もくまおう【ホークス】
名前変換が必要な場合はどうぞ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの後、プロジェクトの上役にちゃっかり了承を取ったらしいホークスによって、私の机は事務室の隅からプロジェクトメインルームの隅に移動した。
どうやら情操教育の一環として、世話役に昇進したらしい。
世話役って何だ、と思わなくもないが、普段の事務仕事にホークスとの会話がプラスされたと考えて欲しい、と目の下に大きなクマを作った目良さんが溜息を吐いていた。その疲れは察するに余りある。
元々関わる人間は増える予定で、これからはホークス事務所の人員も査定していく必要がある。つまり身近だが新しい人間で一旦実験しておこう、と言う流れだ。
ここまで来れば拒否権などないようなものなので、事務室で無言の作業を続けるよりは有意義だろう、と思い込むことにした。百パーセントとは言えないが十パーセントでも事情を知っている人間であれば、上としては扱いやすい。
それに今は戦闘訓練もなく、基本的にはトレーニングと事務所経営におけるイロハを叩き込む時間の方が多いと聞く。トレーニングは専属のトレーナーがカリキュラムを組んでいるし、デスクワークのイロハなら多少は教えることが出来る。
「今日からよろしくね、ホークス」
「こちらこそよろしくお願いします」
朝の挨拶、自然な会話の始め方。途切れた会話に対する続きの話題として適切な物は何か。或いは会話の終わらせ方について。学ぶと言うよりは日常のひとコマとして身に沁みさせると言った方が正しいだろう。
ホークスは適度な距離感で接してくれたし、会話の内容が物足りないと思った時はこちらから話題を提供したりもした。これから事務所を設立するにあたって、ある程度近しい人間にはそれなりの距離感で接した方が良いからだ。
踏み込んで良いボーダーラインは人それぞれだが、踏み込んで欲しくない境界線への気付きは多い方が良いだろう。
他愛ない会話、と言うのは意識してしまうと難しいものだ。
軽薄そうな仕草から多少土足で踏み入ったところで大きな問題にはならないとは言え、日常会話はお互いへの甘えや信頼がないと成り立たない部分も多い。
例えば、職員の一人が出張の土産に買ってきたお菓子を、ホークスは要らないと言って受け取らなかった。箱を開けてご自由にどうぞと置かれた物ではなく、直接手渡された物だ。
「そういう時は、ありがとうって受け取っておけばいいんだよ」
「でも俺、別にこのスナック菓子好きじゃないです」
「貰ってから食べるか食べないかを決めるのはホークスだよ。でも
ホークスに渡したいって言う相手の好意は否定しちゃいけない」
これがファンから求められた行為ならどうする、と言葉を続ければプレゼントは事務所宛に送るべきだと返された。それが当然の反応であると言わんばかりの態度でこちらをまっすぐ見つめている。何がおかしいのか全く見当もついていない様子だった。
少し難しい問題だが、言いたいのはそう言うことではない。
「勿論ファンは全員が信用出来る訳じゃないからね、それは正しいと思うよ。じゃあお土産を持ってきたのが自分のサイドキックならどうするの」
「関係構築のためにも一度受け取るべき、ってことですか」
「そう言うこと。ホークスは職員に甘えてるし、嫌われても問題ないと思ってる。けれどここを出ればそうはいかないの。ヒビの入った関係を修復するのは、思っているより難しいんだよ。人間って理屈で出来てないんだ」
ホークスと過ごすようになってから、気付いたことがある。
彼は感情表現が得意ではないし、他人と接することに慣れていない。一度会うだけのような他人相手なら上手く会話を構築することが出来るだけのスキルはあるだろう。けれど多少近い人間となると、からっきしだった。
どうも距離感、と言う物を図りかねているように思う。
甘えているようでいて、拒絶しているようにも見えた。あまりにも不器用でちぐはぐな行動は、大人に囲まれ過ぎていたからかもしれない。
一つ言えば察して行動する職員たちだけの会話では、経験値を積むにはふさわしくなかったのだろう。
少し遅いような気もするが、私はホークスの情緒を育てる方向に動くことにした。
まだ公けに外に出さない方が良いとされてきた彼を、いきなり外に連れ出すのは難しいだろう。まずは公舎から、一歩ずつだ。
