騎士の妹君と王子さま
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(妹君と夏季休暇)
あっという間に終わったホグワーツ1年目。お父さんとお母さんは仕事で出かけており、テイラー家の屋敷にアイビスとフィオのふたり。夏季休暇の中頃の今日もゆっくり過ごしている。
ブランチを済ませたフィオは陽当りの良い窓際ソファに座り読書していた。アイビスが4年時の魔法薬学の教科書に夢中になっていると、向かいに座るアイビスが壁掛けの時計を確認して暖炉の方へ親指を指した。
「今日からあいつ等泊まるから」
長期休暇にアイビスは友人を呼び寄せよく宿泊させる。テイラー家では恒例だった。フィオも大勢で過ごせるので楽しみにしている。
「はいはい。今回は何人来るの?」
「ナナバ、ジェット、マイク、ディゴリー」
「……だれなの?」
「マイクの推しボーイ」
「分かるように言ってよ」
何時ものメンバーではない名前が聞こえてフィオは教科書から顔を上げた。それと同時に暖炉がある方向から次々と光が届く。
アイビスはにやりと笑い出迎えに立ち上がる。フィオもあとにつづき、壁に肘を付いてカッコつけるアイビスの後ろから顔を出して到着したメンバーを出迎えた。いつもの見慣れた彼らの中に、所在無さげに佇む黒色の髪をした爽やかな彼と目が合った。
「いらっしゃい。テイラー家へようこそ」
人数分の紅茶を淹れてリビングのテーブルにティーカップを並べていると、未だに固い表情でソファに座るディゴリーが気になった。
彼はマイクロトフと同じハッフルパフ寮生でフィオのひとつ上だそうだ。マイクロトフがいるとはいえ、上級生だらけの中にいるので緊張するのは仕方がない。フィオはディゴリーの隣に腰を下ろした。
「大丈夫? まだ緊張してる?」
「うん。紅茶、ありがとう…」
「見ての通りアビや皆に遠慮しなくていいから。自分の家だと思って寛いでね。それより貴方が参加した経緯が気になるわ」
「マイクロトフに誘われたんだ。君がいるのには驚いたけどね。まさかテイラー先輩と兄妹だったなんて」
「わたし? どこかで会ったかしら」
「よく図書館にいるよね。それに君は有名だよ」
「そうそう。かの鷲寮の騎士の妹君は忘れ物の名人だからね」
肩越しにフィオの髪を指に絡めながらナナバが身を乗り出してきた。
不本意な呼び名にフィオの整った眉尻がぴくりとする。
「たまには忘れものくらいするもん」
「そうだっけ? いつもアビと一緒に探しに行ってるよー」
「僕のときは羽根ペンだったよね」
「まあ、ふたりともいじわるね」
フィオが分かりやすく頬を膨らませて見せれば、ナナバとディゴリーが揃って軽い笑い声を出した。彼もようやく肩の力が抜けたようだった。
お父さん達が帰宅後、皆で夕ご飯を食べた。初めて対面するディゴリーの礼儀正しさに、お父さんは感心して頻りに頷いていた。他のメンバーは慣れ親しみ過ぎてすっかり悪ガキ扱いなので、お父さんにとってディゴリーは新鮮だったのだろう。
お母さんは相変わらずふわりと微笑み受け入れていた。いつもより賑やかな大人数の食卓に嬉しそうだった。
「彼はフィオちゃんのボーイフレンドだと思ったわ」
食事後、男性陣はリビングでチェスや雑談をしている一方で、フィオとお母さんは片付けをしていた。並んで食器を拭いてると話題に上がるのはディゴリーについてだった。
お母さんの可愛い予想にフィオは少し照れながら否定する。
「マイクのお誘いなんだって」
「家に遊びに来るお兄さんは多いけど、歳が近い男の子ははじめてじゃない。フィオちゃんはどう思ったの?」
確かにアイビスが呼ぶメンバーは歳上なのでお兄さんのように慕っている。みんなもフィオを妹同様に気にかけてくれている。
ホグワーツではアイビスと共に行動することが多かったからか、同級生より上級生たちと話す方が多かった気がする。なのでフィオにとって歳の近い男の子と接するのは珍しいことになる。
