黎明期
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(依頼を受ける彼女)
実はシュイは調香師である。イロハナ島で初級免許を取得しており、スペード時代は作製した香水香油を販売することで、金欠気味の海賊団を支えていた。
覇気習得の稽古が一段落したある日、連日続く少降雨のなか香りで気分を変えようと香水を並べて気づいた。白ひげ参入後一度も補充されなかったので、どの瓶も中身が心もとない。
道具は一式破損せず持ち込めていたが、稽古や隊務に追われて材料の補充もせずストックはゼロ。お手上げだった。
好きな調香が出来ないまま、午後の隊務である廊下掃除をしていたシュイに副隊長のカイルが声をかけてきた。
「何か困りごとかい?」
余程残念オーラが漏れていたらしい。
隠すこともないので調香と材料調達の悩みを打ち明けたところ、カイルはあっさり返答してくれた。
「調達室へ行ってみてごらん。大抵のものは手に入るよ」
言われた通り隊務後に向かったのは初めて訪ねる調達室。シュイがノックをして入れば、入口の右手に配置する机で作業していた人たちの視線を集めた。
「こんにちは。16番隊のシュイです。私用である材料を探しに来ました」
机の上座に座る一人の男性が立ち上がり笑顔で手招きする。シュイは恐る恐る入室し彼の傍へ歩む。男性はシュイと握手すると分厚いファイルを手元に引き寄せながら聞いてきた。
「調達係長のジャックだ。お嬢さんはどんな材料をお探しで?」
「精油と生花をいくつか。オイルはなければ花種でも大丈夫です」
「…ほお。もしかして調香師さんか?」
「です」
クルー内に様々な技術を持つ職人がいる中、あまり聞かない職人だからかジャックは興味深い視線を投げた。そして顎に手を当ててしばらく思案してから再びシュイを見やる。
「在庫はあるよ。他の種類が欲しければ、日数はかかるが調達は可能だ」
「ありがとうございます」
「私用の場合代金を貰うのが通例だが。ここでお嬢さんにちと相談があるんだ」
「なんでしょうか?」
「調香師さんは、消臭知識はあるのか?」
思わぬ問いかけに今度はシュイがきょとんとした。
「消臭方法はいくつかありますが、どのような消臭を希望してますか?」
「食料庫だ。冷蔵設備内はいいが、常温保存の食料品の害虫被害軽減措置として消臭の案が出ていてね。お嬢さんの知識をお借りしたい」
「食料の消臭でしたら精油の中和より炭を利用したらいかがですか?」
「炭かぁ。それなら何とかなるだろう。では代金の代わりとして食料庫の消臭剤作りに協力してほしい。隊長にはオレから言伝する」
「…分かりました。やってみます」
シュイが頷けば、ジャックはほっとしたように微笑んだ。突然のことだったが、了承して良かったみたいだ。
そのあと在庫から調香の材料をリストアップして調達依頼は終了。揃えて隊室まで届けてくれるらしい。
退室間際、消臭剤の件は追って連絡すると伝えられ、シュイはお礼を行って調達室を出た。これが調香師として有名になる出来事になるとは、このときは露とも思わなかった。
イゾウ隊長から正式に調達係の依頼を受け、シュイは調達室で消臭の打合わせを始めた。縄張りの島で作られる燃料用の炭と似た工程で、消臭用の炭を試しに製作して食料庫に配置した。
結果は良好。被害ゼロまではいかなかったが、消臭剤無しの以前より大幅な被害削減につながった。なので消臭用の炭を製作するレーンを新たに組み立て配置の手配をしていく。
食料庫の消臭成功に、調理係のサッチ隊長からは大袈裟なくらい御礼を言われた。マルコ隊長からも、食費が助かるとお褒めの言葉を頂く。
そんな様子を見た周りへ、調香師としてのシュイの存在がモビー内に広まっていった。
それから色々な依頼がシュイへ届き、目まぐるしい日々を送っていた。
トイレや手洗い場の衛生改善に消臭剤を作成し、大部屋のクルーからは部屋の消臭の依頼。女性クルーからは美容用の香油と香水の相談依頼と、シュイは調達室に籠もりっきりだった。
だからイゾウがマルコの部屋を訪ねるのは、時間の問題だった。
「いい加減ウチの隊員をこき使うの止めてもらえねェか」
イゾウはシュイから提出された調香依頼の完了報告書の束をマルコのデスクへ投げてよこした。
