もくまおう【ホークス】
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私がホークスと初めて対面したのは、彼が十七歳になった頃だった。
十七歳の若さで個人事務所を立ち上げる準備をすると言う。そんな馬鹿げた話を実現してしまうだけの実力はあったが、事務所の設立とは一日で出来る物ではない。
消防法に則った事務所の図面提出から始まって、数々の書類が必要になる。デスクワークまでは仕込まれていなかったのか、随分と苦戦している彼のサポートとして間接的に少しだけ関わることになった。
私は公安所属とは言えまだ若手に分類される末端で、単に書類作業をしているだけの人間だ。大層な功績もなければ、特段目立った個性もない。
毎日のデータを入力して、チェックしては誤字脱字を修正する。時に使い走りで書類を持って出かけたりする、そういう小間使いのような立場だった。
だから公安に勤め始めてからもプロジェクトに深く関わっておらず、中枢たる公安所属ヒーローのたまごに会うことはなかったのだ。
たまたま必要な書類が足りなかったから、不足分を求めてやってきた部屋に、彼がいた。
「……ホークス」
「はい、ホークスです。あなたは?」
やけに人馴れした笑顔を浮かべるくせに、瞳の奥が笑っていない。第一印象はそんなところだった。
データでは知っているし、写真も映像も見たことがある。けれど実物は特殊な容姿も相まってひどく美しく、思わず一歩後ずさってしまった。
窓から入る自然光に透けた真っ赤な羽根はステンドグラスのように薄い光のカーテンを作り、彼の顔に影を作っていた。
「あぁ、分かりました。いつも書類をチェックしてくれる人ですね」
ありがとうございます、と軽く頭を下げる彼に圧倒されて言葉が出てこない。
笑顔よりも纏う雰囲気が硬質で、とてもじゃないが愛想が良いとは言い難かった。何とか手に持った書類を差し出して用件を告げる。
「書類不備で、目良さんは……席を外されているみたいですね」
室内にはホークスひとりだけだった。ここは彼の部屋ではなく、彼も目良さんに用事があったのだろう。運悪くお互い目当ての人に会えなかったと言う訳か。
溜息を吐くのも憚られるような雰囲気の中、話したい相手がいないのであれば時間を改めるべきだろう。
また来るしかないか、と軽く会釈をして退室しようとした時だった。
「怖いですか」
ぽつり、とホークスがつぶやく。
この部屋には私たちしかいないので、私に対して話しかけたのだろう。
「正直に言えば、圧はあるなと。私の緊張かもしれませんが」
私にとってホークスは特別な人間だった。どのような感情で表せばいいのかは分からないけれど、言うならば雲の上の人間だ。
私なんて下々の民であって、おいそれと気軽に話しかけられるような相手ではない、と言う認識だった。実際今まで遠目に見たことはあっても、直接話したことはなかった。
「んんんん、じゃあまず身近な人間で試さんといけんね」
顎に手を置いて考える仕草を見せる。
「目良さんが戻るまで、少し構ってくださいよ。誰とでも自然に話せるようにならないと、ヒーローなんてやってられませんから」
「……はい?」
ホークス曰く、それなりに繕えるようになったつもりではいるが、まだ表情と感情の調整が上手く行かないらしい。
情操教育関連のデータでは、確かに他人の感情の機微には聡いが、自らの表現と言うと社会に出るにはまだ少し不安が残ると記されていた。
とは言えまだ十代の少年だ。多少無礼なことがあっても、許されると思う。
「敬語はいらんです、職員さんってことは俺より年上でしょう」
「確かに年上ですけど」
「はい、敬語禁止。ちなみに俺はこのキャラで通すんで敬語です」
キャラと来たか。つまり生意気な若造を演じてみせると言うのだろう。
選んだ仮面がそれであるのならば、多少は圧があっても構わない気はするが、のらりくらりと他者を躱してやっていくには、確かにもう少し柔らかい方が世渡りはしやすいはずだ。
棘は時には必要なものだが、愛でられる時には不要な物だ。
「何それ、ずるい」
「その調子、まずは仲良くね。飯でも食いに行きます? 食堂ですけど」
「その前に足りない書類が欲しい、かな」
「あはは! いいですね、その感じ。嫌いじゃないです。じゃあまずは書類をやっつけましょう」