「仲良くなりたいよ」
フィオの言葉にお母さんは優しい笑みをさらに深めた。おそらく2人の仲良しは少し違う意味だったかもしれない。
フィオは片付けをしながら、話が盛り上がっているリビングの方を振り返る。恋はまだよくわからないし想像もつかないけれど、ディゴリーのはっきりとした灰色の瞳がはじめて見たときから目が離せないことが、フィオにとってとても不思議だった。
ディゴリーはシャワー室から客室に戻る途中、廊下の奥にある扉が少し開いているのに気づいた。微かな明かりも見えるので誰かいるのだろうか。
近づいて扉の隙間から覗えば、寝間着のフィオが部屋の中央に座って天井を見上げていた。扉を静かにノックすればフィオがゆっくりとこちらを向いた。
「ディゴリー、どうしたの?」
「扉が空いてたから気になったんだ。邪魔したかな?」
「良いのよ、どうぞ入ってきて」
部屋に入って最初に目がついたのは壁いっぱいに立ち並ぶ本棚だった。部屋の形は六角形でその全方位に本棚が配置されており隙間なく本が埋まっている。そのうち2か所風を取り込むはめ込み窓があり、遮光カーテンの裾野から微かに月明かりが差し込んでいた。
フィオは床に転がるクッションを中央にかき集め座ると、自分の隣をぽんぽんと叩いた。ディゴリーは誘われるがままフィオの隣に腰を下ろす。
そして次にフィオは上を見るよう指をさすので上を見上げれば、そこには満天の星空があった。廊下から見えた微かな明かりはこの星たちの輝きらしい。
「すごい…」
「ここはわたしのお気に入りの部屋。お父さんが魔法で天井を飾ってくれたのよ」
「フィオは星が好きなの?」
「大好き。綺麗だもの。だから寮の談話室にも星空があって、とても嬉しかったのを覚えてる」
「レイブンクロー寮には星空があるの?」
「あら、秘密だったかしら。いま聞いたことは忘れてね」
「ふふ、内緒にするから心配しないで。素敵な談話室で良かったね」
ふたりはくすくすと顔を突き合わせて笑った。ひとつの秘密を共有したからか、フィオとディゴリーは少し仲良くなった感じだ。
ふとディゴリーはフィオと至近距離なのに気づき、どきりと胸が鳴った。レンズに隠されたアンバー色の瞳は、優しい夜空に浮かぶ温かい月のようだった。フィオは固まったディゴリーの視線に首を傾げた。
「なに?」
「…僕のことも、名前で読んでくれると嬉しい」
「いいの?」
同じファミリーネームのアイビスがいるので自分のことは名前で呼んでほしいと言ったのは夕食前のティータイムだった。他の皆はもちろん名前呼びだし、ディゴリーだけ呼ばないのも変な気がする。
フィオはひとつ頷いてふわりと目を細めた。
「セドリック」
「なにかな?」
「呼んだだけよ」
名前を呼んだだけなのになんだか温かくて、またふたりはどちらとともなくくすくすと笑った。
「セドリックはだいぶリラックスできてるわね。良かった」
「実はクィディッチ選考に落ちて落ち込んでいたんだ。大好きなクィディッチなのに試合も見たくなくなって。来年の選考の話をマイクロトフと話しているときにテイラー先輩の家に誘われたんだよ」
「兄さんはよく同級を誘って箒に乗るから。来年の選考はまたチャレンジするんでしょ」
「そうしたいんだけど、迷ってるんだ。…少し自信がなくてね」
「そんな時もあるわよね…そうよ。明日一緒に箒に乗りましょ。兄さん達も飛ぶだろうし、きっと楽しいわ」
「君も乗れるの?」
「兄さんに鍛えられたから得意よ。だからいっぱい楽しんだら、またクィディッチを大好きになるわ」
「うん。そうなると良いなぁ…」
「なれるわ。だってセドリックの瞳はまだ好きだって言ってるもの」
「そんなことも分かるフィオは素敵な魔女さんだね」
「まあ、当たってるでしょ?」
フィオ
コンコン、と扉を叩く音がした。