マルコはその束を捲りながら、こんなに彼女へ依頼が来ていたことをいま知った。明らかにひとりでこなせる依頼数を超えている。その上まだ正式な窓口のない彼女なのだ、最初の食料庫の依頼以外は全て非公式となる。やり過ぎだ。
「いまの依頼は全て中止して良いよい。改めてシュイへの依頼はリストにさせるから、休んでくれよい」
「そのつもりだ。あと調達係の仕事の手伝いも止めさせてほしい」
「…それも初耳だねい。どうなってんだい、ジャック?」
マルコが部屋の扉へ視線を投げれば、扉がゆっくり開いて調達係のトップであるジャックが入ってきた。マルコの部屋へ訪問した自分のタイミングの悪さに、胃が痛くなりそうだった。
ジャックは先ずイゾウへ頭を下げた。
「彼女への配慮が足りず、無理させて申し訳ない」
「次はねェぞ」
イゾウは頼まれたら断れないシュイの性格も知っているから、あまりジャックへ強く言うつもりはない。ジャックはイゾウの言葉に頷いて、マルコへ向き直った。
「調達の仕事の件も、うちの係の者がお嬢に頼んで手伝ってもらったみたいだ。こちらの監督不届きだ、悪かった」
「シュイは書類整理が得意だからねい」
身に覚えのあるマルコは眉を下げた。以前溜まった書類整理を気分転換として食堂で作業してたところ、偶々居たシュイに手伝って貰ったらあっという間に片付いたのだ。ぜひ居て欲しい人材なので、隙あらば自隊に勧誘したいと実は密かに思っている。
「そこで無理を承知だが、ぜひシュイ嬢を調達係に加入させて欲しい」
「却下だ」
イゾウの秒の返事に、ジャックは戸惑った。どう説得するか悩んで視線を彷徨わせていれば、マルコが不敵な笑みを口元に乗せて手で合図してきた。
「そうも言ってられねぇんだわ、イゾウ。シュイは大人気なんだよい」
そう言いながらマルコはイゾウが持ってきたのとは別の紙の束をひらひらと見せてくる。渋々その束を受け取り読んでみれば、イゾウの整った眉がどんどん険しくなる。
それはシュイの調達加入を希望する嘆願書だった。嘆願理由は色々書かれている。
可愛い彼女のお陰で食材をダメにしなくて良くなった。助かった。
船内修理する時、工材在庫が補充されてスケジュール通り作業出来るようになった。可愛い。
武器庫の総数把握手伝ってもらって助かった。可愛い。無駄な在庫も減らせてスペース確保出来た。
トイレも部屋も臭く無くなった。快適。
可愛い。すごい癒される、等。
なんだ、どいつもこいつも可愛い可愛いって。そんなこと16番隊メンバーは全員知ってるぞ。
思ったよりシュイは調達室で他方へ関わりを持っていたようだ。イゾウは諦めたようにため息をつき、それはそれは仕方なさそうに言った。
「…調達の遠征は俺の許可取ってからにしてくれ」
「勿論だ。ありがとな、イゾウ」
イゾウは嘆願書の束をマルコに返して、ジャックに手を上げて退室した。少し足取りに力がないのは、気のせいではないだろう。
イゾウの気配が廊下から遠ざかったところで、マルコはジャックに向き直った。彼が自分の部屋を訪ねた、本当の用件を聞くために。
「で、何があったんだい?」
ジャックは先ほどイゾウにシュイの調達加入をお願いするときとはまた違った緊張感を抱え、ゆっくりと口を開いた。
シュイは日陰になっている甲板の船縁に腕を組んで乗せ、ぼんやり海風に当たっていた。顔色が悪いとイゾウ隊長に指摘され、今日の隊務と調香の仕事を中止するよう言われた為、することがなくなり甲板に来ていた。近ごろゆっくりする時間がなかったし、ちょっと体調も良くなかったから有り難かった。
しばらくして隣にイゾウが現れて、シュイの顔を覗き込んだ。あえて風除けになる側に立ってくれるのが優しい。
「気分はどうだ?」
「おかげで良くなりました」
「働き過ぎだ。心配するだろ」
イゾウからこつんと額に優しい裏拳をもらう。心配かけて申し訳ないのに、可愛い痛みがくすぐったい。
触れられたおでこを手でさすっていると、目元を緩めた甘い表情を真正面から向けられて頬が熱くなる。まだ隊長との近距離は慣れそうにない。
「あともっと俺たちと過ごしてくれ。シュイは16番隊だろ」
「…はい、そうしますね」
そんな可愛いお願いされたら、聞くしかないじゃない。シュイは16番隊に入って良かったと思う。だってこんなにも温かくて優しい人たちがいるのだもの。
