さかさまの水平線
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年々甘ったるくなっていく気がする。知り合った頃に、お近付きのしるしにどうぞと渡された一枚の羽は後日監視用だと発覚してケンカになったし、連絡の頻度も少なかった。
紆余曲折あってお付き合いすることになった後も、世間一般の恋人同士にしてはライトすぎるのではないかと思ったが、相手の職業が職業なのでこんなものか、と自分に言い聞かせてきた。
文字ですら淡泊で、一度だけもう少し構ってくれてもいいんじゃないかと零したら、毎日話していたら実際会ってデートした時に話すことがなくなりませんか、と何でもない顔で言われたのを思い出す。
「それが今や、こうだもんなぁ……」
「何ですか」
「なんでもないよ」
私のハンドバッグを持って歩いてくれるホークスは、当たり前のように車道側だ。友人と食事に行った帰りに最寄り駅まで迎えに来てくれたのだった。
それも、前もって凡その解散の時間を聞かれていたし、乗る電車が到着する時間も報告した。恐らく電車が到着するより先に駅に着いたホークスは、私がアルコールを摂取している可能性を考えて、麦茶のペットボトルを持っていた。
「ホークスってさ、私に甘くなったよね」
二人で暮らしているマンションに辿り着くと、風呂の準備は終わっているし、部屋は冷えている。部屋着はリビングのソファーにかけてあるし、きっと冷蔵庫には麦茶のストックもあるだろう。至れり尽くせりの状態に、思わず口をついて出た。
「優しい男は嫌いです?」
ふふ、と笑う顔はもう出会った頃の作り笑いではない。心底楽しそうな顔だった。
「んーん、大好き。でも尽くされ過ぎかなって思う。ホークスがいないと生きて行けないくらい」
「それは良かった、そうしたかったんで」
お揃いのグラスに冷えた麦茶を注いで出したホークスは、片方のグラスを私に差し出して笑う。
「最初の印象が悪すぎたよねーとは思うんだ」
「あー、まぁ、はい」
少し歯切れの悪くなった彼が、ソファーに並ぶ。言っても怒りませんかと問うところを見るに、言い難い話なのだろうか。
珍しいな、と思いながらもグラスをローテーブルに置いてから、彼の手を取る。触れあって、温もりを分けて、大丈夫だよと、伝わるように。
「……こんなに長い間、あなたと一緒に居られるとは思ってなくて」
「どうして?」
「あの頃って、まぁ一応生意気な若造って感じで売ってた訳ですけど、実際問題、仲良い人とかを作りたくなかったんですよね」
振れていた私の手を、指で擽るように撫でられる。整えられた爪と指の先が産毛を逆立てるように触れれば、くすぐったいよりも艶っぽさを感じてしまい、その動きを止めるために握りしめると、今度は指を絡ませて恋人繋ぎになった。
「……使い捨てだと思ってたし、いつ死んでもいいと思ってた。そう思い込みたかったから、近しい人を作って後悔したくなかったし、もしもの時に躊躇したくなかった」
眉を下げ苦笑いを浮かべる彼が、繋がれたままの私の手の甲にキスを落とす。
「いつでも切り捨てて忘れて貰える存在でいたかったんです」
だから誰に対しても距離を取っていた、と零す。
「……もう過去形、ってことでいいんだよね」
「えぇ、今更考えたくはないので」
引き寄せられて腕の中に収まった私も、随分と変わったように思う。最初はいけ好かない人だと思った彼のことを、今では心の奥から愛しているから。
「でも私ばっかり尽くされてる気がするなぁ」
「なら、今夜はベッドの上で尽くしてもらっても?」
「あはは、シャワーから一緒に入ってくれるなら、考えてもいいよ!」
くすくす笑いながら、彼のシャツに手をかけるとまんざらでもない、にじみ出たような柔らかい笑顔が浮かぶ。
