黎明期
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(通さない彼女)
シュイは戦闘員として16番隊の2班に所属している。異質な覇気を持っている為長いことイゾウ隊長監修の特訓を受けていたが、先日ようやく及第点を貰えたところである。
様々なタイプの戦闘員がいる中、シュイは自分の武器に悩んでいた。16番隊の得意とする拳銃は常備するが、扱いになかなか慣れないでいる。一先ず兄と同じ槍をメイン武器と想定し、中距離型の戦い方を習っていた。
そんな中シュイはある出来事がきっかけで武器を見つけることになる。
あの日は連日敵襲が続いて負傷者を多く抱えてた上に、パドルでのトラブル続きで隊長の三分の一が遠征で不在だった。イゾウ隊長も2週間前から遠征中であった。
昼間の敵襲に参加したばかりのシュイは早々に部屋で休んでいた。夜は嵐になると予報された空は陽が沈む前から荒れ始めたため、何時もの勝利祝いの宴は行われず、別の日へお預けとなった。
雨が窓を叩く音がするなか眠っていたシュイはふと違和感を感じて耳を澄ませば、前方側の廊下で人の行き来する気配がする。またしても敵襲があったようだ。本日2回目である。
本来なら隊ごとに4交代制で参戦するのが決まりだが、今は不在者負傷者ともに多いので、手が空いていたり余力のある隊員はもれなく参戦するよう言われている。
シュイ自身休息はまだ不十分であるが、人員不足なのでわがままは言ってられない。上体を起こしてベッドから足を下ろした瞬間、何故か背筋がピリついた。連戦続きで気が立っているのかと思えば、どうも様子が可笑しい。
奇襲を受けた前方で戦闘が繰り広げられてるはずなのに、シュイ達がいる後方へ嫌な気配を感じた。悪天候と暗闇に乗じて侵入するつもりなのだろうか。
モビーは広いので船内入り口が四方にある。何時もなら待機組が見張るのだが、人員不足で一部対応が間に合っていなかったようだ。
シュイは向かいのベッドで眠るナースのアンナを起こす。彼女だって連日多忙な看病で疲れているのに、起こすのは心が痛む。目を開けたアンナは不思議そうにシュイを見上げた。
「どうしたの、シュイ?」
「裏口から潜入されたみたい。鍵掛けて絶対に部屋から出ないで」
部屋に備えた護身銃を渡して伝えれば、アンナは震えながらもしっかり頷いてくれた。時間がないのでシュイは寝間着を着替えもせず廊下に出た。そして女性専用フロアで起きてる気配のある、一番近い部屋をノックして状況を簡潔に伝えることにした。
起きていたのは3番隊のライラック。彼女は一昨日の戦闘で利き腕を負傷したため、現在は参戦外である。ライラックに他の女部屋への伝言と護衛を任せて、シュイは嫌な気配がする後方入り口部へ足早に向かった。
昼間の戦闘で槍が折れたので、途中あった武器庫から新たに拝借する。けれど急いで手に取ったのが槍ではなく薙刀だと気づいたのは、潜入した敵方と対面した時だった。少し軽いと思ったら刃先が反っている。槍と近くに設置されてるから取り間違えたみたいだ。
後方の異変に気づいて駆けつけられたのは、シュイひとり。おまけに普段訓練に使わない武器しかない。
シュイはなんとかするしかないと腹を括った。ここを通したら非戦闘員の多いフロアがある。もし侵入を防げなければ、被害が計り知れないのだから。誰かが気付いて増援されるまで、耐えなければ。いまは自分ひとりなのだ。
敵に配慮は一切不要。雑念を捨て、集中しなければならない。
「ここから先は、通しません」
女ひとりで歯向かう姿は、相手にさぞ滑稽に見えたのだろう。下品な笑いを隠さず先頭の1人がゆるりと前へ出た。