そうして、私とホークスの奇妙な関係が始まった。
十七歳の若さで個人事務所を立ち上げる準備をすると言う。そんな馬鹿げた話を実現してしまうだけの実力はあったが、事務所の設立とは一日で出来る物ではない。
消防法に則った事務所の図面提出から始まって、数々の書類が必要になる。デスクワークまでは仕込まれていなかったのか、随分と苦戦している彼のサポートとして間接的に少しだけ関わることになった。
私は公安所属とは言えまだ若手に分類される末端で、単に書類作業をしているだけの人間だ。大層な功績もなければ、特段目立った個性もない。
毎日のデータを入力して、チェックしては誤字脱字を修正する。時に使い走りで書類を持って出かけたりする、そういう小間使いのような立場だった。
だから公安に勤め始めてからもプロジェクトに深く関わっておらず、中枢たる公安所属ヒーローのたまごに会うことはなかったのだ。
たまたま必要な書類が足りなかったから、不足分を求めてやってきた部屋に、彼がいた。
「……ホークス」
「はい、ホークスです。あなたは?」
やけに人馴れした笑顔を浮かべるくせに、瞳の奥が笑っていない。第一印象はそんなところだった。
データでは知っているし、写真も映像も見たことがある。けれど実物は特殊な容姿も相まってひどく美しく、思わず一歩後ずさってしまった。
窓から入る自然光に透けた真っ赤な羽根はステンドグラスのように薄い光のカーテンを作り、彼の顔に影を作っていた。
「あぁ、分かりました。いつも書類をチェックしてくれる人ですね」
ありがとうございます、と軽く頭を下げる彼に圧倒されて言葉が出てこない。
笑顔よりも纏う雰囲気が硬質で、とてもじゃないが愛想が良いとは言い難かった。何とか手に持った書類を差し出して用件を告げる。
「書類不備で、目良さんは……席を外されているみたいですね」
室内にはホークスひとりだけだった。ここは彼の部屋ではなく、彼も目良さんに用事があったのだろう。運悪くお互い目当ての人に会えなかったと言う訳か。
溜息を吐くのも憚られるような雰囲気の中、話したい相手がいないのであれば時間を改めるべきだろう。
また来るしかないか、と軽く会釈をして退室しようとした時だった。
「怖いですか」
ぽつり、とホークスがつぶやく。
この部屋には私たちしかいないので、私に対して話しかけたのだろう。
「正直に言えば、圧はあるなと。私の緊張かもしれませんが」
私にとってホークスは特別な人間だった。どのような感情で表せばいいのかは分からないけれど、言うならば雲の上の人間だ。
私なんて下々の民であって、おいそれと気軽に話しかけられるような相手ではない、と言う認識だった。実際今まで遠目に見たことはあっても、直接話したことはなかった。
「んんんん、じゃあまず身近な人間で試さんといけんね」
顎に手を置いて考える仕草を見せる。
「目良さんが戻るまで、少し構ってくださいよ。誰とでも自然に話せるようにならないと、ヒーローなんてやってられませんから」
「……はい?」
ホークス曰く、それなりに繕えるようになったつもりではいるが、まだ表情と感情の調整が上手く行かないらしい。
情操教育関連のデータでは、確かに他人の感情の機微には聡いが、自らの表現と言うと社会に出るにはまだ少し不安が残ると記されていた。
とは言えまだ十代の少年だ。多少無礼なことがあっても、許されると思う。
「敬語はいらんです、職員さんってことは俺より年上でしょう」
「確かに年上ですけど」
「はい、敬語禁止。ちなみに俺はこのキャラで通すんで敬語です」
キャラと来たか。つまり生意気な若造を演じてみせると言うのだろう。
選んだ仮面がそれであるのならば、多少は圧があっても構わない気はするが、のらりくらりと他者を躱してやっていくには、確かにもう少し柔らかい方が世渡りはしやすいはずだ。
棘は時には必要なものだが、愛でられる時には不要な物だ。
「何それ、ずるい」
「その調子、まずは仲良くね。飯でも食いに行きます? 食堂ですけど」
「その前に足りない書類が欲しい、かな」
「あはは! いいですね、その感じ。嫌いじゃないです。じゃあまずは書類をやっつけましょう」
そうして、私とホークスの奇妙な関係が始まった。
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