お互いもう一人にはなれないな、なんて口にはしてやらないけれど。それでもまぁ、ゼロ距離で満たされるのは悪くないのだった。
紆余曲折あってお付き合いすることになった後も、世間一般の恋人同士にしてはライトすぎるのではないかと思ったが、相手の職業が職業なのでこんなものか、と自分に言い聞かせてきた。
文字ですら淡泊で、一度だけもう少し構ってくれてもいいんじゃないかと零したら、毎日話していたら実際会ってデートした時に話すことがなくなりませんか、と何でもない顔で言われたのを思い出す。
「それが今や、こうだもんなぁ……」
「何ですか」
「なんでもないよ」
私のハンドバッグを持って歩いてくれるホークスは、当たり前のように車道側だ。友人と食事に行った帰りに最寄り駅まで迎えに来てくれたのだった。
それも、前もって凡その解散の時間を聞かれていたし、乗る電車が到着する時間も報告した。恐らく電車が到着するより先に駅に着いたホークスは、私がアルコールを摂取している可能性を考えて、麦茶のペットボトルを持っていた。
「ホークスってさ、私に甘くなったよね」
二人で暮らしているマンションに辿り着くと、風呂の準備は終わっているし、部屋は冷えている。部屋着はリビングのソファーにかけてあるし、きっと冷蔵庫には麦茶のストックもあるだろう。至れり尽くせりの状態に、思わず口をついて出た。
「優しい男は嫌いです?」
ふふ、と笑う顔はもう出会った頃の作り笑いではない。心底楽しそうな顔だった。
「んーん、大好き。でも尽くされ過ぎかなって思う。ホークスがいないと生きて行けないくらい」
「それは良かった、そうしたかったんで」
お揃いのグラスに冷えた麦茶を注いで出したホークスは、片方のグラスを私に差し出して笑う。
「最初の印象が悪すぎたよねーとは思うんだ」
「あー、まぁ、はい」
少し歯切れの悪くなった彼が、ソファーに並ぶ。言っても怒りませんかと問うところを見るに、言い難い話なのだろうか。
珍しいな、と思いながらもグラスをローテーブルに置いてから、彼の手を取る。触れあって、温もりを分けて、大丈夫だよと、伝わるように。
「……こんなに長い間、あなたと一緒に居られるとは思ってなくて」
「どうして?」
「あの頃って、まぁ一応生意気な若造って感じで売ってた訳ですけど、実際問題、仲良い人とかを作りたくなかったんですよね」
振れていた私の手を、指で擽るように撫でられる。整えられた爪と指の先が産毛を逆立てるように触れれば、くすぐったいよりも艶っぽさを感じてしまい、その動きを止めるために握りしめると、今度は指を絡ませて恋人繋ぎになった。
「……使い捨てだと思ってたし、いつ死んでもいいと思ってた。そう思い込みたかったから、近しい人を作って後悔したくなかったし、もしもの時に躊躇したくなかった」
眉を下げ苦笑いを浮かべる彼が、繋がれたままの私の手の甲にキスを落とす。
「いつでも切り捨てて忘れて貰える存在でいたかったんです」
だから誰に対しても距離を取っていた、と零す。
「……もう過去形、ってことでいいんだよね」
「えぇ、今更考えたくはないので」
引き寄せられて腕の中に収まった私も、随分と変わったように思う。最初はいけ好かない人だと思った彼のことを、今では心の奥から愛しているから。
「でも私ばっかり尽くされてる気がするなぁ」
「なら、今夜はベッドの上で尽くしてもらっても?」
「あはは、シャワーから一緒に入ってくれるなら、考えてもいいよ!」
くすくす笑いながら、彼のシャツに手をかけるとまんざらでもない、にじみ出たような柔らかい笑顔が浮かぶ。
お互いもう一人にはなれないな、なんて口にはしてやらないけれど。それでもまぁ、ゼロ距離で満たされるのは悪くないのだった。
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