シュイは慎重に相手の出方を見つめていた。そして相手の歩が間合いに入った瞬間、一気に薙刀を突いた。
薙刀の先は相手の喉を貫通していた。相手は目を見開いて視線を下に向けるも、シュイが横に薙ぎ払えば首を裂かれながら引きづられて壁に打ち付けられ絶命した。ぴちゃりと返り血が顔にあたっても、視線はなお侵入者に向けられたまま。
シュイが構え直すのと仲間がやられたと理解したのは同時だった。
「てめっ、よくもやってくれたなァ!?」
廊下はそこまで広くないのに団子で向かってくる複数の相手に、シュイは身を低くして踏み込んだ。
まず前方のやつらの足の腱を裂き目を潰して動きを乱しつつ、勢いそのままに後方の喉元を深く切りつけていく。柄を回して遠心力で吹き飛ばして間合いを取り、態勢を崩した前方側の首元を突き立てて抉っていく。
息絶えた身体を足で蹴散らして足場を確保しながら、まだ息がある後方の一部にとどめを刺すのを忘れない。深く刺さりすぎて抜きにくい薙刀を、沈んだ身体に足で踏んで抜きながら、いまだ侵入が続く入り口を睨みつける。
あとから入った敵はシュイの足元に転がる元クルーの無残な姿に、足を前へ進められないでいた。嵐のなか揺れる船内にも関わらず、無駄なく殺戮する姿は敵ながら恐怖を感じた。
シュイは自然と上がる殺気で血が滾っていくのを深呼吸でなんとか沈めていた。相手の息の根を確実に止める戦い方なぞ、したことがない。まだ習得したての覇気は思ったより体力を持っていかれた。それでも取りこぼしがないよう、容赦なく覇気を解放していく。
相手が足を進めないのなら、こちらから向かおう。シュイは戦意が下がっただろう敵も後退する様子がみられないので、残りも排除対象とみなし薙刀を振るった。
あれから何人切り捨てだろうか。体力がつきかけて廊下が血の海になりはじめた頃、侵入した最後の1人の喉を薙刀で突き上げる。
「…ば、けも…の、」
ごぼりと血塊を吐きなから言われる台詞。対峙する無表情のシュイは目を細めるだけ。随分昔に言わていたような言葉だったから。
肢体の力が抜けたのを確認し、薙刀を振り落として後方の血の海に投げ飛ばした。目の前にいた侵入者を排除し続け、いまシュイの目の前には扉があるのみ。
ゆっくり開ければ隙間から激しい雨風が吹き込んできて、顔や髪についた血が流されていく。悪天候で視界が悪いなか甲板を見渡せば人影は無く、この入口からの侵入者はもうないようだった。
一先ず終わったようだ。
船内に吹き込む雨風を追うように後ろを振り向けば、数メートルにも渡って続く死体と血溜まり。それをぼんやり眺めてたシュイはどっと疲労を感じて、ずるずると扉にもたれかかるように崩れた。
そういえば思ったよりこの薙刀は使いやすかったなぁと手元をみれば、止まない雨でシュイについてた返り血が流されて、甲板に新たな血溜まりを作っていた。
シュイはすごく汚いと思った。綺麗なモビーの甲板が汚れてしまう。薙刀を振るってしびれる両手をなんとか動かして、血溜まりを消したいのにどんどん血の赤は濃くなっていく。
どうしてなの?とぼんやり思えば、どんどん重く感じる身体。ついた腕では支えきれなくなり、頭から甲板へ倒れていった。
しかし何時までも痛みは来なかった。代わりに懐かしい香りと温かさに包まれいた。
「シュイ!!」
遠のく意識のなか顔に雨が当たらなくなって不思議に思いうっすら瞼を開けたら、2週間振りに見る顔があった。
「イゾウ、たいちょ…」
「遅くなっちまって悪かった。後ろは追い払ったから、もう心配いらねェ」