ふふ、と口元を隠しながら控えめに笑うシュイを、イゾウはずっと優しい眼差しで見つめていた。
実はシュイは調香師である。イロハナ島で初級免許を取得しており、スペード時代は作製した香水香油を販売することで、金欠気味の海賊団を支えていた。
覇気習得の稽古が一段落したある日、連日続く少降雨のなか香りで気分を変えようと香水を並べて気づいた。白ひげ参入後一度も補充されなかったので、どの瓶も中身が心もとない。
道具は一式破損せず持ち込めていたが、稽古や隊務に追われて材料の補充もせずストックはゼロ。お手上げだった。
好きな調香が出来ないまま、午後の隊務である廊下掃除をしていたシュイに副隊長のカイルが声をかけてきた。
「何か困りごとかい?」
余程残念オーラが漏れていたらしい。
隠すこともないので調香と材料調達の悩みを打ち明けたところ、カイルはあっさり返答してくれた。
「調達室へ行ってみてごらん。大抵のものは手に入るよ」
言われた通り隊務後に向かったのは初めて訪ねる調達室。シュイがノックをして入れば、入口の右手に配置する机で作業していた人たちの視線を集めた。
「こんにちは。16番隊のシュイです。私用である材料を探しに来ました」
机の上座に座る一人の男性が立ち上がり笑顔で手招きする。シュイは恐る恐る入室し彼の傍へ歩む。男性はシュイと握手すると分厚いファイルを手元に引き寄せながら聞いてきた。
「調達係長のジャックだ。お嬢さんはどんな材料をお探しで?」
「精油と生花をいくつか。オイルはなければ花種でも大丈夫です」
「…ほお。もしかして調香師さんか?」
「です」
クルー内に様々な技術を持つ職人がいる中、あまり聞かない職人だからかジャックは興味深い視線を投げた。そして顎に手を当ててしばらく思案してから再びシュイを見やる。
「在庫はあるよ。他の種類が欲しければ、日数はかかるが調達は可能だ」
「ありがとうございます」
「私用の場合代金を貰うのが通例だが。ここでお嬢さんにちと相談があるんだ」
「なんでしょうか?」
「調香師さんは、消臭知識はあるのか?」
思わぬ問いかけに今度はシュイがきょとんとした。
「消臭方法はいくつかありますが、どのような消臭を希望してますか?」
「食料庫だ。冷蔵設備内はいいが、常温保存の食料品の害虫被害軽減措置として消臭の案が出ていてね。お嬢さんの知識をお借りしたい」
「食料の消臭でしたら精油の中和より炭を利用したらいかがですか?」
「炭かぁ。それなら何とかなるだろう。では代金の代わりとして食料庫の消臭剤作りに協力してほしい。隊長にはオレから言伝する」
「…分かりました。やってみます」
シュイが頷けば、ジャックはほっとしたように微笑んだ。突然のことだったが、了承して良かったみたいだ。
そのあと在庫から調香の材料をリストアップして調達依頼は終了。揃えて隊室まで届けてくれるらしい。
退室間際、消臭剤の件は追って連絡すると伝えられ、シュイはお礼を行って調達室を出た。これが調香師として有名になる出来事になるとは、このときは露とも思わなかった。
イゾウ隊長から正式に調達係の依頼を受け、シュイは調達室で消臭の打合わせを始めた。縄張りの島で作られる燃料用の炭と似た工程で、消臭用の炭を試しに製作して食料庫に配置した。
結果は良好。被害ゼロまではいかなかったが、消臭剤無しの以前より大幅な被害削減につながった。なので消臭用の炭を製作するレーンを新たに組み立て配置の手配をしていく。
食料庫の消臭成功に、調理係のサッチ隊長からは大袈裟なくらい御礼を言われた。マルコ隊長からも、食費が助かるとお褒めの言葉を頂く。
そんな様子を見た周りへ、調香師としてのシュイの存在がモビー内に広まっていった。
それから色々な依頼がシュイへ届き、目まぐるしい日々を送っていた。
トイレや手洗い場の衛生改善に消臭剤を作成し、大部屋のクルーからは部屋の消臭の依頼。女性クルーからは美容用の香油と香水の相談依頼と、シュイは調達室に籠もりっきりだった。
だからイゾウがマルコの部屋を訪ねるのは、時間の問題だった。
「いい加減ウチの隊員をこき使うの止めてもらえねェか」
イゾウはシュイから提出された調香依頼の完了報告書の束をマルコのデスクへ投げてよこした。
