さかさまの水平線
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急に寒くなった秋。秋を通り越して急に冬が来たんじゃないかと思った日だった。
厚手のコートは今後の寒さを見越してクリーニングに出してある。まさか今日こんなにも冷え込むとは思っておらず、一足出遅れたと言う訳だ。
今日のために引き取りに行くには今日外出するのが寒いジレンマに、せめて厚手のインナーでも着ようかと着替えに悩んでいた。
窓がコンコンコンとノックされる。このアパートは四階建てで、私は一階に住んでいる訳ではない。
ノックをした相手が誰かは分かり易かった。何せ平均的な人型の手が背伸びしたところで、簡単に届く位置に窓はない。
「下着姿で出迎えるなんて情熱的ですけど、ちょっとは周りの視線ってもんを気にしてくださいよ」
「着替えてる途中だったの、スカートは着てるでしょ。窓から来るのなんてホークスくらいじゃない」
「世の中に有翼は俺だけじゃないです、危機感持ってください」
そりゃ世の中には有翼どころか腕だけ伸びる人もいる訳だけど。好んでこの部屋の窓を丁寧に三回ノックする物好きなんて、私の周辺には一人しかいない。
心配しているくせに迎え入れてくれるのが嬉しいのか、少しだけ複雑な笑顔でわざとらしく両肩を竦めていた。
「窓の広い家に引っ越しません? 剛翼がひっかかるんで」
「生憎と窓は出入り口ではないんだよねぇ……」
寒いから早く閉めてと言えば、身を縮こまらせながら器用に入ってくる。確かに単身用1DKのこのアパートの窓は有翼用には設計されておらず、ついでに屋根も特段高くはない。普通、と言う言葉が適当かどうかは分からないけれど、よくあるアパートの大きさしかない。よってこの窓は出入り用ではないのだ。
そんな事を言いながら窓のそばに靴を脱ぐ用にとオットマンと小さなマットを置いているのだから、私も相当ホークスに甘い自覚はあった。
最早ホークス専用となっているオットマンで靴を脱いでから、両手をすり合わせつつ我が物顔でエアコンの暖房をつけている。そうしてエアコンの風が当たりやすい場所に置かれたソファーにちょこんと腰かけた。
ホークスの身長が低い訳ではないけれど、身体よりも翼が大きい分、身体が小さく見えてとても愛らしい。
以前それを口にしたら「あなたよりは高いですよ」と大層拗ねられたので、極力「かわいい」を口にしないように努力はしていた。
上空と言うのは私が想像しているよりずっと寒いらしく、彼は曰く丁度いい場所にあると言う私の家でよく暖を取っている。丁度いいって何だ。きっとそれは口から出まかせで、何かにつけて寄っているのだろう。何せここは博多でもなければ、有名なヒーロー事務所も近くにはない。
それでもまぁ、折角来てくれたのだし仕方なく温かいコーヒーでもいれてあげようと、取り合えず適当なTシャツに袖を通した。
「それじゃ寒いんじゃないですか、去年買った赤のニット、まだ出してないんです?」
「我が家のタンス事情把握しないでよ」
ケトルでお湯を沸かしながら、先週の衣替えを思い出す。確かにあのニットならクリーニング店までは耐えられるかもしれない。
安物のインスタントコーヒーの粉を放り込んだマグカップにお湯を注ぎ、もう一つのティーカップには自分用にミルクも入れる。ブラックを彼に手渡して、羽根の邪魔にならないよう隣に腰かけた。
「でも、あのニットならスカートじゃなくてパンツだと思うのよ」
「いっそ今日は買い物デートしませんか、ついでにクリーニングに出したコートも引き取って」
「ストーカーめ」
「心配性って言って欲しいですね」
得意げに笑う彼に私のプライベートが筒抜けなのは分かっているし、来るたびに落としていく一枚の羽根にも気付いている。
最初はただ抜け落ちたと思っていた羽根も、たまに意思を持ったようにふよふよと動いたり、私が落ち込んでいる日なんかは夜中でも本人がやってくることがあるから、あからさまだった。
それでも理解した上で全てを好きにさせているのだから、私も随分、ホークスに甘えていると言うことだろう。
「……大きな窓、ねぇ」
「引っ越す気になりました?」
「マグカップも2つあれば便利だし」
「お揃いで俺の分も置いてくれるとか?」
「仕方ないから置いてあげようかな」
ホットコーヒーで暖を取るホークスがにこにこと楽しそうに笑っている。夢を語るのは面白いのだろう。想像はきっと、愉快なものだ。
「寝室は別にしてね」
「……へ?」
間抜けな声で瞬く瞳が私の顔をまじまじと眺める。愉快で、傑作だ。それでいて愛らしく、悪戯心も芽生える。
「有翼用の物件なんて考えたこともなかったからホークスに任せるよ。寝室は別、リビングのソファーは大きめにしてね」
「それは、どういう意味、で」
「ついでに駅チカ、徒歩10分以内だと尚良しかな」
「まさか、一緒に住んでくれると……?」
砂糖を入れ過ぎたのか今日のコーヒーはとびきり甘い気がした、なんて。勘違いも愉快で、とびきり楽しい未来になるかも。
そんな気だけで、私も何だか羽根もないのに舞い上がってしまいそうだった。
「ストーカーからランクアップしていいよって言ってるの」
――あぁ、私は本当に、彼に甘い!
