八百万百
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特別美人でもなければスタイルが良い訳でもない。
芸能人でもインフルエンサーでもないのに、最近の私はストーカー被害に悩まされていた。バイト先であるコンビニのお客さんなのか、それとも……と考え始めるときりがない。
けれど決して良い気分とは言えない日々を過ごしていたので、折れそうな心を何とか奮い立たせて警察に相談することにした。
時折ポストに手紙が入っていること、勘違いかもしれないが消したはずの電気が点いている時があること、小さなことかもしれないけれど……と相談した警察の人は親切に対応してくれて、周囲のパトロールを増やしてくれると言ってくれた。
それが先週の話。今朝になって警察から電話があり、同様の相談が複数件あったことと、個性を使用した事件に繋がっている可能性があるため、解決まで保護させて欲しいとの連絡だった。
何だか大事になってしまった、と思いながらも、言われた通りに着替えなどの準備をして、警察の迎えを待った。解決まではホテルでの生活となるらしい。
暫くして、アパートのインターフォンが鳴った。私の安いアパートにはモニターはついていないので、直接玄関に向かう。
「はい」
「警察からの要請でお迎えに参りました」
女性の声だった。ドアスコープからはしっかり顔が確認出来ないが、スーツを着た女性だ。時間もぴったりだし、問題ないだろう。
戸締りを確認して、小さめのボストンバックに纏めた荷物を持って玄関の扉を開ける。
「……えっ、クリエ、本物?!」
扉を開けた先に立っていたのは、質の良い仕立てのスーツを身に纏ったクリエティだった。普段のヒーロースーツとは違い、黒でまとめられたスーツを着こなし、艶やかな髪は美しい額が見えるように上げられている。
「えぇ、クリエティですわ。ご存じでいらっしゃいますのね」
「ご存じ、です」
ご存じも何も、女性ヒーローの中では私の中の最推しだ。変装するように身なりを整えた彼女からは、ほんのり良い香りさえする。薄く化粧をした容姿はいつもより美しく見えた。
「お手を」
そっと差し出された手は、間違いなく私に向かっている。
「本日は私がお守りいたしますね」
安心させるように微笑みを浮かべたクリエティは、私だけに向かって言葉を紡いでいる。それが信じられなくて手を取ることを躊躇してしまった。
「ご安心くださいませ。完璧にエスコートしてみせますわ」
「お、お願いします……」
正気に戻れないまま、高鳴る心臓を何とか押さえつけてクリエティの手を取る。爪先までしっかりと手入れのされた美しい肌は、それでも華奢な女性の手ではなく、日々の鍛錬や仕事を感じることの出来る綺麗な手だった。
きゅ、と軽く握られた手は心強くて、どこかほっとするのはヒーローだからなのだろうか。けれど緊張する心はそのままで、どきどきと鳴る心臓がうるさかった。
「このまま指定のホテルへと向かいます。必要な物がございましたら適宜お申し出くださいね」
自然と腕を取るような形に誘導され車までしっかりとエスコートされる。安アパートの廊下を、磨かれた革靴が音を響かせる。私より身長が高いクリエティは、まるで王子様のようだった。そう思い至って、余計に顔が熱くなる。きっと顔が赤くなっているだろうけれど、今はそれを隠す物もなかった。
迎えの車の前に到着すると、扉を開けてから入口に手を添えて私を車内へ促した。頭をぶつけないように配慮してくれたのだろう。何事もスマートで惚れ惚れする。
私を奥に座らせると、次いで隣に腰掛ける。ゆっくりと走り出した車は、きっと警察が用意したホテルに向かうのだろう。
「ご不便を強いますが、ご容赦くださいませ」
赤くなっている顔を隠したくて俯いていると、不安に感じていると思われたのか、心配そうなクリエティが私の手をそっと握ってくれた。ぶわっと全身を駆け巡るのが緊張なのか、別の何かなのか分からないまま顔を上げると、輝く双眸と視線がかち合う。
「どうかヒーローに、……私にあなたを守らせてください」
にこりと微笑む彼女に、どきりとした。ヒーローとしての自信と安心感。それ以上に響く甘い声が、じわりと私を満たしていく。
「信じています、マイヒーロー」
「えぇ、お任せください!」
不幸中の幸いが、私の日常を創造していく気がして。