マルコはその束を捲りながら、こんなに彼女へ依頼が来ていたことをいま知った。明らかにひとりでこなせる依頼数を超えている。その上まだ正式な窓口のない彼女なのだ、最初の食料庫の依頼以外は全て非公式となる。やり過ぎだ。
「いまの依頼は全て中止して良いよい。改めてシュイへの依頼はリストにさせるから、休んでくれよい」
「そのつもりだ。あと調達係の仕事の手伝いも止めさせてほしい」
「…それも初耳だねい。どうなってんだい、ジャック?」
マルコが部屋の扉へ視線を投げれば、扉がゆっくり開いて調達係のトップであるジャックが入ってきた。マルコの部屋へ訪問した自分のタイミングの悪さに、胃が痛くなりそうだった。
ジャックは先ずイゾウへ頭を下げた。
「彼女への配慮が足りず、無理させて申し訳ない」
「次はねェぞ」
イゾウは頼まれたら断れないシュイの性格も知っているから、あまりジャックへ強く言うつもりはない。ジャックはイゾウの言葉に頷いて、マルコへ向き直った。
「調達の仕事の件も、うちの係の者がお嬢に頼んで手伝ってもらったみたいだ。こちらの監督不届きだ、悪かった」
「シュイは書類整理が得意だからねい」
身に覚えのあるマルコは眉を下げた。以前溜まった書類整理を気分転換として食堂で作業してたところ、偶々居たシュイに手伝って貰ったらあっという間に片付いたのだ。ぜひ居て欲しい人材なので、隙あらば自隊に勧誘したいと実は密かに思っている。
「そこで無理を承知だが、ぜひシュイ嬢を調達係に加入させて欲しい」
「却下だ」
イゾウの秒の返事に、ジャックは戸惑った。どう説得するか悩んで視線を彷徨わせていれば、マルコが不敵な笑みを口元に乗せて手で合図してきた。
「そうも言ってられねぇんだわ、イゾウ。シュイは大人気なんだよい」
そう言いながらマルコはイゾウが持ってきたのとは別の紙の束をひらひらと見せてくる。渋々その束を受け取り読んでみれば、イゾウの整った眉がどんどん険しくなる。
それはシュイの調達加入を希望する嘆願書だった。嘆願理由は色々書かれている。
可愛い彼女のお陰で食材をダメにしなくて良くなった。助かった。
船内修理する時、工材在庫が補充されてスケジュール通り作業出来るようになった。可愛い。
武器庫の総数把握手伝ってもらって助かった。可愛い。無駄な在庫も減らせてスペース確保出来た。
トイレも部屋も臭く無くなった。快適。
可愛い。すごい癒される、等。
なんだ、どいつもこいつも可愛い可愛いって。そんなこと16番隊メンバーは全員知ってるぞ。
思ったよりシュイは調達室で他方へ関わりを持っていたようだ。イゾウは諦めたようにため息をつき、それはそれは仕方なさそうに言った。
「…調達の遠征は俺の許可取ってからにしてくれ」
「勿論だ。ありがとな、イゾウ」
イゾウは嘆願書の束をマルコに返して、ジャックに手を上げて退室した。少し足取りに力がないのは、気のせいではないだろう。
イゾウの気配が廊下から遠ざかったところで、マルコはジャックに向き直った。彼が自分の部屋を訪ねた、本当の用件を聞くために。
「で、何があったんだい?」
ジャックは先ほどイゾウにシュイの調達加入をお願いするときとはまた違った緊張感を抱え、ゆっくりと口を開いた。
シュイは日陰になっている甲板の船縁に腕を組んで乗せ、ぼんやり海風に当たっていた。顔色が悪いとイゾウ隊長に指摘され、今日の隊務と調香の仕事を中止するよう言われた為、することがなくなり甲板に来ていた。近ごろゆっくりする時間がなかったし、ちょっと体調も良くなかったから有り難かった。
しばらくして隣にイゾウが現れて、シュイの顔を覗き込んだ。あえて風除けになる側に立ってくれるのが優しい。
「気分はどうだ?」
「おかげで良くなりました」
「働き過ぎだ。心配するだろ」
イゾウからこつんと額に優しい裏拳をもらう。心配かけて申し訳ないのに、可愛い痛みがくすぐったい。
触れられたおでこを手でさすっていると、目元を緩めた甘い表情を真正面から向けられて頬が熱くなる。まだ隊長との近距離は慣れそうにない。
「あともっと俺たちと過ごしてくれ。シュイは16番隊だろ」
「…はい、そうしますね」
そんな可愛いお願いされたら、聞くしかないじゃない。シュイは16番隊に入って良かったと思う。だってこんなにも温かくて優しい人たちがいるのだもの。
ふふ、と口元を隠しながら控えめに笑うシュイを、イゾウはずっと優しい眼差しで見つめていた。