「…楽しそうだが、時間だ…」
あっという間に終わったホグワーツ1年目。お父さんとお母さんは仕事で出かけており、テイラー家の屋敷にアイビスとフィオのふたり。夏季休暇の中頃の今日もゆっくり過ごしている。
ブランチを済ませたフィオは陽当りの良い窓際ソファに座り読書していた。アイビスが4年時の魔法薬学の教科書に夢中になっていると、向かいに座るアイビスが壁掛けの時計を確認して暖炉の方へ親指を指した。
「今日からあいつ等泊まるから」
長期休暇にアイビスは友人を呼び寄せよく宿泊させる。テイラー家では恒例だった。フィオも大勢で過ごせるので楽しみにしている。
「はいはい。今回は何人来るの?」
「ナナバ、ジェット、マイク、ディゴリー」
「……だれなの?」
「マイクの推しボーイ」
「分かるように言ってよ」
何時ものメンバーではない名前が聞こえてフィオは教科書から顔を上げた。それと同時に暖炉がある方向から次々と光が届く。
アイビスはにやりと笑い出迎えに立ち上がる。フィオもあとにつづき、壁に肘を付いてカッコつけるアイビスの後ろから顔を出して到着したメンバーを出迎えた。いつもの見慣れた彼らの中に、所在無さげに佇む黒色の髪をした爽やかな彼と目が合った。
「いらっしゃい。テイラー家へようこそ」
人数分の紅茶を淹れてリビングのテーブルにティーカップを並べていると、未だに固い表情でソファに座るディゴリーが気になった。
彼はマイクロトフと同じハッフルパフ寮生でフィオのひとつ上だそうだ。マイクロトフがいるとはいえ、上級生だらけの中にいるので緊張するのは仕方がない。フィオはディゴリーの隣に腰を下ろした。
「大丈夫? まだ緊張してる?」
「うん。紅茶、ありがとう…」
「見ての通りアビや皆に遠慮しなくていいから。自分の家だと思って寛いでね。それより貴方が参加した経緯が気になるわ」
「マイクロトフに誘われたんだ。君がいるのには驚いたけどね。まさかテイラー先輩と兄妹だったなんて」
「わたし? どこかで会ったかしら」
「よく図書館にいるよね。それに君は有名だよ」
「そうそう。かの鷲寮の騎士の妹君は忘れ物の名人だからね」
肩越しにフィオの髪を指に絡めながらナナバが身を乗り出してきた。
不本意な呼び名にフィオの整った眉尻がぴくりとする。
「たまには忘れものくらいするもん」
「そうだっけ? いつもアビと一緒に探しに行ってるよー」
「僕のときは羽根ペンだったよね」
「まあ、ふたりともいじわるね」
フィオが分かりやすく頬を膨らませて見せれば、ナナバとディゴリーが揃って軽い笑い声を出した。彼もようやく肩の力が抜けたようだった。
お父さん達が帰宅後、皆で夕ご飯を食べた。初めて対面するディゴリーの礼儀正しさに、お父さんは感心して頻りに頷いていた。他のメンバーは慣れ親しみ過ぎてすっかり悪ガキ扱いなので、お父さんにとってディゴリーは新鮮だったのだろう。
お母さんは相変わらずふわりと微笑み受け入れていた。いつもより賑やかな大人数の食卓に嬉しそうだった。
「彼はフィオちゃんのボーイフレンドだと思ったわ」
食事後、男性陣はリビングでチェスや雑談をしている一方で、フィオとお母さんは片付けをしていた。並んで食器を拭いてると話題に上がるのはディゴリーについてだった。
お母さんの可愛い予想にフィオは少し照れながら否定する。
「マイクのお誘いなんだって」
「家に遊びに来るお兄さんは多いけど、歳が近い男の子ははじめてじゃない。フィオちゃんはどう思ったの?」
確かにアイビスが呼ぶメンバーは歳上なのでお兄さんのように慕っている。みんなもフィオを妹同様に気にかけてくれている。
ホグワーツではアイビスと共に行動することが多かったからか、同級生より上級生たちと話す方が多かった気がする。なのでフィオにとって歳の近い男の子と接するのは珍しいことになる。
「仲良くなりたいよ」