とびきりの高揚感は、どうしようもなく私の心を躍らせた。
芸能人でもインフルエンサーでもないのに、最近の私はストーカー被害に悩まされていた。バイト先であるコンビニのお客さんなのか、それとも……と考え始めるときりがない。
けれど決して良い気分とは言えない日々を過ごしていたので、折れそうな心を何とか奮い立たせて警察に相談することにした。
時折ポストに手紙が入っていること、勘違いかもしれないが消したはずの電気が点いている時があること、小さなことかもしれないけれど……と相談した警察の人は親切に対応してくれて、周囲のパトロールを増やしてくれると言ってくれた。
それが先週の話。今朝になって警察から電話があり、同様の相談が複数件あったことと、個性を使用した事件に繋がっている可能性があるため、解決まで保護させて欲しいとの連絡だった。
何だか大事になってしまった、と思いながらも、言われた通りに着替えなどの準備をして、警察の迎えを待った。解決まではホテルでの生活となるらしい。
暫くして、アパートのインターフォンが鳴った。私の安いアパートにはモニターはついていないので、直接玄関に向かう。
「はい」
「警察からの要請でお迎えに参りました」
女性の声だった。ドアスコープからはしっかり顔が確認出来ないが、スーツを着た女性だ。時間もぴったりだし、問題ないだろう。
戸締りを確認して、小さめのボストンバックに纏めた荷物を持って玄関の扉を開ける。
「……えっ、クリエ、本物?!」
扉を開けた先に立っていたのは、質の良い仕立てのスーツを身に纏ったクリエティだった。普段のヒーロースーツとは違い、黒でまとめられたスーツを着こなし、艶やかな髪は美しい額が見えるように上げられている。
「えぇ、クリエティですわ。ご存じでいらっしゃいますのね」
「ご存じ、です」
ご存じも何も、女性ヒーローの中では私の中の最推しだ。変装するように身なりを整えた彼女からは、ほんのり良い香りさえする。薄く化粧をした容姿はいつもより美しく見えた。
「お手を」
そっと差し出された手は、間違いなく私に向かっている。
「本日は私がお守りいたしますね」
安心させるように微笑みを浮かべたクリエティは、私だけに向かって言葉を紡いでいる。それが信じられなくて手を取ることを躊躇してしまった。
「ご安心くださいませ。完璧にエスコートしてみせますわ」
「お、お願いします……」
正気に戻れないまま、高鳴る心臓を何とか押さえつけてクリエティの手を取る。爪先までしっかりと手入れのされた美しい肌は、それでも華奢な女性の手ではなく、日々の鍛錬や仕事を感じることの出来る綺麗な手だった。
きゅ、と軽く握られた手は心強くて、どこかほっとするのはヒーローだからなのだろうか。けれど緊張する心はそのままで、どきどきと鳴る心臓がうるさかった。
「このまま指定のホテルへと向かいます。必要な物がございましたら適宜お申し出くださいね」
自然と腕を取るような形に誘導され車までしっかりとエスコートされる。安アパートの廊下を、磨かれた革靴が音を響かせる。私より身長が高いクリエティは、まるで王子様のようだった。そう思い至って、余計に顔が熱くなる。きっと顔が赤くなっているだろうけれど、今はそれを隠す物もなかった。
迎えの車の前に到着すると、扉を開けてから入口に手を添えて私を車内へ促した。頭をぶつけないように配慮してくれたのだろう。何事もスマートで惚れ惚れする。
私を奥に座らせると、次いで隣に腰掛ける。ゆっくりと走り出した車は、きっと警察が用意したホテルに向かうのだろう。
「ご不便を強いますが、ご容赦くださいませ」
赤くなっている顔を隠したくて俯いていると、不安に感じていると思われたのか、心配そうなクリエティが私の手をそっと握ってくれた。ぶわっと全身を駆け巡るのが緊張なのか、別の何かなのか分からないまま顔を上げると、輝く双眸と視線がかち合う。
「どうかヒーローに、……私にあなたを守らせてください」
にこりと微笑む彼女に、どきりとした。ヒーローとしての自信と安心感。それ以上に響く甘い声が、じわりと私を満たしていく。
「信じています、マイヒーロー」
「えぇ、お任せください!」
不幸中の幸いが、私の日常を創造していく気がして。
とびきりの高揚感は、どうしようもなく私の心を躍らせた。
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