企画書は徹夜で仕上げ、目良さんに叩きつけた。この子はあまりにも人間を知らなさすぎると言えば、そうですよねぇと力のない返事と大きなため息が返ってきたあたり、この問題に関しては上も手を焼いていたのだろう。
公安だけで仕事をする分には問題ないが、ヒーローとして事務所を構えて活動していくには危う過ぎる。一本でも糸を掛け違えたなら、この子の心が壊れてしまうような気さえした。それくらい、精神面が幼い。
幼いと言うとこの生意気坊主がそんなことないと言う職員が大半だろう。私の第一印象も、圧の強さから自信ある不遜な子だと思ったくらいだ。
けれど近くに居れば嫌と言うほど感じることになる。
こればかりは、私よりも目良さんの方が詳しいはずだ。だから突貫の企画書は二つ返事で受理されたのだった。
「ホークスの好きな食べ物は?」
「飛行のために無駄なウエイトは増やせないんで、量を食べずともカロリーが摂れる物がいいですね。羊羹とか携行品にいいと思います」
共に食事をすることも増えた。どうも栄養価と咀嚼のしやすさで食事を選ぶ傾向のあるホークスは、食事に対しても良く言えばストイックで、悪く言えば無関心だった。
娯楽のためのデザートには手を出さないし、好物と言うよりはカロリーと栄養素を計算した上で食べる物を決めている。
「じゃあ食べたい物は?」
そう聞けば随分と考える仕草を見せた。
「焼き鳥、とかかな。たまに食べたくなります」
「ならプロフィールには好物は焼き鳥って書くといいよ。食堂にリクエストしてみたらどう?」
「そこまでするもんでもなかです」
ホークスは腹が減ったと食事を求めても、あれが食べたいとメニューに希望を求めたことはなかった。全てが合理的だった。
自分のために己を律することは出来ても、自分のために何かを願うことが出来ないのだ。
それは決して食事だけの話ではない。
洋服を選ぶ時も、ヒーローとしてのホークスがどう見られるかを分析して選んでいる。緊急時の動きやすさ、背の羽根が映える配色、自らの好みは二の次で自己をプロデュースしていく。軽い靴、それでいて踏み込みやすく柔らかい物を求めた。
そこに自分の好みは入っていないだろう。そもそも、ホークスに好みがあるのかどうかも職員たちは理解していなかった。
何においても、ホークスが自分から何かを欲しがったことはなかった。必要最低限の身軽さを求める少年に、ぞっとする。
どうやら情操教育の一環として、世話役に昇進したらしい。
世話役って何だ、と思わなくもないが、普段の事務仕事にホークスとの会話がプラスされたと考えて欲しい、と目の下に大きなクマを作った目良さんが溜息を吐いていた。その疲れは察するに余りある。
元々関わる人間は増える予定で、これからはホークス事務所の人員も査定していく必要がある。つまり身近だが新しい人間で一旦実験しておこう、と言う流れだ。
ここまで来れば拒否権などないようなものなので、事務室で無言の作業を続けるよりは有意義だろう、と思い込むことにした。百パーセントとは言えないが十パーセントでも事情を知っている人間であれば、上としては扱いやすい。
それに今は戦闘訓練もなく、基本的にはトレーニングと事務所経営におけるイロハを叩き込む時間の方が多いと聞く。トレーニングは専属のトレーナーがカリキュラムを組んでいるし、デスクワークのイロハなら多少は教えることが出来る。
「今日からよろしくね、ホークス」
「こちらこそよろしくお願いします」
朝の挨拶、自然な会話の始め方。途切れた会話に対する続きの話題として適切な物は何か。或いは会話の終わらせ方について。学ぶと言うよりは日常のひとコマとして身に沁みさせると言った方が正しいだろう。
ホークスは適度な距離感で接してくれたし、会話の内容が物足りないと思った時はこちらから話題を提供したりもした。これから事務所を設立するにあたって、ある程度近しい人間にはそれなりの距離感で接した方が良いからだ。
踏み込んで良いボーダーラインは人それぞれだが、踏み込んで欲しくない境界線への気付きは多い方が良いだろう。
他愛ない会話、と言うのは意識してしまうと難しいものだ。
軽薄そうな仕草から多少土足で踏み入ったところで大きな問題にはならないとは言え、日常会話はお互いへの甘えや信頼がないと成り立たない部分も多い。
例えば、職員の一人が出張の土産に買ってきたお菓子を、ホークスは要らないと言って受け取らなかった。箱を開けてご自由にどうぞと置かれた物ではなく、直接手渡された物だ。