雨に濡れていても様になっていて素敵だなぁと目を細めれば、心配そうなイゾウの眉間にしわが寄る。雑念に気づかれそうでゆるりと視線をズラせば、自隊の副隊長とキングデュー隊長も眉を下げて心配そうにシュイを覗き込んでいる。
ああ、パドル組が帰還したのだ。隊長の言葉通りもう心配はいらないみたい。もう一度イゾウに視線を戻せば、表情は変わらない。
言わなきゃ。この血は私のじゃないですって。
それとモビーを汚してごめんなさいって。
それから、あとは…
色々言うことを考えてるうちにシュイの意識は落ちていった。
「…16番隊はどんな訓練したんだ」
「キングデュー隊長を納得させる言葉を、自分は思い浮かびませんよ」
キングデューの疑問に16番副隊長カイルは肩を竦めて返した。
倒れた彼女の背後に広がる船内の惨劇は、信じがたいものだった。つい先日戦闘員として基礎レベルの訓練を終えたと聞いたばかりなのに、たったひとりで異変に気づき駆けつけ敵の侵入を食い止めたのだ。
監視対象時期の彼女の細さが記憶にあるため、元々戦闘センスがあったという噂もキングデューは真に受けていなかったが。殺傷能力の低い薙刀でこれだけ的確な戦い方をされては、あの噂は間違いないのだろう。
「一旦ここを任せていいか、キングデュー」
「ああ。早く医務室へ運んでやれ」
「すまねェ。助かるよ」
気を失った彼女を壊れ物のように抱き上げる同僚は、特に表情を変えることなく別の入り口へ足を向けた。
すでにカイルは隊員に指示を出し動いていた。キングデューはイゾウの背を見送ると、自分も控えていた隊員に船内の確認と片付けを指示した。
ぱちりとシュイが目を開ければ、自分の部屋ではないが見慣れた天井が広がっていた。医務室だ。また倒れたのか。
眠る前の記憶をたどっていると、横からふわりと懐かしい香りがする。そちらに頭を傾ければ、いつもの綺麗な笑みを浮かべた隊長がいた。
「おはようさん」
あれ? 隊長がいる。
遠征からいつ戻ったのだろうか。
まだぼんやりするシュイにイゾウの表情もつられて緩くなる。
「お前さんのお陰で敵の侵入を防げたんだ。よくやったよ。お疲れさん」
「ありがとうございます…」
そうだ。後方の入り口から侵入があって、結構無理をして対応したんだった。絶対にここで侵入を止めなきゃ、と気を張った反動で疲労が凄まじかった。そのあと帰船した隊長たちの姿に安心して倒れたのだろう。
「あの、隊長も遠征お疲れさまでした。…おかえりなさい」
純粋に自隊長が帰ってきてくれたのが嬉しくて自然と頬が緩むシュイ。イゾウがふっと笑ってシュイの頭を撫でれば、目を細めて微笑む彼女にイゾウの視線は釘付けである。
あの惨劇を生んだ同一人物とは思えない。
なんて可愛い部下なのだろう。真っ直ぐで鋭い闘志を持ち、白ひげや自分に疑うことなく忠誠を立てる姿勢。隠すことのない武家の気質はかつての己と似ていて好ましい。
ああ、たまらないな。
イゾウは顔を寄せてシュイの額に口づけを落とした。何が起こったかすぐ理解できなくてぼんやり額を押さえる彼女に目を細めれば、見たことないほど頬を染めるシュイ。
本当に、たまらない。
イゾウはシュイから身体を離し、もう一度彼女の頭をひと撫でしてから立ち上がった。
「もう少し休みな」
シュイは布団で顔を隠しながら、はいと返事をするのが精一杯だった。
後日、イゾウ直々に発注された薙刀は船大工係内で話題になった。長さと柄径に刃先形状、組立て式の構造から重量まで細かい記載があり、さらに軽量で硬度の高い予算度外視の材質指定。
謎の発注に首をかしげながら薙刀を製造した一同だったが、完成品の立会いでイゾウの横に立つ彼女の姿に納得したのは、また別のお話。
