、ハリウッド女優のようなブロンドのグラマラスレディと付き合ったりもする。
「それでさ、春香ちゃんに似合うだろうってプレゼントしたピアスなんだけど」
「待って、さっきまで話してたのって愛美ちゃんじゃなかった?」
「愛美ちゃんは先週デートした子だね!」
話す度に変わる女性の名前を覚えるのに苦労するのは、今に始まったことではない。彼曰くお付き合いとは心との対話であり、全てが真剣で、期間の長さは不問なのだと言う。
例えばたった二日しかお付き合いをしなかった女性であっても、真剣に向き合った結果が別れであっただけで、無駄な時間を過ごしたとは思わないと笑うのだから、救いようがなかった。
「で、ピアスが何だっけ」
「彼女の好みじゃなかったみたいなんだ。だから買い物に付き合って欲しくて」
学校の帰り道、帰宅するためだけに歩いていた時にすっと停車した高級車の後部座席で、彼が手を振っていた。それに手を振り返してしまったのが運の尽き。招かれた車内で適当に話を流していると外の景色が私の家に向かっていないことには何となく気付いていた。なるほど、最初から買い物に付き合わせるつもりだったらしい。
にっこりと笑う彼の顔はモデルなだけあって整っていて、甘いその微笑みと柔らかい声を浴びたい女性は世の中には山のようにいるはずなのに。
何故私を、とは言わないし言いたくない。
「まぁブランドには詳しくないけど、かわいいかかわいくないかの判断は出来るからね」
「それを求めてるんだからいいんだよ、お礼はパフェでいいかな」
「あ、だったらデパートより駅前のカフェがいい! クリフが出てた雑誌で小さく載っていたでしょう」
他の女性へのプレゼント選びに付き合わされるのは癪だけれど。それによって毎回発生するデートのような時間を嫌いになれないから、困っているだけ。
だってこんなにも彼の声を聴くことが出来て、彼の時間を共有することが出来る。御幸ちゃんにはそれでいいの、なんて言われたこともあったけれど。それも悪くないなと思ってしまうのだから、色々と末期なのだ。
「あのカフェはまだ行ったことがないから、下見にいいかも。あ、よかったら週末のデートまでに、もう一軒付き合って欲しい店があって」
「はいはーい、仕方ないから行ってあげる」
私が知らない女性をそつなくエスコートするために、一度行っておきたいと言うお店へ、今まで何度一緒に足を運んだだろう。おすすめのメニュー、お手洗いの位置、その間に会計を済ませられる店かどうか。そう言う細やかな気遣いのために、新しい店や物との出会いを私と過ごす。初回の驚きや感動を私と刻んで、余所行きの顔で笑う。
それに優越感を抱いてしまう自分が嫌になることがあっても、上回る嬉しさに「良き理解者」の仮面を外せずにいた。
「……ねぇ」
「なぁに、クリフ」
「我儘になってくれるのを待ってるって言ったら、どうする?」
じぃ、と透き通った両目が私を覗き込む。何かを言いたそうに、それでいて飲み込むような、複雑な色が混じった色素の薄い瞳は、水深が分からない海のようだった。傾げた首のおかげで、長めの前髪が揺れる。太陽の光を受けると透き通る金色の髪も、車内では作り物のように見えた。
「充分わがままだと思うけど? パフェだって、ドリンクセットにするつもりだし」
「そうじゃないんだけど、まぁ、いいか」
困ったように笑う彼が、伸ばした手で私の頭を撫でる。ぐりぐりと子供にするように撫でてくるくせに、何となく離れがたそうに見えてしまうのは、気のせいだろうか。
「新しい出会いは、一緒がいいって思うんだ。楽しそうに笑う顔が子供っぽくてかわいいしね」
「……何それ」
気恥ずかしくてわざとらしくぷくっと頬を膨らますと、楽しそうに笑う。
友人からステップアップするつもりもないくせに。恋人の肩書きをくれないくせに。いつだって私を妹みたいに扱って、お互いに仕方ないなぁって笑うのが当たり前なのに。
そんなのまるで、私が特別みたいじゃない!
