レディ・ナガン
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「カウンセラーにでもなったつもりかい」
彼女は穏やかな顔で、そう呟いた。この部屋にいるのは私と彼女だけだ。つまりその言葉は、私に向かって投げられたものと言うことになる。
「どうして、そう思ったの?」
「やけに甲斐甲斐しいからさ、見張っているようでいてまるで隙だらけ」
両肩を竦めて笑う彼女は、それでいて目の奥が笑っていない。完璧な笑みの奥で、冷ややかに私を見定めている。
確かに私は彼女の身元引受人でも何でもないただの一般職員で、現委員長に言われて彼女の身の回りの世話を仰せつかっている。
委員長からは、絶対に逃げる人ではないからダイジョーブ、と教わっていた。なので必然的に、私は窓のないこの部屋に当たり障りのない資料を運んだり、会話を試みたり、つまり彼女と関わることが仕事だった。
「お仕事です、って言えればよかったのだけれど、残念ながら私はあなたと話すのが楽しいので、半分お仕事じゃなくなったんだよね」
「楽しい? 能天気だね」
「委員長もそれでいいよっておっしゃってたので、カウンセラーなんて大それたことをしているつもりはないの。あの、こう言われたら嫌かもしれないんだけど」
午後のお茶はハーブティ。ハイビスカスの香りが芳醇に広がる頂き物の茶葉を蒸らしたポットを傾けながら、私は彼女に笑いかけた。
「お友達になれたらいいなぁって、そう思っているの」
「アハハ! オトモダチ、そりゃ能天気にもほどがある。この身体で今まで何をしてきたか、知っているくせに」
きゅう、と自分の体を抱くように両腕を交差して見せた彼女が、笑う。
やけに痛々しい、貼り付けたような笑みだ。
「普通に生きていくことを、許せないの?」
「……許すつもりがないだけさ」
そう言って唇を噛む彼女に、温かいハーブティーを差し出す。
「私は、あなたと一緒に買い物をしたり、食事をしたり、片手を繋いで外を歩いてみたいと思っただけなの。きっと、それが普通ってことでしょう?」
握りしめた拳では何も掴むことが出来ない。歩くのが不安なら手を繋げばいい。
空いた片手で、好きなものを掴んで欲しかった。ただ鮮やかに笑う彼女を、隣で見ていたかった。
「まるで愛の告白でもされてる気分だ」
「必要なら毎日でも告白するよ」
やっと肩の力を抜いた彼女が、ハーブティーに手を伸ばす。
「告白はいらない。けどまぁ、あんたのお茶は美味しいからそれに免じてやろう。明日からは、カップを二つにして」
「……! そうね、一緒がいいわ!」
一歩ずつ。
あなたと歩く未来を知りたかった。
彼女は穏やかな顔で、そう呟いた。この部屋にいるのは私と彼女だけだ。つまりその言葉は、私に向かって投げられたものと言うことになる。
「どうして、そう思ったの?」
「やけに甲斐甲斐しいからさ、見張っているようでいてまるで隙だらけ」
両肩を竦めて笑う彼女は、それでいて目の奥が笑っていない。完璧な笑みの奥で、冷ややかに私を見定めている。
確かに私は彼女の身元引受人でも何でもないただの一般職員で、現委員長に言われて彼女の身の回りの世話を仰せつかっている。
委員長からは、絶対に逃げる人ではないからダイジョーブ、と教わっていた。なので必然的に、私は窓のないこの部屋に当たり障りのない資料を運んだり、会話を試みたり、つまり彼女と関わることが仕事だった。
「お仕事です、って言えればよかったのだけれど、残念ながら私はあなたと話すのが楽しいので、半分お仕事じゃなくなったんだよね」
「楽しい? 能天気だね」
「委員長もそれでいいよっておっしゃってたので、カウンセラーなんて大それたことをしているつもりはないの。あの、こう言われたら嫌かもしれないんだけど」
午後のお茶はハーブティ。ハイビスカスの香りが芳醇に広がる頂き物の茶葉を蒸らしたポットを傾けながら、私は彼女に笑いかけた。
「お友達になれたらいいなぁって、そう思っているの」
「アハハ! オトモダチ、そりゃ能天気にもほどがある。この身体で今まで何をしてきたか、知っているくせに」
きゅう、と自分の体を抱くように両腕を交差して見せた彼女が、笑う。
やけに痛々しい、貼り付けたような笑みだ。
「普通に生きていくことを、許せないの?」
「……許すつもりがないだけさ」
そう言って唇を噛む彼女に、温かいハーブティーを差し出す。
「私は、あなたと一緒に買い物をしたり、食事をしたり、片手を繋いで外を歩いてみたいと思っただけなの。きっと、それが普通ってことでしょう?」
握りしめた拳では何も掴むことが出来ない。歩くのが不安なら手を繋げばいい。
空いた片手で、好きなものを掴んで欲しかった。ただ鮮やかに笑う彼女を、隣で見ていたかった。
「まるで愛の告白でもされてる気分だ」
「必要なら毎日でも告白するよ」
やっと肩の力を抜いた彼女が、ハーブティーに手を伸ばす。
「告白はいらない。けどまぁ、あんたのお茶は美味しいからそれに免じてやろう。明日からは、カップを二つにして」
「……! そうね、一緒がいいわ!」
一歩ずつ。
あなたと歩く未来を知りたかった。
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