こうしてシュイのメイン武器は薙刀となった。シュイ仕様の特注の薙刀は大層使い勝手が良く、薙刀を振るい駆け回る姿は有名になっていった。
シュイは戦闘員として16番隊の2班に所属している。異質な覇気を持っている為長いことイゾウ隊長監修の特訓を受けていたが、先日ようやく及第点を貰えたところである。
様々なタイプの戦闘員がいる中、シュイは自分の武器に悩んでいた。16番隊の得意とする拳銃は常備するが、扱いになかなか慣れないでいる。一先ず兄と同じ槍をメイン武器と想定し、中距離型の戦い方を習っていた。
そんな中シュイはある出来事がきっかけで武器を見つけることになる。
あの日は連日敵襲が続いて負傷者を多く抱えてた上に、パドルでのトラブル続きで隊長の三分の一が遠征で不在だった。イゾウ隊長も2週間前から遠征中であった。
昼間の敵襲に参加したばかりのシュイは早々に部屋で休んでいた。夜は嵐になると予報された空は陽が沈む前から荒れ始めたため、何時もの勝利祝いの宴は行われず、別の日へお預けとなった。
雨が窓を叩く音がするなか眠っていたシュイはふと違和感を感じて耳を澄ませば、前方側の廊下で人の行き来する気配がする。またしても敵襲があったようだ。本日2回目である。
本来なら隊ごとに4交代制で参戦するのが決まりだが、今は不在者負傷者ともに多いので、手が空いていたり余力のある隊員はもれなく参戦するよう言われている。
シュイ自身休息はまだ不十分であるが、人員不足なのでわがままは言ってられない。上体を起こしてベッドから足を下ろした瞬間、何故か背筋がピリついた。連戦続きで気が立っているのかと思えば、どうも様子が可笑しい。
奇襲を受けた前方で戦闘が繰り広げられてるはずなのに、シュイ達がいる後方へ嫌な気配を感じた。悪天候と暗闇に乗じて侵入するつもりなのだろうか。
モビーは広いので船内入り口が四方にある。何時もなら待機組が見張るのだが、人員不足で一部対応が間に合っていなかったようだ。
シュイは向かいのベッドで眠るナースのアンナを起こす。彼女だって連日多忙な看病で疲れているのに、起こすのは心が痛む。目を開けたアンナは不思議そうにシュイを見上げた。
「どうしたの、シュイ?」
「裏口から潜入されたみたい。鍵掛けて絶対に部屋から出ないで」
部屋に備えた護身銃を渡して伝えれば、アンナは震えながらもしっかり頷いてくれた。時間がないのでシュイは寝間着を着替えもせず廊下に出た。そして女性専用フロアで起きてる気配のある、一番近い部屋をノックして状況を簡潔に伝えることにした。
起きていたのは3番隊のライラック。彼女は一昨日の戦闘で利き腕を負傷したため、現在は参戦外である。ライラックに他の女部屋への伝言と護衛を任せて、シュイは嫌な気配がする後方入り口部へ足早に向かった。
昼間の戦闘で槍が折れたので、途中あった武器庫から新たに拝借する。けれど急いで手に取ったのが槍ではなく薙刀だと気づいたのは、潜入した敵方と対面した時だった。少し軽いと思ったら刃先が反っている。槍と近くに設置されてるから取り間違えたみたいだ。
後方の異変に気づいて駆けつけられたのは、シュイひとり。おまけに普段訓練に使わない武器しかない。
シュイはなんとかするしかないと腹を括った。ここを通したら非戦闘員の多いフロアがある。もし侵入を防げなければ、被害が計り知れないのだから。誰かが気付いて増援されるまで、耐えなければ。いまは自分ひとりなのだ。
敵に配慮は一切不要。雑念を捨て、集中しなければならない。
「ここから先は、通しません」
女ひとりで歯向かう姿は、相手にさぞ滑稽に見えたのだろう。下品な笑いを隠さず先頭の1人がゆるりと前へ出た。
シュイは慎重に相手の出方を見つめていた。そして相手の歩が間合いに入った瞬間、一気に薙刀を突いた。