「そういう時は、ありがとうって受け取っておけばいいんだよ」
「でも俺、別にこのスナック菓子好きじゃないです」
「貰ってから食べるか食べないかを決めるのはホークスだよ。でも
ホークスに渡したいって言う相手の好意は否定しちゃいけない」
これがファンから求められた行為ならどうする、と言葉を続ければプレゼントは事務所宛に送るべきだと返された。それが当然の反応であると言わんばかりの態度でこちらをまっすぐ見つめている。何がおかしいのか全く見当もついていない様子だった。
少し難しい問題だが、言いたいのはそう言うことではない。
「勿論ファンは全員が信用出来る訳じゃないからね、それは正しいと思うよ。じゃあお土産を持ってきたのが自分のサイドキックならどうするの」
「関係構築のためにも一度受け取るべき、ってことですか」
「そう言うこと。ホークスは職員に甘えてるし、嫌われても問題ないと思ってる。けれどここを出ればそうはいかないの。ヒビの入った関係を修復するのは、思っているより難しいんだよ。人間って理屈で出来てないんだ」
ホークスと過ごすようになってから、気付いたことがある。
彼は感情表現が得意ではないし、他人と接することに慣れていない。一度会うだけのような他人相手なら上手く会話を構築することが出来るだけのスキルはあるだろう。けれど多少近い人間となると、からっきしだった。
どうも距離感、と言う物を図りかねているように思う。
甘えているようでいて、拒絶しているようにも見えた。あまりにも不器用でちぐはぐな行動は、大人に囲まれ過ぎていたからかもしれない。
一つ言えば察して行動する職員たちだけの会話では、経験値を積むにはふさわしくなかったのだろう。
少し遅いような気もするが、私はホークスの情緒を育てる方向に動くことにした。
まだ公けに外に出さない方が良いとされてきた彼を、いきなり外に連れ出すのは難しいだろう。まずは公舎から、一歩ずつだ。
企画書は徹夜で仕上げ、目良さんに叩きつけた。この子はあまりにも人間を知らなさすぎると言えば、そうですよねぇと力のない返事と大きなため息が返ってきたあたり、この問題に関しては上も手を焼いていたのだろう。
公安だけで仕事をする分には問題ないが、ヒーローとして事務所を構えて活動していくには危う過ぎる。一本でも糸を掛け違えたなら、この子の心が壊れてしまうような気さえした。それくらい、精神面が幼い。
幼いと言うとこの生意気坊主がそんなことないと言う職員が大半だろう。私の第一印象も、圧の強さから自信ある不遜な子だと思ったくらいだ。
けれど近くに居れば嫌と言うほど感じることになる。
こればかりは、私よりも目良さんの方が詳しいはずだ。だから突貫の企画書は二つ返事で受理されたのだった。
「ホークスの好きな食べ物は?」
「飛行のために無駄なウエイトは増やせないんで、量を食べずともカロリーが摂れる物がいいですね。羊羹とか携行品にいいと思います」
共に食事をすることも増えた。どうも栄養価と咀嚼のしやすさで食事を選ぶ傾向のあるホークスは、食事に対しても良く言えばストイックで、悪く言えば無関心だった。
娯楽のためのデザートには手を出さないし、好物と言うよりはカロリーと栄養素を計算した上で食べる物を決めている。
「じゃあ食べたい物は?」
そう聞けば随分と考える仕草を見せた。
「焼き鳥、とかかな。たまに食べたくなります」
「ならプロフィールには好物は焼き鳥って書くといいよ。食堂にリクエストしてみたらどう?」
「そこまでするもんでもなかです」
ホークスは腹が減ったと食事を求めても、あれが食べたいとメニューに希望を求めたことはなかった。全てが合理的だった。
自分のために己を律することは出来ても、自分のために何かを願うことが出来ないのだ。
それは決して食事だけの話ではない。
洋服を選ぶ時も、ヒーローとしてのホークスがどう見られるかを分析して選んでいる。緊急時の動きやすさ、背の羽根が映える配色、自らの好みは二の次で自己をプロデュースしていく。軽い靴、それでいて踏み込みやすく柔らかい物を求めた。
そこに自分の好みは入っていないだろう。そもそも、ホークスに好みがあるのかどうかも職員たちは理解していなかった。
何においても、ホークスが自分から何かを欲しがったことはなかった。必要最低限の身軽さを求める少年に、ぞっとする。