フィオの言葉にお母さんは優しい笑みをさらに深めた。おそらく2人の仲良しは少し違う意味だったかもしれない。
フィオは片付けをしながら、話が盛り上がっているリビングの方を振り返る。恋はまだよくわからないし想像もつかないけれど、ディゴリーのはっきりとした灰色の瞳がはじめて見たときから目が離せないことが、フィオにとってとても不思議だった。
ディゴリーはシャワー室から客室に戻る途中、廊下の奥にある扉が少し開いているのに気づいた。微かな明かりも見えるので誰かいるのだろうか。
近づいて扉の隙間から覗えば、寝間着のフィオが部屋の中央に座って天井を見上げていた。扉を静かにノックすればフィオがゆっくりとこちらを向いた。
「ディゴリー、どうしたの?」
「扉が空いてたから気になったんだ。邪魔したかな?」
「良いのよ、どうぞ入ってきて」
部屋に入って最初に目がついたのは壁いっぱいに立ち並ぶ本棚だった。部屋の形は六角形でその全方位に本棚が配置されており隙間なく本が埋まっている。そのうち2か所風を取り込むはめ込み窓があり、遮光カーテンの裾野から微かに月明かりが差し込んでいた。
フィオは床に転がるクッションを中央にかき集め座ると、自分の隣をぽんぽんと叩いた。ディゴリーは誘われるがままフィオの隣に腰を下ろす。
そして次にフィオは上を見るよう指をさすので上を見上げれば、そこには満天の星空があった。廊下から見えた微かな明かりはこの星たちの輝きらしい。
「すごい…」
「ここはわたしのお気に入りの部屋。お父さんが魔法で天井を飾ってくれたのよ」
「フィオは星が好きなの?」
「大好き。綺麗だもの。だから寮の談話室にも星空があって、とても嬉しかったのを覚えてる」
「レイブンクロー寮には星空があるの?」
「あら、秘密だったかしら。いま聞いたことは忘れてね」
「ふふ、内緒にするから心配しないで。素敵な談話室で良かったね」
ふたりはくすくすと顔を突き合わせて笑った。ひとつの秘密を共有したからか、フィオとディゴリーは少し仲良くなった感じだ。
ふとディゴリーはフィオと至近距離なのに気づき、どきりと胸が鳴った。レンズに隠されたアンバー色の瞳は、優しい夜空に浮かぶ温かい月のようだった。フィオは固まったディゴリーの視線に首を傾げた。
「なに?」
「…僕のことも、名前で読んでくれると嬉しい」
「いいの?」
同じファミリーネームのアイビスがいるので自分のことは名前で呼んでほしいと言ったのは夕食前のティータイムだった。他の皆はもちろん名前呼びだし、ディゴリーだけ呼ばないのも変な気がする。
フィオはひとつ頷いてふわりと目を細めた。
「セドリック」
「なにかな?」
「呼んだだけよ」
名前を呼んだだけなのになんだか温かくて、またふたりはどちらとともなくくすくすと笑った。
「セドリックはだいぶリラックスできてるわね。良かった」
「実はクィディッチ選考に落ちて落ち込んでいたんだ。大好きなクィディッチなのに試合も見たくなくなって。来年の選考の話をマイクロトフと話しているときにテイラー先輩の家に誘われたんだよ」
「兄さんはよく同級を誘って箒に乗るから。来年の選考はまたチャレンジするんでしょ」
「そうしたいんだけど、迷ってるんだ。…少し自信がなくてね」
「そんな時もあるわよね…そうよ。明日一緒に箒に乗りましょ。兄さん達も飛ぶだろうし、きっと楽しいわ」
「君も乗れるの?」
「兄さんに鍛えられたから得意よ。だからいっぱい楽しんだら、またクィディッチを大好きになるわ」
「うん。そうなると良いなぁ…」
「なれるわ。だってセドリックの瞳はまだ好きだって言ってるもの」
「そんなことも分かるフィオは素敵な魔女さんだね」
「まあ、当たってるでしょ?」
フィオ
コンコン、と扉を叩く音がした。
「…楽しそうだが、時間だ…」
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