薙刀の先は相手の喉を貫通していた。相手は目を見開いて視線を下に向けるも、シュイが横に薙ぎ払えば首を裂かれながら引きづられて壁に打ち付けられ絶命した。ぴちゃりと返り血が顔にあたっても、視線はなお侵入者に向けられたまま。
シュイが構え直すのと仲間がやられたと理解したのは同時だった。
「てめっ、よくもやってくれたなァ!?」
廊下はそこまで広くないのに団子で向かってくる複数の相手に、シュイは身を低くして踏み込んだ。
まず前方のやつらの足の腱を裂き目を潰して動きを乱しつつ、勢いそのままに後方の喉元を深く切りつけていく。柄を回して遠心力で吹き飛ばして間合いを取り、態勢を崩した前方側の首元を突き立てて抉っていく。
息絶えた身体を足で蹴散らして足場を確保しながら、まだ息がある後方の一部にとどめを刺すのを忘れない。深く刺さりすぎて抜きにくい薙刀を、沈んだ身体に足で踏んで抜きながら、いまだ侵入が続く入り口を睨みつける。
あとから入った敵はシュイの足元に転がる元クルーの無残な姿に、足を前へ進められないでいた。嵐のなか揺れる船内にも関わらず、無駄なく殺戮する姿は敵ながら恐怖を感じた。
シュイは自然と上がる殺気で血が滾っていくのを深呼吸でなんとか沈めていた。相手の息の根を確実に止める戦い方なぞ、したことがない。まだ習得したての覇気は思ったより体力を持っていかれた。それでも取りこぼしがないよう、容赦なく覇気を解放していく。
相手が足を進めないのなら、こちらから向かおう。シュイは戦意が下がっただろう敵も後退する様子がみられないので、残りも排除対象とみなし薙刀を振るった。
あれから何人切り捨てだろうか。体力がつきかけて廊下が血の海になりはじめた頃、侵入した最後の1人の喉を薙刀で突き上げる。
「…ば、けも…の、」
ごぼりと血塊を吐きなから言われる台詞。対峙する無表情のシュイは目を細めるだけ。随分昔に言わていたような言葉だったから。
肢体の力が抜けたのを確認し、薙刀を振り落として後方の血の海に投げ飛ばした。目の前にいた侵入者を排除し続け、いまシュイの目の前には扉があるのみ。
ゆっくり開ければ隙間から激しい雨風が吹き込んできて、顔や髪についた血が流されていく。悪天候で視界が悪いなか甲板を見渡せば人影は無く、この入口からの侵入者はもうないようだった。
一先ず終わったようだ。
船内に吹き込む雨風を追うように後ろを振り向けば、数メートルにも渡って続く死体と血溜まり。それをぼんやり眺めてたシュイはどっと疲労を感じて、ずるずると扉にもたれかかるように崩れた。
そういえば思ったよりこの薙刀は使いやすかったなぁと手元をみれば、止まない雨でシュイについてた返り血が流されて、甲板に新たな血溜まりを作っていた。
シュイはすごく汚いと思った。綺麗なモビーの甲板が汚れてしまう。薙刀を振るってしびれる両手をなんとか動かして、血溜まりを消したいのにどんどん血の赤は濃くなっていく。
どうしてなの?とぼんやり思えば、どんどん重く感じる身体。ついた腕では支えきれなくなり、頭から甲板へ倒れていった。
しかし何時までも痛みは来なかった。代わりに懐かしい香りと温かさに包まれいた。
「シュイ!!」
遠のく意識のなか顔に雨が当たらなくなって不思議に思いうっすら瞼を開けたら、2週間振りに見る顔があった。
「イゾウ、たいちょ…」
「遅くなっちまって悪かった。後ろは追い払ったから、もう心配いらねェ」
雨に濡れていても様になっていて素敵だなぁと目を細めれば、心配そうなイゾウの眉間にしわが寄る。雑念に気づかれそうでゆるりと視線をズラせば、自隊の副隊長とキングデュー隊長も眉を下げて心配そうにシュイを覗き込んでいる。