厚手のコートは今後の寒さを見越してクリーニングに出してある。まさか今日こんなにも冷え込むとは思っておらず、一足出遅れたと言う訳だ。
今日のために引き取りに行くには今日外出するのが寒いジレンマに、せめて厚手のインナーでも着ようかと着替えに悩んでいた。
窓がコンコンコンとノックされる。このアパートは四階建てで、私は一階に住んでいる訳ではない。
ノックをした相手が誰かは分かり易かった。何せ平均的な人型の手が背伸びしたところで、簡単に届く位置に窓はない。
「下着姿で出迎えるなんて情熱的ですけど、ちょっとは周りの視線ってもんを気にしてくださいよ」
「着替えてる途中だったの、スカートは着てるでしょ。窓から来るのなんてホークスくらいじゃない」
「世の中に有翼は俺だけじゃないです、危機感持ってください」
そりゃ世の中には有翼どころか腕だけ伸びる人もいる訳だけど。好んでこの部屋の窓を丁寧に三回ノックする物好きなんて、私の周辺には一人しかいない。
心配しているくせに迎え入れてくれるのが嬉しいのか、少しだけ複雑な笑顔でわざとらしく両肩を竦めていた。
「窓の広い家に引っ越しません? 剛翼がひっかかるんで」
「生憎と窓は出入り口ではないんだよねぇ……」
寒いから早く閉めてと言えば、身を縮こまらせながら器用に入ってくる。確かに単身用1DKのこのアパートの窓は有翼用には設計されておらず、ついでに屋根も特段高くはない。普通、と言う言葉が適当かどうかは分からないけれど、よくあるアパートの大きさしかない。よってこの窓は出入り用ではないのだ。
そんな事を言いながら窓のそばに靴を脱ぐ用にとオットマンと小さなマットを置いているのだから、私も相当ホークスに甘い自覚はあった。
最早ホークス専用となっているオットマンで靴を脱いでから、両手をすり合わせつつ我が物顔でエアコンの暖房をつけている。そうしてエアコンの風が当たりやすい場所に置かれたソファーにちょこんと腰かけた。
ホークスの身長が低い訳ではないけれど、身体よりも翼が大きい分、身体が小さく見えてとても愛らしい。
以前それを口にしたら「あなたよりは高いですよ」と大層拗ねられたので、極力「かわいい」を口にしないように努力はしていた。
上空と言うのは私が想像しているよりずっと寒いらしく、彼は曰く丁度いい場所にあると言う私の家でよく暖を取っている。丁度いいって何だ。きっとそれは口から出まかせで、何かにつけて寄っているのだろう。何せここは博多でもなければ、有名なヒーロー事務所も近くにはない。
それでもまぁ、折角来てくれたのだし仕方なく温かいコーヒーでもいれてあげようと、取り合えず適当なTシャツに袖を通した。
「それじゃ寒いんじゃないですか、去年買った赤のニット、まだ出してないんです?」
「我が家のタンス事情把握しないでよ」
ケトルでお湯を沸かしながら、先週の衣替えを思い出す。確かにあのニットならクリーニング店までは耐えられるかもしれない。
安物のインスタントコーヒーの粉を放り込んだマグカップにお湯を注ぎ、もう一つのティーカップには自分用にミルクも入れる。ブラックを彼に手渡して、羽根の邪魔にならないよう隣に腰かけた。
「でも、あのニットならスカートじゃなくてパンツだと思うのよ」
「いっそ今日は買い物デートしませんか、ついでにクリーニングに出したコートも引き取って」
「ストーカーめ」
「心配性って言って欲しいですね」
得意げに笑う彼に私のプライベートが筒抜けなのは分かっているし、来るたびに落としていく一枚の羽根にも気付いている。
最初はただ抜け落ちたと思っていた羽根も、たまに意思を持ったようにふよふよと動いたり、私が落ち込んでいる日なんかは夜中でも本人がやってくることがあるから、あからさまだった。
それでも理解した上で全てを好きにさせているのだから、私も随分、ホークスに甘えていると言うことだろう。
「……大きな窓、ねぇ」
「引っ越す気になりました?」
「マグカップも2つあれば便利だし」
「お揃いで俺の分も置いてくれるとか?」
「仕方ないから置いてあげようかな」
ホットコーヒーで暖を取るホークスがにこにこと楽しそうに笑っている。夢を語るのは面白いのだろう。想像はきっと、愉快なものだ。
「寝室は別にしてね」
「……へ?」
間抜けな声で瞬く瞳が私の顔をまじまじと眺める。愉快で、傑作だ。それでいて愛らしく、悪戯心も芽生える。
「有翼用の物件なんて考えたこともなかったからホークスに任せるよ。寝室は別、リビングのソファーは大きめにしてね」
「それは、どういう意味、で」
「ついでに駅チカ、徒歩10分以内だと尚良しかな」
「まさか、一緒に住んでくれると……?」
砂糖を入れ過ぎたのか今日のコーヒーはとびきり甘い気がした、なんて。勘違いも愉快で、とびきり楽しい未来になるかも。
そんな気だけで、私も何だか羽根もないのに舞い上がってしまいそうだった。
「ストーカーからランクアップしていいよって言ってるの」
――あぁ、私は本当に、彼に甘い!