ああ、パドル組が帰還したのだ。隊長の言葉通りもう心配はいらないみたい。もう一度イゾウに視線を戻せば、表情は変わらない。
言わなきゃ。この血は私のじゃないですって。
それとモビーを汚してごめんなさいって。
それから、あとは…
色々言うことを考えてるうちにシュイの意識は落ちていった。
「…16番隊はどんな訓練したんだ」
「キングデュー隊長を納得させる言葉を、自分は思い浮かびませんよ」
キングデューの疑問に16番副隊長カイルは肩を竦めて返した。
倒れた彼女の背後に広がる船内の惨劇は、信じがたいものだった。つい先日戦闘員として基礎レベルの訓練を終えたと聞いたばかりなのに、たったひとりで異変に気づき駆けつけ敵の侵入を食い止めたのだ。
監視対象時期の彼女の細さが記憶にあるため、元々戦闘センスがあったという噂もキングデューは真に受けていなかったが。殺傷能力の低い薙刀でこれだけ的確な戦い方をされては、あの噂は間違いないのだろう。
「一旦ここを任せていいか、キングデュー」
「ああ。早く医務室へ運んでやれ」
「すまねェ。助かるよ」
気を失った彼女を壊れ物のように抱き上げる同僚は、特に表情を変えることなく別の入り口へ足を向けた。
すでにカイルは隊員に指示を出し動いていた。キングデューはイゾウの背を見送ると、自分も控えていた隊員に船内の確認と片付けを指示した。
ぱちりとシュイが目を開ければ、自分の部屋ではないが見慣れた天井が広がっていた。医務室だ。また倒れたのか。
眠る前の記憶をたどっていると、横からふわりと懐かしい香りがする。そちらに頭を傾ければ、いつもの綺麗な笑みを浮かべた隊長がいた。
「おはようさん」
あれ? 隊長がいる。
遠征からいつ戻ったのだろうか。
まだぼんやりするシュイにイゾウの表情もつられて緩くなる。
「お前さんのお陰で敵の侵入を防げたんだ。よくやったよ。お疲れさん」
「ありがとうございます…」
そうだ。後方の入り口から侵入があって、結構無理をして対応したんだった。絶対にここで侵入を止めなきゃ、と気を張った反動で疲労が凄まじかった。そのあと帰船した隊長たちの姿に安心して倒れたのだろう。
「あの、隊長も遠征お疲れさまでした。…おかえりなさい」
純粋に自隊長が帰ってきてくれたのが嬉しくて自然と頬が緩むシュイ。イゾウがふっと笑ってシュイの頭を撫でれば、目を細めて微笑む彼女にイゾウの視線は釘付けである。
あの惨劇を生んだ同一人物とは思えない。
なんて可愛い部下なのだろう。真っ直ぐで鋭い闘志を持ち、白ひげや自分に疑うことなく忠誠を立てる姿勢。隠すことのない武家の気質はかつての己と似ていて好ましい。
ああ、たまらないな。
イゾウは顔を寄せてシュイの額に口づけを落とした。何が起こったかすぐ理解できなくてぼんやり額を押さえる彼女に目を細めれば、見たことないほど頬を染めるシュイ。
本当に、たまらない。
イゾウはシュイから身体を離し、もう一度彼女の頭をひと撫でしてから立ち上がった。
「もう少し休みな」
シュイは布団で顔を隠しながら、はいと返事をするのが精一杯だった。
後日、イゾウ直々に発注された薙刀は船大工係内で話題になった。長さと柄径に刃先形状、組立て式の構造から重量まで細かい記載があり、さらに軽量で硬度の高い予算度外視の材質指定。
謎の発注に首をかしげながら薙刀を製造した一同だったが、完成品の立会いでイゾウの横に立つ彼女の姿に納得したのは、また別のお話。
こうしてシュイのメイン武器は薙刀となった。シュイ仕様の特注の薙刀は大層使い勝手が良く、薙刀を振るい駆け回る姿は有名になっていった。